2013年春New Yorkアート写真オークションプレビュー 高額価格帯市場の活況は続くのか?

世界的な金融緩和の継続で株価は上昇し、債券市場も比較的安定している。これで富裕者層のセンチメントは大きく改善して、高額なアートの市場は好調な動きが続いている。しかし、中間価格帯、低価格帯のアート市場は相変わらず低迷状態から脱していない。
特に知名度がない若手新人の市場が芳しくない。そしてほとんどの写真作品はこの中間~低価格帯になる。

さて4月2日のフィリップス(Phillips de Pury & Company)を皮切りに春のニューヨーク・アート写真オークションが始まる。オークション・カタログに一通り目を通すと、上記の市場動向が見事に反映された内容になっている。
主要3社ともに、有力コレクションのセールを単独オークションで開催予定。メインに有名写真家の珠玉のヴィンテージ作品を競って持ってきている。それとは別にバリエーション豊富な複数委託者のオークションを開催する。
アート写真市場が本格的にコレクターに認識されたのが、70年代後半以降。市場規模が拡大し、作品価格が上昇したのは90年代後半以降なのだ。ちょうど第1世代の写真コレクターが高齢になり、コレクションを手放す時期が訪れつつあるという印象だ。彼らは市場の黎明期に本当に安い価格で写真史に残る名品を買えた幸運の人たちだ。当時はまだ一般的には写真のアート性は認識されていなかった。彼らが優れた先見性を持っていたということだろう。
しかし一つ疑問がわいてくる。誰にでもチャンスはあったのになんで彼らだけが写真を買い始めたのか?調べてみると、有力コレクションには優れた指南役の専門家がついていたことが分かる。彼らは写真史を踏まえた上で、将来性のあると思われる作家の購入をアドバイスしていた。 コレクターとディーラーとの深い信頼関係が優れたコレクションを作り上げていたわけだ。
興味深いのは彼らの全てが裕福な資産家であったわけではないこと。例えば、ササビーズの複数委託者オークションの中に”Charles and late Barbara Reiher”という素晴らしいコレクションが含まれる。これはアート写真界の伝説のディーラーだったハリー・ランのアドバイスで70年代後半から蒐集されたもの。なんとその半分はロバート・フランクの「The American」「The Lines of my hands」からの初期プリントや、あまり知られたいない貴重作品19点なのだ!ハリー・ランが取り扱ったという来歴もプリントの価値を高めていると思われる。この夫妻は、政府の役人と地方のハイスクールの教師だったという。まるで現代アート・コレクター夫妻として映画化された話題になった「ハーブ&ドロシー」のアート写真版だ。

以下に各オークションハウスの目玉を紹介してみよう。

フィリップスは “DR. ANTHONY TERRANA”コレクションがメインとなる。ヴィンテージからモダン、ファッションまでかなり幅広い分野の写真が出品される。個人の成長とともに蒐集テイストが変化する過程が垣間見れて面白い。

アルフレッド・スティーグリッツのプラチナ・パルディウム・プリントの”Georgia O’Keeffe,1919″、落札予想価格 $300,000 – 500,000(@95、約2850~4750万円)。
アーヴィング・ペンの”Harlequin Dress (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950 “は何と1979年制作の貴重なエディション1/30。落札予想価格 $300,000 – 500,000。
ロバート・フランクの写真集表紙イメージの”Trolley, New Orleans, 1955-1956 “。落札予想価格 $200,000 – 300,000。

クリスティーズの4月4日開催の、”the deLIGHTed eye, MODERNIST MASTERWORKS FROM A PRIVATE COLLECTION”はかなり高いクオリティーの作品群が出品される。

エドワード・ウェストン”Nude, 1925″、落札予想価格 $400,000 – 600,000。ティナ・モドッティの”Untitaled (Texture and Shadow)”、落札予想価格 $200,000 – 300,000。マン・レイ”Untitled Rayograph, 1922″、落札予想価格 $250,000 – 350,000。アルフレッド・スティーグリッツのプラチナ・プリントの”From the Back Window -“291”- N.Y. Sommer 1914″、落札予想価格 ”$300,000 – 500,000。アンドレ・ケルテスの”Chairs, the Medici Fountain, Jardin du Luxembourg, 1925″、落札予想価格 $200,000 – 300,000。

ササビーズでは、”THE MODERN IMAGES”が4月5日に開催される。ロバート・フランクの写真集「アメリカ人」の最初の収録写真の”Hoboken, 1955″、落札予想価格 $150,000 – 250,000。エドワード・ウェストン”Two Shells, 1927″これは珍しいマット系ペーパーにプリントされたもの。20年代後半には彼はグロッシー系のペーパーに変えている。サインも初期のものだ。この古い年代の”Two Shells”は美術館の収蔵品にもないそうだ。 これは長年コレクターのJames J.Rochilis氏が所有していた名品。彼の死後2003年にササビーズで$200,000 – 300,000.のエスティメートのところ、$467,200.で落札されている。今回の落札予想価格は、$600,000 – 900,000。今シーズン最注目のウェストン作品だ。

昨秋のオークション・レビューで超トップエンド価格帯市場の勢いがやや弱まっていると指摘した。今春、主要オークションハウスはその市場にかなりの高レベルの逸品を大量投入してきた。はたして高額作品の活況が続くのか? 今春の一番の注目点だろう。