欧米では写真はファインアートのひとつの表現方法として定着している。ギャラリーのプライマリーとともに、オークションのセカンダリー市場も大きな取り扱い規模を誇る。
2024年、私どもは欧米市場で開催された約60の写真関連オークションをフォローした。トータルで7663点が出品され、5313点が落札。不落札率は約30.67%だった。ドル、ポンド、ユーロでの落札なので、円換算して総売り上げを集計すると約126.3億円。2024年は円安が大きく進んだので円建ての数字はかなり増加した。

翻って日本では、残念ながら現在では写真専門のオークションは開催されていない。実は2006年~2007年にかけて、東京オークション・ハウス・アール・ローカスで写真専門のオークションが開催されていた。主に海外の有名写真家の作品を取り扱うライブ・オークションだった。しかし、開催回数が増えるに従い、作品の落札予想価格が、海外相場より高めに設定されるようになった。たぶん委託者の購入価格以上での売却希望が反映されたことによったと思われる。すでにインターネットは普及していたので、コレクターの大半を占める海外からの入札が入りにくい状況だった。同オークションは、日本で写真コレクションの浸透と拡大目指した意欲的な試みだったが、景気の低迷と落札率の低迷で撤退を余儀なくされた。

その後、大手のシンワ・アート・オークション、アイアート・オークション、SBIアートオークションが20世紀、21世紀アート・カテゴリーの一部で写真作品を取り扱ってきた。しかし、国際的に人気の高い外国人写真家は少なく、ほとんどが荒木経惟、森山大道、杉本博司、植田正治、森村泰昌などの作品だった。
ところが今年の3月8日にSBIアートオークションで開催された「BLOOM NOW」では、久しぶりに世界的アーティストたちの写真作品が出品されて注目された。これは世界中のコレクターが注目する「アートフェア東京」の開催時期に合わせて、同じ東京国際フォーラムで毎年行われる同社が一番力を入れているオークションになる。カタログには、「日本のマーケットでは流通量が少ない国際的なブルーチップアーティストの作品等を含む、およそ90点の魅力ある作品を皆さまにお届けします」と紹介文が掲載されている。
写真関連では、杉本博司、ウォルフガング・ティルマンス、テリー・オニール、リチャード・アヴェドン、アンドレアス・グルスキー、ゲルハルト・リヒター、JR、荒木経惟、今坂庸二郎の作品が出品された。いまの世界のアート市場は、政治経済などの外部環境の不透明さから、様子見気分が強い。本オークションでも特に落札予想価格の上限を超えるような勢いはなかった。しかし、ほとんどの作品が落札予想価格の範囲内で落札された。一般的に日本での写真作品の落札率は低いので、関係者は胸をなでおろしたことだろう。

落札結果だが、現代アート系では、アンドレアス・グルスキーの「Em Arena II, Amsterdam, 2000」が写真作品の最高額の落札だった。Chromogenic print mounted on plexiglas、イメージサイズ 229.7X161.8cm、エディション6の大判作品で、落札予想価格20,000,000~25,000,000円のところ、23,000,000円だった。
ゲルハルト・リヒターの「MV. 34, from Museum Visit, 2011」、Lacquer on colour photograph、イメージサイズ 10 X 15 cm作品は、落札予想価格7,000,000~14,000,000円のところ、8,050,000円で落札、
杉本博司の「Mediterranean Sea, Cassis, 1989」、Gelatin Silver print、イメージサイズ 42.3X54.2cm、エディション25作品は、落札予想価格1,800,000~2,800,000円のところ、4,140,000円で落札された。
20世紀写真では、リチャード・アヴェドンのアイコニックな「Nastassja Kinski and the Serpent, Los Angels, California, June 14, 1981」は、残念ながら不落札だった。これも超有名作のテリー・オニールの「Brigitte Bardot, Spain, 1971」、イメージサイズ 35.9X54.7cm、作家とバルドーのサイン入り、エディション50 作品は、落札予想価格1,200,000~1,800,000円のところ、1,380,000円で落札された。

写真関連では、9点中8点が落札。開催日前の週からに為替市場が一転して円高傾向になり、外国人入札者にはやや不利な状況だったといえるだろう。オークションは複数の入札者が競り合うことで価格が上昇していく。そして写真コレクションの中心地は圧倒的に北米になる。今回のオークションは東京時間の13時スタート。欧州、英国のコレクターは早起きすれば参加可能だったが、写真コレクターが最も多い米国は深夜の時間帯になってしまう。写真に関して限定して考えると、北米を意識したオークション開始時間を検討してもよいかもしれない。
どちらにしても、日本ではSBIアートオークション以外は、あまり高額で売れない写真の取り扱いに積極的ではない。しかし、バブル時代から20世紀後半にかけて、海外の優れた写真作品が大量に日本で輸入販売されてきたのだ。21世紀に入り25年が経過した。これらをコレクションした人たちはかなり高齢になり、コレクションの整理を検討しだす時期だと予想される。今後は外国人コレクターが好むような優れた世界基準の写真作品のオークション出品は増えていくのではないか? 日本での今後の写真関連オークション市場の拡大に期待したい。
(落札価格は手数料込)