2018年秋の欧米アート写真市場
NY中堅業者のオークション・レビュー

10月のニューヨークでは、大手3社のほかに中堅のBonhams(ボナムス)、Heritage Auctions(ヘリテージ)、Swann auction galleries(スワン)のオークションが開催された。

Swann auction galleries 2018 Cataloge

こちらは、高額作品の出品は少なく、ほとんどが大手で取り扱わない低価格帯や知名度の低い写真家の作品が中心のオークションとなる。大手は出品作品を価格帯や写真史などを考慮して綿密な編集作業を行い、カタログを制作する。一方で中堅はあまりこだわらないのが特徴。それゆえ出品作品数が多くなる傾向がある。

今秋の3社の出品数合計は1000点で落札率は約65.5%、総売り上げ約297万ドル(約3.32億円)。昨年の同時期は、落札率65.08%、総売り上げ290万ドル、今年もほぼ変わらない結果だった。

既述のように大手3社の1万ドル以下の低価格帯の落札率は約59%だった。ここ数年中堅業者によるオークションの落札率は低位安定しているが、今秋は大手が扱う低価格帯作品の落札率も低調だったのはやや気になる。市場参加者の中心がミレニアム世代に移りかわり、単に好きな作品を買うのではなく、ヴァリューも求めるという、彼らのテイストが表れてきた可能性があるだろう。いわゆる、最近よく言われるアート写真作品の人気、不人気の2極化が徐々に進行しているということだ。

高額落札が期待されたのは、スワン・ギャラリーに出品されたエドワード・カーティスの“The North American Indian, Volumes 1-20 and Folios 1-20,1907-1930”。貴重な20巻完全セットで画像はカタログ・カヴァーにも収録作が採用されている。落札予想価格は100~150万ドルだったが不落札だった。

今秋の中堅業者オークションの最高額は、同じくスワン・ギャラリーに出品されたコンスタンティン・ブランクーシ(1876- 1957)の作品“Vu d’atelier, c1928”(掲載画像参照)。

Swann Auction Galleries, Artists & Amateurs: Photographs & Photobooks, lot 71, Constantin Brancusi “Vu d’atelier, c1928”

彼は20世紀を代表する彫刻家だが、ファインアート写真家でもあった。本作は彼の代表的な抽象彫刻4点をスタジオで撮影したもの。落札予想価格は3~4.5万ドルだったが資料的価値が高く評価され12.5万ドル(約1400万円)で落札された。
一方で、ボナムスで高額落札が期待されたリチャード・アヴェドンの有名作“Charlie Chaplin, Leaving America, September 13, 1952, 1952”。落札予想価格は8~12万ドルだったが不落札だった。

引き続く欧州で開催される主なアート写真オークションの日程は以下のようになっている。

11月1日、フィリップス・ロンドン“Photographs”
11月8日、クリスティーズ・パリ“Photographies”
11月8日、クリスティーズ・パリ“Hiroshi Sugimoto Photographs: The Fossilization of Time”
11月9日、ササビーズ・パリ“Modernism: Photographs from a Distinguished Private Collection”
11月9日、ササビーズ・パリ“Photographies”

ササビースの“Photographs”オークションで注目されているのは、リチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque D’hiver, Paris, 1955”。本作は1962年のプリント作品。リタッチされる以前のオリジナルのネガから制作されている。スミソニアン美術館で開催されたアヴェドン最初の美術館展用に制作された2点のうち1点。もう1点はスミソニアン美術館に収蔵とのこと。124.5X100cmの大判作品の落札予想価格は60~90万ユーロ(約7620~1.14億円)。2010年11月のクリスティーズ・パリでは、216.8X166.7cmサイズの同作が84.1万ユーロ(@112円/約9419万円)で落札された。今回、市場がどのような評価を下すかを関係者は注目している。

クリスティーズは杉本博司の28点の単独オークション“The Fossilization of Time”を開催。海景シリーズからの“Sea of Japan, Rebun Island, 1996”と“Bass Strait, Table Cape, 1997”はともに119.2 x 148.5 cmの大作。落札予想価格は2作品ともに20~30万ユーロ(約2540~3810万円)。“Bass Strait, Table Cape, 1997”は2005年秋のフィリップス・ニューヨークで24万ドルで落札された作品。

フィリップス・ロンドンでは19世紀の初期の写真家シャルル・ネグレ(Charles Negre)の1850年ごろに制作された“Model reclining in the artist’s studio”が出品される。極めて希少性が高いプリントで落札予想価格は、10~15万ポンド(1480~2220万円)。

(1ユーロ/127円、1ポンド/148円))