2018年前期の市場を振り返る
アート写真のオークション高額落札

アート写真市場は前半のオークション・スケジュールをほぼ消化した。昨年前期と比べると、出品数は約15%減少して3488点、落札率は若干改善して69%。総売り上げは、1点の落札単価が約14%上昇したことでほぼ同じ約36億円だった。6月末までにオンライン・オークションが6回開催されているのが今年の特徴。とりあえず前半は予想通りの結果で、波乱なく無事に終了したといえるだろう。

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とを区別して分析している。厳密には、アンドレアス・グルスキー、ロバート・メイプルソープなどは評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、ここでは便宜上、出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。
それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

  1. ヘルムート・ニュートン
    “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    72.9万ポンド(1.09億円)
  2. ピーター・ベアード
    “Heart Attack City, 1972”
    フィリップス・ニューヨーク、4月9日
    60.3万ドル(約6633万円)
  3. ラースロー・モホリ=ナジ
    “Untitled, Weimar, 1923/1925”
    ヴィラ・グリーゼバッハ、5月20日
    48.75万ユーロ(約6240万円)
  4. リチャード・アヴェドン
    “Dovima with Elephants, Paris, 1955”

    クリスティーズ・ニューヨーク、4月6日
    45.65万ドル(約5021万円)
  5. ロバート・メイプルソープ
    “Double Tiger Lily, 1977”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    29.7万ポンド(4455円)

アート写真の上位の1位、2位、3位と5位は、すべて1点ものだとオークションハウスが判断している作品。現代アート系や絵画同様に希少性がある作品が高額になる傾向が一段と強まっている。それを考えると、4位のリチャード・アヴェドン作品は約124X101cm、エディション50点。極めて人気が高いのがわかる。90年代前半のアヴェドン存命時の価格は2,7万ドル(@130/約351万円)だった。ちなみに2010年11月のクリスティーズでは、美術館展用に特別制作された約216X166cmサイズの同作品が約84.1万ユーロ(@112/約9419万円)で落札されている。
なおダイアン・アーバス“A box of ten photographs, 1970”が、4月6日のクリスティーズ・ニューヨークにおいて79.25万ドル(約8717万円)で落札されている。しかしこれは10点のポートフォリオ・セットとなる。

現代アート系の高額売り上げ上位には、お馴染みの顔ぶれが並んでいる。

  1. リチャード・プリンス
    “Untitled (Cowboy), 1999”
    ササビーズ・ロンドン、3月7-8日
    102.9万ポンド(1.54億円)
  2. シンディー・シャーマン
    “Untitled Film Still #21A, 1978”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    94.6万ポンド(約1.41億円)
  3. アンドレアス・グルスキー
    “James Bond Island I, II, & III, 2007”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    67万ポンド(約1億円)
  4. アンドレアス・グルスキー
    “Avenue of the Americas, 2001”
    ササビーズ・ニューヨーク、5月16-17日
    75.9万ドル(約8349万円)
  5. デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ
    “Science Lesson, 1982-1983”

    クリスティーズ・ニューヨーク、5月17-18日
    70.8万ドル(約7793万円)

現代アート系ではアンドレアス・グルスキーの人気が高く、高額ベスト10に4点が入っている。これは2018年1月~4月にロンドンのヘイワード・ギャラリーで開催された英国初の回顧展による影響だと思われる。5位のデイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ(David Wojnarowicz)は、落札予想価格上限を超える高額落札。彼は、70年~80年代のニューヨーク・アート・シーンで活躍した話題の多いアーティスト、映画製作者。写真を含むマルチジャンルの表現で知られている。写真家ピーター・ヒュージャー(1934-1987)と個人的に親しく、本人もエイズで1987年に亡くなっている。7月13日からホイットニー美術館で“David Wojnarowicz: History Keeps Me Awake at Night”が開催されることから注目されたのだろう。主要美術館での展覧会開催は、現代アート系オークションの高額セクターには確実に影響を与えているようだ。

昨年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”。約268万ユーロ(約3.63億円)。2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999”の、約168万ポンド(約2.53億円)だった。

ちなみに、これらは年後半の出品作。いまのところ米国の景気は堅調だが、景気循環サイクルの最終局面との見方も根強くある。中期的には米国と中国の貿易摩擦やその影響も懸念されている。貿易戦争が激化して長期化すれば消費者心理が悪化すると思われる。2018年後半期の、高額で貴重なアート作品の出品にも影響がでてくる可能性もあるだろう。不安要素を抱えつつも、とりあえずアート写真市場は夏休み入りだ。

(1ドル/110円、1ポンド・150円、1ユーロ・128円)

2018年欧州アート写真オークション・レビュー
低価格帯分野で進行する人気・不人気の二極化

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて欧州で開催。欧州の経済状況は、昨年よりは弱くなったものの景気拡大傾向が続いている。しかし通商面では、EUと米国の対立が表面化しており、貿易戦争への懸念から企業業績の先行きには慎重な見方が増えている。またイタリアの政局が混迷してきており、将来的な財政悪化への懸念から国債の利回りが上昇しているのも懸念材料だろう。

Villa Grisebach lot 2062, László Moholy-Nagy, “Untitled, Weimar, 1923/1925”

5月30日にベルリンのヴィラ・グリーゼバッハ(Villa  Grisebach)、6月1日~2日にかけてケルンのレンペルツ(Lempertz)でオークションが開催された。2社合計で472点が出品され、落札率は約58%、総売り上げは167万ユーロ(約2.13億円)。低価格帯(約7500ユーロ以下)の出品が約90%だった。
最高額はヴィラ・グリーゼバッハで落札された、ラースロー・モホリ=ナジの“Untitled, Weimar, 1923/1925”。これは1点物の12.5 × 17.6 cmサイズのヴィンテージ・フォトグラム作品。落札予想価格30~50万ユーロのところ、48.75万ユーロ(約6240万円)で落札された。これはドイツのオークションで落札された最高額の写真作品とのことだ。
5月29日には、ササビーズ・パリで”Photographs Online”が開催。
低価格帯中心に57点が出品され、落札率約63%、総売り上げ約18万ユーロ(約2310万円)だった。

全体的に、ロバート・メイプルソープ、ウィリアム・クライン、ヘルムート・ニュートン、エリオット・アーウィット、杉本博司など知名度の高いアーティストの人気作は順調に落札されている。しかし、土地柄だろうか米国人アーティストの現代写真はあまり人気がない。特に知名度の低い20世紀写真の落札率は低くなっている。それらは落札予想価格は低めに設定されているのにかかわらず。コレクターの反応は鈍いのだ。欧州でも米国同様にコレクターのブランド志向の強まりを感じられる。低価格帯のなかでも、作品/アーティストの人気と不人気という、ふたつの二極化が進行しているようだ。

6月なってからニューヨークでも中堅業者の、ヘリテージ(Heritage)、ドイル(Doyle)で中低価格帯中心のオークションが開催されている。ヘリテージでは、423点が出品され、落札率は約76%、総売り上げは約135万ドル(1.48億円)だった。同社のオークションは、まるで90年代の大手のカタログを見ているような気がした。知名度が高いが、エディション数が多く、比較的低価格帯の良作が多数出品されている。ウォーカー・エバンス、エドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、ベレニス・アボット、アンリ・カルチェ=ブレッソンなどの20世紀写真から、ホルスト、ヘルムート・ニュートン、アーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツなどの人気の高いファッション系が多数みられる。大手が積極的に取り扱わない作品がこちらに出品されている印象だ。
最高額は、アーヴィング・ペンの“Cuzco Children, Peru, December, 1948”。落札予想価格10~15万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札された。本作は“World in the small room”からのペンの代表作。落札予想価格の下限付近の落札と、上値がやや重たい印象だ。
一方で、ドイルは、さらに低価格帯の19~20世紀の写真作品が多く出品されている。184点が出品、落札率約82%、総売り上げ約34.9万ドル(約3839万円)だった。

6月27日には、中堅のボンハムス(Bonhams)ニューヨークによるオンライン・オークション“Photographs Online”が行われた。こちらは低価格帯中心に117点が出品されるが落札率が約29%、総売り上げ約15.1万ドル(約1661万円)にとどまった。

今後、低価格帯のオークションは開催コストが低いオンライン・オンリーに移行していくと思われる。今までは、価格帯により大手と中小業者の棲み分けが行われていた。しかし、今回のボンハムスの結果を見るに、オンライン・オークションでも、高いブランド力とマーケティング力を持つ大手がシェアーを伸ばしていく予感がする。特にクリスティーズは積極的で、オンライン・オークションでの高ブランド低価格帯作品の取り扱いを強化している。5月には“Stephen Shore : Vintage photographs”を開催。結果は、落札率約60%、総売り上げ15.9万ドル(1749万円)だった。7月9日から19日には、クリスティーズ・ニューヨークで、先日に日本で内覧会が行われたオンライン・オークションの“MoMA: Tracing Photography’s History ”の開催が予定されている。中堅のヘリテージ・ダラスは、オンラインとライブを組み合わせた低価格帯中心の101点のオークション“Online Photographs Fine Art”を企画している。7月5日からオンライン・オークションを開始、最終日の7月25日にライブ・オークションを行うという。ここにきて伝統のあるオークション業界でも、デジタル技術を利用した効率化への試行錯誤が行われるようになってきた。

(1ユーロ・128円)(1ドル・110円)