マイケル・デウイック写真集は買いか?
「The End: Montauk,N.Y.」
増補 普及版がついに刊行!

今春に「The End: Montauk,N.Y.」コレクター向けのアートエディションが先行販売された。しかしこれは、アート写真コレクター向けのオリジナル・プリント付の高額なボックス・セットだった。一般のフォトブック・コレクターは手が出なかっただろう。
たいへんお待たせしました、このたびいよいよ待望の普及版が発売になり、先週から配本が開始された。昨年の秋にマイケル・デウィック本人に確認したが、普及版は発売予定がないと発言していた。しかし、その後世界中のファンから熱い発売要請があったらしい。またオリジナル版が古書市場で今でも非常に高額で取引されている状況を鑑み、多くのファンに作品を見てもらうために普及版発売を決断したようだ。
2004年刊の、帯付のオリジナル版は、いまでもレアブック市場で1000~6000ドル(約10.5万~63万円)の販売価格がついている。たぶん実売価格は500ドル(約5.25万円)~だろう。しかし、新版が出たからといってオリジナル版の価値が減じることはない。コレクションしている人はどうか安心して欲しい。ただ新刊が流通している期間は、取引数は減ると思われる。
新版の刊行数は2700部(プリント付300部で合計3000部)。オリジナル版は発売後わずか数週間で 5000 部を完売したというが、今回の販売価格は2倍に上昇している。高額本なので、完売するには多少時間がかかるだろう。しかし完売後は、新版もレアブック扱いになり長期的には相場が上昇する可能性が高いと予想している。以下にその根拠を説明しよう。
コレクターにとって一番腹立たしいのは当初販売価格で購入してた写真集が、しばらくして洋書バーゲンセールで販売されることだろう。洋書輸入業者が資金繰りの関係で放出することにより、特に大手出版社の発行部数が多い本ではこのような状況が時に発生するのだ。しかし、今回の出版元Ditch Plains Pressは写真家自身が設立に関わった会社なのだ。
出版のビジネス・モデルは薄利多売ではなく、良い本を高額でも少ロット制作して完売するというもの。そして、世界各国の販売元は作家のオリジナル・プリントを取り扱うギャラリーが担当している。日本ではブリッツが輸入販売元となる。アマゾンでの取り扱いはない。これは作家がフォトブックを作品として制作し、アート・ギャラリーが販売するということ。出版元から販売元までが、単なる写真集ではなく、アート写真作品の一形態のフォトブックだと理解して取り扱っているのだ。
写真集とみれば高額だが、アート写真の作品だと理解すれば認識も変わるのではないか。ちなみにギャラリーによる、アート作品の売れ残りによる換金売りはないのだ。たぶん、マイケル・デウィックのオリジナル・プリントの相場と、完売後の「The End: Montauk,N.Y.」新版のレアブック市場での評価はリンクしてくると思われる。ちなみに彼のオリジナルプリントはアート・オークションでの取引実績も豊富だ。初期作品のダウンサイド・リスクはあまりないと見ている。
本書は2004年のオリジナルが忠実に再現されて制作されている。出版社はHarry N. AbramsからDitch Plains Pressに変更。文字のフォント、サイズ、紙質もほとんど同じで、版元変更による出版社の表記のみが違いとなる。
 
上記のように同社は作家が設立に参加している。彼の「Mermaids」も同社から刊行されている。サーフボードを抱えた二人の女性サーファーのシルエットが同社のロゴマーク。とても素敵だ。
印刷はシンガポールからイタリアに変更。全体の写真のトーンだが、見比べるとモノクロ図版はやや濃い目になっている印象だ。作家のエッセーは「Summer、1975」に、新たに「Summer、2003」が追加されている。内容は約50ページ増えるとともに、未発表約85点が追加収録。また作家の友人のピーター・ビアードのエッセーも収録。したがってサイズは全く同じなので本の厚みは約2.8cmから3.2cmに厚くなっている。
なお本書は7月21日から開催される「ブリッツ・フォトブック・コレクション 2016」で販売される。初期ロットは近日入荷予定なので、予約も受付中。予約ご希望の方は、以下にメールにてご連絡をお願いいたします。