ムンクの「叫び」が96億円、
バスキアが16億円!
アート市場二極化の先にあるのは

海外のアートオークションでは高額の取引が話題になっている。その極めつきがムンクの「叫び」。今年5月ササビーズ・ニューヨークで著名投資家レオン・ブラック氏が手数料込みで約1億1992万ドル(約96億)で落札した。これはオークションでのアート作品最高額だという。
直近6月に開催されたクリスティーズ・ロンドンの「戦後・コンテンポラリー」オークションではジャン=ミシェル・バスキアの"Untitled,1981”が約1292万ポンド(約16億円)の作家レコード価格で落札されている。
現代アート系のオークションは通常、比較的低価格作品を昼間のオークションで、貴重作品を夜のオークションで売買する。関係者が最近指摘するのは、全体の売り上げはリーマンショック後の低迷から回復しつつあるが昼の部の売り上げが伸びないこと。つまり、貴重な作品には強い需要があるものの、そうでもない作品への需要が伸びない市場の二極化現象だ。真の富裕層には金融危機や不況の影響は少ないが、市場のミドル価格帯のプレーヤーだった中間層はまだダメージから立ち直ってないということだろう。

実はアート写真市場にも同様の傾向が垣間見える。高くても希少なものは売れるが、中間から安い価格帯の動きが鈍い。トップクラス作品の品揃えを誇るのは大手オークション・ハウス3社のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップス(Phillips de Pury & Company)。大手は、コレクターが売りたい作品をすべて受け付けてくれるわけではない。どの作家の、どんな作品を出品するかは綿密なエディティングが行われる。ある程度のレベルの作品でないといくらコレクターが売りたくても取り扱ってくれない。その結果が反映されて、彼らの業績は決して悪くないのだ。

オークションの売り上げは、リーマン・ショック直後の2008年秋に売上ピークの約8250万ドルを記録し、その後2009年春に激減。2010年春以降は1600万ドルから1900万ドルの範囲内の動きが続いており、今春の売り上げ合計もほぼそのレンジ内の約1676万ドル(@80、約13.4憶円)だった。
内訳は、ササビースの売り上げは昨年秋の約475万ドルから、約378万ドル(約3.02億円)に約20%減少。ロット当たりの落札率も約71.5%から69%に悪化。
フィリップスの売り上げは昨秋の約692万ドルよりやや減少して約610万ドル(約4.88億円)、落札率はほぼ前回並みの82%。
クリスティーズは売り上げは約688万ドル(約5.5億円)で今春の売り上げトップとなった。落札率は83%だった。
今回は特にササビーズの品揃えに目新しいものがないという意見が多かった。普通作品が多い場合、売り上げ、落札率ともに低下する傾向がよくわかる。
大手が取り扱ってくれない中級から低価格作品を中心に取り扱うのが、中堅のオークションハウス。そこでは、レアブックも取引される。彼らがカヴァーする市場はずっと低調なのだ。この分野を代表するのがスワン・ギャラリー。今春の売り上げは約120万ドル(約約9600万円)、落札率は大手よりも低い約70%だった。また5月にロンドンで開催されたブルームズベリーの写真オークションも落札率は約52%と不調だった。

日本ではにわかに信じられないかもしれないが、単純平均したオークションの1点の落札価格は、いまや大手のクリスティーズで約25,000ドル(約200万円)、フィリップスで31,000ドル(約248万円)もする。他市場に比べて歴史が浅いがゆえに歴史的に価値ある作品が比較的リーズナブルに買えたのがアート写真マーケットだった。しかし、名品は不況でも値が下がらない状況になってしまった。これでは市場は高い写真と安いインテリア写真だけに二極化してしまうのだろうか?
いや、市場では新たな名品物色の動きが秘かに進行していると思う。私は、長年にわたりきちんと作家活動(個展開催、フォトブック出版)を行っているが、オークション出品がまだ少ない50~60歳代中盤くらいの人たちが狙い目だと考えている。彼らのうちから10年後の市場の注目作家がでてくるのではないか。ギャラリーではそれらの作家をお客様にすすめている。