2014年に売れた洋書写真集
何かと話題の多いヴィヴィアン・マイヤーがなんと3連覇!

アート・フォト・サイトはネットでの写真集売り上げをベースに写真集人気ランキングを毎年発表している。2014年の速報データが揃ったので概要を紹介する。

一番売れたのは、3年連続でヴィヴィアン・マイヤー(1926-2009)の「Vivian Maier: Street Photographer」(powerHouse Books
2011年刊)だった。どうも彼女の初写真集が代表作として定番化してきたようだ。昨年は”Vivian Maier: A Photographer Found“や”Eye to Eye” などの新刊が発売されている。いずれも研究が進んだことで内容が豊富になり、分厚い高額の豪華本になってしまった。結果的にそれらの売り上げは伸びていない。
「Street Photographer」は、今までに刊行された彼女関連の5冊のフォトブックの中でも値段が最も安く、コンパクトかつ的確に作品エッセンスを伝えている。一般の写真ファンは、写真界で話題性のある彼女のキャリアや写真には興味があるものの、特に深く研究する関心まではないのだろう。そのあたりがこの1冊に人気が集中した背景だと推測できる。

また最近のフォトブックは、アート表現の一環だと認識されている。写真家のアイデアとコンセプトが注目される傾向が強まっていることも影響していると感じる。やはり本人が亡くなっていることから、ここの部分の探求は難しいだろう。どうしても膨大な写真アーカイブスからの新たなヴィジュアル探しに関心が集中してしまいがちだ。研究者と一般写真ファンとに、関心の強さの違いが出始めているのではないだろうか。

私は彼女の作品はメッセージ性の弱さを十分に補える可能性を持つと考えている。そのためには、彼女の写真が時代の気分と雰囲気をとらえている点への注目が必要なのだ。つまりドキュメント系の流れで見るのではなく、広義のファッション写真なのだと見方を変えればよいということ。米国ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレキサンダー・リーバーマンは、ウォーカー・エバンスがハバナの街角で撮影した白いスーツの男性のドキュメント写真のことを、”これはファッション写真ではないが、本質的にスタイルを提示していると思う”と述べている。これはアートとしてのファッション写真を解説する際によく引用される発言だ。多くのマイヤー作品にも当てはまるのではないだろうか?その視点でセレクションすれば、彼女の新たな写真世界が提示できると考える。彼女の作品を扱うハワード・グリンバーグはファッション系写真を取り扱っているギャラリーだ。もしかしたら、その視点で作品を評価して取り扱いを決めたのかもしれないと想像している。

2014年は、ヴィヴィアン・マイヤーの著作権に関して裁判が起こされたことも話題になった。いままで著作者ではない関係者が数々のビジネスを行っていることへの違和感を多くの人が感じていた。ニューヨーク・タイムズの記事によると、ネガ発見者のジョン・マードフ氏は、最も近いフランスの親戚から彼女の作品の著作権を購入したことになっていた。ところが写真家・弁護士のデビッド・C・ディール(David C. Deal)氏が、彼女の血筋の再調査をフランスで敢行して、なんと新たな親戚が見つかったのだ。そしていま正式な相続人を明らかにする裁判が進行中とのこと。海外在住者が関わるこの種の裁判の場合、判決に数年の時間がかかるという。
マイヤー作品の約15%を占める”Jeffrey Goldstein Collection”のネガは、将来的な法的混乱回避のため、昨年末にカナダのStephen Bulgerギャラリーに一括売却されている。同ギャラリーも判決が出るまでコレクションを保存しておくしかない。
やはり、世界中での複数の展覧会開催、5冊の写真集刊行、商業ギャラリーでのプリント販売と、ビジネスが大きくなりすぎたことから色々な問題点が顕在化してきたのだろう。

コラムニストが書きそうなまとめ方をすれば、”天国のヴィヴィアン・マイヤーは、地上のこの騒動をどのように見ているだろうか?”という感じだろう。この件は、今後どのような展開を見せるか興味深い。

2014年ランキング速報
1. Vivian Maier: Street Photographer, 2011
2. Stephen Shore: Uncommon Places – The Complete Works, 2004
3. William Eggleston’s Guide, 2002
4. Lillian Bassman: Lingerie, 2012
5. Patrick Demarchelier, 2014
6. Stephen Shore: From Galilee to the Negev, 2014
7. Danny Lyon: The Bikeriders, 2014
8.Lillian Bassman: Women, 2009
9. The Americans, 2008
10.Vivian Maier: Out of the Shadows, 2012