2012年に売れた洋書写真集 ランキング順位に変化あり!

アート・フォト・サイトはネットでの写真集売り上げをベースに写真集人気ランキングを毎年発表している。2012年の速報値が出たので概要を紹介したい。

一番売れたのは、なんとヴィヴィアン・マイヤーの「Vivian Maier: Street Photographer」(powerHouse Books 2011年刊)だった。昨年までロバート・フランクの歴史的名著「アメリカ人」の刊行50周年記念エディション(2008年、スタイドル社刊)が4年連続の1位だった。なんと5年ぶりの1位交代となった。
マイヤー(1926-2009)は2007年にシカゴの歴史家により再発見された米国人アマチュア写真家。彼女のストリート写真は、ヒューマニストの視点を持ち、高いレベルの、美しさ、感動、ユーモアがある。戦後アメリカの都市生活のリアルライフが写されている点が評価されている。いまでは、ダイアン・アーバス、ロバート・フランク、アンリ・カルチェ=ブレッソンに並ぶ写真家といわれることもあり、作品は欧米の美術館やギャラリーでも展示されるようになった。写真雑誌「IMA」の2013年春号でも巻頭で紹介されている。
全く無名だった写真家がランキング1位だったのは集計を行ってみて正直驚きだった。

2位もやや意外だった。なんと映画監督ウィム・ヴェンダースの「Wim Wenders: Places, Strange and Quiet」(Hatje Cantz、2011年刊)。彼は写真集を数多く出しており、「Written in the West」などはレアブック市場でも人気が高い。ファンが多いのもうなずける。

それ以降は、いままで売れていた、スティーブン・ショアー、ウィリアム・エグルストン、ティム・ウォーカーなどの常連が入ってくる。ロバート・フランクは「アメリカ人」がランクを10位以降に落とした一方で、「You Would」(Steid、2012年刊)がランクインしている。4位は長らく待たれていたウォーカー・エバンスの歴史的名著「American Photographs」(MoMA、2012年刊)の再版だった。これはほぼ予想通りだろう。

毎年ランキングの集計を行っているが、長引く不況による読者の保守化により、ずっと定番が売れる傾向が続いてきた。ここにきてランキングに変化が出てきたのは読者もそろそろ新しいビジュアルを求めるようになったのではないか?
ちなみに、知名度が低いがヴィジュアルが斬新なシグ・ハーヴェイの「You Look at Me Like An Emergency: Cig Harvey」(Schilt Publishing、2012)もランキングに入っている。やや意外だったのはライアン・マッギンレイ。彼の「Ryan McGinley: Whistle for the Wind」 (Rizzoli、2012年刊)は思ったほど売れていない。アート業界と一般読者との間には人気のギャップがあるようだ。

全体の売り上げ金額は微減だった。2011年は3.11東日本大震災の影響で売り上げが約18%減少した。とりあえず2012年は減少傾向に歯止めがかかったとポジティブに解釈したい。2013年になり株価が上昇しているものの急激な円安傾向になっている。これは直接的に洋書価格の上昇につながる。相場の見方次第だが、さらに円安になると考える人は今のうちに欲しい洋書を入手しておいたほうがよいだろう。

2012年ランキング速報
1.Vivian Maier: Street Photographer
2.Wim Wenders: Places, Strange and Quiet
3.Uncommon Places: The Complete Works
4.Walker Evans: American Photographs
5.William Eggleston’s Guide
6.Tim Walker Pictures
7.Irving Penn: Small Trades
8.You Would, Robert Frank
9.Edgar Martins Topologies
10.You Look at Me Like An Emergency: Cig Harvey

詳しい全体順位と解説は、近日中にアート・フォト・サイトで公開します。