フォトブックを通して世界を理解する 自分のために1冊を見つけだす方法とは

いま市場には膨大な数の写真関連本が流通している。
そのなかには、アマチュア写真家が私費で制作するZINEやリトルプレス、写真家による自費出版本からアーティストの自己表現の一部と評価できるフォトブックまでもが含まれる。様々な完成レベルの写真集の中から、優れたフォトブックを選別し、さらに自分好みの1冊を見つけるのは非常に困難な作業になっているといえるだろう。

数多ある写真集のなかで、フォトブックは本ではなく写真家のアート作品と考えられている。本自体を商品として買うのではなく、それを通して伝えられる写真家のメッセージを愛でることなのだ。私たちは、提供される本の情報を手掛かりにそれらを読み解き、さらに自分に価値があるかを判断する必要がある。
この情報の取り扱いには注意が必要だ。私たちはマスコミは社会的に有力なメディアであることから、彼らの流す情報は信用できるものだと考えてしまいがちだ。しかし、情報を提供しているメディアが、一方でフォトブックの出版社や書店でもあることがある。フォトブックを紹介・推薦している個人も、写真業界で仕事を行っている関係者でもあることも多い。決してすべてが客観的ではなく、なんらかのバイアスがかかった情報が混在していると考えるのが賢明だろう。

私たちは、自分が好きなヴィジュアルが収録されているか、ブックデザインが好みかで1冊のフォトブックに関心を持つことが多い。そこからフォトブックの背景にある写真家のアート性に注目していくことになる。しかし、たった1冊のフォトブックだけではその判断が難しいといえるだろう。アーティストならば何らかの継続的なメッセージを様々なテーマを通して発信している。 結果的に複数のフォトブックが刊行されているはずだ。そのテーマ性の展開過程をフォローすることはアーティストを判断する上で重要な役割を果たすだろう。
最近はネットで写真家のキャリアを調べることが容易になった。アマゾンで写真家名を検索すると写真集リストが出てくる。また現在はほとんどの写真家がオフィシャル・サイトを持っている。どのような仕事を行ったかの情報入手は非常に簡単だ。気になるフォトブックがあったらその写真家のいままでの仕事を調べてみることを強くおすすめしたい。

優れたアート性を持った写真家のフォトブックならば自分が興味を持ったトピックに関して斬新な視点を提供してくれるし、多くの知的満足感を与えてくれるだろう。

例えば最近、カナダ人写真家のグレッグ・ジラード(Greg Girard, 1955- )のフォトブック「Phantom Shanghai」を購入した。

彼の本はずっと気になっていたが、買ったのは今回が初めてだった。私が反応したのは2001年に撮影されたカヴァー写真と本のタイトルだ。タイトルは「上海の幻影」のような意味となる。ちょうど今年の9月に中国の上海に行って自分の持っていた中国のステレオタイプの都市イメージと現実との乖離の大きさに驚いていたところだった。発展途上国的な部分と近代的な部分が共存しているイメージだったのが、いまの上海都市中心部は完全に近代都市そのものだった。グレッグ・ジラードの写真は、近代的高層ビルを背景にして、まるで爆心地みたいに破壊されて廃墟化したスペースに、古い時代の建造物がぽつんと佇んでいるような写真。廃墟に見える建物には電燈がともっていて人の気配が感じられるという、とてもシュールな写真なのだ。
それは、まさに私が感じた認識のギャップを埋めるような写真だった。早々に彼のキャリアを調べてみた。「City of Darkness: Life in Kowloon Walled City」を1993年に刊行しており、香港でも九龍城の高層スラム街を5年間にわたり包括的に撮影していた写真家だった。彼は貧富の格差など、近代化、文明化のダークサイドを主に中国で継続的に撮影している写真家だと分かった。その他、アジアの米国軍基地の周辺を撮影するシリーズ「Half the Surface of the World」では、そこにまるで米国郊外の町のような奇妙なシーンが展開している状況を提示している。私はこちらのテーマにも興味を感じている。

また私は過去に刊行された写真集の古書相場も調べることにしている。これは古本の専用サイトでなくてもアマゾンの本紹介ページの中古本(Used)欄でチェックできる。絶版本の古書市場での相場は、写真家のアート性の評価が反映されている。ジラードの「City
of Darkness: Life in Kowloon Walled City」だが、特に初版ハード版は非常に高額なレアブックとして取り扱われており、彼の市場での高い評価がわかった。私たちがフォトブックに魅了されるのは、自分と同様の興味を持つ写真家のメッセージを通して、ある特定のトピックの新たな視点を獲得できるからなのだ。高度情報社会の現在、様々なメディアから膨大なフォトブック情報が入手できる。それらの内容を吟味したうえ、自分が何を考えて、何に興味があるかを意識した上で整理整頓し、自分に必要なものだけを選べばよい。それを基準に自分が求めるフォトブックを判断するのだ。人はそれぞれの考えを持っているので、結果的に他人と自分では良いと思うフォトブックも違ってくる。フォトブックのコレクション構築は自分が何に興味がある人間かを知ることであり、自分探しと同じなのだ。私たちはフォトブックを通して、世界の仕組みをより良く理解できるようになるのだと思う。