写真展レビュー
“ちいさいながらもたしかなこと”
@東京都写真美術館

東京都写真美術館の、新人若手写真家の写真を展示する15回目の企画展。多くの人が気になるのは、膨大な数の写真家の中から彼らが選出された基準だろう。それについては、プレスリリースやカタログには明確な説明や記載がない。
それでは本展タイトル“ちいさいながらもたしかなこと”からヒントを探してみよう。担当のキュレーター伊藤貴弘氏は、カタログ・エッセイの「おわりに」に、“彼らに共通するのは、自らの感性や考え方、アイデンティティーやリアリティーをてがかりに、社会とのかかわりを意識しながら個人的な視点で作品を制作していることだ。その姿勢は、今を生きるアーティストであれば誰しも少なからず持っていて、目新しいものではないかもしれない”と述べている。カタログの「ごあいさつ」にも同様の開催趣旨が書かれている。個人的には確かであるものでも、決して普遍的ではない点を開催者は認識しているのだ。伊藤氏は、タイトルはそのようなやや逆説的なニュアンスもあるとも語っていた。
どうも今回の新人若手写真家展は、美術館が2018年現在の時代性を最も表した写真家を審査の上で選出したというよりも、責任キュレーターのパーソナルな視点により企画されているようだ。まずこの点を知った上で鑑賞することが必要だろう。

しかしたぶんこれは美術館により確信犯で行われていると私は考えている。抽象的な言い方になるのだが、現在は価値観が多様化した時代だといわれている。いくら多様な価値観の展示を試みても、それらは取り上げるキュレーター、評論家、ギャラリスト、写真家らにとっては個人的に意味を持つが、決して多くの人が共感するような一般的なものにはなりえないのだ。そうなると、新人選出の方法論は複数の専門家による価値基準の調整を行った上で行うか、個人の専門家の視点を生かしたキュレーションかになるだろう。前者がキャノンの写真新世紀や朝日新聞出版の木村伊兵衛賞、後者が本展のような美術館展となる。個人による判断には偏りがでるという批判もあるかもしれないが、同館のようにほぼ毎年継続して行うのであれば問題ないと考える。単体としてではなく、複数の連続した企画として見ると、結果的な多様化した現代の状況が浮かび上がってくると思う。本展だけを単体で見ると視点が分かり難いと感じる観客もいるかもしれない。

選出されたのは30から40歳代の、森栄喜(1976-)、ミヤギフトシ(1981-)、細倉真弓(1979-)、石野郁和(1984-)、河合智子(1977-)。
それでは、写真家が自分なりに小さいながら確かだと認識してテーマとして取り上げて撮影しているのは何だろうか。それらは、感覚、家族、人間関係、ジェンダー、アイデンティティー、時事的な出来事、文化的差異、歴史、水の循環、視覚、方法論(撮影、プリント、展示)などだと思われる。
ちょうど、先月に「写真新世紀」の展示を同館で見た。これは世界中の人を対象とした複数の選出者による公募展。私は、外国人の作品が社会的問題点をテーマとして掘り下げて追求するのと比べて、日本人の関心が自分のことや内面に向かいがちだと感じた。大賞は、シンガポールの環境問題「煙霧」(ヘイズ)を表現したソン・ニアン・アン氏だった。同じような傾向は今回の展覧会でも見られる。それぞれの関心や興味は多種多様だが、多くの写真家の関心の前に“自分の”と付けると一貫性が出てくるのだ。社会的な事柄も、自分が個人的に関心を持つものなのだ。自分以外の人が、作品に興味を持ってもらう仕掛けへの工夫がやや物足りないと感じた。

本展の特徴は多くの人が写真以外に映像を流していた点だ。自分の感覚の流れや移ろいを表現するのには、スティールよりも映像の方が適しているからだろう。これは展示多様化の流れと、内向き表現の表れだと解釈できる。
また本展の参加者は、細倉真弓以外の4名はすべて最終学歴が海外の教育機関出身だった。しかし、作品が提示するタイトル・テーマなどの方法論は海外のファインアート系を意識しているのは分かるが、本質は自分で深く考え掘り下げるよりも、感性を重視した表現になっている。日本で教育を受けたアート系の若手の作品とあまり変わらないのが興味深かった。

いまや写真は誰でも撮影する真に民主化したメディアになった。特に日本はその最先端をいっており、写真は現代社会に生きる個々人の意識や集団無意識を反映させた表現になっていると感じる。そこには、歴史や伝統が背景のファインアートと応用芸術との違いなどない。プロ・アマの違いも存在しないのだ。このような認識に立てば、本展は写真表現に特化した美術館のキュレーターによる、現代日本の若い世代のセンチメントをサンプリングし掬い上げた非常に意欲的な試みだと解釈できるだろう。

小さいながらもたしかなこと
日本の新進作家 vol. 15
東京都写真美術館(恵比寿)

http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3098.html