イメージの洞窟 意識の源を探る
@東京都写真美術館

「イメージの洞窟 意識の源を探る」という、興味がそそられるタイトルがつけられたグループ展が東京都写真美術館で開催中だ。本展のキュレーションは、人間の意識の形成を視覚と関連付けて、テーマとして取り扱おうとする試みだと思われる。しかし、このイメージや意識の形成は、極めて学術的に専門的な大きなテーマである。畑が違うアートの感覚的な視点からの掘り下げは簡単ではないと思われる。実際のところ、来場者が持つこの分野の情報や知識量にはかなりばらつきがある。多くの人がリアリティーを感じるテーマの提示は実際的ではないだろう。しかし、大きなテーマに対しては誰もが納得するしかない。美術館は何らかの切口での作品展示を実施する必要がある、たぶん今回のテーマ提示も確信犯でのことだろう。理想的には、複数のアーティストによる踏み込んだ関連テーマの掘り下げが同時に必要だ。しかし日本では写真でのアート表現が表層的になりがちなので、候補アーティスト探しは難航すると思われる。

たぶん本展の中心コンセプトは写真表現最先端での制作アプローチの独創性と多様性の提示だと思われる。東京都写真美術館は、「写真」表現を見せる美術館であることから当然の流れといえるだろう。
展示作品は、オサム・ジェームス・中川の分割して撮影したファイルを継ぎ合わせて制作された高精細インクジェット・プリント。和紙に出力され、墨、酸化鉄がくわえられた巨大オブジェ作品。これなどは、表面の釉薬の焼き上がりの偶然性を愛でる陶芸に近い感覚だと感じた。
北野謙の新生児をモデルにした巨大なカラーのフォトグラム作品。
ゲルハルト・リヒターの写真に油彩やエナメル塗料が塗られた作品。
この3人のほかには、会場入り口に志賀理江子が1点、
フィオナ・タンが約9分30秒のビデオ作品で参加している。
特別展示としてジャン・ハ―シェルによるカメラ・ルシーダを用いて描かれたドローイング作品も鑑賞できる。これは、1839年に写真技術が発表される約20年前に制作された貴重作品となる。カメラ・ルシーダとは、プリズムを通して画用紙に目の前の風景を映す光学機器のこと。写真表現の原点を提示することで、その後の多様化していった表現方法を際立たせる意図があるのだろう。見事なセレクションだと思う。

本展の見どころは、ドイツを代表する現代アート・アーティストのゲルハルト・リヒター作品にあるだろう。世界のアート市場で高い価値が認められている別格のアーティストだ。彼は抽象絵画が有名だが、キャリア初期からフォト・ペインティングという写真をキャンパスに描き出す手法により、写真を絵画作品に取り込んでいる。リヒターの作品表現は幅広く、フォト・ペインティング、抽象絵画以外にも、風景画、海景、ポートレート、カラーチャート、グレイ・ペインティング、ミラー・ペインティング、彫刻、ドローイング、写真などがある。2002年にはニューヨーク近代美術館で、2011年にはロンドンのテート・モダンで回顧展が、2005年には日本初の回顧展が金沢21世紀美術館、川村記念美術館で開催されている。
作品はアート・オークションで高額で取引されている。ちなみに巨大な抽象絵画作品「Abstraktes Bild (1986年)」は、2015年2月10日のササビーズ・ロンドンで、約30.4百万ポンド(当時の為替レート/1ポンド@180円/約54億円)という、当時の現存作家のオークション最高額で落札されている。
またロック・ファンの人なら、米国のバンド・ソニック・ユースが、リヒターのフォト・ペインティング作品「Candle(1983年)」をアルバム「Daydream Nation(1988年)」に採用したことは知っているだろう。
フォト・ブックの分野では、「Gerhard Richter: Atlas(1997年刊)」はコレクターズ・アイテムとして知られている。同書は、彼が作品を描くために集めた膨大な、スナップ写真、スケッチ、コラージュ、カラーチャートなどを収録。それらを整理、グループ化し、格子状などに並べられたものは「ATLAS(アトラス)」と呼ばれ、リヒター自身の人生、創作アイデア、思考過程などを現している世界地図だと評価されている。

「イメージの洞窟 意識の源を探る」展覧会カタログ

本展では写真に油彩やエナメル塗料が塗られた小ぶりの作品13点が展示されている。同展カタログによると、今回展示している「Museum Visit(2011年)」シリーズは、ロンドンのテート・モダンの来場者を撮影した写真の上にエナメルで着色された作品。オーバーペインテッド・フォトグラフと呼ばれるこの手法において、エナメルが「境界」として写真のイメージと鑑賞者を隔て、鑑賞者へ「絵画と写真」「具象と抽象」「現実と仮称」の再考を促しているとのことだ。ちなみに本展カタログのカヴァーに採用されている「MV.6<Museum Visit>2011」は、日本初公開作品とのこと。
大きなサイズで知られるリヒター作品。小作品を近くによってじっくりと鑑賞するのは新鮮な体験になるだろう。

イメージの洞窟 意識の源を探る
東京都写真美術館(恵比寿)

ノーマン・パーキンソン 写真展 “Norman Parkinson: Always in Fashion” ブリッツ次回展は10月11日スタート!

ブリッツ・ギャラリーの次回展は、20世紀英国を代表する写真家ノーマン・パーキンソン(1913 – 1990)の日本初個展 「 Always in Fashion 」となる。

ノーマン・パーキンソンは、ファッション/ポートレート分野において、20世紀でもっとも偉大で、影響力を持つ写真家の一人だと言われている。ファッション写真好きの人なら必ず彼の代表作品を見たことがあるはずだと思う。
ファッション写真の歴史を紹介する写真集には、間違いなくパーキンソン作品は収録されている。今回の展示作品に触れて、はじめて見慣れた写真がパーキンソン撮影だったと気付く人も多いだろう。

彼のキャリアを簡単に紹介しよう。1931年、ウェストミンスター・スクールを18歳で卒業。法廷カメラマンの見習いで写真の基礎を学んだのち、1934年にスタジオを開設。1935年に「ハ―パース・バザー」誌に雇われ、1940年まで同誌英国版の仕事を行っている。
彼の写真はキャリア初期から革新的といわれていた。パーキンソンは、スタジオから外に出て、ストリートや、遠隔地のエキゾチックな場所での撮影を最初に行った写真家の一人なのだ。モデルの存在にリアリティーを感じさせる彼の撮影方法は「ドキュメンタリー・ファッション」と呼ばれ注目される。
戦後は、「ヴォーグ」(1945-1960)、「クィーン」(1960-1964)などの世界的なファッション誌で仕事を手掛け、その後は「タウン&カウントリー」などの仕事を行っている。
彼の写真は、ヴィジュアル面から50年代パリのニュー・ルックや60年代のスウィンギング・ロンドン時代の雰囲気作りに関わる。「ファッション写真の父 」とも呼ばれ、その後に登場する若手写真家の撮影スタイルに多大な影響を与えている。英国人写真家では、60年代に登場した、デヴィッド・ベイリー、テレンス・ドノヴァン、ブライアン・ダフィーが有名。パーキンソンの写真には、彼ら3人の特徴だった、勢い、即興性、動きと変化がすでに取り込まれていたのだ。

今回の日本初個展では、1938年から1982年までに撮影されたモノクロ/カラーの代表作約25点を紹介する。
リサ・フォンサグリーヴスやマリー=エレーヌ・アルノーなどがモデルを務める有名ファッション写真から、オードリー・ヘップバーン、ジェリー・ホール、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどの珠玉のポートレートも含まれる。
すべてが作家の意思を受け継いで運営されているノーマン・パーキンンソン・アーカイブスから提供されるエディション付きエステート・プリント作品。
また2019年夏に刊行された「Norman Parkinson: Always in Fashion」(ACC刊)や、英国から輸入したポストカード類も販売される。

実は本展にはもう一つの見どころがある。ノーマン・パーキンソンのファッション・ポートレート写真と共に活躍した写真家の作品を展示する「華麗なるファッション写真の世界」も同時開催する。リチャード・アヴェドン、ジャンル―・シーフ、メルヴィン・ソコルスキー、ホルスト、ブライアン・ダフィーなどの作品展示を予定している。展示作品数はもう少し増えるかもしれない。
どうか楽しみにしていてほしい。

(開催情報)
「ノーマン・パーキンソン 写真展 」
(オールウェイズ・イン・ファッション)
2019年 10月11日(金)~12月22日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料

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