2017年春のNYアート写真シーズン到来! 最新オークション・レビュー(1)

春の訪れとともに、いよいよ今週から2017年ニューヨーク・アート写真・オークション・シーズンが始まった。外部環境は、昨秋の定例オークション後にドナルド・トランプ米国新大統領が選出。新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移してきた。3月1日には株価は終値の史上最高値2万1115.55ドルを付けたものの、その後は医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案の採決取りやめなどで政策への期待感後退から調整局面を迎えている。しかし税制改革への期待から、株価はいまでも2万ドル台の高値を維持している。明らかに1万8000ドル台だった昨秋よりは相場環境は良好だといえるだろう。

今春は、複数委託者による通常オークション前の4月3日~4日にフィリップスが”The Odyssey of Collecting”セールを行った。

これは米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからの出品となる。同財団からのセールは2014年12月11日~12日ササビーズNYで開催された”175 Masterworks To Celebrate 175 Years Of Photography: Property from Joy of Giving Something Foundation”以来となる。同セールでは、単独コレクションからの最高合計落札金額の2132万ドルを達成している。

今回も、19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントなどの逸品が、イーブニングセール43点、デイ・セール185点にわかれて入札された。落札予想価格が1万ドル越えの出品が全体の3/4を占めていた。
結果は、全体の落札率は約84%、昨年のオークション平均が61.75%だったので極めて好調なだったといえよう。しかし、中身をみると高額落札が予想されていた20世紀写真の不落札が多かったのがやや気になる。落札予想価格上限が5万ドル超えの価格帯の落札率は約65%にとどまっている。最高落札が予想されていたのはラースロー・モホリ=ナジの2点で、ともに15万~25万ドルだった。
“Photogram studies for Goerz (negative and positive), 1925″は落札予想価格内の21.25万ドル(約2337万円)で落札。しかし、”Photogram, 1922″は不落札。イーブニングセールに出品された、エドワード・スタイケン”The Spiral Shell” 、アルフレッド・スティーグリッツ”The Terminal”と” Lake George”などのヴィンテージ作品には買い手がつかなかった。
また中国現代美術のジャン・ホァン(Zhang Huan)の”Family Tree”も15万~20万ドルの落札予想価格だったが不落札だった。
フィリップスがメイン・ヴィジュアルの1枚として紹介していたジュリア・マーガレット・キャメロンの”Sappho (Mary Hillier),1865″も、落札予想価格5万~7万ドルの下限以下の4万ドル(約440万円)の落札にとどまっている。
一方で、予想よりも高額落札された過小評価気味の作品も散見されたのでいくつか紹介しておこう。19から20世紀初頭の作品は歴史的価値や被写体の希少性をどのように評価するかによって、予想外の高額落札になることがあるのだ。
だいたいこの分野は個人よりも美術館などの公共機関が購入する場合が多い。
20世紀の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ。彼はマン・レイに写真を学び自作を撮影したことで知られている。”(Bois) Group Mobile (L’Enfant au monde),1917″は、4~6万ドルの落札予想価格のところなんと12.5万ドル(約1375万円)で落札された。
アルヴィン・ラングダン・コバーンのプラチナ・プリント”Self Portrait,1905″は、2~3万ドルの落札予想価格のところ9.375万ドル(約1931万円)で落札。19世紀の英国人写真家のベンジャミン・ブレックネル・ターナーの”Trees (Pepperharrow Park)、circa 1853″も、2.5~3.5万ドルの落札予想価格のところ、何と16.25万ドル(約1787万円)の高額で落札。ジュリア・マーガレット・キャメロンの天文学者ジョン・ハーシェルのポートレート作品”Sir John Herschel, 1867″は、落札予想価格2~3万ドルの落札予想価格のところ11.25万ドル(約1237万円)で落札されている。
4月4日~6日にけて、クリスティーズ(179点)、ササビーズ(188点)、フィリップス(118点)で複数委託者中心のオークションが開催される。クリスティーズではアンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941″の100.3 x 143.8 cmサイズが注目されている。こちらの落札予想価格は40万~60万ドルとなっている。
オークション結果の分析は”オークション・レビュー(2)”で紹介する予定だ。
(換算レート 1ドル/110円)