2023年のファインアート写真のオークションがいよいよスタートした。
2月22日、サザビーズ・ニューヨークで20世紀写真を代表するスイス人写真家ロバート・フランク(1924-2019)の主要作品109点のセールが行われた。「オン・ザ・ロード(On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn)」と命名された同セールは、世界で最も大規模なロバート・フランク作品の個人コレクションのアーサー・ペン(Arthur S. Penn)コレクションからの出品。
20世紀を代表する写真作品として知られる“Hoboken N. J.’ (Parade),1955”や、「The Americans」などの主要写真集に収録されている作品、コニーアイランド、ロンドンのビジネスマン、ウェールズの鉱夫のシリーズ、1950年代後半の映画的な「From the Bus」シリーズからの印象的な写真、そして家族の肖像写真まで、ロバート・フランクの輝かしい写真家キャリアを網羅する出品内容になっている。
しかし今回のオークション、ロバート・フランクの質の高い作品が多い単独セールだったが、かなり厳しい落札結果だった。
109点のうち落札は53点で、落札率は50%割れの約48.6%。総売り上げは991,235ドル(約1.28億円)だった。最高額の落札が期待された注目作の“Hoboken N. J.’ (Parade), 1955”。1978年までにプリントされた20.6X31.1cmサイズ作品で、落札予想価格12万~15万ドルの評価だったが不落札だった。
1万ドル以下の低価格帯の落札率は60%台だったものの、1万~5万ドルの中間価格帯、5万ドル以上の高額価格帯の落札率が約50%程度と不調が目立った。
最高額落札は2作品が同額の63,500ドル(約825万円)で並んだ。
“From the Bus NYC’ (Woman and Man on the Sidewalk), 1958”は、落札予想価格6万~9万ドル、もう一点の“Chicago (Car), 1956”は、落札予想価格4万~6万ドル。2点とも50年代から60年代にプリントされたヴィンテージ・プリントの可能性の高い作品だった。今回のサザビーズの企画は、市場の閑散期の活性化を狙った珠玉のロバート・フランク・コレクションの単独オークションだった。しかし開催時期がちょうど経済状況の先行きの不透明が強まったに時期と重なり、不運だったといえるだろう。
金融市場では、2月発表の米国の経済指標が予想よりもよく金利が上昇した。景気後退入りリスクが高まっているにもかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが当初の予想以上に長引くとの観測からNYダウの株価も1月来の安値になっていた。このような金融市場の先行き不透明感がコレクターのセンチメントに悪影響を与えた可能性が高いだろう。特に貴重な代表作品のヴィンテージ・プリントでない限り、いくらロバート・フランク作品でも無理に急いでいま購入する必要はないという姿勢の表れだと思われる。4月になると定例のニューヨークでのPhotographsオークションが開催される。金融市場の状況をもう少し見極めたうえで判断するという、様子見を決め込んだコレクターが多かったのだ。
私は市場心理に悪い影響を与えたのは将来的な景気の後退予想だと考えている。景気が悪くなると、特に高額価格帯の作品の相場が悪化する傾向が強い。コレクターにとっては、今より安く購入できる可能性が将来的に訪れることを意味する。長期的な景気後退シナリオは、4月の定例オークションにも影響を与える可能性があるだろう。これからの各価格帯の相場動向を注視していきたい。
春の大手業者のニューヨークの「Photographs」オークションは、フィリップスが4月4日、サザビーズが3月29日~4月5日、クリスティーズ(Online)が3月31日~4月13日に予定されている。
(為替レート/1ドル130円で換算)