“Every picture tells a story” ポートレート写真のアート性と投資価値

先週末にアクシス・シンポジア・ギャラリーでBOWIE:FACES展が開催された。(17日よりブリッツへ巡回)
同展にあわせて、テリー・オニールのエージェントである英国アイコニック・イメージスのロビン・モーガン氏が来日。在日米国商業会議所メンバーの前で、”Passion Investing in Fine Photographs”という講演を行なった。
講演タイトルを和訳すると”アート写真投資への情熱”というような意味になる。他の美術品とくらべて写真市場はまだ歴史が浅く、いまでも比較的低価格で質の高いコレクション構築が可能というような趣旨だ。このあたりのアート作品間の比較分析は特に目新しくはないだろう。
興味深かったのは、彼が頻繁に引用した”エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー”というキーワードだ。直訳すれば、ここでは「写真」だが、すべての絵がそれぞれの物語を語るという意味。ロッド・スチュワートの1971年の名作LPを思いだしてしまうのだが、これはアート写真の中でどの分野を買えばよいかという流れで語られた。もちろん、彼が取り扱うテリー・オニール氏のポートレート系写真作品を念頭に置いているのは明らかだ。
彼の発言はだいたい以下のような内容だ。コレクターが写真を購入して、自宅に飾った場合、友人や仲間に写真が撮影制作されたバックグランドを語って自慢したいもの。複数のレイヤーのストーリーを持つ作品ほど人気が高く、投資的な将来性が高い。もちろん自分が好きで気に入った作品を選ぶのが一番重要。しかし、写真の選択肢は非常に幅広い。判断に悩んだ時は、出来るだけ自分の心が踊る様々なストーリーを持つ写真を選ぶべきということだ。それは、見る側が持つ多種多様な感情のフックに引っかかりを持つ写真を意味すると思われる。
例えばファイン・アート系写真の場合、語られるストーリーとはアーティストの提示する現代社会の様々な問題点などのテーマ性になる。それらは時にコレクターと見る人の高いレベルの知識と理解力が求められる。しかし、モーガン氏が重視するポートレート作品撮影時の様々な逸話には、特に高い理解力は必要とされないのだ。私はこれはアートとしてのファッション写真の評価軸と似ていると直感した。アート系ファッション写真と同様に、撮影された時代の気分や雰囲気が反映されたストーリーが提供されることで、コレクターの興味が喚起されるという意味だと感じたのだ。ただし単に撮影秘話や背景のようなストーリーが語られれば良いのではない。この点は勘違いしがちなので注意が必要だろう。
ヴィジュアルに含まれる情報が多いファッション写真と比べて、ポートレートは、写真を見ただけではなかなか作品の時代性までが読み解けない場合が多い。そこで時代性を持つストーリーが語られることでコレクターの持つ感情のフックへの引っ掛かりが提供されるのだ。様々な情報が伝わることで、撮影された時代背景が見る側で明確化してくるわけだ。ここにポートレート写真がアート作品になり得る可能性を見ることができるだろう。
またモーガン氏は触れていなかったが、ポートレート写真の持つ時代性を見立て、情報として伝えるキュレーター、編集者、ギャラリストが必要とされるのも明らかだ。
BOWIE:FACES展のカタログには、ボウイのポートレート写真とともに、それぞれの写真家のプロフィールや撮影時の様々な興味深いストーリーが紹介されている。これらは、ボウイ好きなコレクターに当時の時代が持っていた気分や雰囲気を思い起こさせる仕掛けとして作用する。それらが自分のパーソナルな経験と重なると、ボウイのポートレートを通して、コレクターと写真家とのコミュニケーションが生まれる。それなくして写真を買おうという気持ちは起きないのだ。
BOWIE:FACES展では、ボウイのスナップやライブ写真の割合が非常に低い。それは、それらの写真は記録的要素が強く、多くを語ることが難しいからだろう。被写体に重きが置かれたブロマイド的な写真と、写真家と被写体とのコラボで作り上げられたアート作品との違いでもある。ファッション写真が1990年代以降にその価値観が体系化され再評価されたように、いまポートレート写真もアート性の再評価が進行しているのだ。その一端を類まれなアーティストでもあったボウイのポートレート作品に見ることができる。
BOWIE:FACES展
ブリッツ・ギャラリー(東京・目黒)
東京都目黒区下目黒 6-20-29 TEL  03-3714-0552
2017年2月17日(金)~4月2日(日)
13:00~18:00入場無料、本展は日曜も開催(月・火曜休廊)