2013年アート写真市場を振り返る

今年はいままで続いていた市場2極化がさらに大きなスケールで進行した印象だ。ふとフラクタルという言葉を思い起こした。これは細部の構造が全体に似ているということ。この1年を振り返ると、大きなアート界全体とその一部のアート写真のそれぞれの市場のなかで2極化が拡大している印象を強く感じる。

アート界のハイエンド分野では、アート作品のオークション史上最高額が更新された。
11月のニューヨーク・クリスティーズで開催された現代アートセールでフランシス・ベーコン(1909- 1992年)の“Three Studies of Lucian Freud” (1969年)が142,405,000ドル(約142億4050万円)で落札。2012年の春にササビーズ・ニューヨークでつけたエドヴァルド・ムンク“叫び”の119,922,496ドルを上回った。

アート写真の世界も、特に前半は好調だったといえよう。春のニューヨーク・オークションで総売り上げは昨秋と比べ何と約81%も伸び、約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。
久しぶりに100万ドル超の高額落札も実現、クリスティーズの"the deLIGHTed Eye, Modernist Masterworks from a Private Collection"に出品されたマン・レイの"Untitled Rayograph, 1922"は、落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。(グルスキー、シュトゥルートなどは現代アート分野の写真なのでここでは含めないことにする。)
ところが秋のニューヨーク・オークションはその反動か売上高、落札率ともに低迷。しかし春秋合計の2013年の大手3社の年間総売上は約4782万ドル(約47.8億円)となり、2012年を約40%も上回った。
これはほぼリーマンショック前の2005年の水準と同レベル。中央銀行の量的緩和策継続でNYダウがオークション開催時に15000ドル台まで回復してきたことがコレクターのセンチメントを向上させたのだと思う。
しかし、その後、パリ・フォトに合わせて行われたクリスティーズ、ササビーズのオークション、低価格作品やフォトブック中心のレンペルツ(ドイツ)やスワン・ギャラリー(米国)のオークションは全般的に高めの不落札率で推移した。欧州経済の低迷も一因だと考えられるが、ここ数年ずっと続いている、貴重な高額作品の活況と低価格帯の低迷という2極化傾向がさらに進んでいる印象だ。

2013年は日本人写真コレクターにとって買い場が見つかりにくい1年だったようだ。特に昨年来の為替の円高修正傾向が購入心理に微妙に影響を与えていた。ドル円相場は、数年前に一時80円以上の円高だったのが2013年は100円台に突入した。海外の作品価格が20から30%も円貨で上昇したことになる。アート写真はドル資産を持つと同じ意味になる。すでにコレクションを持っている人はドルの外貨預金同様に資産価値が大きく上昇したわけだ。しかし円高時にタイミングを逃してあまり買えなかった人は、為替変動が急だったので新しい価格レベルでのコレクション購入には躊躇していた。5年間にわたる円高に慣れ切っていたので、もう一度円高に振れた時を狙っており大きくは動きにくかったのだ。

しかし、金融緩和策の段階的終息で米国金利が上昇する見込みで、今後はどうも100円台のドル高が定着する見通しだ。2014年、もし金利上昇で株価が下落しアート写真市場が弱くなる局面があればぜひ買い場ととらえて欲しい。100万円以下の価格帯の相場は強くない。ドル高局面の今の為替レベルでも以前とあまり変わらない円貨で買えるチャンスもないとはいえないのだ。本格的に米国景気が上向いてくればドル高になるとともに、いままで低迷していた価格帯の相場も上昇すると思われる。
注目したいのは日本のオークションに出品される外国人作家作品。まだ落札予想価格にドル上昇が完全に反映さていない場合が多い。もしかしたらお買い得作品が見つかるかもしれない。
コレクション購入には思い切りと買う覚悟が必要だ。いつまでも円高の時に最安値で買いたいと思っていると、永遠にチャンスは巡ってこないかもしれない。もし中期的に米国経済が本格回復してくるとすれば、2014年前半は最後の買いのチャンスかもしれない。