2012年秋のニューヨーク・アート写真オークション結果 気になる高額作品の不落札増加

今秋のニューヨーク・アート写真オークションはほぼ春並みの売り上げ額だった。主要3社の売り上げ合計は、春の約1676万ドル(@80、約13.4憶円)に対して約1698万ドル(@80、約13.58憶円)だった。スワン・オークションを合計すると売り上げ額は上昇している。これは、エドワード・カーティスの”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札された影響による。総売り上げ、落札率などを総合的に評価すると、きわめてニュートラルな結果だったといえるだろう。しかし内容を精査すると、高額落札が見込まれていた多くの作品が売れていないのが気になる。いままでは特に希少作品は確実に落札されていただけに目立って感じた。

フィリップス(Phillips de Pury & Company)では、注目されていた、エドワード・ウェストンの代表作”Pepper No. 30″、落札予想価格20万~30万ドル(約1600万~2400万円)と、ポール・アウターブリッジの”Standing Nude with Chair”、落札予想価格15万~20万ドル(約1200万~1600万円)がともに売れなかった。

クリスティーズでは、エドワード・ウェストンのプラチナ・プリント”Piramide del Sol, Mexico, 1923″、落札予想価格は12万~18万ドル(約960万~1440万円)。ウィリアム・エグルストンの有名な写真集の表紙のダイトランスファー作品”Memphis (Tricycle), c. 1970″、落札予想価格は25万~35万ドル(約2000万~2800万円)が不落札。
いままで人気のあったアーヴィング・ペン”Picasso,Cannes,France, 1957″や”Two Liqueurs,NY,1951″も買い手がつかなかった。
リチャード・アヴェドン・コレクション28点の単独オークションでも、あの有名な、”Marilyn Monroe, actress, NY,1957″、落札予想価格15万~20万ドル(約1200万~1600万円)が不落札という結果だった。

ササビーズでは、以下の注目作品が不落札だった。
アルフレッド・スティーグリッツの季刊”Camera Work”の1903~1917年の完全セット、落札予想価格20万~30万ドル(約1600万~2400万円)。ポール・ストランドの”Lusetti Family, Luzzara, Italy,1957″、落札予想価格25万~35万ドル(約2000万~2800万円)、アーヴィング・ペンの”Girl Drinking, 1947″、落札予想価格8万~12万ドル(約640万~960万円)、ラウル・ユバックの”La Triomphe dela Sterilite ou Penthesilee, 1937″、落札予想価格15万~25万ドル(約1200万~2000万円)。
また今回注目されていた、日系アメリカ人イチロー・ミスミのエドワード・ウェストン作品コレクションのうち、”Nude on sand, Oceanno, 1936(Asleep)”落札予想価格10万~15万ドル(約800万~1200万円)、”Nude on sand, Oceanno(Face down), 1936″、落札予想価格15万~25万ドル(約1200万~2000万円)がともに売れていない。

冷静に考えると現在は世界的な景気後退期。米国では住宅セクターの最悪期は脱したものの雇用はまだ伸びていない。また欧州債務危機は長引きそうだし、中国の景気後退が取りざたされてきた。将来の見通しも決して明るくないだろう。しかし貴重作品の需要が今まで強かったことを反映して、特に高額セクターの落札予想価格だけは非常に強気だった。
過去の落札記録が残っている上記フィリップスでのポール・アウターブリッジ作品で分析してみよう。本作は1996年にわずか7,820ドルで落札された作品だ。その後2003年10月のクリスティーズでは、落札予想価格6万~8万ドルのところ、153,100ドルの高額で落札されている。2003年の秋は低金利から金余りにとなり住宅着工の増加を誘発して米国経済は大きく回復していた時期。それ以降住宅価格が急上昇してバブル化する。好調な市場センチメントと金余りが高額落札となったのだろう。リーマンショック、欧州債務危機後の現在とは景況感が違う。今回のオークションハウスの落札予想価格が高すぎたと思う。当時の落札予想価格6万~8万ドルあたりが最低落札価格ではないだろうか。

クリスティーズで不落札になったリチャード・アヴェドンの”Marilyn Monroe, actress, NY,1957″、落札予想価格15万~25万ドル、はどうだろうか。実は本作は2006年春にフィリップスで40,800ドルで落札された作品。2006年秋には同じエディション数の作品が72,000ドルで落札されている。その時の落札予想価格3万~5万ドルだった。2006年はリーマンショック前の市場のピークだった時期。景況感が今とは全く違う。また本作はエディションが50点もある作品だ。2006年秋と比べ3倍近い落札予想価格はこの時期にしては過大評価だったと思う。

今までは不況が続くものの、非常にレアな作品だけは市場の弱いトレンドとは逆の動きを見せていた。どうもその流れにも変化の兆しが出てきた感じだ。現在の市場取引総額は2004年~2005年のレベル。当時よりは株価は高いので、その時期の相場までは落ちないだろう。しかし、これから低価格帯から高価格帯まで全ての分野においてニュートラルな状況になるのではないか。来春のオークションでは特に高額商品の落札予想価格が見直されると思う。

秋のオークションの詳細は情報整理が済み次第、アート・フォト・サイトの海外オークション情報欄に掲載します。