ジョエル・マイロウィッツ
70歳にして変化を恐れない伝説の写真家

 

新作展のオープニングで来日したジョエル・マイロウィッツ氏(1938-)にエッセーの取材インタビューをすることができた。
彼は最近入手したというライカM8を持って現われた。長旅と時差、タイトなスケジュールでたいへんお疲れだったと思う。しかし非常に紳士的な態度で、また丁寧に言葉を選んで私の質問に答えてくれた。インタビューは近日中にアートフォトサイトで紹介します。

ギャラリー・ホワイト・ルーム・トウキョウで展示されている「The Elements:Air/Water Part1」で、彼は従来の3次元の写真表現に挑戦し、フラット感の中に新たな可能性を捜し求めている。また古代の四大元素である空気・火・土・水の表現をテーマにしたコンセプト優先の巨大作品は完全に現代アートだ。

彼は美術を学び、最初は抽象画家だった。生活のためにデザインの仕事を行うようになる。ロバート・フランクの撮影現場をみたことで衝撃を受けて写真家に転身する。最初はフランクの真似をしてストリートでモノクロ写真を撮影していた。この当時の写真はシャーカフスキーの名著「Looking at photographs」に収録されている。
シャーカフスキーの助言がきっかけで、こんどは写真のファーマットとカラーで世の中を描写しつくそうと考える。それを突き詰めた結果が8X10カメラだったのだ。
カラーを選んだときから彼は現代アートの方向性を持っていたのだと思う。しかし彼は早くからアナログ写真での表現に限界を感じていた。自分が感動したようにイメージを作りあげたかったがその性格上、どうしても妥協の連続が続いた。ダイトランスファーではかなり近いものが制作できたが、非常に高価だったので表現の追求はできなかったようだ。
それでも70~80年代にかけて、”Cape Light”、”Wild Flowers”などの優れたシリーズを次々と発表している。90年代には、フランクのように先入観をも持たないことを心がけながら、様々なアメリカンシーンを求めて旅をしている。この時期は作家として次のステップへの助走期間になっている。
やがてデジタル技術との出会いが彼のアーティストの可能性を押し広げることになる。多くの写真家はデジタルにより手軽に派手でコントラストの強いカラー写真ができることに魅了されがち。彼はヴューカメラで撮影されたネガの持つ微妙な色合いの表現を追求したことが特徴。かなりの初期段階から独学でフォトショップの探求を行い、数多くのプリンターをテストしたとのこと。
そして、HP Desogmket 130とHPプレミアム・サテン紙と出会い、初めて納得がいくデジタルプリントが制作可能になる。現在では顔料ベースのインクを使用するHP Designjet Z3100を使用して全ての作品を制作しているという。デジタルにより、サイズの限界から開放されたことも彼の創作意欲を掻き立てたのだろう。最新作の最大作品はなんと約1.5X1.8メートルもある。過去の作品も大きくして新たにエディション化している。たぶん最初から大判サイズで制作したかったのだろう。

多くの人は写真集”Cape Light”,”Summer days”などのルミナスな風景、シティースケープなどを彼のイメージとして持つだろう。だから、グランドゼロを撮影した、”Aftermath”や最新作では意外な印象を持ったはずだ。しかし、そのキャリアを振り返ると、極めて当たり前の展開であることが見えてくる。
彼も、”Cape Light”のような作品は作家としての自分のひとつのベクトルに過ぎないと語っている。話を聞いて感じたのは、彼が意識的に変化しようと試行錯誤していることだ。テーマやスタイルを変えることは危険なことだ。失敗したら自分の評価を落とすことになるかもしれない。特に優れた作品を残した作家ほど過去と比較されるのでそのリスクが大きくなる。しかし、アート史に残る偉大な作家はそのリスクを積極的に引き受けて変化してきた。 “Aftermath”で評価を高めたマイロウィッツ氏は、立ち止まることなく新たな方向のチャレンジを開始したのだ。

3月6日はマイロウィッツ氏の70歳の誕生日だったとのこと。すごいバイタリティーだ。最後に、いいインタビューだったとねぎらいの言葉までかけてくれた。写真史に残るような写真家は人間的にも魅力的なのだ。

*協力:ギャラリー・ホワイト・ルーム・トウキョウ