アート写真市場レビュー
2016年前半を振り返る

まだ夏休みが続いているが、海外ではこの時期に業務から撤退するギャラリーや関連業者も多い。つまり秋になっても休みが続いているのだ。ギャラリーは個人経営が多いので倒産はない。アート・シーンから知らぬ間に消えていくのだ。
ドン・トンプソン氏のアート業界を分析した著書"The $12 Million Stuffed Shark"によると、裕福なスポンサーのない現代アート・ギャラリーの4/5は5年以内に撤退し、5年以上継続しているギャラリーの10%が毎年廃業しているという。アート関連業務の運営には多額のコストがかかる。売上の見通しが立たないとすぐに撤退を余儀なくされるのだ。
最近はギャラリー以外でも、オンラインでのアート販売を目指すベンチャーのネット関連業者もすぐに撤退する。特にマンハッタンやロンドンなどは家賃が高く、冷徹に市場原理が働く場所なので、非常に新陳代謝が激しいのだ。今年の前半のアート市場を振り返るに、どうも永遠に夏休みが続く業者が多いような予感がする。

2016年の前半のアート・オークションの決算が発表されはじめている。クリスティーズは、前期の売り上げは約30億ドルで、前年同月比で約33%減少。特にコンテンポラリー・アート部門の売り上げが約45%も減少しているという。ライバルのササビーズの売り上げも同様に減少している。これらの要因として指摘されているのが、市場の不安定要因から委託者が希少作品の出品を見合わせている状況だ。欧米での売り上げが低下している中で、中国関連のみの売り上げが上昇している。Artpriceによるとこの地域は約18%の上昇とのこと。色々な分析が行われているが、これは中国景気が他地域よりも良いという訳ではないらしい。どうも長期的な景気低迷と為替下落傾向を予想して、富裕層の資産が香港などを通してアートなどのオフショアの実物資産に移されているからだそうだ。

アート写真市場は昨年秋から明らかな変調が見られるようになってきた。私どもがフォローしている中小を含む欧米のオークション売り上げは、2016年前半は前年同月比で約2.5%増加した。しかし2061年前期には特殊要因がある。例年は閑散期の2月17~18日にクリスティーズ・ニューヨークで"MODERN VISIONS (EXEPTIONAL PHOTOGRAPHS)"という、貴重なヴィンテージ作品が目白押しの大注目のオークションが開催されたのだ。イーブニング・セールとデイ・セールにわかれて279点が入札され、252点が落札。なんと落札率は驚異的な90.32%トータルの売り上げは、なんと最近では珍しい落札予想価格上限の約800万ドル(約9.2億円)を超え、約889万ドル(@115/約10.2億円)を記録した。同オークションを除くと、売り上げは前年同月比で約23%減少している。前半の平均落札率は約64%、ほぼ2015年通年の63%と同じレベルだった。しかし出品作品の1/3は落札されないのだ。オークションの世界では35%以上の不落札率(落札率65%以下)は危険水域といわれている。特に低価格帯の不落札率が高くなっている。
中間から高額価格帯を中心に取り扱うニューヨークでの大手3社の結果だけを比べると、売り上げは前年同期比で約32%減少している。昨秋と比べると約17%増加しているものの、これはリーマンショック後の2009年春を除くと、ほぼ2004年秋のレベルとなる。直近のピークは2013年春で、同期と比べると約61%減だ。平均落札率はかろうじて危険水域以上の67.8%に踏みとどまっている。ちなみに2013年春は81.8%だった。
このような状況では、オークション業者は落札予想価格の下方への変更を行ってくる。日本の顧客には昨今の円高傾向によりさらに割安感がでてくるといえるだろう。為替のドル円が120円を超えていた2015年と比べると、約10~20%程度は購入コストが安くなると思う。興味ある人はぜひ相談してほしい。
秋の大手業者のニューヨーク定例アート写真オークションは、クリスティーズ"Photographs"10月4日~5日、フィリップス"Photographs" 10月5日~6日、ササビーズ"Photographs"10月7日の予定で開催される。