2019年春NYアート写真・オークション最新レビュー(2)
ヘルムート・ニュートン作品が182万ドル(約2億円)で落札!

前回、20世紀の珠玉の作品が登場した単独コレクション・セールの成功に触れた。今回は複数委託者の“Photographs”の結果を紹介しよう。

大手3社は、クリスティーズ4月2日、フィリップス4月4日、ササビーズが4月5日に開催している。
実は今シーズンの最高落札額は、フィリップス“Photographs”オークションに出品されたヘルムート・ニュートンの“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”だった。

Helmut Newton,“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”/ Phillips NY

タイトルはドイツ語だが英訳すると“they are coming”となる。本作は2点の対となった作品で、4人のモデルが全く同じポーズで、1作はハイファッションに身を包み、もう1作はハイヒールのみを履いて全身ヌードで撮影されている。オリジナルは、1981年のヴォーグ・フランス版に見開きで掲載されている。ニュートンは自立した女性像を80年代から作品で提示していたことで知られている。本作は、背が高い女性モデルたちが白バックを背景に強い視線で遠くを見つめながら大胆に前進しているイメージ。ヌードでも、男性目線を意識したようなエロティシズムな作品とは一線を画している。洋服を着ている作品は、社会的な女性の役割、そしてヌードはその本質を暗示しており、新時代の女性はハイファッションをまとっているが、中身は自立しているという意味だろう。まさに戦後社会の新しい女性像を表現したニュートンの代表作だと言えよう。本作はその中でも美術館などでの展示用の197.5X198.8cmと196.9X183.5cmサイズの巨大作品。落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(約2億円)で落札されている。
従来の写真の範疇というよりも、ニュートンの作家性と組の巨大サイズ作品が現代アート的な価値基準で評価されたと考えるのが順当だろう。もちろん、ニュートンのオークション最高落札額で、フィリップス写真部門での最高額記録とのことだ。
ちなみに2018年における20世紀アート写真の最高額も、フリップス・ロンドンで落札されたヘルムート・ニュートンだった。151.5 x 49.5 cmサイズの“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”は72.9万ポンド(約1.09億円)で当時の作家最高額で落札された。

今シーズンは、クリスティーズの“Daydreaming: Photographs from the Goldstein Collection”でも、リチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955”が、落札予想価格35~55万ドルのところ61.2万ドル(約6732万円)で落札されている。(今春第3位の高額落札)本作も、エディション50、124.5X101.6cmの巨大作品。その他、アーヴィング・ペン作品も人気が高く10万ドル(約1100万円)以上の落札が6件あった。20世紀写真のなかで、貴重な美術館級のヴィンテージ・プリントの名作以外では、ファッションのアイコン的作品の高い人気度が改めて印象付けられた。

ササビーズではロシア出身のエル・リシツキーの写真作品“Pelikan Tinte, 1924”が落札予想範囲内の46.2万ドル(5082万円)で落札。

El Lissitzky, “Pelikan Tinte, 1924”/ Sothebys NY

これは今シーズンの第5位の高額落札となる

3月クリスティーズ・ロンドンMasterpieces of Design & Photographyでは、“Self-Portrait (“The Constructor”)”が、94.725万ポンド(約1.4億円)で落札され、オークションでの同作家の最高落札額を記録している。

クリスティーズでは、アレクサンドル・ロトチェンコの“Lestnitsa (Steps), 1929/1935”が28.125万ドル(約3093万円/全体の10位)、

Alexander Rodchenko, “Lestnitsa (Steps), 1929/1935”/ Christie’s NY

ダイアン・アーバスの“A family on their lawn one Sunday in Westchester, N.Y.,1968”が27.5万ドル(約3025万円/全体の11位)で落札された。

Diane Arbus ,“A family on their lawn one Sunday in Westchester, N.Y.,1968”/ Christie’s NY

ニュートンの高額落札と、単独コレクション“Passion & Humanity: The Susie Tompkins Buell Collection”が貢献して、今春のニューヨーク・オークションでは、フィリップスが総売り上げ1049万ドル(約11.5億円)で、見事に業界トップを獲得した。同社の1000万ドル越えは、相場がピークだった2007年春以来。ただし、極めて優れた傑作ぞろいの単独コレクションセールがなければ2018年の平均的な売り上げの400~500万ドルのレベルとなる。大手3社の全体の総売り上げも、過去10シーズンの平均売上の約1600万ドル程度に落ち着く。今春の好結果は、相場が盛り上がっているというよりも、どちらかというと特殊要因により売上が持ち上げられたと解釈すべきだろう。優れた単独コレクションのセールがなければ、今後は平均的な売り上げに回帰すると思われる。
全体の落札状況を見るに、最近ずっと進行している、人気、不人気作品の2極化の傾向に特に変化はない。市場の関心は、昨秋は経済の先行き不安が反映され、やや弱含みの結果だった英国、欧州のオークションに移っている。

(1ドル/110円で換算)