大手オークションハウスが演出?ブランド化するアート写真

アート写真オークションでの作品評価はどのように決まるのだろうか?もちろん過去のオークションでの取引実績などが参考になる。実は作品の人気度が非常に重要な要素となる。同じ作家でも絵柄によって人気度が極端に異なることもある。ロバート・メイプルソープの場合、花は高額で取引されることが多いが、メールヌードは概して低評価なのだ。
ギャラリーの店頭では絵柄による値段の違いはないが、セカンダリー市場のオークションでは人気度により非常に大きな違いがでてくる。高人気は値段が高いとほぼ同じ意味。低人気の低価格作品の場合、大手オークションハウスは取り扱いに積極的でない。

オークションに出品される作家の顔ぶれをフォローしていると、特に最近は何十人かの特定の人気写真家の出品が半ばレギュラー化しているような気がする。ここ10年くらいは判断基準が写真史だけでなく、話題が多く知名度が高い人がレギュラー化している。自殺したダイアン・アーバス、エイズで亡くなったロバート・メイプルソープ、ハーブ・リッツ。それに最近再評価されている、これも自殺したフランチェスカ・ウッドマンを加えようとしている気配も感じる。
その他には、社交界のセレブでもあるピーター・ベアード、美術館で本格的回顧展が開催され過去の写真集が次々と復刻されているロバート・フランク、ウィリアム・エグルストン、アンリ・カルチェ=ブレッソンなどだ。リチャード・アベドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどのファッション系の重鎮も完全にレギュラー化している。
もちろん上記のように、これらの人気作家の人気絵柄が高額で取引されているのだ。

最近はオークションで高額をつけるような珠玉のヴィンテージ・プリントの流通量が減っている。つまり美術館や有名コレクションに入った貴重な作品は2度と市場には出てこない。それでは500万円を超える高額セクターのセカンダリー市場はどんどん縮小してしまう。関係者が指摘しているのは、大手オークションハウスは、イメージがわかりやすく、流通量がある程度ある戦後作家からスターを作りあげ、新しいコレクターにアピールすることを画策しているのではないかということ。それが最近の市場における一部作家の人気に反映されているという見立て。売れ筋とその周辺をどんどん押していき実績を作り、相場を上昇させていく作戦だ。
実際、歴史的的価値が高いと思われる19世紀から20世前半の写真よりも、戦後のファッション写真のほうが遥かに高価であることはいまや珍しくない。
現代美術市場がアート写真市場に影響を与えていることから、アイデア、コンセプト面で上記の写真家を再評価して市場価値を正当化しようという流れも同時に起きている。どちらの意図が強いかは明確ではないが、たぶん市場サイド、学術サイドからともに起きている現象なのだと思う。私はこの重層的な戦略こそが欧米のアート写真市場がダイナミックに発展してきた理由だと思っている。

以上の動きのなかで、いまオークションハウスのなかで、クリスティーズ、ササビーズ、フイリップスの大手3社を頂点としての序列化が起きている。当然のことなのだが、プライマリー市場のギャラリーにも明確なブランド化の波が訪れつつある。
有力写真家が、現代アートのブランド・ギャラリーで取り扱われる傾向さえみられるようになった。かつてのアート写真市場は、その他のアート分野とくらべて誰でも参加できる民主的なところだった。90年代のオークションは価格も安く牧歌的な感じでさえあった。初期の写真ギャラリーはフレンドリーな雰囲気で敷居も非常に低かった。ビジネスよりも本当に写真好きがギャラリーを経営している感じだった。
その後、相場が一貫して上昇してきたことでその他のアート市場と同様になってきたのだ。最近の有力フォト・フェアなどはお金の匂いがムンムンする。私の概算だと、オークション規模から2012年の米国アート写真市場規模はだいたい百十億円くらいになっていると思われる(現代アート分野の写真は含まない)。
相場が上昇し市場規模が拡大したことは喜ばしいことなのだが、個人的にはやや複雑な心境だ。その間の日本は正に失われた20年と重なる。完全に欧米から取り残されてしまった。日本市場の低迷は決して経済的な理由だけではない。写真がアート作品として認知されず、作家、コレクターが育ってこなかったことにつきると思う。

大手オークションハウスは、高人気、優良来歴、優良状態のいわゆる高級品中心の取り扱いに特化する傾向だ。それら条件が揃わない低額評価作品の売買は、中堅オークションハウスを利用するしかない。ちなみに、GORDON’S Blouin Art Sales Indexによると2011年にアート写真が出品されたオークションは世界中で約416回も開催されている。
以下にそれらのなかで比較的アート写真に力を入れている中堅業者と最近の実績をわかる範囲で抜粋してみた。ほとんどが500万円以下の中間価格帯から100万円以下の低価格帯の作品の取り扱いになっている。これらのオークションの落札率は大手と比べてかなり低くなっている。欧州でのオークションは長引く経済低迷が影響しているのだろう。
また、彼らは大手とは違い特に厳密な作家と作品のエディティングを行わない。委託希望作品は、重複作や悪い状態の作品以外をほとんど受け入れているからでもあると思われる。個人的にはアート写真市場の実態がより正確に反映されているとみている。

  •  Swan Auction galleries,  New York, U.S.A. 2013年4月18日
    Fine photographs & Photobooks Auction
    総売り上げ1,191,594ドル  落札率 66.11%
  • Bonhams,  New York, U.S.A.  2013年5月7日
    Photographs Auction
    総売り上げ674,750ドル 落札率 63.7%
  • Bloomsbury Auction, London, UK  2013年5月17日
    Photographs and photo books
    落札率 57.1%
  • Kunsthaus Lempertz,  Cologne, GERMANY   2013年5月24日
    Photography and Contemporary Art
    総売り上げ471,590ユーロ 落札率 63%
  • Villa Grisebach Berlin, GERMANY  2013年5月29日
    Photographie Auction
    総売り上げ553,636ユーロ 落札率 68.9%
  • WestLicht Photographica Auctions  Vienna, AUSTRIA
    2013年5月24日  8th WestLicht Photo Auction
    落札率 76%