日本のアート写真市場の将来 作家、ギャラリー、コレクターの共存は実現するか?

新人発掘を目的としたグループ展「ザ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2012年(新進気鋭のアート写真家展)」が終了した。期間中に約750名の来場があった。新人展なので期待はしていなかったが、作品も予想以上に売れた。

今回、私は主催者の一員であることもあり、会場では全ての参加者に対しできるだけニュートラルな態度でいることを心がけた。毎日いたので、自作についての評価を求めたり、アーティストとして生き方について質問してくる積極的な参加者が多くいた。今回は、新人作家の中での自分のポジションを客観的に見極める絶好のチャンスだったはずだ。残念ながら自作のことだけで頭が一杯だった人もいたようだ。アーティストになりたいのなら狭い自分の殻から飛び出すことが必要。まず自分が作家ピラミッドのどこにいるかを正しく知り、いま何をすべきかを考えることだ。その上で、アート界の厳しい評価の中で生き残っていかなければならない。

今回は、トークイベントなどを通して参加者ができるだけ作品を語る機会を提供した。みなその重要性は理解しているようだ。しかし、何でそれが必要かを勘違いしている人もいたようだ。それは一方的に自分のことを語ることではない。アートはコミュニケーションだ。オーディエンスとのつながりを見つけるのが目的で、常に見る側との共通の感情のフックを探す努力が必要になる。ギャラリスト、ディーラーは客観的な立場からそのお手伝いをする存在なのだ。

本展は将来性のある新人発掘が主目的だったが、アート写真分野のコレクター拡大、ギャラリストやキュレーター発掘も念頭に置いていた。実は作家だけ増えても市場は機能しない。この3分野の充実が活性化に必要不可欠なのだ。
ギャラリーをオープンしたい人にとって、いま一番大きな課題は新人発掘だろう。スペース探しは賃貸市場が低迷しているので容易なのだ。今回は展示作品すべてに推薦文章が掲示されていた。また、トークイベントでは推薦者に写真家の評価理由を語ってもらった。複数の専門家の写真を評価する基準がかなり明確になっただろう。期間中は何人かのギャラリー開設希望者に運営のお手伝いをしてもらった。ギャラリーが増えなければ作家を世に送り出すことができない。今後も彼らの活動を応援していきたい。

本展は、コレクター初心者にとっても有望写真家の作品を買える良い機会になったと思う。グループ展なので一度に複数作家のアーティスト・ステーツメントが読めて、メッセージが直接聞けたはずだ。買うつもりで真剣に作品と接すると写真家の実力の違いや自分の好みが分かった、という意見も多数聞かれた。作品購入者の多くは新人写真家の活動を個人的に応援する人だった。しかし写真家の将来の可能性を信じるコレクターの購入者が複数いたことは、本展の大きな成果だったと思う。それは新人作家にとって初めて自分のメッセージが顧客に伝わった体験になる。これ以上の応援エールはない。
実は一般顧客が自分たちの判断で有望と考える新人の作品をコレクションするのは欧米では普通の事象なのだ。主催のJPADSも将来的に幅広い新人作家が競い合う市場を日本で作り上げたいと考えて本企画に取り組んでいる。日本でもやっと新人の活動をサポートする欧米的なアート写真市場が生まれてきたようだ。
今後の課題は、将来的に競争に勝ち残った人の中からスターが登場してくることだと思う。開催期間中には、参加者の一人である川島崇志が東京フロントラインのフォトアワードでグランプリを獲得した。このような多方面からの評価の積み重ねがスター作家を作り上げていくのだ。
今回は、初めての開催で反省点も多々ある。しかし、多くの関係者が新人作家を世に送り出すシステムを求めているという手ごたえは感じた。来年は、推薦者の数を増やし、一人の推薦枠を少なくすることになるだろう。来年開催するのならぜひエントリーしたいという意見も多数あった。公募枠も設けることも検討していきたいと思う。
参加者、推薦者、来場者の皆様、ご協力ありがとうございました!