緊急事態宣言が解除になり、都内の美術館やギャラリ―も6月から慎重に営業を再開する見通しだ。
ブリッツは、ノーマン・パーキンソンなど6名の有名アーティストが撮影したオードリー・ヘップバーンの珠玉のポートレート展の「Always Audrey」開催を予定していた。
デパートではヘップバーンの映画スティールを展示するようなイベントが数多く開催されている。しかし、本展はロンドンのギャラリーで企画されたファインアート作品として認識されているポートレート写真を展示する企画だった。世界巡回展の東京展で、同名洋書写真集の日本版刊行に際しての開催だった。しかし、ロンドンがいまだにロックダウン状態が続いており、現地からの作品発送が困難となり秋への延期となった。
したがって、夏に予定していたフォトブック・コレクター向けの「レアフォトブック・コレクション 2020」を前倒しで完全予約制にて開催することにした。
完全予約制にしたのは、フォトブックのイベントだから。写真展のように来廊者が距離を開けて鑑賞するのではなく、どうしてもコレクターは欲しい本を手に取り中身や状態を確認する。来場者が多くなるとどうしても感染リスクが高くなってしまう。
2000年代の日本は、洋書写真集のコレクションがミニ・ブームだった。当時、ブリッツはレア・フォトブックを積極的に取り扱っていた。2004年から6年間に渡り、毎年5月の連休明けに絶版写真集やレアブック約150~200冊を販売するイベントを渋谷パルコのロゴスギャラリー(現在は閉廊)で企画開催していた。同ギャラリーは洋書販売のロゴス書店の横にあるパルコ主催のイベントスペース。新刊とレアブックの相乗効果を狙った企画だった。2週間の会期で、毎年それなりの売り上げを達成していた。この時期は洋書写真集がブームとなり、同時に絶版写真集も注目されたのだ。
以前のブログで当時の状況を次のように分析している(2016年7月)
「このブームのきっかけはネット普及によりアマゾンで洋書がかなり割安で購入できるようになったからだと分析している。90年代、洋書店で売られていた写真集は高額の高級品だった。よく雑誌のインテリア特集のページ内でお洒落な小物として使用されていた。私は約30年洋書を買っているが、かつてのニューヨーク出張ではスーツケースの持ち手が破損するくらい膨大な数の重い写真集を持ち帰ったものだ。アマゾンの登場は衝撃だった。とにかく重い写真集が送料込みで、ほぼ現地価格で入手可能になったのだ。最初は欧米のアマゾンでの購入だったが、2000年11月に日本語サイト“amazon.co.jp”が登場して日本の一般客も今まで高価だった洋書写真集がほぼ現地価格で購入可能になったのだ。
2008年のリーマン・ショックまで続いたブームは、かつては高価で高級品だった洋書写真集が低価格で買えるようになったから起きたのではないか。一種のバブルだったのだ。今まで高額だったカジュアルウェアをユニクロが高機能かつ低価格で発売してブームになったのと同じような現象だった。時間経過とともに、洋書が安く買えるという驚きがさめ、その価格の認識が一般化し始めたころにリーマン・ショックが起きたのだ。アート系商品は、心は豊かにするが、お腹を満たしてくれない不要不急の際たるものだ。それ以降は、本当にアート写真が趣味の人が興味を持つ写真家の本を購入するという従来のパターンに戻ったのだ。2010年代には、アベノミクスによる円安で輸入価格が上昇して、景気の長期低迷とともに市場規模は縮小均衡してしまった」
その後、レア・フォトブックを専門に取り扱う業務はショップ/オンライン共に非常に厳しい環境に直面する。かつてのブーム時には、写真集コレクターの人が自らの在庫を販売する形でショップ業務を開始することがあった。しかし、在庫がなくなり、新たに仕入れを行うようになってからが厳しいのだ。ネット普及以前は、相場を知らない人からかなり安い仕入れが可能だった。しかし、いまや人気写真集の相場はネット検索で全くの素人でも把握可能になった。ネットのオークションやフリマで自ら売ることも可能だ。もちろん、コレクターもネット検索して相場を確認したうえで、状態と販売価格から総合的に購入先を判断する。人気の高いフォトブックの場合、情報と価格の格差が縮小し、業者として売買ビジネスが完全に成立しなくなったのだ。業者はいまだ未評価の本をいち早く見つけ出す、高い目利き力が求められるようになった。
「レアフォトブック・コレクション 2020」も、このような状況を意識して行う。多くは販売価格の値札をつけないで時価とする予定だ。つまり、その時点でのネットの価格を参考にして、同じ状態の本と同じ値段にする。買いたい人は、その場でスマホを使い相場をチェックするからだ。会場はブリッツ・アネックスを予定している。フォトブックの中には、ブリッツ・コレクションも混在している。おもにファッション系なのだが、それらは参考資料なので、内容の確認は可能だが販売はしない。もし購入希望者がいたら、販売しているネット古書店を紹介してそちらで買ってもらう予定だ。商品はあるが「販売しないイベント」なのだ。
今回は、フォトブック・ガイド本に掲載されているレア・フォトブック、サイン本、プリント付きフォトブックなど多数を紹介する予定。展示内容については、公式インスタグラムなどで順次紹介していく。また完全予約制なので、マニアックなコレクターへの情報提供とコレクションの各種啓蒙活動が可能だと考えている。
「ブリッツ・フォトブック・コレクション 2020」
会期:6月5日(金)~ 8月9日(日)*完全予約制
休廊:月、火曜日、オープン時間 1時~6時
主要出品フォトブック
・サイン入りフォトブック
リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ウィリアム・エグルストン、ブルース・ダビットソン、ピーター・ベアード、ジャック・ピアソン、ライアン・マッキンレイ、テリー・オニール、シンディー・シャーマンなど
・オリジナル・プリント付フォトブック
メルヴィン・ソコルスキー、マイケル・デウィック、テリー・オニール、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソスなど
・オリジナル・プリントの展示
ギャラリー・コレクションから珠玉のオリジナル・プリント約15点が会場の壁面に展示されます。
・プレスリリース、画像資料は以下でご覧いただけます。
http://www.artphoto-site.com/inf_press_87.pdf