ザ・プリンシズ・トラスト・コンサートの集合写真
テリー・オニールが紡ぎだす80年代後半の英国

1月に掲載したテリー・オニール写真展の見どころで、テリー・オニールがライブ・エイドの集合写真を撮影していたと紹介した。彼の写真集“Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album” (2014年、ACC Editions刊)には、ミュージシャン17名のカラー写真を収録。椅子に座ったティナ・タナ―を中心に、ポール・マッカトニー、エルトン・ジョン、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、フィル・コリンズなどが写っている。記載されているタイトルは“Musicians involved in Live Aid, 1985”となっている。2枚目は、“Terry O’Neill: The A-z of Fame”(2013年、ACC Editions刊)に“Princes Diana and Live Aid”というタイトルでモノクロの集合写真が収録されている。

最近、非常に当時の事情に詳しい専門家のお客様からの指摘で、それらの写真は同じチャリティー・コンサートではあるものの、ザ・プリンシズ・トラストの支援イベントであることが判明した。写真集の記載内容は間違いだった。これは英国のチャールス皇太子が1976年に失業者など弱い立場の若者世代の支援目的のために設立した財団。発足したのは、ちょうど経済が悪化して失業者が増加し、いわゆる英国病に苦しんでいた時代だ。写真集のキャプションには、“ライブエイド”との記載があり、参加者がライブエイドとかなり重なることから信じてしまった。間違った情報を提供したことを心よりお詫びしたい。

正確には、カラーの方が1986年6月20日、ロンドンのウェンブリー・アリーナで行われた、ザ・プリンシズ・トラスト10周年記念コンサートでの集合写真。その模様はLP、CD化されている。ティナ・ターナー、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、ミッジ・ユーロ、ハワード・ジョーンズ、レベル42、ポール・ヤングなどが参加している。

モノクロの方は1988年6月5~6日に同じくザ・プリンシズ・トラストのもとに集結したミュージシャンによるロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでのチャリティー・コンサートでの集合写真となる。参加者は、ビージーズ、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、レオナード・コーエン、ジョー・コッカー、マーク・ノップラー、ピーター・ガブリエル、フィル・コリンズ、トゥパウ、エリック・クラプトン、ミッジ・ユーロ、ハワード・ジョーンズ、リック・アストリーなど。ネットを調べたら、こちらは映像がレイザーディスクで発売されていた。

同じ記事で、1985年の「ライヴ・エイド」に行ったものの、クイーンやデヴィッド・ボウイを撮った写真が見つからなかったと書いた。しかし、彼らを撮っていないわけがないので、過去の写真を今一度調べてみた。
やはり、以前紹介したのと別のフィルムで撮影していたことを発見した。登場リストによるとクイーンは6時40分、デヴィッド・ボウイは7時20分の出演予定となっている。夏場のロンドンは日没がかなり遅い。しかし、6時を過ぎるとさすがに日が陰り、ステージは照明がメインのライティングになった。当時のカメラはもちろんアナログで、それも感度の低いデイライト用のコダックのカラー・フィルムを使用して望遠レンズでの撮影だった。クィーンの時はまだ回りが明るかったので、フレディー・マーキュリーの姿は確認できる。

ピアノを弾いている写真は、たぶんボヘミアン・ラプソディーの時だと思う。

しかし、その後のボウイはもうかなり暗いなかでの動きのあるパフォーマンスだった。 存在は確認できるがかなりブレ・ボケになっている。

その他、スティング、ポール・ヤングの姿も撮影されていた。

80年代初め、クラッシュのブリクストンでのコンサートに行った。当時の全員立ち見の会場内には、社会への不満の鬱積とそれを音楽で発散しようという人たちのエネルギーが充満していた。
しかし80年代半ば以降のチャリティーコンサート、例えば私の行ったライブエイドなどでの英国人の熱狂は、パンクロックのコンサートとは全く違っていた。ちょうど当時の英国は、北海油田からの原油産出による財政赤字の削減効果が出始め、英国病克服を目指すサッチャー首相による新自由主義的な各種政策の効果が出始めていた時期だった。経済状況が急激に改善したわけではなかったが、人々が未来に対して希望を持ち始めていた。実際に90年代以降の英国は、長期にわたり経済成長を継続していくことになる。経済状況の推移を聞いてもあまりピンとこないが、時代ごとのロック・ポップ音楽の状況に置き換えてみると実感がわいてくる。
そしてテリー・オニールの50年以上に渡る写真作品も、そのような音楽とともにあった、各時代の気分や雰囲気が反映されているのだ。撮影された時代を生きた人ならば、写真から音楽が蘇り、当時の記憶が思い出されるのではないか。私はそれこそが、彼の写真集人気が非常に高く、比較的高額なのに売れている理由ではなかと思う。

テリー・オニール 写真展
“Terry O’Neill: Rare and Unseen”
(テリー・オニール : レア・アンド・アンシーン)
3月24日(日)までブリッツで開催中
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料