ブリッツ・アネックスが今春に誕生
アート写真の情報発信拠点を目指します!

今春、ブリッツ・ギャラリーの隣にブリッツ・アネックスが誕生する。現在、様々な利用方法を検討中だ。これからいくつかの具体化する可能性の高いプロジェクトを紹介していきたい。

まず洋書とレアブックの新しい情報発信拠点を考えている。
最初に、いままで20年くらいの洋書写真集の市場環境の変化を振り返ってみよう。90年代から2000年代には、写真集やCDを輸入販売するショップがまだ数多く存在していた。ところがアマゾンが登場して、一般に普及する中でそれらのショップの存在感がどんどん薄れていった。洋書写真集では、私たちの買い方が大きく変化した。かつては専門店で実物を手に取りページをめくって収録イメージと印刷の質などを確認の上で購入するのが当たり前だった。それが、ウェブ上の商品情報と限られたヴィジュアル紹介だけで判断するようになった。重い写真集が自宅まで送られてくる上に、いまやアマゾンでは送料込みでほぼ現地価格と同じ円貨で購入できるのだ。場合によっては現地以下の価格で買える場合もある。もはや貴重な輸入高級品ではなくなったのだ。かつては、内外に大きな価格差があり、海外出張時には膨大な数の写真集を持ち帰ったものだった。これでは洋書専門店が淘汰されるのは当然のことだろう。
そして次にネット書店の破壊力はレアブック市場にも波及した。いままでは業界関係者しか知らなかった個別写真集の相場情報がネットにより広く普及してしまった。一般の人でも簡単に検索可能になり、個人がネットオークションなどで相場情報をもとに値付けして販売するようになった。結果的に、人気が高いレアな写真集は、業者の仕入れ価格が大きく上昇した。また供給が世界的に増加して、定番レアブックの相場はかなり下落した。つまり業者の利益率が大きく減少したのだ。
いま思えば、2008年くらいが、ちょうどフォトブック・ブームと相まって、相場のピークだったと思う。当時に人気があったのが昭和期の日本人写真家。川田喜久治の”地図”のサイン付き初版は状態によっては500万円以上の販売価格が付いていた。ただし実際に売れたかは不明だ。
情報の民主化により誰でもレアブック売買が可能となった。レアとは貴重という意味。かつては海外の専門ショップの店頭で欲しい絶版本を見つけると、二度と出会いがないかもしれないと考えて、多少高くても購入していたものだ。しかし、今ではレアで貴重で高価な本ほどネットで検索しやすいのだ。そのレア度は従来よりもかなり低くなってきたと思う。逆に不人気本はネットに情報が上がらないので見つけにくくなっている。結果的にレアブックのディーリングは単体の商売としては成立しにくくなった。私どもも、2000年代は海外から洋書レアブックを輸入販売していた。しかし2010年代には、ギャラリーの資料用の輸入中心にシフトしていった。

さて現状はどのようになっているだろうか。
私はアート・フォト・サイトというアート写真専門サイトを長年運営している。毎週1冊アマゾンで購入できる洋書写真集を紹介し続けている。このところ感じているのは、写真集の情報量があまりにも膨大になっていること。デジタル化の進行で出版コストが劇的に下がったことによる世界的な出版数増加が大きく影響している。仕事だから行っているが、アマゾンで紹介されている本をフォローするだけでもかなり負担が大きい。それ以外に、アマゾンを毛嫌いしている独立系出版社や写真集専門サイトも多く存在する。出版社や販売業者からは、自分たちが出版したこんな素晴らしい本を買わないのは無能であるかのような文面のメールが日々送られてくる。そのような情報により実際に購入したが期待外れだったというケースも多くなってきた。一般の人だと情報量が多すぎて何を買ってよいのかが判断不能になっていると感じる。しかし、業者情報をたよりにした試し買いに失敗すると、2度目のトライにはかなり慎重になるだろう。実際に質の高いフォトブックの割合はあまり変化していないと思う。

いま流通量、情報量が増加したことで、高級品で所有することが一種のステイタスで、高い趣味性を自己表現するものだった写真集が完全に一般商品つまりコモディティー化したのだと理解している。いまや音楽CDのビジュアル版のような存在になってしまった。CDと同様で、なかなか自分の心を動かすような名作には出会えないのだ。

さてブリッツ・アネックスだが、いまやすべてのカテゴリーのフォトブックをカバーするのは事実上不可能だろう。したがって、ギャラリーと同じく、アート系ファッション写真やポートレート写真を専門とする予定だ。それだけでも、膨大なタイトルの写真集が存在する。しかし、それは広い意味でとらえているので誤解しないで欲しい。基本となるのは、人間の心と頭脳を刺激してくれるフォトブックを紹介していくこと。心への刺激とは、各時代のもつ人々の価値観を伝えるような写真、時代性を感じさせる写真。具体的には、戦後から90年代前半くらいまでに撮影された写真の中に存在しているだろう。そして人間の頭脳を刺激してくれるものとは、自分のまだ知らない価値基準を提示したり、社会や宇宙の仕組みを明らかにしてくれるコンテンポラリーの写真。それらをピンポイントで見つけ出し興味を持つ人に紹介していきたい。
またギャラリー取扱い作家のマイケル・デウィック、テリ・ワイフェンバック、テリー・オニールなどの、新刊、レアブックの品揃え、在庫は充実させる予定。

想定している顧客はアート写真やアート系写真集のコレクターとプロの販売業者だ。ただし資料的価値が高く1冊しか在庫のない写真集は閲覧可能だが販売はしない。現物の情報を提供して、ネット書店での購入アドバイスを行う。
現在、複数個所に収納していた写真集をブリッツ・アネックスに集め、整理整頓を開始している。どうかオープンを楽しみにしていてほしい。

その他の利用法だが、各種セミナーや写真展の開催などを検討中。 追ってアイデアを紹介していきたい