オークションレビュー
2017年春ロンドン・アート写真オークション 好調な現代アート系 苦戦する20世紀写真

5月18日~21日に行われたフォト・フェア”Photo London 2017″の時期にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月18日~19日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビース、中堅のドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション”The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I”も19日に行われた。
大手3社の実績を昨年春と比べてみよう。昨年の総売り上げは約533万ポンド、388点が出品されて250点が落札、落札率は約64.4%。今年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。全体の結果は、売上高がやや減少しているもののほぼ昨年並みと判断できるだろう。しかし中身を分析してみると変化の兆候も見られる。
まず、高額価格帯で落札予想価格が5万ポンド(約750万円)以上のトップエンド作品が好調なことだ。特に中~高価格帯の現代アート系作品の人気が高かった。また作家の写真史上の知名度よりも、欧米のコレクターが好む大判サイズの、室内に展示しやすい絵柄の作品の人気が高かった。
ちなみに今春の最高額はフリップスの現代アート系作家ジョン・バルデッサリの”Transform (Lipstick),1990″の38.9万ポンド(約5835万円)。これは1点ものの、186.5 x 171.5 cmサイズの作品だ。通常は比較的小さいサイズが多いブルース・ウェバー。フリップスには、177.8 x 127 cmの巨大作品”Ric and Natalie, Villa Tejas, Montecito, California,1988″が出品された。こちらは1点ものの銀塩プリント。落札予想価格上限を超える8.75万ポンド(約1312万円)で落札されている。
クリスティーズでは、ファッション写真の巨匠ピーター・リンドバークの180 x 120 cmの巨大作品”Christy Turlington, Los Angeles, American Vogue,
1988″が落札予想価格上限の3倍に近い18.5万ポンド(約2775万円)で落札された。
ササビーズでの最高額落札は、迫力のある野生動物の写真で知られ、金融ビジネスを手掛けるスコットランド出身の話題が多い写真家デビッド・ヤロウの”Mankind, 2014″。こちらはピグメント・プリントによる125.8 x 264.6 cm の大作で6万ポンド(約900万円)だった。
一方で、ササビーズの単独コレクション・オークション”The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I”は残念な結果だった。落札率は40.3%に低迷。全般的に20世紀写真が不振で、写真界の巨匠カルチェ=ブレッソンは32点出品されてわずか13点しか落札されなかった。20世紀写真では抜群の知名度のアンリ・カルチェ=ブレッソン作品でも、人気度の低いスナップ的作品への需要は高くないようだ。
一方でフリップスに出品された彼の代表作”Behind the Gare Saint-Lazare,
Paris,1932″(サン・ラザール駅、水たまりをジャンプしている男のイメージ)は、落札予想価格を大きく上回る13.1万ポンド(約1965万円)で落札されている。こちらは1947年にプリントされ、MoMAへの寄贈などの来歴が確かな作品だった。
サイズが小さめのファッション写真もかつての勢いは見られなくなっている、しかしクリスティーズのヘルムート・ニュートンのキャリアを網羅する代表作45点からなるポートフォリオ”Private Property Suites I, II & III, 1984″は、22.1万ポンド(約3315万円)で無事落札された。ただし落札予想価格20~30万ポンド(約3000~4500万円)の下限近くだった。同ポートフォリオ3点セットは2014年秋のニューヨークでフィリップスとクリスティーズで38.9万ドル(当時の1ドル105円の為替で約4084万円)で落札されている。ニュートンの相場もピークをつけて落ち着きどころが模索されているようだ。
20世紀写真の不人気作品の低迷は18日に開催された中堅のドレワッツ&ブルームズベリーでも明らかだった。こちらも落札率が42%と厳しい結果だった。
ロンドンのオークションで売れているのは巨大サイズの絵柄のわかりやすい現代アート的作品と、有名写真家の代表作だった。アート写真としては高額だが、現代アートとしては割安な価格帯の動きが良かった印象だ。
結果を見るに、総売上(約234万ポンド、約3.51億円)、落札率(87.1%)と、ともに大手業者での最高成績を上げたフィリップスが上記の傾向を的確にとらえたエディティングを行ったと思われる。
ちなみに、同社のカタログ表紙にはインパクトのある倉田精二の写真集”FLASH UP”の表紙に採用された”入墨の男、1975″が採用されている。

これは1978年の初個展時に本人が制作した53X42cmサイズの銀塩プリント。日本人写真家の初期プリントは残存数が非常に少ないことで知られている。本作は落札予想価格上限の約2倍の約5.6万ポンド(約840万円)で落札された。

次回のオークション・レビューでは、写真作品の高額落札が相次いでいるニューヨークの現代アートオークションを取り上げる。

為替レート(1ポンド/150円で換算)