2017年アート写真高額落札
現代アート系を貴重なマン・レイ作品が撃破

Christie’s Paris “STRIPPED BARE” Auction Catalogue (Cover image Man Ray)

ここ数年、写真オークション高額落札のリストは、現代アート系作品で占められていた。20世紀写真が100万ドルの大台を超えることはめったになかった。しかし、2017年はマン・レイの極めて貴重な2作品が全体でも1位と3位に食い込んだ。2017年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”の、2,688,750ユーロ(約3.63億円)。

Phillips London, Andreas Gursky “Los Angeles, 1998-1999”

ちなみに2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999″の、1,689,000ポンド(約2.53億円)だった。

2017年の100万ドル越え作品は9点だった。2016年は5点、2015年は8点だったことからも、昨年後半から、高額セクター主導で相場が回復傾向を示してきたのがわかる。

総合順位
1.マン・レイ : 約3.62億円
2.アンドレアス・グルスキー : 約2.53億円
3.マン・レイ : 約2.38億円
4.リチャード・プリンス : 約1.99億円
5.ギルバート&ジョージ :約1.72億円

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とは区別して分析している。現代アート系では、高額売り上げ上位にお馴染みの顔ぶれが並んでいる。

現代アート系 高額落札
1.アンドレアス・グルスキー
2.リチャード・プリンス
3.ギルバート&ジョージ
4.ゲルハルト・リヒター
5.ギルバート&ジョージ

Phillips London,”20th Century & Contemporary Art” 2017 June, Wolfgang Tillmans “Freischwimmer #84, 2004”

上位20位まで見ていくと、常連のアンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、ギルバート&ジョージ、シンディー・シャーマン、ゲルハルド・リヒターの中で、ウォルフガング・ティルマンズの作品が8点も含まれていた。これはグルスキー5作品を上回る結果。ティルマンスの回顧展“WOLFGANG TILLMANS:2017”が英国ロンドンのテート・モダンで開催されたことで、特に巨大抽象作品は急騰したのだ。美術史的にも、非常に高い評価を受けており、マン・レイやジョージ・ケペッシュの実験的創作の流れを踏襲し、抽象絵画のカラーフィールド・ペインティングとのつながりが指摘されている。

フィリップス・ロンドンで、6月29日に開催された“20th Century & Contemporary Art”では、“Freischwimmer #84,2004”が、落札予想価格上限の約2倍の60.5万ポンド(約9075万円)で落札。ちなみに、同作は2012年10月フリップス・ロンドンでわずか3.9万ポンドで落札されている。4年間で約15倍に高騰したのだ。ちなみに同作は高額落札ランキング全体の13位だった。

20世紀アート写真 高額落札
1.マン・レイ
2.マン・レイ
3.エドワード・ウェストン
4.ロバート・メイプルソープ
5.エドワード・ウェストン

20世紀アート写真では、マン・レイの2作に続いたのはクリスティーズ・ニューヨークで4月に開催された“Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs”に出品されたエドワード・ウェストンの“Nude, 1925”で、87.15万ドル(約9586万円)だった。ウェストンのヴィンテージ作品は4位にも入っている。貴重作品への根強い需要が再認識された。

現代アート市場では、一部の人気作家の有名作品に人気が集中する傾向があると前回に紹介した。参考のために、大きな意味があるかは定かではないが、今回の写真部門でも上位30位の全体売り上げに対する比率を単純計算してみた。20世紀写真部門は0.6%の落札数が約18.8%、現代アート系部門では4.5%の落札数が約41%だった。この数字からは現代アート系写真は、20世紀写真と比べて一部の高額な人気作家に人気が集中している傾向が大まかだが読み取れる。両カテゴリーを総合したアート写真部門では総落札数の僅か0.9%の上位50位までの高額落札の合計が、全体の売り上げの約28%を占めていた。高額な現代アート系が写真市場を席巻しているのが明らかだ。
アート写真市場の中には、多様な価値観を持つ中間層中心のコレクターが支える20世紀写真と、一部の人気作家の代表作に関心が集中している富裕層中心の現代アート系写真が併存している。今までは、経済グローバル化の流れとともに、現代アート系写真の勢いが加速度的に増してきた。いまや金額ベースでは両者はほぼ互角になっている。「グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)」が語られる中で、アート写真界でも今までの傾向に変化が訪れるのか。2018年はこの点を注視しながら市場動向を見守りたい。

(1ドル/110円~112円、1ポンド/150円、1ユーロ/135円で換算)