1月に掲載したテリー・オニール写真展の見どころで、テリー・オニールがライブ・エイドの集合写真を撮影していたと紹介した。彼の写真集“Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album” (2014年、ACC Editions刊)には、ミュージシャン17名のカラー写真を収録。椅子に座ったティナ・タナ―を中心に、ポール・マッカトニー、エルトン・ジョン、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、フィル・コリンズなどが写っている。記載されているタイトルは“Musicians involved in Live Aid, 1985”となっている。2枚目は、“Terry O’Neill: The A-z of Fame”(2013年、ACC Editions刊)に“Princes Diana and Live Aid”というタイトルでモノクロの集合写真が収録されている。
ケンナは、静謐なモノクロームの風景写真で知られる英国人写真家。2018年~2019年にかけて東京都写真美術館の地下展示室で回顧展「A 45 Year Odyssey 1973-2018」を開催するなど、日本のアマチュア写真家に絶大な人気のある写真家だ。ちなみに同展のメイン・ヴィジュアルの“White Bird Flying,Paris, France,2007”は、この本のカヴァーにも採用されている。彼の代表作は、主にハッセルブラッド・カメラと三脚を利用して、長時間露光で計画的に制作される。しかし本書収録作は、すべてプラスチック製ボディのホルガ・カメラで撮影されている。安価なホルガ・カメラで手持ち撮影されたケンナの写真に、多くの人が興味を持ったことがランキングに反映されたのだろう。
2位は、ロバート・フランクの“The Lines of My Hand”だった。
本書は、1972年に発表された“The Americans”に次ぐフランク2冊目のフォトブック。いままでに3種類が刊行されている。最も有名なのが、編集者の元村和彦(1933-2014)が手掛け、杉浦康平デザインによるスリップケース入り豪華本。“私の手の詩―ロバート・フランク写真集” (1972年 邑元舎刊)として限定1000部、当時の価格7500円で刊行された。同時に写真家ラルフ・ギブソンが自身の出版社ラストラム・プレスから米国版“The Lines of My Hand”(Lustrum Press1972年刊)を出版。こちらはペーパー版でデザインや装丁が全く違っていた。1989年には、半透明のダストジャケット付ハードカヴァー仕様で、スイスのPARKETT/DER ALLTAGから“Robert Frank: The Lines of My Hand” として拡大判が再版されている。 本書は美しい本づくりに定評のあるドイツのシュタイデル社による待望の再版。フランクの協力のもと、1972年刊のLustrum Press社による米国版の最新版を目指して刊行された。残念ながら同じくシュタイデル社から再版された“The Americans”ほど人気は盛り上がらなかった。 本書は、フランクの自叙伝的、告白的なフォト本制作のアプローチを確立させたフォトブック。この点についての読者の好みが別れたのだと思われる。
3位はラルフ・ギブソンの“The Black Trilogy”。
ラルフ・ギブソン(1939-)は、シュールリアリズム的なヴィジョンを持つファインアート系写真家。1970年代に、自らの出版社から“Somnambulist(夢遊病者)”(1970年刊)、“Deja-Vu”(1973年刊)、“Days at Sea”(1974年刊)を出版。これら3部作は“Black Trilogy”と呼ばれ、パーソナル・ドキュメンタリーを優れた抽象作品にした、と高く評価されている。 本書は3冊が1冊にまとめられ、写真家・キュレーターのジル・モラによる新エッセーが収録された、幻のフォトブックの待望の再版。写真史的、資料的にも重要性が高い作品なので、比較的高価だったが正当に価値が評価されたのだろう。