2015年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー

いよいよ2015年春のニューヨーク・アート写真シーズンが始まった。3月31~4月2日にかけて大手のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスがオークションを開催した。
3社の総売り上げは約1772万ドル(約21.2億円)と、昨秋より約3.7%減、昨春より約20%減だった。過去2年間は秋と比べて春の売り上げが勝る状態が続いていた。残念ながら今春の売り上げは伸びず、3シーズン連続の減少となった。
過去5年の平均売り上げを比較すると、2013年春から2014年春にリーマンショック後の売り上げ減少傾向からプラスに転じている。しかし昨年秋から回復の勢いが弱くなって来た感じだ。今回は1年ぶりに50万ドル(約6000万円)超えの作品が2点でたものの、全体の落札率は70%をやや欠ける水準と大きな改善はなかった。
総合的に評価するにやや弱めだが標準的な落札結果だったといえるだろう。

クリスティーズは、3月31日に「20/21 PHOTOGRAPHS」と銘打って、William T. Hillmanコレクション単独セールと複数委託者のセールを行った。前者の結果はかなり厳しく、落札率が48.7%、総売り上げも約127万ドル(約1.52億円)にとどまった。同コレクションの半分はカーネギー美術館に寄贈され、残りがオークションに出品されている。この事情からコレクションの方向性が同セールでは明確に打ち出せず、まるで複数委託者のオークションのようだった。これがセール人気が盛り上がらなかった理由の一因ではないか。ダイアン・アーバス、ヘンリ・カルチェ=ブレッソン、ウィリアム・エグルストン、ジュリア・マーガレット・キャメロンなどの高額落札予想価格の20世紀写真が軒並み不落札だった。
最高額はベッヒャー夫妻の”Blast Furnacesm Frontal View,
1979-1986″の9点もの作品で、11万2500ドルで落札された。

複数委託者オークションはやや改善して、落札率が57.2%、総売り上げは約419万ドル(約5億280万円)だった。最高額落札は、アルフレッド・スティーグリッツの4点しか存在が確認されていないヴィンテージ・プラチナ・プリント”From the Black-Window,- 291″,1915″。落札予想価格上限を超える47.3万ドル(約5676万円)で落札。続くのは、同じくスティーグリッツのプラチナ・プリント”Georgia O’Keeffe, 1918″ で41.3万ドル(4956万円)だった。リチャード・アヴェドンのアイコン的作”Dovima with Elephants,
1955″の130X106cmサイズの巨大作品は34.1万ドル(4092万円)で落札された。

ササビーズは4月1日に複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を開催。落札率76.6%、総売り上げも約516万ドル(約6億2000万円)だった。最高額はカタログ・カヴァー作品のリー・フリードランダーの”The Little Screens Series, 1961-70″。38点のポートフォリオで、落札予想価格上限の2倍を超える85万ドル(約1億200万円)で落札された。2位にもポートフォリオ作品が続き、ニコラス・ニクソンの40点からなる”The Brown Sisters Series,1975-2014″が37万ドル(約4440万円)だった。

高額落札が期待された、20~30万ドルのエスティメートだった、ポール・ストランドのプラチナ・プリント”Rebecca, 1921″は不落札だった。フィリップスは、4月1日に貴重な高額作品による「PHOTOGRAPHS」イーブニング・セールを、4月2日に中低価格帯の「PHOTOGRAPHS」デイ・セールを行った。オークションを昼夜2回に分けるのは現代アートなどでは一般的。私の記憶する限りでは、アート写真オークションでは初めての試みだと思う。
全体の落札率は79%、総売り上げは約708万ドル(約8億4996万円)、これでフィリップスは、二季連続のNYオークションでの売上高トップとなった。
最高額は、イーブニング・セールでのメイン作品だったヘルムート・ニュートンの”Walking Women, Paris, 1981″ 。これは、171.5 x 149.5 cmサイズの銀塩写真の3枚セット。落札予想価格の上限に近い、90.5万ドル(約1億860万円)で落札された。今シーズンの最高額でもあった。続いたのが現代アート系のジョン・バルデッサリの”Green Sunset (with Trouble), 1987″  で、36.5万ドル(約4380万円)で落札されている。
ファッション、現代アートの次が、20世紀のクラシックといえるマン・レイの作品。”Reclining Nude with Satin Sheet, 1935″が
32.9万ドル(約3948万円)だった。
上位の3作品が象徴しているように、高額中心のイーブニング・セールの出品作は、写真史の巨匠の希少なクラシック作品、 アイコン的ファッション写真、そして現代アート系に大きく分類される。これらが、いま富裕層コレクターが反応する写真分野ということだろう。

今シーズンで気になったのはアーヴィング・ペンの相場だ。全オークションで44点が出品されて27点が落札。落札率は全体平均よりも低めの約61.3%にとどまっている。
注目のフィリップスのイーブニングセールでは、高額の3点が完売。”Picasso (B), Cannes, 1957″が10万ドル。”Black and White Fashion with Handbag (Jean Patchett)NY,1950″と
“Frozen Foods, New York, 1977” がともに10.6万ドルだった。
しかし、中低価格帯の作品は、不落札や落札予想価格の下限付近での落札が多かった。いままでのファッション写真ブームでペンの落札予想価格はかなり上昇してきた。今シーズンの結果から判断するに、どうもこのあたりのレベルが短期的には相場のピークのような予感がする。

いま、世界的には数多くの不安要素が存在している。米国の金利引き上げによる新興国での流動性縮小懸念、ギリシャなどの欧州債務問題、中東やロシアでの紛争、中国の景気悪化懸念などだ。しかし、ニューヨークのダウ平均株価は17,000ドル台でのレンジ内取引が続いている。 何かのショック的な出来事が発生して株価が急落しない限り、今年のアート写真相場の大崩れはないと思われる。ただし、決して将来が楽観できない状況の中で、昨年来続いているコレクターの精緻な作品評価の傾向は続くだろう。アート写真の主要購買者である中間層の経済状況の改善があまり込めないことから低価格帯作品の苦戦は続くと予想する。
日本のコレクターは約120円程度のドル高では、なかなか海外オークションへの参加に積極的になれないだろう。しかしこの頃は、特に低価格帯分野で意外に割安に買える作品が見つかることもある。また写真作品の出品数は多くないが、国内のオークションでも時に掘り出し物との出会いがある。ただし値段の割安感だけを見るのではなく、自分のコレクションの方向性を明確にしたうえで、欲しい作品に特化して相場動向をフォローするべきだ。悩んだときはぜひ専門家に相談してほしい。

(為替レートは1ドル120円で換算)