ブリッツ2017年後半の予定
フォトマルシェ4/トミオ・セイケ展

早いもので夏休み期間も終わり、
アート業界はいよいよ秋のシーズンに突入となる。
ブリッツの秋以降の予定を紹介しよう。
○「AXIS フォトマルシェ 4」に参加
9月15日(金)~18日(祝・月)11:00~19:00
会場: アクシスギャラリー
(東京都港区六本木5-17-1 アクシスビル4F)
入場料 : 無料
主催・企画: アクシスギャラリー
六本木のアクシスギャラリーで4回目の開催となるフォトマルシェ。今年のテーマは「MUSIC」となった。メイン展示は、鋤田正義と、イタリア人写真家グイード・ハラリ(GUIDO HARARI)の豪華なロック系ミュージシャンのポートレート。ミュージシャン名は以下の通り。
○鋤田正義
デヴィッド・ボウイ、デヴィッド・シルヴィアン、イギー・ポップ、マーク・ボラン
○グイード・ハラリ
ボブ・マーレー、ルー・リード、フレディ―・マーキュリー、エリック・クラプトン、ケイト・ブッシュ、パティー・スミス、ジョニー・ミッチェル、デヴィッド・ボウイ、ニック・ケイブなど

その他、テリー・オニールのザ・ビートルズ、ザ・フー、ブライアン・ダフィーのデヴィッド・ボウイ作品。また、プリンスのオフィシャル・フォトグラファーだったスティーヴ・パークの作品も展示される。ちなみに9月には彼の写真集「Picturing Prince」日本版も発売される。

それ以外にも、参加ギャラリーやブックショップが新進作家から巨匠の名作までを持ちより展示販売。作品価格帯も、お求めやすい1万円前後から高額なものまで。お買い得な写真集なども出品される予定だ。各種のトークイベントも予定されている。

オープニングイベントは9月15日に開催。18時〜19時に鋤田正義と広川泰士のトークが行われる。

AXIS フォトマルシェ4
○「トミオ・セイケ写真展」
「Julie – Street Performer」
( ジュリー – ストリート・パフォーマー )
2017年 10月3日(火)~ 12月2日(土)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 日・月曜日 / 入場無料
ブリッツでは、海外を中心に活動する写真家トミオ・セイケの「Julie – Street Performer」展を開催する。本作は、若きストリート・パフォーマーであるジュリーの生き方をテーマにした初期作。なお、昨年当ギャラリーで開催して好評だったリヴァプールの若者グループを撮影した「Liverpool 1981(リヴァプール 1981)」とともに、本作はセイケが80年前半に英国で出合った若者たちをドキュメントしたシリーズとなる。1982年はちょうどセイケの代表作「ザ・ポートレート・オブ・ゾイ」に取り組む直前の時期で、自らのオリジナリティーや作品スタイル構築を模索していた。本展示作の中には、その後のモノクロームの抽象美を追求する作品スタイルへの展開を予感させる作品が数多くみられる。本展では、セイケの世界初公開の初期作約20枚がデジタル・アーカイヴァル・プリントで制作されて展示される。

*フォトマルシェで案内状を差し上げます!
毎回、好評のトミオ・セイケの展覧会案内状。いつも会期開始直後になくなってしまう。本展のA5サイズカードは、上記フォトマルシェ4のブリッツのブース内のみで限定数無料配布される。希望者はブースのスタッフに声をかけてください。

荒木経惟 写真展レビュー
「センチメンタルな旅」/「東京墓情」24年後の”オリジナルプリントとしての
荒木経惟の作品”

 2017年は、春ころから東京各所の美術館やギャラリーで荒木経惟の写真展が相次いで開催されている。
その中で、最も注目されている東京都写真美術館(以下TOP)とシャネル・ネクサスホールの展覧会を紹介しよう。

荒木の長いキャリアをどのように写真展で紹介するかはキュレーターの腕の見せ所だろう。TOPは彼の原点である妻陽子との新婚旅行を撮影した「センチメンタルな旅」からのキャリア全貌提示に挑戦している。そこを彼のキャリアの原点として、陽子の死、その後の現在に至るまでのつながりのある作品群をセレクション。彼のキャリア自体を「センチメンタルな旅」と重ね合わせているのだ。
荒木は有名人として様々な活動や発言を行っている。ともすれば話題先行となり、作家性は不明瞭になりがちだ。TOPの展覧会では、原点を深堀することて見事に彼の作家像を明確化している。本展が、いままでに開催された複数の荒木写真展のコアとなり、すべてが関連付けられる構図になっている。

新婚旅行の写真というと、スイス人写真家ルネ・グローブリ(Rene Groebli)の“Eye of Love”を思いだす。全く同じモチーフなのだが、それは東洋の「センチメンタルな旅」の真逆の西洋の写真作品になっている。作品はフランスの雰囲気のあるホテル室内で撮影されている。そこには若い新婦のヌードや着替えのシーンなども含まれる。光と影を巧みに操ってシルエットで表現された被写体は絵画的であり、月並みの言葉になるがアートしているのだ。荒木のストレートな写真はまさに対極だといえるだろう。開放的な旅館での撮影、新婦の野外のヌードなど、西洋人が生々しい荒木作品を見て驚愕し、そこに東洋のオリジナリティーを見たであろうことは容易に想像できる。海外で評価される彼の作家性のエッセンスが本作に散りばめられている。
一方でシャネル・ネクサス・ホールの「東京墓情」展は、フランス国立ギメ東洋美術館で開催された荒木の回顧展「ARAKI」がベースとなり、亡くなった妻陽子や猫のチロ、ストリートのスナップ、依頼された写真、有名人のポートレート、新たな撮り下ろし作品がセレクションされている。それに加えて、荒木が選んだ、同館の花、ポートレート、風景などの19世紀日本写真コレクションも展示されている。現在を含む長く多彩なキャリアのエッセンスをコンパクトに紹介する展示になっていた。モダンにデザインされた空間で、フレームの外枠がない設えで作品が展示されている。荒木作品の濃さが失われていない上に、シャネル・ネクサス・ホールとの取り合わせにも違和感がなかった。海外コレクターの荒木作品の展示が想像できる空間だった。荒木経惟が世界的なブランド・アーティストであることが本展では高らかに謳われている。
私はいままで仕事で荒木経惟の作品を取り扱ったことがない。
しかし、1993年6月発行の雑誌“SH・I・N・C”の荒木経惟特集号で“オリジナルプリントとしての荒木経惟の作品”という巻頭エッセーを書いている。いま読み返してみると、様々な興味深い点があったので一部を紹介してみよう。
 まず2ページにわたるエッセーの最後の部分を引用しておこう。

「(前略)いままで述べてきたように、現代の日本を象徴する荒木経惟の作品はファインアートフォトグラフィーとしての独自性は持っているが、国内のプライベート・コレクターには買い難い作品である。一方、あまりにも日本的であることから価値観が違う海外コレクターには理解されにくいとも思われる。しかし、楽しみなのが日本のコンテンポラリー作家のコレクションを避けて通れない写真専門美術館もできた公共美術館の動きだ。一般的に彼らはコンテンポラリー作品の積極的な評価を下しにくい。プライベートではコレクションが難しい世紀末の日本を代表する荒木経惟を(美術館は)どう評価していくだろうか」

約24年が経過して“オリジナルプリントとしての荒木作品”の評価は確定した。彼はその後も作品制作を継続し、現在でも現役として活躍している。その過程で複数のアート性の見立てが行われて、いまや確固たる作家のブランドを確立させている。実際のところ、90年代から継続して作家活動を行っている日本人写真家はほとんどいないのだ。私が読み間違えたのは、荒木作品の見立てを行ったのが海外のコレクターや美術館だったことだ。当時の私は、欧米とは違う価値観を持つ荒木写真は外国人には理解されないと考えていた。しかし、実際は多文化主義の流れで、西洋の価値観にない日本文化の独自性が海外で評価されたのだ。逆に、西洋的なテイストを持つ日本人写真家の作品は、海外の作家との熾烈な生き残り競争の中で苦戦を強いられることになったのだ。残念ながら彼らは思いのほか評価されなかった。

そして、海外での評価があったことから、日本の美術館が荒木の展覧会を開催するようになった。私は、まず国内美術館で評価され、その流れで海外に紹介されると考えていた。残念ながらここでも予想は外れてしまった。
荒木作品の展示は年末にかけてさらに続く。締めくくりは12月17日から丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開かれる「荒木経惟 私、写真。」展。これまでの膨大な作品のなかから、プリントへの着色やコラージュ、フィルムの腐食などによって生と死を強く意識させたり、反転、撹乱させる作品を中心に展示するという。
2017年の日本の写真界は荒木経惟の年として記憶されるだろう。
東京都写真美術館 「センチメンタルな旅 1971-2017-」
シャネル・ネクサス・ホール「東京墓情」(会期は終了)
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館