2012年秋のアート・シーズン到来!ニューヨーク・アート写真オークション・プレビュー

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の連邦公開市場委員会で「住宅ローン担保証券」の購入額を追加する量的緩和第3弾いわゆるQE3の導入を決めた。またゼロ金利政策の継続期間も15年半ばまで延長。これは、リーマンショック以来ずっと低迷している住宅市場を活性化させるための措置。 経済の波及効果が大きいこのセクターを刺激して雇用を回復させようという意図があるという。
その後、日銀も追加緩和を実施、南欧の国債の買い取り決めた欧州中銀とともに日米欧の中銀が経済活性化のために連携して動き出したということだ。中長期的には中央銀行の財政赤字の引き受けは問題があると識者が指摘しているが、景気悪化を抑えるために短期的にはやめられない政策だろう。
その後、とりあえずは世界的に株価は上昇傾向となったものの上値は限られている感じがする。
米国では上位10%の高額所得層が株全体保有の75%を占めるという。オークションでアートを購入するのは富裕層なので、株価による資産効果は高額作品には間違いなくあるだろう。ただし写真に関しては中所得者層の占める割合が現代アートなどと比べて高いと言われている。ここの部分のセンチメントどう変化しているかが入札結果を左右するだろう。
NYダウは2007年の水準である13,500ドル台に戻している。市場のセンチメント自体は悪くないと思う。

今秋のオークションの各社の目玉作品を見てみよう。
フィリップス(Phillips de Pury & Company)は、10月2日に開催。270点が出品されている。
クラシック作品では、エドワード・ウェストンの”Pepper No. 30, 1930″が注目作。これは1949年にプリントされた作品。落札予想価格は20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。
ポール・アウターブリッジのプラチナムプリント”Standing Nude with Chair, circa 1924″は1点物の可能性が高いとのこと。落札予想価格は15万~20万ドル(約1200万~1600万円)。
現代アート系ではピーター・ベアード作品の出品が目につく。評価が高いのは”Happy Easter/ Alia Bay Croc Hatchery. Lake Rudolf for Eyelids of Morning, 1965″。落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
またトーマス・デマンドの182.9 x 269.9 cmの巨大作品”Wand / Mural, 1999″も注目されている。エディション6で、落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
ファッション系の目玉は表紙を飾るスティーブン・マイゼルの187 x 147.5 cmの巨大作品”Walking in Paris, Linda Evangelista & Kristen McMenamy, Vogue, October, 1992″。これは貴重な1点もの。落札予想価格は4万~6万ドル(約320万~480万円)。オークションにはめったに登場しない作家なので、今後の相場に影響を与えると思われる。

ササビーズは10月3日にオークションを開催。19世紀から21世紀までの幅広い作品約271点が出品される。
カタログ表紙の作品はハンス・ベルメールの”Self Portrait with die Puppe,1934″。これは作家本人が写ったドール・シリーズの1枚。美術館での展示など輝かしい来歴を持つ1枚。落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)。その他、マン・レイ、ラウル・ユバックなどのシュルレアリスム系の良質作品が多く見られる。
アルフレッド・スティーグリッツの季刊”Camera Work”の1903~1917年の完全セットも注目のロット。落札予想価格は20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。
現代写真で興味深いのは、日系アメリカ人イチロー・ミスミのエドワード・ウェストン作品のコレクション4枚。ニューヨーク近代美術館とウェストン本人から1946年に購入したという来歴だ。当時は美術館は展示作品を販売していたという。ちなみに当時の販売価格は25ドル。出品作の1枚、”Nude on sand, Oceanno, 1936″の落札予想価格は15万~25万ドル(約1200万~2000万円)。
現代アート系では、シンディー・シャーマンのUntitled #19 と Untitled #83、ピーター・ベアードの1点ものの巨大作品”Rothschild’s Giraffes from The Uganda Line”が注目だ。
個人的には丸山晋一の”Kusho#2″の動向が気になるところだ。

クリスティーズは10月4日~5日に渡って開催。プライベート・コレクター所有のリチャード・アヴェドン作品28点の単独セールに続いて、複数委託者の約347点がオークションにかけられる。今春の売り上げトップに躍り出たクリスティーズは出品数で今秋もリードしている印象だ。
アヴェドン・セールとともに話題になっているのが、20世紀写真界の巨匠カルチェ=ブレッソンが彼のプリンターVoja Mitrovicに寄贈した貴重な作品コレクション32点のセールだ。
クラシック写真ではエドワード・ウェストンのプラチナ・プリント”Piramide del Sol, Mexico, 1923″の入札が楽しみだ。落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。
今回は春の単独セールいらい話題が多い、ウィリアム・エグルストン作品7点が出品される。最も関心が高いのがエディション13/20のダイトランスファー作品”Memphis (Tricycle), c. 1970″。有名な写真集の表紙作品だ。落札予想価格は25万~35万ドル(約2000万~2800万円)。現代アート系では、杉本博司の”Colors of Shadow, C1032, 2006″、落札予想価格3万~5万ドル(約240万~400万円)。 トーマス・ルフの”09h 58m/-40°,1990″、落札予想価格8万~12万ドル(約640万~960万円)などが出品される。
カタログ・表紙を飾るのは人気の高いピーター・ベアード。”Orphan Cheetah Triptych,1968″は127X248cmサイズの大作。落札予想価格は10万~15万ドル(約800万~1200万円)。

オークション主要3社の総売り上げはリーマンショック後の2009年春に急減しその後、 株価同様に回復トレンドが続いている。2010年春以降は1600万ドルから1900万ドルの範囲内に落ち着いている。最近はレンジの下限に向かいつつある感じもする。外部環境の先行きがやや不透明な中、今回のオークションも上記レンジ内の売り上げに収まるか注目したい。