2014年春のアート写真・オークション結果 貴重な20世紀ヴィンテージ・プリント 大判作品の高額落札が続く

2014年春のニューヨーク・アート写真・オークションは売上高が昨秋よりも好転した。大手3社の総売り上げは前期比約30%増加して約2200万ドル(約22億円)だった。しかし好調だった1年前の春と比べるとまだ約28%減となる。売上アップの大きな要因は高額落札が増加したこと。昨秋は50万ドル越えが僅か1点のみだったのが、今春は6点となった。残念ながら100万ドル越えはなかった。売上自体は、貴重作品がどれだけ出品されるかにより左右される。今回はオークションハウスの営業力でそれらが多く出品されたということだ。複数委託者オークションの落札率は70~79%とほぼ普通レベルだった。ここ数年続いている、強い高価格帯、普通の中価格帯、弱めの低価格帯という相場環境に大きな変化はないと思われる。

今春の売り上げトップはササビーズだった。
“The Inventive Eye: Photographs from a Private Collection”で、20世紀初頭のヴィンテージ作品を含む貴重な31点が出品されたことが影響した。最高金額をつけたのはエドワード・ウェストンの”Shells, 1927″。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、なんと90.5万ドル(約9050万円)で落札。
注目のエドワード・スタイケンの”Gloria Swanson,1924″は、落札予想価格が30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、62.9万ドル(約6290万円)で落札された。
最も高額の落札予想だったマン・レイの1点物”Rayograph (With Coil, Handkerchief and Chain)”は、落札予想価格40万~60万ドル(約4000~6000万円)のところ48.5万ドル(約4850万円)にとどまった。
複数委託者オークションでは、アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (Nude Study),1918-19″、が落札予想価格30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、36.5万ドル(約3650万円)で落札されるも、同じくスティーグリッツの”Georgia O’Keeffe (By Car),1933″は不落札。

フィリップスでは、杉本博司の作品が予想外の高額で落札された。17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの絵画がベースの134.9 x 106 cmの大作”The Music Lesson, 1999″。落札予想価格20万~25万ドル(約2000~2500万円)のところ、その上限を遥かに超える62.9万ドル(約6290万円)で落札されている。
注目されていた、ウィリアム・エグルストンの、赤くペイントされた天井を撮影した名作”Greenwood, Mississippi, 1973″の1970年代制作の貴重作品は不落札だった。

クリスティーズで行われた、アンセル・アダムスの単独オークション”The Range of Light:Photographs by Ansel Adams”では、彼の大判作品2点が高額で落札された。カタログ表紙を飾る、大判約92X139cmサイズの”Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941″は落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(約5450万円)で落札。予想外だったのがその後に入札が行われた”CLEARING WINTER STORM, YOSEMITE VALLEY, C. 1939″。こちらはマウントサイズが約66X81.3cmとやや小ぶりで、落札予想価格は20万~30万ドル(約2000~3000万円)だったが、その上限を超える53.3万ドル(約5330万円)で落札された。
最近ずっと続いているのがアンセル・アダムスのパネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札。かつてはそれらはコンディションの問題もありポスター的な作品と考えられており、評価も決して高くなかった。最近の傾向は、アダムスがアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが再評価されている証拠だと考えている。つまりいま主流の巨大な現代写真の元祖的な存在だということだ。
50万ドルを超える写真作品は高額だが、現代アートのカテゴリーで取引されているアーティストの相場と比べると安いと思う。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないだろうか。

(為替レートは1ドル100円で換算)