アート写真コレクションのすすめ 最初の1枚を買ってもらうには

 

現在の日本では、アートは買うものではなく見て楽しむものだ。高度消費社会が到来して以来、アート鑑賞は一種のシーン消費となり、美術館やギャラリーに行く行為自体に意味を見出されるようになる。最近では、さらに進化して旅による移動と鑑賞が一体化してきた。日本人は元来旅行を好むメンタリティーを持っている。瀬戸内海の直島や金沢21世紀美術館が成功している背景には、旅行とアート鑑賞という目的がセットになっているからに他ならない。最近は”観光アート”というような新書も出ているくらいだ。これが日本でアートを販売する商業ギャラリーが少ない理由のひとつだろう。私どもの写真分野では、カメラで撮影して楽しむことが一般的だ。デジタル化でその流れがさらに強まっている。ギャラリーは厳しい状況をどうにかして変えたいと常に悪戦苦闘しているのだ。

アート写真コレクションの喜びを知ってもらうには何でもよいまず1枚を買ってもらうことだ。そのためには価格が安いことが非常に重要となる。
はじめての人は相場観が全くない。たとえばいきなり5万円を超える作品を買うことは 心理的な敷居がかなり高いのだ。私の経験則ではフレーム込みで3万円以内が初めての人には理想だと思う。
低価格帯作品は、作家の儲けが少ないのでなかなか商品化が難しい。しかし、リーマンショック、ギリシャ危機を経て、景気回復の遅れが強く意識されるいま、低価格作品が次第に登場するようになってきた。それらの多くは写真展期間中の限定販売でオープンエディションだ。興味深いのは、ギャラリーが作家に頼み込むのではなく、両者のあいだで自然と手軽な商品の必要性が意識されてきたことだ。それも新人写真家ではなく、トミオ・セイケ、ハービー・山口、ナオキなど知名度のある作家が積極的に手掛けてくれるようになった。かれらは長年日本市場においてのマーケティングを行っており、ギャラリー同様にアート写真市場の底辺拡大の必要性を感じているからだろう。

面白いことに、アート作品の販売経験が浅い写真家や、新興ギャラリーほど、安い作品を作るのに批判的だ。しかし、最近になり高価格志向が強い商業写真家のなかにも意識の変化が見られてきた。作品を低価格帯から中長期的に売っていきたいと考える人たちが登場してきたのだ。彼らは、自らの開催するワークショップなどを通して一般の人の真のニーズに気付いた人たちだ。最初は、真のファインアートとしてではなく、写真撮影を趣味とする人を念頭に置いて作品を紹介していきたいと考えているようだ。日本市場の特徴は、ハイアートとポップ・カルチャーが混在していること。確信犯でこの分野を攻めるのは決して的違いではないと思う。
そのような考えを持った、商業写真分野で活躍する人たちが来年3月にグループ展を行う予定だ。私どももできるだけ協力していきたいと思う。詳細が決まったらお知らせします。

さて低価格帯作品の売り上げは順調に推移している。知名度があり、作家のブランドが確立している人が高品質で低価格の作品を提供すれば不況でも売れるのだ。ハービー・山口の8X10″フレーム委り銀塩写真の限定ミニ・プリントは非常によく売れた。多くが初めて写真を買った人だった。 彼のプリントの最低価格は11×14″で6万3000円。多くの人が6万の写真は無理だがフレーム込みで3万以下のミニプリントなら買える、と話してくれた。
また低価格の作品から積極的にコレクションを始める人も見られるようになってきた。 インスタイル・フォトグラフィー・センターで行った”Imperfect Vision”展では、知名度がない新人作家の作品が予想以上に売れた。 低価格なら、たとえ経験がなくても自分の感覚を重視して思い切って作品を選ぶことが可能なのだ。またコレクションを意識している熱心な来場者も多かった。複数作家のグループ展なら自分好みの作品と出会える可能性が高いと考えてくれたからだと思う。低価格帯作品は写真家もギャラリーにも儲けはほとんどない。
しかし、それが新しいコレクター層を増やすのなら大いに挑戦する価値があると思う。

実は12月にもう一つ新規コレクターを呼び込むイベントを考えている。今度は約5~7つの写真ギャラリーがインスタイル・フォトグラフィー・センターに集まって10万円以下の作品のみを販売するイベント、”広尾・アート・フォト・マーケット”を開催する予定だ。専門ギャラリーが集まって新たな市場作りを共同で行う。写真コレクションを考えている人、初心者にも複数ギャラリーの低価格作品を一堂にみれる絶好のチャンスだ。こちらも詳細が決まりましたら案内します。