ブリッツ次回展「As the Crows Flies」自然を愛する米国人写真家の二人展を開催!

ブリッツでは、10月20日(木)から米国人写真家テリ・ワイフェンバックとウィリアム・ウィリーの二人展「As the Crows Flies」を開催する。
ⓒWilliam Wylie
ワイフェンバックは日本でも知名度が高いが、ウィリーの名前は知らない人が多いだろう。彼は多方面の日本文化に興味持っていて、来年は歩いて四国八十八ヶ所の巡礼の旅を敢行するという。実は2年前にも来日していて、友人のワイフェンバックの紹介でブリッツに来ている。日本での個展開催を希望しており、それ以来ずっと定期的に連絡はとっていた。しかし、彼のはヴァージニア大学のアート部門の教授であり、米国ではそれなりにキャリアを持つ、写真集も数多く出版している写真家なのだが、日本では知名度が全くない。このような場合は非常に多く、ギャラリーは中長期的なスタンスで日本市場での写真家の名前の浸透を図るためのマーケティング努力を行うのだ。通常は、まずグループ展やアートフェアに展示してオーディアンスの反応を見ることになる。
本展の企画は、この長年の友人である同世代の二人の写真家の発案で始まった。2016年の年初、ニューヨークで行われた共通の友人の写真展会場で二人は偶然再開する。ワイフェンバックは、ちょうどワシントンD.C.の自宅裏庭で野鳥、自然風景、季節の移り変わりをテーマにしたカラー作品が完成したところだった。ウィリーも2015年から始めた、8X10大判カメラを使用して樹木を探求したモノクロ作品のシリーズ”Anatomy of Trees”(樹木の解剖学)を撮り終えたばかりだった。
二人の写真の表面的な印象は、カラーとモノクロということもあり全く違う。しかし、ともに撮影対象は植物や自然風景。ワイフェンバックが撮影している野鳥は、ウィリーが撮影している木々に住んでいるという関係性もある。また二人はともに自然世界を愛し崇拝する感覚を持って作品を制作している。
ちょうど、ウィリーが東京での個展開催を希望していることを知るワイフェンバックが私どもに二人展開催を提案してきたのだ。日本でのワイフェンバックの知名度を使って、ウィリーの作品を知ってもらうのは上記のギャラリーの中期的プログラムともマッチする。このような経緯で今春には秋の二人展開催が決定したのだ。今年の6月には二人展を意識してウィリーの「Route 36」シリーズをアクシスで開催されたフォトマルシェで展示してみたりした。

展覧会に際してウィリアム・ウィリーは来日を予定するとともに、教授を務めるヴァージニア大学の関係で日本の学校で学生に話す機会を求めていた。運よく日本大学芸術学部写真学科がレクチャー開催を快諾してくれた。これはギャラリーの営業活動と直接関係はないものの、写真家来日時のマネージメントはギャラリーの仕事の一部となる。写真家が気持ち良く仕事を行う環境作りは、信頼関係構築のために非常に重要なのだ。

レクチャーはちょうど17日に開催され、私も同行して彼の話を聞くことができた。彼は人前でのトークには慣れているようで、通訳付きの英語の話だったが非常にわかりやすかった。スライドで自作を見せながら、キャリア変遷、作品制作のきっかけ、背景、エピソードを聞かせてくれた。私が特に納得したのは、どうすればアーティストになれるかという部分だった。
彼は、”まず前提が「オリジナル(original)」な作品制作は難しいという認識を持つこと。写真やアートの長い歴史の影響を誰もが受けている。自分の風景作品もロバート・アダムスの影響がある。しかし、自分にしかできないこと、「インディビジュアル(indivisual)」な視点を大切にしてほしい。自分にしかできないことを継続していけば、ある日周りの人がそれをオリジナルだというようになるかもしれない”と語っていた。
レクチャー内ではないが、米国で今人気のある写真家名も聞かせてくれた。あくまでも独断だとしながらも、最初にあがったのがアレック・ソス。やはり、ウォーカー・エバンスからロバート・フランクへの流れかあっての評価のようだ。彼の地元写真家のサリー・マン。ドイツ・ベッヒャー系の、トーマス・シュトルート、アンドレアス・グルスキーも人気アーティストとのこと。
日本の写真家に対する米国での人気度についても面白かった。プロヴォーグ時代の、森山大道、荒木経惟、東松照明などは日本写真の教科書的なクラシックと考えられているらしい。現代では断トツに杉本博司、それに続くのはかなり離れて柴田敏雄とのことだ。若手では畠山直哉の作品は知っているとのこと。
さて二人展に戻るが、写真展タイトルの「As the Crows Flies」も二人で決めている。ワイフェンバックは自宅の庭で数々の飛ぶ回る鳥を撮影している。それを踏まえて感覚的につけたのだろう。ちなみに本作のシリーズ名は「The 20 x 35 Backyard」という。自宅の庭のサイズを表している。「Under the Sun」というタイトルも最後まで候補に残ったことを付け加えておこう。私たちは、忙しい現代生活の中、身の回りにある樹木などの自然や鳥などの動植物の存在を完全に忘れている。二人は本作をきっかけにして、それらに意識的に接してみて欲しいと希望しているのだ。アートに触れることで視点が変わると、当たり前だった環境が突然魅力的に感じるようになるかもしれない。
本展では、ワィフェンバックはカラー作品約15点、ウィリアム・ウィリーはモノクロ作品約15点を展示する。彼は8X10カメラを使用して撮影している。ともに全作がデジタル・アーカイヴァル・プリントとなる。
最後にウィリーの日本語読みについて触れておこう。アクセントにより聞え方にかなり幅があり、ワイリーの方が近いという人もいるようだ。実は彼の「Route 36」作品を今年6月のフォトマルシェで展示した時はウィリーの表記だった。混乱を避けるために今回も敢えて変更はしなかった。日本語読みは本当に微妙に違うことがあり悩ましい。ワイフェンバックもワイフェンバッハの方が響きが近いという人もいるのだ。母国語表記が基本で、日本語読みには正解や不正解はないと理解している。それゆえ、カタログと案内状にもあえて日本語表記を行っていない。
「As the Crow Flies」
テリ・ワイフェンバック & ウィリアム・ウィリー
2016年 10月20日(木)~ 12月17日(土)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 日・月曜日 / 入場無料
ブリッツ・ギャラリー