鋤田正義「SUKITA: Rare and Unseen」
写真展の見どころ(1)

ブリッツでは、鋤田正義写真展「SUKITA: Rare and Unseen」を開催中。同展は英国ACC Art Booksの企画/編集で刊行される回顧写真集「SUKITA : ETERNITY」の刊行記念展となる。日本版は玄光社から刊行、原文は英国版原書と同じく英語表記で欧州で印刷され、日本語訳の小冊子が付いてくる。
特設サイト

東京は、8月末まで緊急事態宣言が発令中なので完全予約制での営業となる。現在は特に週末の予約は取りにくくなっている。しかし、同展は夏休み中も営業するし、10月までと開催期間を長めにとってる。どうかコロナウイルスの状況を見極めたうえで、余裕をもって予約して欲しい。
ギャラリーの公式サイトでは、インスタレーション・ヴューをアップしている。まずは、こちらをご覧になって写真展会場の気分を味わっていただきたい。今回は、展示画像と共に写真展の見どころの解説を行いたい。

本展の大きな見どころは、鋤田とデヴィッド・ボウイとのセッションにおける数々の未発表作や代表作のアザー・カットの展示となる。鋤田は2021年5月に83歳になった。いまやボウイなどの親しかった多くの被写体たち、また親交があった同世代の写真家テリー・オニールなども亡くなっている。
今回のキャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われ、その過程で数多くの未発表作が発見され、一部作品は今回の写真集にも収録されている。

今回は、鋤田アーカイブスの調査結果を紹介する最初の写真展となる。ヴィンテージ作品はすべて参考展示となり、販売はされない。市場価値は、だいたい6,250ポンド(約95万円)くらいだと思われる。それら7作品はギャラリーの中央あたり展示されている。たぶんボウイの写真集「気」(TOKYO FM出版、1992年刊)制作時にプリントされた作品だと思われる。
作品の中には、ソフトな感じの雰囲気を狙って、いわゆる紗がかかったようなプリントが多くみられる。鋤田によると、それらはすべて暗室作業で作り出されたものだという。通常は薄い布が使われるのだが、彼は女性用のストッキングを使用したとのことだ。納得のいく効果を得るために、様々な種類のストッキングと露光時間を試みたという。いまは画像処理ソフトで同様の効果を出すことができるのだが、当時は1回ごとのアナログ作業だった。気の遠くなるほどの試行錯誤を行ったのだと想像できる。理想のボウイ像を創り出すための、鋤田の並々ならぬ執念を感じる作品群だ。
ちなみにこれらは、ファインアート写真の専門用語で規定されているヴィンテージ・プリントではない。それらは、写真撮影からだいたい3年~5年以内にプリントされた作品とされている。しかし、写真家の手作業で丁寧に制作された作品は極めて価値が高いといえるだろう。

本展では、写真集「SUKITA : ETERNITY」からの代表作も展示している。表カバーの「David Bowie, Just for one day」と、裏カバーの「T-Rex, Get it on」は、30X40″(約76X101cm)は大判サイズでの展示。前者はエディション10、後者がエディション8の作品となる。

「Just for one day」は、ほかに16X20″/エディション30と20X24″/エディション20の小さめ作品が販売されている。以前、銀座蔦屋書店のオンライントークイベントで指摘したように、この作品は販売価格の逆転現象が起きている。実は本作品は通常の英国からではなく、日本で初めて販売が開始された。もちろん販売開始時は、小さいサイズが安く、大きいサイズが高く設定されている。しかし日本は住宅事情から小さめのサイズの方が圧倒的に人気が高い。従って16X20″はなんと完売が近くまで売れてしまい、販売価格が大幅上昇。3サイズの中で一番高額な約80万円以上になっている。30X40″の大判サイズは、本日時点で約44万円と一番安いのだ。ただし、サイズが大きいので、額装費用は高額になる。またプリントの平滑性を保つために裏打ちが必要になる。それを考慮しても、まだ16X20″と20X24″よりも安く購入できるのだ。市場価格の歪みは、遅かれ早かれ、海外のコレクターやディーラーから注文が入ることで適正に戻ると思われる。「Just for one day」は、英国ACC Art Books版でもカバーを飾っている。広い展示スペースが確保できるなら、写真集の表紙を飾る本作はまさにお薦めの1点といえるだろう。興味ある人はできるだけ早く問い合わせて欲しい。

銀座 蔦屋書店 展示風景

現在、銀座蔦屋書店でも鋤田正義作品の展示を8月25日まで行っている。メインは、前述の写真集表カバーの「David Bowie, Just for one day」、また昨年亡くなった山本寛斎さんがデザインしたステージ衣装「TOKYO POP」を着たデヴィッド・ボウイ「Watch That Man III、1973」、忌野 清志郎を米国のメンフィスで撮影した「Kiyoshiro Imawano – In Memphis、1992」の16X20″サイズ作品3点の展示となる。その他、「ヒーローズ・セッション」から生まれた、ボウイが手でそれぞれ目、耳、口を隠している「見ざる、言わざる、聞かざる」の3点セットも必見だろう。写真集特装版の3点のプリント作品の現物も展示されている。飾りやすい小ぶりの作品中心に約15点を展示している。

なお。8月21日(土)14:00~16:00には、鋤田正義によるオンライントークイベントも企画されている。参加条件などの詳細は近日中に発表予定とのことだ。
銀座蔦屋書店

次回、写真展の見どころ(2)に続く