アート写真コレクション
中長期投資の可能性は?

前回、ササビーズ・ロンドンでデヴィッド・ボウイのコレクション約350点のオークション”The Bowie/Collector”が開催されたことを紹介した。ボウイの持つ優れたアートの見立て力が評価され、全作完売のホワイト・グローブ・オークションだった。オークションで最も話題になったのはジャン・ミッシェル・バスキアの2点だ。”Air Power、1984″が710万ポンド、(@135/約9.58億円)”Untitled、1984″が280万ポンド(@135/約3.78億円)で落札された。2点は1995年に購入されたもので、購入金額は前者が7.85万ポンド、後者が5.87万ポンドだったという。約21年で各90倍、47倍も価値が上昇している。
貴重な1点ものの絵画はアーティストの人気が高まると相場が急上昇する。価格が高いものほど将来の上昇率が大きいのだ。同時としては高額だったバスキア作品を購入したボウイの決断が見事だったということだろう。

アート・コレクションはコレクターの余裕資産によって購入する分野が違ってくる。高額な絵画などは富裕層が、エディション数がある版画や写真は中間層が購入してきた。

ちなみに90年代の写真作品の相場をいまと比べてみよう。
ヘルムート・ニュートンの”Private Property”というエディション75点のシリーズがある。これはフォトブックにもなっているので知っている人が多いと思う。90年代初頭の販売価格は1枚2500ドルだった。ちなみに為替レートは1991年が1ドル/約134円、1995年が1ドル/約94円。ニュートンは2004年に亡くなっているが、現在の”Private Property”の価値は絵柄の人気度によって7500~25000ドル。数が多いのに関わらず、だいたい3倍~10倍になっている。

ちなみにオープン・エディションが中心の欧州系写真家はもっと安かった。ジャンルー・シーフの14X17″作品は850ドル、ホルストの11X14″が1200ドルだった。二人ともいまは亡くなっており、相場は絵柄の人気度によってシーフが2500~12000ドル、ホルストが3500~15000ドル程度になっている。こちらもだいたい3倍~6倍だ。
まだ高いと感じる人に画集やフォトブックのコレクションはどうだろうか。ボウイのコレクション展で高額落札されたバスキアの例で思いだしたのが、1985年に刊行されたバスキアのエディション1000点のサイン本。当時渋谷パルコ・パート1の洋書ロゴスで8,000円くらいで売られていた。彼は1988年に亡くなっているが、現在の相場は3000ドルになっている。こちらはなんと30倍以上だ。
これらの例はファイン・アートとして売られている作品の中には、数十年で価値が驚くべく上昇するものがあることを示している。しかし一方で価値がゼロになるアート作品も存在するのだ。コレクション初心者は、何を基準に判断すべきか悩むだろう。もちろんアートは作品への情熱で買うのが本筋で投機目的は邪道といえる。しかし、価値上昇は自分の目利きが正しかったことが時間経過の中で証明され、結果的にコレクション価値に反映されたとも解釈できるだろう。

では何を基準にコレクションを始めればよいか簡単にアドバイスしてみよう。よく若手アーティストを支援するために彼らの作品を買うと主張する人がいる。富裕層の人はアート業界支援のためにぜひお金を使って欲しい。残念ながら、多くの若手新人の作品価値はあまり上昇しないという歴然たる事実がある。作品制作が継続できないからだ。彼らを支援する富裕層は、数多くの新人若手をコレクションして、その一部でも超有名になればよいと考えているのだ。資金的な余裕と情報収集力が必要不可欠になる。資金をより有効的に使いたい人には、新人作品だけを集中的に購入する手法はあまり推奨できない。

作品の価値はアーティストのキャリアの積み重ねによる業界での評価が関わってくる。それゆえ、ある程度のキャリアを持ち、コマーシャル・ギャラリーが作品を取り扱い、フォトブックの出版実績がある人が好ましい。ただし、まだオークション実績が低く、相場が高くない人を狙うべきだ。
彼らは新人より値段が高いものの、すでにベースの評価が確立しているので将来的に相場が上昇する確率は高いのだ。そしてアーティストが亡くなったりしてセカンダリーのオークションに出品されるようになると相場が本格的に上昇する。価格は需給で決まる。作品の供給が減ったり、途絶えても、欲しい人が多ければ作品がオークションで取引されるようになる。

また相場の上昇率は絵柄の人気度が影響する。絵柄選定で悩んだら、自分の予算内で多少高価でも写真集の表紙やフライヤー、カードへ採用された人気の高い方を選ぶべきだ。プライマリーでの多少の価値の違いは、セカンダリーでは非常に大きな差に広がっていく。ちなみに新作展の場合、だいたいすべての作品は同価格になっている。
またアーティストの年齢では、50代くらいまでのキャリア・ピーク時の代表シリーズから作品を選びたい。
写真家のプリント制作にこだわる必要もない。専門のプリンターが制作していれば価値に変わりはない。
将来の価値を予想するのは困難なのだが、上記の点に注意すれば質の高いコレクション構築の確率が高くなると考える。作品の将来性の予想には業界情報が非常に役に立つ。作品購入を通してギャラリストやディーラーと親しくなると各種の内部情報が聞こえてくる。例えば数年後の美術館展や有名な奨学金受給が決まっている人は、将来的に価値が上昇する可能性が高い。また価格上昇のきっかけになる、個別作品のエディション情報や個展の開催予定などには留意しておくべきだろう。これらの情報で、ディーラーやコレクターは相場を予想して行動しているのだ。