2019年オークション高額落札ランキング 20世紀写真が大健闘 ニュートンが第1位!

毎年、この時期に発表しているアート写真オークション高額落札ランキング。2019年の集計が終了したので結果をお届けしよう。ただしオークションは世界中で開催されている。わたしどもの集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。その点はご了承いただくとともに、漏れている情報に気付いた人はぜひ連絡してほしい。

最初に、ここで取り上げるアート写真の定義を確認しておく。いま写真を取り扱う定例オークションは大きく19~20世紀写真系、現代アート系になる。前者は主に「Photographs」、後者は業者ごとに「Contemporary Art」、「20th Century & Contemporary」、「Post-War and Contemporary Art」などと呼ばれている。それ以外に、複数カテゴリーをまたがる独自企画系に写真が出品されることがある。それらは定例以外の時期に行われるオークションで、19~20世紀写真系、現代アート系、デザインなどが混在する。クリスティーズで行われた「Masterpieces of Design and Photography」などだ。
2019年はこれらのカテゴリーから、米国、欧州、英国で開催された45オークションをフォローした。2018年はオンライン・オンリーの9オークションを取り上げたが、2019年は1オークションにとどまった。低価格帯中心のオンライン・オンリー・オークションは、専門業者の開催が一般的となり、大手での開催が減少したことによる。またいまでは公開オークションも電話、オンラインと同時に行われるのが一般的。オンライン・オンリーだと、どうしてもコレクターの関心が盛り上げらない。話題性のある企画を考えようとすると定例オークションとの差別化が不明瞭になるのだ。

2019年の高額落札では、現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2018年の現代アート系1位は、ササビーズ・ニューヨークで11月に開催された“Contemporary Art”に出品されたリチャード・プリンスの“Untitled (Cowboy), 2013”で、約169.5万ドル(@110/約1.86億円)。同作は総合ランキングでも1位だった。2019年の現代アート系1位は、ササビーズ・ロンドンで6月に開催された“Contemporary Art”に出品されたギルバート&ジョージの”Bugger, 1977″で、約79.5万ポンド(@140/約1.11億円)だった。しかも同作は、総合ランキングでは第4位となる。
なんと2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。現代アート系の高額作品のオークション出品は、1年から6か月くらい前の経済環境に大きく左右される。アート相場に影響を与える主要国の株価は、2018年末に下落してその後は回復基調を続けていた。しかし米国経済自体は比較的堅調だが、中国や欧州では弱い経済指標が発表されており、株価も景気の先行き不安を受け、頭打ち感が強くなっていた。そのような状況から、コレクターはリチャード・プリンスやアンドレアス・グルスキーなどの高額作品の出品に消極的だったと思われる。

総合順位

1.ヘルムート・ニュートン
「Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981」
フィリップス・ニューヨーク、2019年4月4日
約2億円

2.エル・リシツキー
「Self-Portrait (“The Constructor”), 1924」
クリスティーズ・ロンドン、2019年3月6日
約1.42億円

3.アウグスト・サンダー
「70 Portraits from “Menschen des 20. Jahrhunderts”, 1912-1932」
ヴィラ・グリーゼバッハ・ベルリン、2019年11月27日
約1.25億円

4.ギルバート&ジョージ
「Bugger, 1977」
ササビーズ・ロンドン、2019年6月26日
約1.11億円

Gilbert & George “Bugger, 1977” Sotheby’s London, Contemporary Art 2019/June/26


5.シンディー・シャーマン
「Untitled Film Still #21, 1978」
ササビーズ・ロンドン、2019年3月5日
約9,225万円

6.エドワード・ウェストン
「Circus Tent, 1924」
フィリップス・ニューヨーク、2019年4月4日
約8,668万円

7.エドワード・ウェストン
「Shell(Nautilus),1927」
クリスティーズ・ロンドン、2019年3月6日
約7,728万円

8.ティナ・モドッティ
「Telephone Wires, Mexico,1925」
フィリップス・ニューヨーク、2019年4月4日
約7,612万円

9.アンドレアス・グルスキー
「May Day V, 2006」
フィリップス・ロンドン、2019年3月7日
約8,349万円

10.リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris,1955」
クリスティーズ・ニューヨーク、2019年4月2日
約6,765万円

Helmut Newton “Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”, Phillips New York, Photographs 2019/April/4

2019年のトップは春のフィリップス・ニューヨーク“Photographs”オークションに出品されたヘルムート・ニュートンの“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”だった。
オリジナルは、1981年のヴォーグ・フランス版に見開きで掲載。つけられたタイトルはドイツ語だったが、英訳すると“they are coming”だったとのこと。本作は2点の対作品で、4人のモデルが全く同じポーズで、1作はハイファッションに身を包み、もう1作はハイヒールのみを履いて全身ヌードで撮影されている。ニュートンは自立した女性像を既に80年代から作品で提示していた。本作は、背が高い女性モデルたちが白バックを背景に強い視線で遠くを見つめながら大胆に前進しているイメージ。ヌードでも、男性目線を意識したようなエロティシズムを強調した作品とは一線を画している。洋服を着ている作品は、社会的な女性の役割、そしてヌードはその本質を暗示しており、新時代の女性はハイファッションをまとっているが、中身は自立しているという意味で、戦後社会の新しい女性像を表現したニュートンの代表作。本作はその中でも美術館などでの展示用の197.5X198.8cmと196.9X183.5cmサイズの巨大作品。落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(約2億円)で落札されている。もちろん、ニュートンのオークション最高落札額で、フィリップス写真部門での最高額記録とのことだ。
従来のアート系ファッション写真の範疇というよりも、ニュートンの作家性と巨大サイズの組作品とが現代アート的な価値基準で評価されたと考えるべきだろう。総合10位のリチャード・アヴェドン作品も124.5 x 101.6 cmサイズの巨大作品。同様の視点から評価されての高額落札だろう。いま市場では、ファッション写真と現代アートとの融合が進行中なのだ。

(1ドル/110円、1ポンド/140/150円、1ユーロ/132円で換算)