「写真に何ができるか」
-思考する7人の眼-
2014年4月中旬に刊行!

近日中に、新進気鋭の写真家7名による「写真に何ができるか」(思考する7人の眼)という本が窓社から刊行される。私も編者とし企画に関わっているので内容を紹介しておきたいと思う。本書はもちろん写真を紹介するヴィジュアル本なのだが、写真家の人たちが自らの言葉でテキストを書いているのが大きな特徴になっている。

全員に、”自分にっとて写真とは何か、そしてどんな可能性を信じていま、そしてこれからも写真を撮ろうとしているのかを自分の言葉で書いてほしい”と依頼した。昨年の夏から本当に多くの新人、中堅写真家にテキスト執筆を打診してきたが、快諾してくれる人は思いのほか少なかった。本当は10~12人くらいを想定していたが、きりがよい数字なので参加者は、三善チヒロ、幸田大地、にのみやさをり、石橋英之、芦谷淳、西野壮平、武田慎平の7名となった。

写真をアート作品として提示する場合、写真家が伝えたいことを自ら語ることが必要不可欠だ。しかし日本では、ヴィジュアル重視の傾向が強く、この部分はあまり重要視されていない。また語る人の中にも、自分以外の人が紡ぎだした世の中に流布しているメッセージをそのまま流用する場合がよく見られる。自作を自分の言葉で語り、書くことに慣れていない人が本当に多いのだ。中には素晴らしいコンセプトの作品を制作しているのだが、時間的に考えをまとめる時間がないという理由から断る人も複数いた。
以上から、本書の参加者は、みな普段から世界をみずからの眼で見て、思考することで作品テーマを見つけ出している人たちといえるだろう。彼らは自分自身の明確な考えを持つからこそ、あまり抵抗なくテキストを書き上げることができたのだと思う。本書は、写真家が文章と写真作品というに二本立てで自らのメッセージを世の中に発信しようという試みなのだ。

本書の発案は窓社の西山俊一氏。同書のまえがきで彼は以下のように語っている。
「ここに紹介させていただく写真家たちは、前述のような写真的現実のさまざまな変化変容に関わらず、「写真とは何か」という問いを手放さず、写真に対して真正面から真摯に誠実に向き合い、写真をみずからの人生の縁にして生きていこうと決意し、あくまでも自分の内発的を糧に自律的作品の制作にエネルギッシュに挑んでいる気鋭の写真家たちである。私には彼らが写真の世界から生まれ出た哲学徒のように思われてならない。私にとって哲学者とは「問う人」であり、答えの見えない可能性に「挑む人」であり、あくまでも自前で思考し、どんな境遇にあろうとも「自分自身」を生きようとする者の謂いである。」

私も彼ら7名の写真家のアート写真界においてのポジションを明らかにするテキストを書いている。デジタル化が進行して、現代アートが市場を席巻しているこの時代を「デジタル革命の第2ステージ」として様々な現状分析を行った。21世紀になり、従来のアート写真がどのように現代アート市場に飲み込まれていったのか、その過程を詳しく解説している。デジタルとアナログを比較して、どちらが優れているというような議論がなされているのはいまや日本だけの現象なのだ。
またギャラリストの立場から、各写真家のメッセージがこの時代でどのような意味をもつかの評価も試みている。写真でアーティストを目指す人には、現代写真市場の最先端の現状を知るとともに、ギャラリーの持つ具体的な価値基準を理解できる内容になっていると思う。写真が売れないといわれる日本市場の分析もかなりディープに行っているのでコレクターの人にも、何を買うべきか、買わないべきかの参考になるだろう。

写真家のテキストを強調してきたが、それはあくまでも写真作品とともに存在するもの。 やはり、本の中の印刷物よりも実際のオリジナルプリント見てもらうことが絶対に必要なことはいうまでもない。
「写真に何ができるか-思考する7人の眼-」参加者による写真展開催を5月中旬に開催することになった。会場は広尾のインスタイル・フォトグラフィー・センターを予定している。会期中は写真家と編者による、トークイベントも予定している。実際の写真を見ながら、作家本人のメッセージが聞けて、販売業者のセールス・トークも聞ける興味深い機会になると思う。

「写真に何ができるか-思考する7人の眼-」(窓社、2014年4月刊)
三善チヒロ、幸田大地、にのみやさをり、石橋英之、芦谷淳、西野壮平、武田慎平
(編者)福川芳郎
販売価格 2700円(税込)

2014年春のアート写真・オークション結果 貴重な20世紀ヴィンテージ・プリント 大判作品の高額落札が続く

2014年春のニューヨーク・アート写真・オークションは売上高が昨秋よりも好転した。大手3社の総売り上げは前期比約30%増加して約2200万ドル(約22億円)だった。しかし好調だった1年前の春と比べるとまだ約28%減となる。売上アップの大きな要因は高額落札が増加したこと。昨秋は50万ドル越えが僅か1点のみだったのが、今春は6点となった。残念ながら100万ドル越えはなかった。売上自体は、貴重作品がどれだけ出品されるかにより左右される。今回はオークションハウスの営業力でそれらが多く出品されたということだ。複数委託者オークションの落札率は70~79%とほぼ普通レベルだった。ここ数年続いている、強い高価格帯、普通の中価格帯、弱めの低価格帯という相場環境に大きな変化はないと思われる。

今春の売り上げトップはササビーズだった。
“The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で、20世紀初頭のヴィンテージ作品を含む貴重な31点が出品されたことが影響した。最高金額をつけたのはエドワード・ウェストンの”Shells, 1927″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、なんと90.5万ドル(約9050万円)で落札。
注目のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″は、落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、62.9万ドル(約6290万円)で落札された。
最も高額の落札予想だったマン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”は、落札予想価格40万~60万ドル(約4000~6000万円)のところ48.5万ドル(約4850万円)にとどまった。
複数委託者オークションでは、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、が落札予想価格30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、36.5万ドル(約3650万円)で落札されるも、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″は不落札。

フィリップスでは、杉本博司の作品が予想外の高額で落札された。17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″。落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)のところ、その上限を遥かに超える62.9万ドル(約6290万円)で落札されている。
注目されていた、ウィリアム・エグルストンの、赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi, 1973″の1970年代制作の貴重作品は不落札だった。

クリスティーズで行われた、アンセル・アダムスの単独オークション”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”では、彼の大判作品2点が高額で落札された。カタログ表紙を飾る、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″は落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(約5450万円)で落札。予想外だったのがその後に入札が行われた”CLEARING WINTER STORM, YOSEMITE VALLEY, C. 1939″。こちらはマウントサイズが約66X81.3cmとやや小ぶりで、落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)だったが、その上限を超える53.3万ドル(約5330万円)で落札された。
最近ずっと続いているのがアンセル・アダムスのパネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札。かつてはそれらはコンディションの問題もありポスター的な作品と考えられており、評価も決して高くなかった。最近の傾向は、アダムスがアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが再評価されている証拠だと考えている。つまりいま主流の巨大な現代写真の元祖的な存在だということだ。
50万ドルを超える写真作品は高額だが、現代アートのカテゴリーで取引されているアーティストの相場と比べると安いと思う。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないだろうか。

(為替レートは1ドル100円で換算)

2014年春のアート写真シーズン到来 オークション・プレビュー

長い冬が終わり、いよいよ春のアート・シーズンの到来だ。
今週から始まるニューヨーク・アート写真・オークションのプレビューをお届けする。
私が注目しているのは、現代アート系コレクターの動向だ。ウィリアム・エグルストン、リチャード・ミズラック、ピーター・ベアードなどはもともとは写真分野だったが、現代アート系コレクターが評価したことで相場が上昇している。
20世紀写真のうち、ヴィンテージ・プリントの相場展開も興味深い。同じように、貴重な20世紀写真も上記コレクターの物色対象になりつつあるからだ。つまり、どんな貴重な写真でも現代アート写真と比べると割安だということ。
またアンセル・アダムスはクラシック写真の巨匠だが、彼の大判サイズ作品は現代アート写真の元祖的な解釈が行われるようになってきている。クリスティーズに出品される彼の巨大作品の入札にも注目したい。

・フィリップス(Phillips de Pury & Company)、ニューヨーク
4月1日

フィリップスは、大手3社では一番多い約271点が出品される。
注目されているのは13点が出品されるウィリアム・エグルストン。目玉となるのは赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi,1973″。これはエディションが付けられて販売される前に制作された1970年代の貴重作品。落札予想価格は22万~28万ドル(約2200~2800万円)。杉本博司のポートレートシリーズからの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″が出品される。これは17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの作品で、落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)。人気が高いピーター・ベアード作品も複数出品される。
注目は”Tsavo north on the Athi Tiva, circa 150 lbs.- 160 lbs. Side bull elephant, February, 1965″。これは約122.9 x 202.6 cmの超大作で、落札予想価格は8万~12万ドル(約800~1200万円)。現代アート系では、トーマス・ディマンドの182.9 x 243.8 cmサイズの”Abgang/ Exit, 2000″が注目されている。落札予想価格は10万~15万ドル(約1000~1500万円)。アンドレアス・グルスキーの約101.6 x 194 cmサイズの”Paris, Centre Pompidou, 1995″の落札予想価格12万~18万ドル(約1200~1800万円)。
20世紀写真も非常に充実しており、アンドレ・ケルテス、ロバート・フランク、ダイアン・アーバス、ドロシア・ラング、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどの逸品が出品される。
その中で注目されるのは彫刻家として知られるコンスタンティン・ブランクーシの珍しい写真作品”Endless Column in Steichen’s Garden at Voulangis, circa 1923″。落札予想価格は、8万~12万ドル(約800~1200万円)。ラースロ・モホリ=ナジの”Mein Name ist Hase ?ich weiss von nichts (My Name is Hare ? I Know Nothing), 1927″は落札予想価格6万~8万ドル(約600~800万円)。

・ササビーズ、ニューヨーク
4月1日~2日

ササビーズは”The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で31点、複数委託者の”Photographs”で187点がオークションに出品される。19世紀から現在に至るまでの写真史を網羅する興味深い名作が並んでいる。
特に20世紀初頭のヴィンテージ作品が数多く出品されているのでその動向は要注目だろう。カタログ表紙のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″はすべて落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)。
エドワード・ウェストンの”Head Of An Italian Girl (Tina Modotti)”の落札予想価格は25万~35万ドル(約2500~3500万円)。マン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”も注目作。落札予想価格は40万~60万ドル(約4000~6000万円)。ラースロ・モホリ=ナジ作品は4点出品されるが、”Fotogramm (Photogram with Spiral Shape)”の落札予想価格15万~25万ドル(約1500~2500万円)。もう1枚のカタログ表紙作品はアウグスト・ザンダーの”The Painter Heinrich Hoerle”。こちらの落札予想価格も15万~25万ドル(約1500~2500万円)。

・クリスティーズ、ニューヨーク
4月3日

クリスティーズは”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”という、アンセル・アダムスの単独オークションと複数委託者オークション”のPhotographs”を開催する。
それぞれ25点と212点が出品される。アダムス・オークションのハイライトは、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)。ちなみに同作品の35X45cmサイズも出品されており、こちらの落札予想価格は希少性が違うことから3万~5万ドル(約300~500万円)。
複数委託者オークションはほとんどがモダンプリントの出品、そのなかで注目作は、カタログ表紙のフィリップ・ハルスマンのライフ誌のカヴァー写真”Marilyn Monroe,1952″。これは作家のエステートから出品された貴重作で、落札予想価格は7万~9万ドル(約700~900万円)。
ピーター・ベアード作品はここでも複数出品されるが、注目作は”Orphaned cheetah cubs at feeding time, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968″。これは約84 x 113 cmの大作。落札予想価格は15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
今回アーヴィング・ペンは25点が出品。そのなかでも初期プラチナ・プリントの”Woman with Roses on Her Arm (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950″と”Cuzco Children,1948″が注目されている。落札予想価格はともに15万~25万ドル(約1500~2500万円)。
(為替レートは1ドル100円で換算)