勢いを欠く低価格帯アート写真
ニューヨークの中堅業者オークション

ニューヨークでは、大手3社の春の定例アート写真セールに続いて、中間価格帯のアート写真、フォトブックを取り扱う中堅業者のオークションが行われた。
4月中旬から下旬にかけて、ボンハムス(Bonhams)ヘリテージ・オークションズ(Heritage Auctions)スワン(Swann  Auction Galleries)の3社が開催。今年の特徴は、ヘリテージ・オークションズが出品数を大幅に増やしたことだ。大手は、有名作家の希少で良質の作品を中心に編集してくる。まさにこの対極の方針で臨んだことになる。
欧米で写真が本格的にコレクションされるようになって約40年くらい経過している。一部作品は高額になっている一方で、それ以上の不人気作品がコレクターの手元に大量に存在している。大手が取り扱うのは、厳しい生存競争を勝ち抜いた一部のブランド化した作品のみ。コレクターの高齢化に伴い、不人気作であっても値がつくのなら売却したいという潜在ニーズもあるのだ。
ヘリテージ・オークションズはそこに目を付けたのだろう。出品作のラインアップは、人により好みが大きくわかれる、ドキュメント系やポートレート系が多い印象だった。
結果的に3社合計の出品数は、昨春の709点と比べて大幅増加して、1103点。93.5%が1万ドル(約110万円)以下の低価格帯作品だった。昨春の結果と比べると、出品数増加に関わらず総売上合計は約272万ドル(約3億円)と、わずか約1.5%の伸びにとどまった。平均落札率は67.7%から61.9%に低下している。今年のオークションの平均落札率が約66.5%なので、低価格帯の作品市場の元気がない状況が良くわかる。
以前から指摘しているように、昨年来の弱気モードが続く市場は、景気循環というよりも、もっと根源的な社会の構造変化による影響という印象を持っている。アート写真コレクターの中心は富裕層というよりも中間層だった。欧米社会で進行している中間層減少と貧富の差の拡大は、多くの経済学者が指摘している通りだ。不要不急の商品といえるアートをコレクションする行為は、未来に対する明るいヴィジョンが描けることが前提で活性化する。もし将来に不安があると、どうしても資産価値のある作品以外の購入には消極的になるだろう。逆に既に持っているコレクションを換金化しようという流れになる。
高額価格帯には、世界的に増加している美術館や金融緩和の恩恵を受けている富裕層コレクターがいる。現代アート市場と重なるので底堅いのだ。一番影響が大きいのは5万ドル(約550万円)以下の、中間、低価格帯となる。
昨年秋以降の市場の落ち込みは個人所得の増加率低下とともに、このようなじわじわと進行してきた社会の構造変化の顕在化ではないだろうか。アメリカ大統領予備選挙のトランプ・ブームと同様の背景があるかもしれないのだ。
アート写真市場の関心は5月中旬に大手3業者によりロンドンで相次いで開催されるオークションに移っている。
(為替レート 1ドル/110円で換算)