テリ・ワイフェンバック最新作
ブルゴーニュの静謐な風景
「Until the Wind Blows」

(C) Terri Weifenbach

テリ・ワイフェンバックは長年にわたりに米国ワシントンD.C.に居を構えていた。その自宅周りにある、日常の何気ない自然風景から数々の名作が誕生している。それらは、ピンボケ画面の中にシャープにピントがあった部分が存在する、まるで夢の中にいるような、瞑想感が漂う光り輝く作品。彼女はもともとは抽象的な絵画を描いていた。それを写真で表現する可能性の探求中に生まれた作品スタイルなのだ。
現在、ブリッツで開催中の新作「Cloud Physics」。同展に寄せたエッセー「Ephemerality(はかなさ)」で書かれているように、近年彼女は拠点をフランスのパリに移している。 作品制作で試行錯誤を続ける中で、パリへの移住がきっかけとなり作品が完成した経緯が同エッセーには書かれている。

(C)Terri Weifenbach

ブリッツの展示では、iPhoneにより撮影された小サイズの美しい風景作品16点も紹介されている。本作は2021年に撮影された最新作「Until the Wind Blows」、和訳すると「風が吹くまで」のような意味になる。実は彼女とパートナーは、今年にフランス郊外のブルゴーニュ地方にある古いファームハウスを手に入れたという。外国人の不動産取得には煩雑な審査が必要で、約1年くらい手続き時間がかかったそうだ。本作は、彼女がたびたび訪れたブルゴーニュ地方での散策中に撮影された作品群となる。

(C) Terri Weifenbach

彼女は同作に以下の様なメッセージを寄せている。

「Until the Wind Blows」
この写真はとても穏やかです。
ところがしばらくして突風が吹いて木が折れたこともありました。
穏やかであること、そしてその穏やかさは永遠ではないのです。
私たちの人生のように…  地球上のすべての人にとっても…
風が吹くことがあります。また吹くことを知っています。
私たちの快適さは当てにならないのです。
テリ・ワイフェンバック

(C) Terri Weifenbach

彼女は一瞬穏やかなフランス郊外の田園地帯の風景を、波乱万丈の人間の人生に重ね合わせているのだ。「Cloud Physics」との関連では、気候変動前の嵐の前の静けさのようなシーンを意識的に提示しているとも解釈可能だろう。近年、フランスでも異常気象による豪雨により洪水が各地で発生している。 提示された作品タイトルにより、何気ない自然風景のシーンが全く違う印象を持つようになる。アーティストが世の中とどのように対峙しているかが、作品に的確に反映されている。まるでファインアート写真の教科書的な構成の作品に仕上がっている。小さなスマホで撮影されているので、彼女の通常の作品と比べると画質が劣るのは仕方ないだろう。しかし、小さな作品でも彼女のアーティストとして世界を見つめる視点は変わらないのだ。
本作は、スマホ作品の市場の可能性を探求する意味で実験的に制作されている。
各作品、すべて額とブックマット付きで、限定2点のみの販売となる。価格も彼女と相談して極めてリーズナブルにしている。もちろん裏面に彼女のサインが入っている。 フランスに拠点を移したワイフェンバックが、パリやブルゴーニュを舞台にどのような作品を生み出すか非常に楽しみだ。
本展では、「Cloud Physics」だけでなく、ぜひ「Until the Wind Blows」にも注目して欲しい。

(C) Terri Weifenbach

なお「ファインアート写真の見方」(玄光社/2021年刊)には、テリ・ワイフェンバック論を収録している。彼女の現在までのキャリアを本格的に振り返り、その作家性の秘密を探求している。興味ある人はぜひご一読を。

(開催情報)
「Cloud Physics」/「Until the Wind Blows」
テリ・ワイフェンバック写真展

ブリッツ・ギャラリー
東京都目黒区下目黒6-20-29  
JR目黒駅からバス、目黒消防署下車徒歩3分 /
東急東横線学芸大学下車徒歩15分

2021年 11月10日(水)~2022年1月30日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料