2020年前半のアート写真市場
コロナ禍でもオンライン・オークションが機能する

通常は3月下旬から4月上旬にかけてニューヨークで行われる大手業者による定例公開アート写真オークション。今シーズンはコロナウイルスの影響で、メインの複数委託者による“Photographs”オークションへの対応が、開催時期の変更、オンライン開催などと各社で分かれた。また通常は夏休みに入る7月まで、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーのセールが複数開催される事態となった。

ちなみにメインの“Photographs”を含めて、ササビーズ4件、クリティーズ4件、フィリップスが2件を開催。3社合計で1079点が出品され、799点が落札。不落札率は約25.6%だった。最終的な出品点数は2019年春の739点(不落札率24.8%)、2018年春の761点(不落札率26.5%)から大幅に増加。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。
一方で総売り上げは、約1381万ドル(約約15億円)。2019年春の2146万ドル、2018年春の1535万ドルからは減少。しかしほぼ2019年秋と同じレベルを確保している。従って落札作品1点の平均落札額は、2020年春は約17,000ドル(約187万円)だった。2019年春の約38,000ドル、2018年春の約27,000ドルから大きく減少している。

New York アート写真オークション3社売り上げ Spring/Autumn

今シーズンの写真作品の最高額は、既報のように7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション「ONE, a global 20th-cantury art auction」に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。ファインアート写真中心のオークションでの最高額は、ササビーズの“Photographs”に出品されたラズロ・モホリ=ナギの「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」。落札予想価格40~50万ドルのところ52.4万ドル(約5764万円)で落札された。続いては、ササビーズの“Photographs from the Ginny Williams Collection”の、ティナ・モドッティ“Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”。落札予想価格20~30万ドルのところ50万ドル(約5500万円)で落札された。

Sotheby’s, Tina Modotti “Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”

同セールでは、エドワード・ウェストンの美術館での展示歴のあるヴィンテージ・プリント“DUNES, OCEANO, 1936”も、落札予想価格12~18万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札されている。
モドッティの次は、既報のようにフィリップスの“Photographs”ではアンセル・アダムスによる壁画サイズ99.1 x 160.7 cmの“Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California, 1944”となる。落札予想価格30~50万ドルのところ41.25万ドル(約4537万円)で落札されている。

世界市場に目を向けると、2020年7月末までにニューヨーク、パリ、ウィーン、ベルリン、ケルンなどで17件の“Photographs”関連オークションが開催されている。合計2462点が出品され、1664点が落札。不落札率は約32.4%。円貨換算の売り上げ合計が約19.9億円。ちなみに2019年前半の結果は、欧米で18件のオークションが行われ、合計2723点が出品され、1838点が落札。不落札率は約32.5%。円貨換算の合計が約43.2億円だった。出品数、落札率はほぼ変化がないものの、売り上げが約54%減少。1点当たりの落札金額が、約234.8万円から約119.5万円へと約49%減少している。これはコロナウイルスの影響でほとんどがオンライン中心のオークションになったことで、貴重で評価の高い作品の委託が減少するとともに、中価格以下の作品の出品が増加したからだと思われる。

また今シーズンは、最低落札価格がない、もしくは極めて低いレベルに設定されていたオンライン・オークションが、ササビーズ“Legends, Landscapes, and Lovelies”、“The Ginny Williams Collection: Part II” の2件、クリスティーズ“Walker Evans: An American Master”、“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”の2件が行われた。以前にも紹介したように、これらのセールは、19世紀/20世紀写真が多かった。全作落札されたものの、一部作品が極端に低い、やや投げ売りのような印象さえある価格で落札されているのだ。これが売り上げ総額を引き下げた一因だと思われる。
市場を取り巻く環境はコロナウイルスの影響で非常に悪いと言えよう。委託者にはオークション出品見合わせで、様子見という選択肢もあったと思う。しかし、あえて厳しい環境下で出品を強行したのは、感染の終息まで待ってもこの分野の写真作品の相場が大きく改善する可能性は高くない、またさらに悪化する可能性すらあるという判断なのかもしれない。

南半球が夏期を迎えたに関わらず、世界的にコロナウイルス感染が収まる気配がない。空気が乾燥する秋以降の第2波に対する懸念も問い沙汰されている。2020年前半、各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。大手各社の危機時の積極的かつ柔軟な対応が非常に印象深かった。全体的には、ニューヨークの大手業者の結果はオンライン・オークションにより昨秋並みを確保しているものの、米国、欧州の中小業者はかなり苦戦したという構図だ。秋冬も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りすると思われる。

一方で業務の100%オンライン化が難しいギャラリーは、コロナウイルスの先行きが読めない中で、秋冬の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも可能なビジネス企画を考えないといけないのだ。わたしどものギャラリーも他人ごとではない。

(1ドル/110円で換算)