(連載)アート系ファッション写真のフォトブック・ガイド(14)
アレクサンダー・リーバーマン関連本の紹介(Part-3)

ロシア出身のアレキサンダー・リーバーマン(1912-1999)は、1940年代初頭にニューヨークでヴォーグ誌を発行するコンデ・ナスト出版での仕事を開始する。1960年から1994年まで同社のエディトリアルディレクターを務めている。
彼は、長い伝統を持つヴォーグ誌を、斬新なヴィジュアルとデザインを取り入れ、大胆で生き生きとした現在の姿に変貌させた功績や、戦後の代表的ファッション写真家のアーヴィング・ペンを見出したことで知られている。彼はまた、写真家、アーティスト、グラフィックデザイナーとしても尊敬されていた。
リーバーマンの連載(Part-3)では、関連フォトブックを紹介する。

・”The Artist in His Studio” (Viking Press NY, 1960)
ハードカバー: 144ページ、サイズ 約24.8 x 2.5 x 33 cm、
多数の図版を収録

リーバーマンは、絵画や彫刻の分野で成功を収める前は、写真家として活躍していた。1948年から1950年代にかけて夏休みを利用して、ポール・セザンヌ、ジョルジュ・ブラック、アンリ・マティス、モーリス・ユトリロ、マーク・シャガール、マルセル・デュシャン、コンスタンティン・ブランクーシ、パブロ・ピカソ、アルベルト・ジャコメッリなど、主にエコール・ド・パリ時代に活躍した32名におよぶ画家、彫刻家たちのアトリエを訪れ、写真を撮影。当時は画家志望が強かった若きリーバーマンが、有名アーティストの創作のプロセスや秘密をアトリエ撮影で発見しようとしたのがプロジェクトのきっかけだった。1959年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で、リーバーマンが撮影したアーティストとそのスタジオの写真が展示される。これらの写真は、バイキング・プレス社から1960年に出版されたリーバーマン最初の本“The Artist in his Studio”に収録。1988年にはランダム・ハウス社から拡大判が再版されている。

・”The Artist in His Studio” (Random House NY, 1988)
ハードカバー: 292ページ、サイズ 約24.8 x 2.5 x 32.4 cm、
多数の図版を収録

1988年にランダム・ハウス社から再版された拡大判。カラー161点、モノクロ55点を収録している。表紙のカラー図版は、ピカソと共にキュービズムを始めたジョルジュ・ブラック(Georges Braque、1882-1963)のパリのスタジオ写真。カーテン・システムにより、アーティストが太陽光の強さを調節でき、また様々な場所に制作スペースがある様子を撮影している。

・”THEN / Alexander Liberman Photographs 1925-1995″
(Random House, 1995) ハードカバー、サイズ 23.5 x 30cm、約256ページ、約200点以上のモノクロ図版を収録

何気ないスナップなのだが、その中に世界的な各界の著名人のポートレートが何気なく含まれている。リーバーマンと被写体との深い関係性がこのような親しみのある写真撮影を可能にしたのだ。アート作品になりうるポートレート写真のお手本だと言えよう。1925年のフランス・シャモニーで12歳の時の学校の仲間の写真から、1995年にマイアミの自宅周辺で撮影した友人たちの写真まで、コンデナスト時代からのアーティスト、写真家、ファッションデザイナー、ライター、エディター、建築家などとの交流のドキュメント。

“Then” Page 150-151、カルチェ=ブレッソンのスナップ、撮影リーバーマン

それらには、アルベルト・ジャコメッリ、ジャスパー・ジョーンズ、パブロ・ピカソ、マルク・シャガール、リー・ミラー、ロバート・ヒューズ、ウラディミール・ホロヴィッツ、ココ・シャネル、イヴ・サンローラン、トルーマン・カポーティ、ル・コルビジェ、アナ・ウィンター、ティナ・ブラウンなど。写真好きな人には、アーヴィング・ペン、デヴィッド・ベイリー、ヘルムート・ニュートン、ブラッサイ、セシル・ビートン、写真を撮らせないことで有名なカルチェ=ブレッソンのスナップ、そしてリーバーマンの被写体とのエピソードが綴られたコメントが興味深いだろう。ペンのことを「彼は私たちの生活にモダニティをもたらした、写真と私たち人間のヴィジョンに革命を起こした」と記している。

・”It’s Modern.: The Eye and Visual Influence of Alexander Liberman” Charles Churchward (Rizzoli, 2013)
ハードカバー、サイズ 25.3 x 3.3 x 31.4 cm、約240ページ、
多数の図版を収録

リーバーマンは、世界で最もパワフルなエディトリアル・アートディレクターの一人であっただけでなく、写真家、アーティスト、グラフィックデザイナーとしても尊敬されていた。本書では、著者のファッション誌のアートディレクターとして名高いチャーチワードが、リーバーマンのヴォーグなどの商業的な仕事の実績と、アート作品を大胆にも並列に紹介。彼の両分野にまたがる創造的視点とインスピレーションを称賛。彼が、アート、写真、デザイン、雑誌の仕事、社会生活を通して、私たちの視覚文化に影響を与え、変化をもたらした事実を紹介している。本書には、個人的なアーカイブ写真、テキスト、アート作品と、重要な友人や協力者による写真を収録。パーソナルライフやインスピレーションが作品同様に魅力的であった天才リーバーマンの完全なる全体像が提示されている。マティス、ベアトン、リーボヴィッツ、ニュートン、リッツ、ブラッサイ、パークス、ホルスト、ピカソ、アヴェドン、ペンなどによる作品も収録。

つづく