ニューヨーク春のアート写真市場(4)
スワン・オークション・ギャラリーが“Fine Photographs”オークションを実施!

スワン・オークション・ギャラリーは、コロナウイルスの影響で延期されていた“Fine Photographs”オークションを6月11日に開催した。他社と違うところは、オンライン・オンリーではなく、ライブのオンライン・オークションだったこと。会場に人がいて競り合う公開ライブ・オークションではなく、オンライン、電話、書面など様々な方法の入札をオークショナーな仕切る方法のようだ。セカンダリー市場の場合、コンディションレポートが信頼できれば特に現物を見なくても作品購入する人は少なくない。このような開催方法と相性が良いだろう。「withコロナ」の時代には、ライブ・オンライン・オークションは、より一般化する可能性が高いと考える。

出品作数は324点、217点が落札、不落札率は約33%。総売り上げは約85.2万ドル(約9379万円)だった。昨年の春と比べると、1万~5万ドルの中間価格帯の落札率が低迷。結果的に総売り上げも約122万ドルから約30%も減少した。全般的に、市場状況を鑑みて落札予想価格の範囲をかなり広めに設定している印象を持った。結果に対する評価は分かれると思うが、少なくともコロナウイルスの影響下でもアート写真の市場は十分に機能していることを示したといえるだろう。

Swann Auction Galleries NY, Michael Halsband, “Andy Warhol and Jean-Michel Basquiat, 1985”

最高額はマイケル・ハルスバンド (MICHAEL HALSBAND /1956- )の“Andy Warhol and Jean-Michel Basquiat with Boxing Gloves, NY , 1985”。80年代アート界のスーパースターのアンディ・ウォーホルとジャン・ミッシェル・バスキアを撮影したアイコン的作品。本作はシートサイズが 30×24 inches (76.2×61 cm)と大きめなのが特徴。落札予想価格2~3万ドルのところ、2.75万ドル(約302万円)で落札されている。時代が反映された広義のアート系ファッション写真という評価だと考える。
コレクターの積極的入札が期待された、ロバート・メイプルソープの“Lisa Lyon, 1980”、落札予想価格.3~4.5万ドル、リー・フリードランダーの“The American Monument, Volumes I and II, 1976”落札予想価格.2.5~3.5万ドルなどは不落札だった。

Christie’s , Ansel Adams, “Winter Sunrise, Sierra Nevada, from Lone Pine, California, 1944”

クリスティーズは、6月4日に“Ansel Adams and the American West Photographs from the Center for Creative Photography”オンライン・オークションを開催。アリゾナ大学のCCP(Center for Creative Photography)コレクションという一流の来歴を持った、1970年代に制作された、アンセル・アダムス作品のセールとなる。海外ではよく見られる、公共機関による新規コレクション購入のための重複コレクションの売却だろう。出品作数は34点、33点が落札、不落札は1点。総売り上げは約32.7万ドル(約3603万円)だった。
最高額は“Winter Sunrise, Sierra Nevada, from Lone Pine, California, 1944”落札予想価格4~6万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札されている。

クリスティーズは4月末から5月にかけて、取扱い分野を19~20世紀のモノクロ写真に絞った“Walker Evans: An American Master”と“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”のオークションをオンラインで開催している。両方ともほとんどがニューヨーク近代美術館収蔵という最高の来歴の作品だった。しかし、すでにリポートしたように、落札予想価格下限を極端に下回る落札が相次いで市場関係者を驚かした。それに比べて、アンセル・アダムスのセール結果は、知名度の低い作品が多かった中で極めて順調だったと言えるだろう。落札予想価格上限以上の落札が14件、範囲内が1件、下限以下は18件、極端な低価格での落札は見られなかった。

アンセル・アダムスは、様々な技術的制約があったアナログ時代に、作品サイズ、プリント・クオリティーなどにおいて表現の境界線を広げる努力を行った。彼が開発した、フィルム露出と現像の技法であるゾーンシステムは、アナログのフォトショップ的だ、などと指摘する人もいる。いまではアンセル・アダムス作品は、現代のカラーによる大判の現代アート系風景写真の元祖だと再解釈されている。今回の結果をみても市場の評価は極めて正直なのが分かる。もしコレクターが写真家のアート性を正しく見極めることができれば、このような市場環境下には、価値ある作品を普段より安く購入するチャンスが訪れるのだと思う。

(1ドル/110円で換算)