リチャード・プリンス作品が高額落札 NY現代アート系オークション

春のニューヨーク現代アート系オークションで、リチャード・プリンス作品が写真関連では久しぶりに200万ドル越えで落札された。
クリスティーズ・ニューヨークでは、新しい3カテゴリー分けのオークションが5月11日から13日にかけて開催された。
“21st Century Evening sale” は1980年から現代までの作品、“20th Century Evening sale”は、1880年から1980年の作品、“Post-War and Contemporary Art Day sale” は主に低価格帯作品が出品された。ちなみに、“21st Century Evening sale” では、ジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case、1983”が、9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

写真の最高額も同じオークションに出品されたリチャード・プリンス(1949-)の“Untitled (Cowboy), 2000”だった。落札予想価格100万~150万ドルのところ219万ドル(約2.4億円)で落札。132 x 184.1cmサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント、ブランド・ギャラリーのガゴシアンが取り扱ったという来歴の作品だ。

Christie`s NY, Richard Prince “Untitled (Cowboy), 2000”

リチャード・プリンスは、70年代後半から80年代前半にかけて、シンディ・シャーマン、バーバラ・クルーガー、シェリー・レヴィンなど、「ピクチャーズ・ジェネレーション」と呼ばれる若手アーティストたちとともに登場してきた。既存の広告や写真を再度撮影することで、イメージを「流用(appropriation)」し、新たな文脈の作品として提示した。これは作品のオリジナリティや神聖さを疑うポストモダン的なアプローチだと言われている。プリンスは約40年にわたって「Untitled (Cowboy)」シリーズで、アメリカの象徴であるカウボーイにこだわり続けてきた。カウボーイは、アメリカの最初の開拓者たちを鼓舞したワイルド・ウェストの憧れを呼び起こすとともに、西部開拓者たちの勤勉さ、決意、独立精神を象徴している。オリジナルの「カウボーイ」シリーズは1980~84年年に制作。それらは70年代後半から80年代前半にかけてのマルボロのタバコ広告を10×14インチサイズで表現したものだった。本作は、プリンスが2000年頃に制作を開始した「カウボーイ」シリーズの第2弾。デジタルスキャナーを使って加工し、現代アート的な巨大サイズに拡大。しかし、プリンスは意図的に作品にオリジナルの粒状性を残している。これによりオリジナル画像が雑誌広告であることが強調されているのだ。

シンディー・シャーマン(1954)の“Untitled #150,1985”は、落札予想価格60万~80万ドルのところ52.5万ドル(約5775万円)で落札された。125.7 x 168.5 cmサイズ、エディション6/AP1のタイプCプリント。こちらもブランド・ギャラリーで、2021年末に閉廊するメトロ・ピクチャーズが取り扱ったという来歴の作品だ。本作は、1985年のメトロ・ピクチャーズで個展で展示された「Fairy Tales」シリーズの重要作品。彼女は、子供向けのおとぎ話に隠された深い闇からインスピレーションを得て創作。グロテスクさと魅惑的な雰囲気が象徴的に表現された作品で、アーティストにとって重要なコンセプトの出発点と言われている。同作は、その後の彼女の作品の多くに影響を与えており、作家に関する文献/資料にも広く引用されている。

Christie’s NY, Cindy Sherman, “Untitled #150,1985”

一方でサザビーズ・ニューヨークでは、5月12日から13日にかけ“Contemporary Art”の2回のオークションを開催。こちらも最高額はリチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy)、1993」だった。落札予想価格20万~30万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。50.8x 61 cmの小さめサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント。

シンディー・シャーマンの「Cover Girl (Vogue),1976-2011」は、落札予想価格6万~8万ドルのところ16.38万ドル(約1801万円)で落札。小ぶりの26.7 x 20.3 cmサイズの3点組作品、エディション3/AP1のゼラチン・シルバー・プリント。
サザビーズに出品されたのは、有名現代アート系アーティストによる、“Photographs”で取り扱われるような小さいサイズの作品。彼らの代表的作品はサイズが小さくても高額で取引されるようになってきたようだ。

ここ数年、現代アート系を含めて写真関連作品の高額落札はあまり多くなく、2017年からは、200万ドル超えの落札はなかった。リチャード・プリンス作品でも、2018年秋のサザビーズ・ニューヨーク“Contemporary Art”において169.5万ドルで落札された「Untitled (Cowboy), 2013」以来となる。新型コロナウイルスの経済対策として世界中の政府が行っている積極財政策と中央銀行による超金融緩和の影響だと思われる。米国の中銀に当たるFRBが出口戦略の模索を開始したとの報道も見られる。有名アーティスト/写真家の代表シリーズへの人気集中は続くのだろうか?今後の動向を注視していきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

“Fine Art Photography Now”展スタート!
ファインアート写真の見方を作品で紹介

ブリッツでは、「ファインアート写真の見方」(玄光社)の刊行を記念して、同書で紹介されている写真家/アーティストの作品やフォトブックを展示するグループ展「Fine Art Photography Now(ファインアート写真の現在)」展がスタートした。


同展は東京の緊急事態宣言解除を念頭に置いて開始日を決めていた。しかし、残念ながら緊急事態宣言が5月末まで継続されることになり、不要不急の外出自粛が求められるようになってしまった。東京のほとんどの美術館はいま休館中だ。本当に残念だが、多くのお客様に来廊をすすめることが困難な状況となってしまった。本展では、各種イベントを通して書籍購読者による同書に関する各種の疑問や質問に個別に答える予定だった。しかし当初予定していた、トークイベントやポートフォリオレビューは延期となった。

始まったばかりなのだが、5月末の緊急事態宣言解除を期待して、当初の6月6日までの会期を20日くらいまで延長することを検討している。会期が延びるので、来廊を予定していた人はどうか無理をしないでほしい。

本展では、「ファインアート写真の見方」で紹介されている写真家/アーティストの以下の作品やフォトブックを展示している。設営してみると思いのほか見ごたえのある内容の展示になった。以下が展示作品、フォトブックとなる。

・オリジナルプリント
ヘルムート・ニュートン、リチャード・アヴェドン、ルイス・フォア、ジャンルー・シーフ、ウジェーヌ・アジェ、テリ・ワイフェンバック、マイケル・デウィック、鋤田正義、マーカース・クリンコ、ジャスティン・ヴィルヌーブ、ダフィー、ウィリアム・ワイリー、戦前フランスのファウンドフォトなど約28点。

・フォトブック
リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ロバート・フランク、アンドレ・ケルテス、ピーター・ビアード、ライアン・マッッギンレー、マイケル・デウィック、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソスなど。

(ご注意)
本展は新型コロナウイルス感染防止のため、完全アポイントメント制での実施となります。会場では厳重な感染対策を行い開催いたします。なお東京の感染状況が緩和した場合は、営業方法を変更する場合があります。詳しくはギャラリー公式サイトで発表します。

鋤田正義のキャリアを回顧する SUKITA : ETERNITY
6月下旬に発売!!

鋤田正義のキャリアを本格的に回顧する「SUKITA : ETERNITY」が 6月中旬に英国のACC Art Booksから刊行される。(6月14日発売予定)日本版も6月下旬に玄光社から発売される。この写真集刊行の意義は「ファインアート写真の見方」で詳しく分析しているのでここでは触れないことにする。鋤田ファンの人にはぜひ読んでいただきたい。

今回は、日本版のいくつかの特徴をいち早く紹介したい。実は、本書はオリジナルの英語版を再編集した日本語版ではないのだ。国内出版社による日本語版を毛嫌いするフォトブックコレクターは多いと思う。実は私もその一人で、洋書英語版と日本版が存在する場合、いくらテキストが日本語訳で読みやすくても絶対に洋書を購入する。オリジナルの英文を日本語に訳した本だと、どうしてもオリジナル版でのテキストと写真とのデザインの調和が崩れて、全体的にアンバランスな印象が強くなるのだ。違和感を感じるともいえるだろう。しかし、今回の「SUKITA : ETERNITY」は、コレクション志向が強い人の好みを十分に配慮している。日本版といっても、印刷は洋書と同様のベルギーの工場で行っているのだ。つまり日本版でも写真はもちろん中身は英国版と全く同じ、テキストもすべて英語表記なのだ。唯一の違いは出版情報を掲載する奥付け部分の記載のみが日本語になっているだけ。そして、英文テキストの日本語訳が小冊子として付いてくるのだ。クルマ好きの人なら、ホンダの「シビックタイプR」などの日本仕様車が英国工場で生産され輸入されている構図を思い起こしてほしい。

写真集サンプルを持つ鋤田正義。左側がACC版、右側が玄光社版。

ただし、表紙周りの仕様が若干違う。英語版は布張りで写真が貼られている。日本版はダストジャケット付きで帯も追加される。嬉しいことに日本版の販売価格は洋書より若干安くなる予定だ。
表紙の作品はともに鋤田のデヴィッド・ボウイ代表作「Just for one day, 1977」。ただし裏表紙は違う。英語版は鋤田の母親の写真、日本版はこれも鋤田のマーク・ボランの代表作「Get It On, 1972」となる。
ハード版、サイズは約33.1X257cm、約257ページで、”Early Work”, “T Rex”, “David Bowie”, “Iggy Pop”, “YMO”, “East”, “West”, “Theatre & Cinema”, “Journeys”の9章で構成。代表作、未発表作を含む多数のカラー/モノクロ図版が収録されている。アマゾンでは現在洋書の英国ACC社版の予約のみが公開されている。近日中に日本語訳小冊子付の日本版の価格が正式決定される。
アマゾンや玄光社の公式サイトで予約受付が近日中に開始される予定なので、どうか今しばらお待ちいただきたい。写真集の発送開始は6月下旬から7月上旬と思われる。

“David Bowie, Dawn of Hope, 1973” (C)SUKITA

今回、注目して欲しいのが日本版のプリント付きの限定特装版。豪華な布張りの特製ケース付きのコレクターズ・アイテムだ。

“David Bowie, Dawn of Hope, 1973”, “David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″、”Tate Modern, 2008″ の3種類の作品が用意されている。

“David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″ (C) SUKITA

すべて鋤田正義の直筆サイン入りだ。写真サイズは8X10″(約20.3X25.4cm)を予定している。そして3種類の仕様の限定特装版が販売予定だ。コレクター向けに全作が収録される3枚セットが70点、特にボウイ・ファンのために、”David Bowie, Dawn of Hope, 1973″と”Tate Modern, 2008″の2枚セットが90点、”David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″ と”Tate Modern, 2008″の2枚セットが40点の2種類用意される。

“Tate Modern, 2008” (C) SUKITA

海外では、鋤田正義作品はファインアート作品だと考えられている。しかし、日本では写真全般がファインアートだとは考えられていない。したがって市場規模は欧米と比べてはるかに小さい。今回はそのような日本市場の特殊性に配慮して、国内限定販売としてかなり魅力的な価格設定を予定している。
3枚セットは税込み7万円台、2種類ある2枚セットは税込み4万円台になりそうだ。鋤田の40X50cmサイズの、エディション30の作品は約20.6万円(税込み)から、エディション完売が近い人気作品は高額だ。今回のセットはエディション数が多く、サイズが小さいものの、極めてお買い得だといえるだろう。これは、日本でも写真がファインアート作品としてコレクションの対象になってほしいという鋤田の願いが込められている。ぜひ最初の1枚のコレクションとして今回のプリント付き特装版を検討して欲しいということなのだ。

3種類のセットすべてに、モノクロのパーソナルワークが含まれる、これはボウイのポートレートがきっかけで、優れた写真作品の魅力にも気付いてほしいという思いが反映されている。現在、最終的なコスト計算が行われている。プリント付き特装版の予約受付開始の時期、受付方法、販売価格はいまのところ未定。正式決定後に玄光社、ブリッツの公式サイト、アートフォトサイトなどで発表します。

鋤田正義写真集“SUKITA : ETERNITY”
B4変型判(33.1X257cm)/上製本256ページ/翻訳小冊子付き

鋤田正義の代表的な写真ともいえるデヴィット・ボウイを代表するミュージシャンのポートレートのほか、キャリアを通して撮影してきたストリート、風景、静物などが初めて明らかになる写真集。鋤田が半生を振り返ったとき、「あこがれ」を追い求めてきたと語る作品が収録された集大成とも言えるこの写真集は、鋤田の作家性の再評価が始まると言える 1 冊です。