ルース・オーキン単独オークション開催
アート写真オークションレビュー

2021年のファインアート写真オークションが2月2日から始まった。中堅業者のボナムス・ニューヨークで米国人女性写真家(Ruth Orkin, 1921-1985)の単独オークションが開催された。彼女は女性フォトジャーナリストの草分け的な存在。フリーランスとして雑誌の「ライフ」、「ルック」などの仕事で世界中で撮影旅行を行っている。フォトブックでは、ニューヨーク市のアパートからセントラルパークをカラーで撮影した「A World Through My Window」(Harper Collins, 1978)が知られている。1995年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)で回顧展が開催されている。今回の単独オークションは、彼女の生誕100年を記念するとともに、最近の20世紀に活躍した女性写真家の再評価の流れの一環だと思われる。ファインアート市場がまだ成熟していなかった1985年に亡くなっていることからサインが入ったプリント作品の流通量は多くないと思われる。

今回の総売り上げは約17.63万ドル(約1851万円)、54点が出品されて33点が落札、落札率は約61.1%だった。最高額は彼女の代表作<<An American Girl in Italy (1951)>> で、US$ 52,812(約554万円)だった。

Bonhams NY, Photographs by Ruth Orkin, “American Girl in Italy, 1951”

フローレンスの市街地を、一人のアメリカ人女性がやや不安げに大勢のイタリア人男性に声をかけられる中をさっそうと歩く作品。女性の海外一人旅の楽しさを表現した彼女の名作。本作は演出されたものではないという、文脈が語られることで魅力が一層高まる作品だ。

興味深いのは、本オークションには同作のモダンプリントが複数点出品されていたこと。上記の最高額で落札されたのは80.7 x 122cmサイズの、サイン付き大判作品だった。一方で10.5 x 21.2cmサイズの、クレジット、写真家アドレス、スタンプのみ、サインなしの作品はUS$ 1,020(約10.7万円)、28 x 35.5cmサイズのサイン入り作品は US$ 12,750(約133万円)だった。作品のサイズ、サインの有無が相場に与える影響が明確に反映されていたと思う。

本オークションは、彼女の関連アイテムも一緒に出品している。オーソン・ウェルズから彼女への手紙、作品が掲載されたカタログ、カメラとカメラバックも出品されていた。1955年に購入されたニコンF、50㎜と135㎜レンズ、カメラバックは、 US$ 1,402(約14.7万円)で落札されている。
同ロットには、「A Photo Journal, Viking Press, 1981」に掲載された、以下のような彼女のコメントが紹介されていた。
“写真を撮るということは、被写体の人に「これを見てください」「あれを見てください」とお願いすることだと思っています。自分が撮った写真が、それを見た人に自分が意図したことを感じてもらえれば、目的は達成されたことになります。”
作品売買の場であるオークションだが、そこでも作品の価値を高めるために様々な写真家の情報が提供されていのだ。

(為替 1ドル105円で換算)

2020年オークション高額落札ランキング
20世紀ファッション写真が大健闘 アヴェドンが第1位!

2020年は、ファイン・アート写真市場にとって波乱の1年だった。2月にロンドンで開催された大手業者の現代アート系オークションまでは通常通りに実施された。しかし3月には、ニューヨーク、ロンドンなどで新型コロナウイルスの感染が拡大、都市のロックダウンが発生。通常は春と秋に行われるオークション・スケジュールは中止または延期を余儀なくされた。そしてオークションは、多くの人が集まる華やかなライブから、無参加者のオンライン/電話へと大きく運営システムが変化することになる。またスケジュールの遅れから、通常は夏休みに入る7月まで、また年末の12月になってからも、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーの複数セールが複数業者により開催される事態となった。少なくとも、2020年は各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。

2020年は世界中の写真作品中心の37のオークションをフォローした。いまや現代アート系オークションの一部にアーティストによる写真作品や高額な20世紀写真が当たり前に出品されている。それらを取り出して、集計に加えるという考え方もあるが、ここでは比較可能な統計数字の一貫性を保つために除外している。ただし、高額ランキングには現代アート系オークションの落札結果を反映させている。しかし、例えばジョン・バルデッサリ(1931-2020)の作品などには、写真素材を使ったコンセプチュアルな混合作品がある。それらを写真作品に含めるかどうかの解釈は分かれると思う。またオークションは世界中で開催されている。今回の集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。もし漏れた情報に気付いた人はぜひ連絡してほしい。また為替レートは年間を通じて大きく変動している。どの時点のレートを採用するかによって、ランキング順位が変わる場合もある。それらの点はどうかご了承いただきたい。
以上から、本ランキングは写真作品の客観的なランキングというよりも、アート・フォト・サイトの視点によるものなのだ。

さて2020年のオークション市場で特筆すべきは、オンラインのシェアー急拡大だ。出品点数ベースで約45.7%、落札金額ベースで33%となった。昨年までは、オンライン・オークションは低価格帯作品を取り扱う場だった。コロナウイルス感染拡大で状況は様変わりした。2019年のオークション・データと比較すると、2020年の特徴が見えてくる。出品点数は5452点から6276点に増加、落札率は約65.94%から67.88%に上昇している。開催地の通貨が違うので円貨換算して比較した落札金額合計は、73.13億円から50.8億円に約31%減、1点の単純落札単価も203万円から119万円に大きく減少している。相場の見通しが極めて不透明なことから、高額評価の作品の委託者は出品を先送りする傾向が明確に見られた。
逆に中低価格帯の作品は換金売り的な売却も目立った。出品数は高額価格帯が減少し、中低価格帯が増加したのだ。

落札ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2016年以来、300万ドル越えの高額落札は記録されていない。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の先行き不透明感から、現代アート系の高額作品の不落札が相次いだ。その影響から年後半には高額の写真作品の出品取り止めが多く見られた。
2020年の現代アート系第1位は、ササビーズ・ニューヨークで6月29日に開催された“Contemporary Art Evening Auction”に出品されたリチャード・プリンスの約152X228cmサイズ、エディション1/2のタイプCプリント作品「Untitled (Cowboy),2015」で、約128万ドル(@110/約1.4億円)だった。しかし総合順位では第2位となる。

Sotheby’s NY, “Contemporary Art Evening Auction”, Richard Prince, 「Untitled (Cowboy),2015」


2020年の高額落札は、7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション“ONE, a global 20th-cantury art auction”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。約203X161cmサイズ、エディション9/10の銀塩プリント作品で、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと作家最高落札額の181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。

Christie’s “ONE, a global 20th-cantury art auction”, Richard Avedon「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。2020年も、20世紀写真系が1位を含む5作品を占めている。特にササビーズ・ニューヨークで12月に開催されたアンセル・アダムスの単独セールの“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”では、高額落札が相次いだ。総合3位になったのは、60年代にプリントされた、約98X131cmサイズの銀塩プリント作品の「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」で、98.8万ドル(約1.08億円)の作家最高落札額を記録している。

2020年は、各オークションハウスの努力により、セカンダリー市場はコロナ禍でもオンライン・オークションなどを取り入れることで十分に機能することが証明された。2021年も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りするだろう。

一方でプライマリー市場のギャラリーは、業務の100%オンライン化は難しい。新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まる気配を見せない中で、2021年の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも経営が持続可能な企画を考えないといけないのだ。特に若手新人を中心に取り扱っているところが厳しいと思う。今春以降の市場動向に注視していきたい。

総合順位

1.リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」
クリスティーズ “ONE, a global 20th-cantury art auction”
2020年7月10日開催
約1.99億円

2.リチャード・プリンス
「Untitled (Cowboy), 2015」
ササビーズ・ニューヨーク “Contemporary Art”
2020年6月30日開催
約1.4億円

3.アンセル・アダムス
「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約1.08億円

Sotheby’s NY,“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”, Ansel Adams 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」

4.アンセル・アダムス
「Half Dome, Merced River, Winter, Yosemite Valley, 1938」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

4.アンセル・アダムス
「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

6.バーバラ・クルーガー
「Untitled (Don’t Shoot), 2013」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約7,425万円

7.ゲルハルド・リヒター
「Untitled (Park), 1990」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年2月12~13日開催
約7,045万円

8.ラースロー・モホリ=ナジ
「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs”
2020年3月24日~4月3日開催
約5,764万円

9.ティナ・モドッティ
「Interior of Church Tower at Tepotzotlan, 1924」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs from the Ginny Williams Collection”
2020年7月14日開催
約5,500万円

9.杉本博司
「North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約5,500万円

為替レート(1ドル/110円、1ポンド/140円)

2020年秋/ロンドン・パリ アート写真オークションレビュー

通常は11月に開催されるフォトフェアー「Paris Photo」に合わせて行われる大手業者によるパリ/ロンドンの定例公開アート写真オークション。今シーズンは、春と同様にコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

フィリップスは、“Photographs”オークションを日程前倒しで9月25日にロンドンで開催。ササビーズは、10月14日にロンドンで“Photographs”をオンライン開催、クリスティーズは、11月10日にパリで“Photographies”を開催している。
個別の結果は、業者によってかなりばらつきがあった。

フィリップス・ロンドンの“Photographs”は、予想外に良い結果で市場関係者を驚かせた。総売り上げ約270万ポンド(約3.78億円)、173点が出品されて149点が落札、落札率は約86.1%と良好な結果だった。
高額落札には、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、ハーブ・リッツなどのアート系ファッション写真が続いた。最高額はマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。

Phillips London “Photographs”, Mario Testino “Exposed, Kate Moss, London, 2008”

これは230X170cm、エディション2の大判カラー作品。ヴォーグ誌英国版の2008年10月号に掲載された作品。落札予想価格8~12万ポンドのところ、23.5万ポンド(約3,290万円)で落札された。
続くはリチャード・アヴェドンの“Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959”。約58.7X51cmサイズ、エディション35もモノクロ銀塩作品。ハ―パース・バザー誌1959年3月号に掲載された作品。落札予想価格18~22万ポンドのところ、21.25万ポンド(約2,975万円)で落札されている。

一方で、ササビーズ・ロンドンのオンライン開催の“Photographs”は苦戦を強いられた。総売り上げ約107.7万ポンド(約1.50億円)、149点が出品されて77点が落札、落札率は約51.6%と非常に厳しい結果だった。
特に高額価格帯が不調で、最高額の落札予想作品だった、今年亡くなったピーター・ベアードの巨大サイズ作品“Large Mugger Crocodile, Circa 15-16 Feet, Uganda,1966”は、落札予想価格10~15万ポンドだったものの不落札。トーマス・シュトルートの“MUSEE D’ORSAY I’, PARIS, 1989”も、落札予想価格8~12万ポンドだったが不落札だった。最高額で落札されたのは、これもフィリップス・ロンドンと同じマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。こちらは、サイズが多少小さい180X125cm、エディション3の作品。落札予想価格6~8万ポンドのところ、7.56万ポンド(約1,058万円)で落札された。
この中で好調な結果を残したのが、ウォルフガング・テイルマンズ。8点が出品されて7点が落札。そのうち5点が落札予想価格上限越えの高値による落札だった。

Sotheby’s London “Photographs”, Wolfgang Tillmans ““PLAN, 2007”

最高額は人気の高い抽象作品“PLAN, 2007”。61X50.7cmサイズの1点もの作品。落札予想価格3~4万ポンドのところ、4.78万ポンド(約669万円)で落札された。

クリスティーズ・パリの“Photographies”は、結果が極端だった上記2つのオークションと比べるとちょうど平均的だった。総売り上げ約209.9万ユーロ(約2.62億円)、129点が出品されて90点が落札、落札率は約69.7%だった。
最高額はヘルムート・ニュートンの代表作“Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”だった。

Christie’s Paris “Photographies”, Helmut Newton “Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”

これは102X67cmの大判作品。落札予想価格12~18万ユーロのところ、なんと40万ユーロ(約5000万円)で落札された。同作は2005年10月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Elfering Collection”に出品され9.84万ドルで落札されている。為替レートの違いで単純比較はできないが、円貨に直すとが2005年当時のドル円は1ドル/114円だったので、約1,121万円、2020年11月のユーロ円レートが125円なので約5,000万円になった計算になる。約15年で1年複利で約10.482%で運用できた計算になる。
続いたのはアーヴィング・ペンの「Small Trades」シリーズからの約49X37cmサイズのプラチナプリント“Lorry Washers, London, 1951”。落札予想価格6~8万ユーロのところ、11.875万ユーロ(約1484万円)で落札されている。ちなみにペンの同シリーズからは4点が出品されているがいずれも落札予想価格範囲内から上限越で落札。高額落札順位では2位~5位を占めていた。

今秋のロンドンとパリで開催された大手業者によるオークションでは、コロナ禍でもファインアート写真市場が十分に機能していることが明らかになった。開催地の通貨が違うので円貨換算して昨年同期と単純比較すると、合計売上は2019年の約7.64億円に対して2020年は7.87億円とほぼ同額。落札率は2019年の約75.6%に対して、2020年は約70%となっている。米国市場の売り上げが落ち込んでいるのと比べて英国/欧州市場は検討したと評価できるだろう。セカンダリー市場はオンラインなどを取り入れることで、コロナ禍でも十分対応できることが証明された。この非常時における関係者の努力に心より敬意を表したい。
ただし落札作品の内容を見ると、絵柄が分かりやすい有名写真家のアイコン的アート系ファッション写真が高額売り上げの上位を占めていた。人気作と不人気作の2極化が続いているのだ。今後もこの傾向が続くのか、来春以降の市場動向を注視していきたい。

(1ポンド・140円、1ユーロ・125円で換算)

2020年秋ニューヨーク
アート写真オークションレヴュー
コロナ禍でも市場は機能/売上額は減少

通常は10月に集中的日程で行われる大手業者によるニューヨーク定例公開アート写真オークション。今シーズンは春と同様に、コロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

クリスティーズは、9月30日に複数委託者による“Photographs”を、10月14日には単独コレクションからのセール“The Unseen Eye: Photographs from the W.M. Hunt Collection”をともにオンラインで開催した。
ササビーズは “Photographs”を、“Contemporary Photographs”と“Classic Photographs”の2部にわけて10月1日に開催。
フィリップスは、“Photographs”オークションを日程を10月14日にずらして開催している。

今秋のオークションは、コロナウイルスの影響が本格的に反映される初めての機会として注目された。結果は、3社合計で709点が出品され、480点が落札。不落札率は約32.3%だった。最終的な出品点数は2019年秋の772点(不落札率33.4.8%)から若干減少。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。しかし2020年春の、1079点で799点落札、不落札率約25.6%と比べると、出品数が約34%減少、落札率も約6.7%悪化している。総売り上げは、約765万ドル(約8.42億円)で、2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)から大きく減少。落札作品1点の平均落札額は約16,000ドル。2020年春の約17,000ドル、2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルルから大きく減少している。

各シーズンごとの合計売上の数字を比較すると、リーマンショック後に急激に落ち込んだ2019年春の約582万ドル以来の低い結果だった。2020年春秋合計のニューヨーク大手オークション売上は約2133万ドルで、2019年の年間約3528万ドルから約39.5%減少した。これも2009年の約1980万ドル以来の低水準だった。2020年のコロナウイルスの影響は、売り上げで見るとリーマンショック級のインパクトを市場に与えたということだろう。市場の先行きの見通しが不透明なときには、貴重な高額評価の作品は市場に出てこなくなる。どうしても中低価格の作品中心の売買となり、落札単価が下がり全体の売上高は減少する。

Phillips NY “Photographs”, László Moholy-Nagy, “Fotogramm1925-1928”

今シーズンの写真作品の最高額は、フィリップス “Photographs”オークションに出品されたラースロー・モホリ=ナジ(1895-1946)の、“Fotogramm, 1925-1928,1929”だった。落札予想価格8万~12万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札された。
続いたのはクリスティーズ “Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの大判156.2 x 149.8 cmサイズの“Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”。落札予想価格8万~12万ドルのところ35万ドル(約3850万円)で落札された。本作は2000年10月13日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで3.525万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約20年で約12.16%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Richard Avedon “Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”

ササビーズの“Classic Photographs”には、アンセル・アダムスの39.7X48.9cmサイズの30年代後半から40年代前半にプリントされた貴重な
“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”が出品された。こちらは落札予想価格20万~30万ドルのところ約27.7万ドル(約3047万円)で落札されている。

Sotheby’s NY “Classic Photographs” Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”

今秋のオークションでは高額落札が期待された作品の不落札が目立った。
フィリップスでは、アンドレス・グルスキーの“Sao Paulo, Se, 2002”、落札予想価格40万~60万ドル、ササビーズの“Classic Photographs”に出品されたダイアン・アーバスの“A Family on their Lawn One Sunday in Westchester, N.Y., 1968”と、ヘルムート・ニュートン“Charlotte Rampling at the Hotel Nord Pinus II, Arles, 1973”がともに落札予想価格30万~50万ドルだったが不落札だった。

いまグルスキーをはじめドイツのベッヒャー派の作品相場は10年前と比べて大きく下落しているという。2011年に現代ドイツの写真家の作品はオークションで合計2,100万ドルを売り上げているが、2019年には総額が50%近く減少し、1,060万ドルになったとアートネット・ニュースは報じている。(アートネット価格データベースによる)今シーズンは相場がやや調整局面の中で、更なるコロナウイルスの影響による心理的要因が重なり、売り手も買い手が積極的にならなかったのだろう。だがグルスキーなどの市場での高評価に変わりはない。彼の人気の高い作品は既に美術館などの主要コレクションに収蔵されており、それらは再び市場に出ることがない。もし代表作がオークションに出品されることがあれば売上高も再び上昇するだろう。

いまニューヨークの株価は金融緩和の継続やワクチン開発期待を背景に高値で推移している。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。来春のシーズンには、コロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくるのではないだろうか。
ちなみにリーマンショック後の2019年春には売り上げが激減したものの、秋には急回復している。

(1ドル/110円で換算)

2020年前半のアート写真市場
コロナ禍でもオンライン・オークションが機能する

通常は3月下旬から4月上旬にかけてニューヨークで行われる大手業者による定例公開アート写真オークション。今シーズンはコロナウイルスの影響で、メインの複数委託者による“Photographs”オークションへの対応が、開催時期の変更、オンライン開催などと各社で分かれた。また通常は夏休みに入る7月まで、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーのセールが複数開催される事態となった。

ちなみにメインの“Photographs”を含めて、ササビーズ4件、クリティーズ4件、フィリップスが2件を開催。3社合計で1079点が出品され、799点が落札。不落札率は約25.6%だった。最終的な出品点数は2019年春の739点(不落札率24.8%)、2018年春の761点(不落札率26.5%)から大幅に増加。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。
一方で総売り上げは、約1381万ドル(約約15億円)。2019年春の2146万ドル、2018年春の1535万ドルからは減少。しかしほぼ2019年秋と同じレベルを確保している。従って落札作品1点の平均落札額は、2020年春は約17,000ドル(約187万円)だった。2019年春の約38,000ドル、2018年春の約27,000ドルから大きく減少している。

New York アート写真オークション3社売り上げ Spring/Autumn

今シーズンの写真作品の最高額は、既報のように7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション「ONE, a global 20th-cantury art auction」に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。ファインアート写真中心のオークションでの最高額は、ササビーズの“Photographs”に出品されたラズロ・モホリ=ナギの「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」。落札予想価格40~50万ドルのところ52.4万ドル(約5764万円)で落札された。続いては、ササビーズの“Photographs from the Ginny Williams Collection”の、ティナ・モドッティ“Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”。落札予想価格20~30万ドルのところ50万ドル(約5500万円)で落札された。

Sotheby’s, Tina Modotti “Interior of Church Tower at Tepotzotlán, 1924”

同セールでは、エドワード・ウェストンの美術館での展示歴のあるヴィンテージ・プリント“DUNES, OCEANO, 1936”も、落札予想価格12~18万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札されている。
モドッティの次は、既報のようにフィリップスの“Photographs”ではアンセル・アダムスによる壁画サイズ99.1 x 160.7 cmの“Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California, 1944”となる。落札予想価格30~50万ドルのところ41.25万ドル(約4537万円)で落札されている。

世界市場に目を向けると、2020年7月末までにニューヨーク、パリ、ウィーン、ベルリン、ケルンなどで17件の“Photographs”関連オークションが開催されている。合計2462点が出品され、1664点が落札。不落札率は約32.4%。円貨換算の売り上げ合計が約19.9億円。ちなみに2019年前半の結果は、欧米で18件のオークションが行われ、合計2723点が出品され、1838点が落札。不落札率は約32.5%。円貨換算の合計が約43.2億円だった。出品数、落札率はほぼ変化がないものの、売り上げが約54%減少。1点当たりの落札金額が、約234.8万円から約119.5万円へと約49%減少している。これはコロナウイルスの影響でほとんどがオンライン中心のオークションになったことで、貴重で評価の高い作品の委託が減少するとともに、中価格以下の作品の出品が増加したからだと思われる。

また今シーズンは、最低落札価格がない、もしくは極めて低いレベルに設定されていたオンライン・オークションが、ササビーズ“Legends, Landscapes, and Lovelies”、“The Ginny Williams Collection: Part II” の2件、クリスティーズ“Walker Evans: An American Master”、“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”の2件が行われた。以前にも紹介したように、これらのセールは、19世紀/20世紀写真が多かった。全作落札されたものの、一部作品が極端に低い、やや投げ売りのような印象さえある価格で落札されているのだ。これが売り上げ総額を引き下げた一因だと思われる。
市場を取り巻く環境はコロナウイルスの影響で非常に悪いと言えよう。委託者にはオークション出品見合わせで、様子見という選択肢もあったと思う。しかし、あえて厳しい環境下で出品を強行したのは、感染の終息まで待ってもこの分野の写真作品の相場が大きく改善する可能性は高くない、またさらに悪化する可能性すらあるという判断なのかもしれない。

南半球が夏期を迎えたに関わらず、世界的にコロナウイルス感染が収まる気配がない。空気が乾燥する秋以降の第2波に対する懸念も問い沙汰されている。2020年前半、各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。大手各社の危機時の積極的かつ柔軟な対応が非常に印象深かった。全体的には、ニューヨークの大手業者の結果はオンライン・オークションにより昨秋並みを確保しているものの、米国、欧州の中小業者はかなり苦戦したという構図だ。秋冬も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りすると思われる。

一方で業務の100%オンライン化が難しいギャラリーは、コロナウイルスの先行きが読めない中で、秋冬の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも可能なビジネス企画を考えないといけないのだ。わたしどものギャラリーも他人ごとではない。

(1ドル/110円で換算)

海外最新オークション情報 (Part-2)
現代アート化する20世紀写真

前回は、大判サイズのアイコン的ファッション写真が市場で現代アート作品として高額で取り扱われる事例を紹介した。同様の事例は、モノクロの抽象美とファインプリントの美しさを愛でる20世紀写真でも散見される。

7月13日にフリップス・ニューヨークで「Photographs」オークションが開催された。これは春のオークションがコロナウイルスの影響で延期されたもの。最注目作品だったのが20世紀写真の代表的写真家アンセル・アダムスの壁画サイズ99.1 x 160.7 cmの「Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California、1944/1967」。落札予想価格は30~50万ドルのところ、41.2万ドル(約4532万円)の同オークションでの最高額で落札された。

Phillips New York “Photographs”, Ansel Adams, 「Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine California 1944/1967」

アンセル・アダムスの壁画サイズの巨大作品は1930年代に主にパブリック・アートとして考案され制作されている。フリップスの資料によると、最初にこのサイズの写真作品が展示されたのは1932年ニューヨーク近代美術館で開催された「Murals by American Painters and Photographers」。同展カタログでアート・ディーラーのジュリアンレヴィ(Julian Levy)は、「良い壁画は、単に小さな写真を機械的に拡大したものではありません。拡大された壁画は新しい独立した作品であり、写真の最終的なスケールを事前に視覚化していない写真家は、たいていの場合、その結果に驚きと落胆を覚えるでしょう」と書いている。その後、1935年にアンセル・アダムスは、ヨセミテパーク&カレーカンパニーの依頼でヨセミテ国立公園の壁画サイズ作品を初めて製作している。主にアメリカン・トラスト・カンパニー(後のウェールス・ファーゴ銀行)やポラロイドなどの企業の依頼でこのサイズの作品を限定数制作している。本出品作品は、Schwabacher Brokerage Companyの依頼で1967年に制作依頼された作品。その後、弁護士Roger Poynerに購入され、彼の法律事務所に展示されていた。大きな特徴は保険目的で依頼された、アンセル・アダムスのサイン入り作品証明書が付いていること。通常、このサイズ作品は、当初は展示目的であり、裏打ちされることからサインは入らない。興味深いのは、この手紙には同作の1969年の価値が600ドルで、保険つまり再制作費用は、その60%の360ドルだと記していること。
本作は、約53年で約686倍、年複利で計算すると約13.1%程度で運用できた計算になる。

Christie’s, The Range of Light : Photographs by Ansel Adams”

アンセル・アダムスの同じ壁画サイズの“Winter Sunrise, Sierra Nevada from Lone Pine, California,1941”作品は、2014年4月3日にクリスティーズで行われた、アンセル・アダムス単独オークション“The Range of Light : Photographs by Ansel Adams”に出品されている。2014年の米国は穏やかな景気回復が続いており株価も堅調だった時期だ。同作はカタログ表紙を飾り、サイズはやや小さい約92X139cm。落札予想価格は30万~50万ドル(約3000~5000万円)のところ、54.5万ドル(当時は1ドル100円/約5450万円)で落札されている。
今回のウィズ・コロナ時代においてのオークション高額落札は、2014年の落札が決して偶然の競り合いによる結果でなかったことを証明しているだろう。

ちなみに、アンセル・アダムスの最高額は巨大な壁画サイズ作品ではない。ササビース・ニューヨークで2006年10月17日に開催されたオークションに出品された小さい14X19″サイズの代表作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。彼のアシスタントを勤め、生涯の友人だった写真家パークル・ジョーンズのコレクションからの出品。プリントが極めて困難だったネガを再処理する以前の1948年にプリントされた初期作品。1000枚以上プリントされたといわれる作品だが、その中でも抜群の来歴と希少性を兼ね備えていた。落札予想価格は15~25万ドルのところ、約60.96万ドル(1ドル115円/約7000万円)で落札されている。

Sotheby’s New York, Ansel Adams “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”

2000年代になり、アンセル・アダムスの木製パネルなどに貼られていた巨大作品の高額落札が定着してきた。1990年代には、それらはサインがないし、作品むき出しによるコンディションの問題もあり、ポスター的な作品と考えられており、市場の評価も決して高くなかった。近年の傾向は、アダムスはアナログ銀塩写真のサイズの限界に挑戦していたアーティストだったことが現代アート的視点から再評価されている証拠。いま主流の現代アート系写真の元祖的な存在で、巨大作品はその象徴だと認識されているのだ。もし状態の良い、優れた来歴の作品が市場に出てくれば今後も高値による落札が続くのではないか。

一方で、最近は現代アートの視点で作家性が再評価されない20世紀写真も顕在化している。それらは、知名度のある作家の代表作にコレクターの興味が集中する傾向がある。いま市場では、ファッション系を含む一部の20世紀写真と現代アートとの融合が着実に進行中なのだ。

(為替レートは1ドル110円で換算)

海外最新オークション情報(Part-1)
現代アート化する巨大ファッション写真

Christie’s「ONE, a global 20th-cantury art auction」

平常時の5月から6月にかけては、ニューヨーク、ロンドンで印象派、モダン、戦後アート、現代アート作品などの主要作品のライブ・オークションが開催される。しかし今シーズンは、コロナウイルスの影響で状況が一変した。大手のサザビーズ、クリスティーズ、フィリップスは、開催者、参加者の健康を考慮した、ライブ・ストリーミングなどを利用した新しい仕組み構築を短期間に求められた。多くは手探り状態で開催されたが特に大きな混乱はなかったようだ。結果をみるに、買い手の興味は、パンデミックがきっかけの景気悪化懸念の中でも大きく減速していないようだった。しかし、売り手は高額落札の可能性が薄い市場環境だとの判断から、貴重な良品を消極的に提供しようとしなかったようだ。

その中でも注目されたのが、7月10日にクリスティーズが実施した、「ONE, a global 20th-cantury art auction」。これは複数パートからなるライブ・セールが、アート界の主要ハブの、香港、パリ、ロンドン、ニューヨークを連続して移動しながら、時差を超えてリアルタイムで開催するもの。クリスティーズによると、「各地展示室のオークショナーが中心となって、イブニング・セールの興奮とドラマを、世界中の対面式とオンラインの両方の観客に向けて新たなセール体験を提供する試み。今回のグローバルセールでは、カテゴリーを超えた、国境を越えたアートが一つの究極のビジョンの中に集結し、この特別な時代とその先のための前代未聞のイベントとなります」とのこと。

Christie’s 「ONE」auction, Richard Avedon 「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

本セールに出品された写真作品はリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」の1点のみだった。203.2 x 161.2 cmの巨大サイズで、エディションは9/10、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと181.5万ドル(約1.99億万円)で落札。これはアヴェドン作品のオークション最高価格となる。これまでの記録は、2010年11月20日に、クリスティーズ・パリで行われたアヴェドン作品の単独オークション「Photographies Provent de la Foundation Richard Avedon」で落札された同じイメージ作品の84.1万ユーロ(約115.3万ドル)だった。同作のサイズは、216.8 X 166.7cm、1978年のメトロポリタン美術館の展覧会で展示され、その後アヴェドン事務所の入り口に展示されていた極めて価値ある作品だった。モデルのドヴィマ着用のイーブニング・ドレスをデザインしたメゾン・クリスチャン・ディオールが落札している。

Christie’s Paris「Photographies Provent de la Foundation Richard Avedon」

今回の落札価格は、20世紀ファッション写真としては高額だが、数億円での落札が当たり前の現代アート作品の相場からみれば魅力的な価格といえるだろう。特にこの「ONE, a global 20th-cantury art auction」は、高額アート作品が数多く出品されたオークションだった。参加者の作品価格を判断する参照点が高くなっていたのかもしれない。ちなみに同オークションの総売上高は4.21億ドル(約463億円)、落札率は94%、最高額はロイ・リキテンスタイン「Nude with Joyous Painting (1994)」の4620万ドル(約50.8億円)だった。アヴェドンの落札価格は、同オークションの他の高額作品と比較すると心理的にとても安く感じてしまう。
ちなみに、ここ数年はファッション写真の壁画サイズ作品の高額落札が続いている。2019年の現代アート系以外の写真オークションの最高額落札は、フィリップス・ニューヨークで4月4日に行われた「Photographs」に出品されたヘルムート・ニュートンの2点組み写真「Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981」だった。同作は、戦後社会の新しい女性像を表現したニュートンの代表作であり、197.5 X198.8cmと196.9 X 183.5cmの巨大サイズだった。落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(約2億円)のニュートンのオークション最高額で落札されている。

Phillips NY, Helmut Newton 「Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981」

2018年の最高額もヘルムート・ニュートン。フィリップス・ロンドンで5月18日に行われた「ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales」オークションに出品された1点ものの可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品「Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989」。落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(1ポンド150円/約1.09億円)での落札だった。

これらの作品は、従来のアート系ファッション写真の範疇というよりも、作家性と巨大サイズ作品とが現代アート的な価値基準で評価されたと考えるべきだろう。どちらにしても、いま市場では巨大サイズのファッション写真と現代アートとの融合が着実に進行中なのだ。

次回(Part-2)では、市場における20世紀写真と現代アートとの関係を分析してみたい。

(為替レートは1ドル110円で換算)

ニューヨーク春のアート写真市場(4)
スワン・オークション・ギャラリーが“Fine Photographs”オークションを実施!

スワン・オークション・ギャラリーは、コロナウイルスの影響で延期されていた“Fine Photographs”オークションを6月11日に開催した。他社と違うところは、オンライン・オンリーではなく、ライブのオンライン・オークションだったこと。会場に人がいて競り合う公開ライブ・オークションではなく、オンライン、電話、書面など様々な方法の入札をオークショナーな仕切る方法のようだ。セカンダリー市場の場合、コンディションレポートが信頼できれば特に現物を見なくても作品購入する人は少なくない。このような開催方法と相性が良いだろう。「withコロナ」の時代には、ライブ・オンライン・オークションは、より一般化する可能性が高いと考える。

出品作数は324点、217点が落札、不落札率は約33%。総売り上げは約85.2万ドル(約9379万円)だった。昨年の春と比べると、1万~5万ドルの中間価格帯の落札率が低迷。結果的に総売り上げも約122万ドルから約30%も減少した。全般的に、市場状況を鑑みて落札予想価格の範囲をかなり広めに設定している印象を持った。結果に対する評価は分かれると思うが、少なくともコロナウイルスの影響下でもアート写真の市場は十分に機能していることを示したといえるだろう。

Swann Auction Galleries NY, Michael Halsband, “Andy Warhol and Jean-Michel Basquiat, 1985”

最高額はマイケル・ハルスバンド (MICHAEL HALSBAND /1956- )の“Andy Warhol and Jean-Michel Basquiat with Boxing Gloves, NY , 1985”。80年代アート界のスーパースターのアンディ・ウォーホルとジャン・ミッシェル・バスキアを撮影したアイコン的作品。本作はシートサイズが 30×24 inches (76.2×61 cm)と大きめなのが特徴。落札予想価格2~3万ドルのところ、2.75万ドル(約302万円)で落札されている。時代が反映された広義のアート系ファッション写真という評価だと考える。
コレクターの積極的入札が期待された、ロバート・メイプルソープの“Lisa Lyon, 1980”、落札予想価格.3~4.5万ドル、リー・フリードランダーの“The American Monument, Volumes I and II, 1976”落札予想価格.2.5~3.5万ドルなどは不落札だった。

Christie’s , Ansel Adams, “Winter Sunrise, Sierra Nevada, from Lone Pine, California, 1944”

クリスティーズは、6月4日に“Ansel Adams and the American West Photographs from the Center for Creative Photography”オンライン・オークションを開催。アリゾナ大学のCCP(Center for Creative Photography)コレクションという一流の来歴を持った、1970年代に制作された、アンセル・アダムス作品のセールとなる。海外ではよく見られる、公共機関による新規コレクション購入のための重複コレクションの売却だろう。出品作数は34点、33点が落札、不落札は1点。総売り上げは約32.7万ドル(約3603万円)だった。
最高額は“Winter Sunrise, Sierra Nevada, from Lone Pine, California, 1944”落札予想価格4~6万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札されている。

クリスティーズは4月末から5月にかけて、取扱い分野を19~20世紀のモノクロ写真に絞った“Walker Evans: An American Master”と“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”のオークションをオンラインで開催している。両方ともほとんどがニューヨーク近代美術館収蔵という最高の来歴の作品だった。しかし、すでにリポートしたように、落札予想価格下限を極端に下回る落札が相次いで市場関係者を驚かした。それに比べて、アンセル・アダムスのセール結果は、知名度の低い作品が多かった中で極めて順調だったと言えるだろう。落札予想価格上限以上の落札が14件、範囲内が1件、下限以下は18件、極端な低価格での落札は見られなかった。

アンセル・アダムスは、様々な技術的制約があったアナログ時代に、作品サイズ、プリント・クオリティーなどにおいて表現の境界線を広げる努力を行った。彼が開発した、フィルム露出と現像の技法であるゾーンシステムは、アナログのフォトショップ的だ、などと指摘する人もいる。いまではアンセル・アダムス作品は、現代のカラーによる大判の現代アート系風景写真の元祖だと再解釈されている。今回の結果をみても市場の評価は極めて正直なのが分かる。もしコレクターが写真家のアート性を正しく見極めることができれば、このような市場環境下には、価値ある作品を普段より安く購入するチャンスが訪れるのだと思う。

(1ドル/110円で換算)

ニューヨーク春のアート写真市場(3)
クリスティーズが春の定例オークションをオンラインで実施!

通常は3月下旬から4月上旬にかけて行われる大手業者によるニューヨークの公開アート写真オークション。今シーズンはコロナウイルスの影響で、各社とも開催時期の変更、オンライン・オークション開催で対応している。

クリスティーズは、メインの“Photographs”をオンラインに変更して、5月19日~6月3日にかけて行った。
出品作数は238点、130点が落札、不落札率は約45.3%。総売り上げは約242.2万ドル(約2.66億円)だった。全体的に、落札予想価格がやや高いなという印象を持った。今回の出品は、コロナウイルスの影響が顕在化する以前に委託者との最低落札価格を決めていると思われる。複数委託者のオークションの場合、急激な環境変化により数多い委託者との条件再交渉は困難を極めると思われる。多くの出品作は、たぶんほぼ同じ条件でオークションを実施したのだろう。高額落札が難しいとの判断で出品を取りやめた委託者もいたようだ。以上の複合的な理由から非常に厳しい落札結果になったといえるだろう。

ダイアン・アーバス“Family on their lawn one Sunday in Westchester, N.Y.,1968”、写真集から

今回の注目作で、高額落札が期待されていたのがダイアン・アーバスの“Family on their lawn one Sunday in Westchester, N.Y.,1968”。1968年のロンドンのサンデー・タイムズ・マガジンに掲載された、彼女の有名なポートフォリオ“A box of ten photographs”にも含まれる代表作。ちなみにドーン・アーバス(Doon Arbus)がサイン、ニール・セルカーク(Neil Selkirk)プリントの、エディション50の同10枚セットの最高額は、2018年4月6日クリスティーズ・ニューヨークで落札された79.2万ドル。アーバス作品のオークション最高額だ。

ダイアン・アーバスがサインした1点ものでは、有名作の手りゅう弾を持った少年“Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”が、2015年5月11日クリスティーズ・ニューヨークで開催された現代アートやモダンアート中心の“Looking Forward to the Past”オークションで78.5万ドルで落札。
“Family on their lawn one Sunday in Westchester, N.Y.,1968”の、ダイアン・アーバスがサインした1点ものの最高額は、ちょうどリーマンショック前の好況期だった2008年4月8日ササビーズ・ニューヨークで落札された55.3万ドル。

クリスティーズによると、今回の出品作は1968~1971年にプリントされ、作家サインが入ったペーパーサイズ16X20″作品、相場環境を意識した20~30万ドルの落札予想価格だったが、時期が悪く残念ながら不落札だった。この価格帯の貴重作品をコレクションするのは主に美術館。しかし、コロナウイルスの影響でほとんどが休館し、従業員を休職させているところもあった。新たな作品コレクションどころではなかったのだろう。
その他、ロバート・フランク、ピーター・ビアード、リチャード・アヴェドン、ピーター・リンドバーグなど、予想落札価格10万ドル以上の価格帯の注目作が不落札だった。いままでは比較的好調だった高額セクターの人気作も、価格の調整が進行する気配だ。

Christie’s NY, Peter Beard “But past who can recall or done undo (Paradise Lost), 1977”

最高額は今春に亡くなったピーター・ビアードの“But past who can recall or done undo (Paradise Lost), 1977”。 約50.8X220.9cmの巨大横長サイズの1点もの。落札予想価格7~10万ドルのところ、11.875万ドル(約1306万円)で落札されている。

続いたのはアーヴィング・ペンの“Rag and Bone Man, London, 1951”。1961年にプリントされた貴重な初期プラチナ・プリントで、落札予想価格4~6万ドルのところ、10.625万ドル(約1168万円)で落札された。ちなみに本作は、2001年5月10日のササビーズ・ロンドンで2,350ポンド(3,408ドル)で落札されている。単純に計算すると、19年でなんと約31倍、1年複利で計算すると約19.85%で運用できた計算となる。

Christie’s NY, Irving Penn, “Rag and Bone Man, London, 1951”

ペンのパリ、ロンドン、ニューヨークの労働者をヴォーグ誌の依頼で撮影した「Small trades」シリーズは、2001年当時は明らかに過小評価されていた。本格的に認められるのは、2009年9月にJ・ポール・ゲティ美術館で展覧会が開催されて、写真集が刊行されてからなのだ。ちなみにペンは2009年10月に亡くなっている。現役の有名人気作家の過小評価作品を見つけるのはコレクションの醍醐味だといえるだろう。
一方で、同じペンのファッション作品“Black and White Fashion (with Handbag) (Jean Patchett), New York, 1950”は、落札予想価格5~7万ドルのところ、6.25万ドル(約687万円)で落札。同作は2013年4月5日のクリスティーズ・ニューヨークで9.375万ドルで落札された作品。所有期間約7年の単純の利回りはマイナスで-5.62%となってしまう。ペンのファッション系は最も人気の高いカテゴリー。ちなみに2013年の落札予想価格は3~5万ドルだったことを考えるに、当時の落札額は明らかに過大評価だったといえるだろう。こちらは、逆に人気作家の人気作の購入タイミングの難しさを示唆している。

今後は、スワン・オークション・ギャラリーが、6月11日に324点の“Fine Photographs”の公開オークション開催を予定している。フィリップスも、開催時期を変更して“Photographs”236点の公開オークションを7月13日に開催する。ただし、コロナウイルスの影響もあり、入札の中心はオンラインや電話になると予想されている。

(1ドル/110円で換算)

ニューヨーク春のアート写真情報(2)
クリスティーズがオンライン・オークションを開催!

ニューヨークの株価は3月中旬の大きな急落から持ち直している。米連邦準備理事会(FRB)が大規模金融支援の発表し、企業の資金繰り不安が収まったことによる。新型コロナウィルスの感染拡大のピークは過ぎたとして、全米で経済活動が再開しつつある。しかし、このところ非常に厳しい経済指標の発表が続いている。4月の鉱工業生産指数は前月比11.2%低下、これは過去100年で最大の落ち込みとのこと。小売売上高も前月比16.4%も減少。5月に入り、百貨店大手JCペニー、ニーマン・マーカス、衣料品チェーンのJクルーが相次いで経営破綻している。経済活動再開で、7~9月期の経済成長はプラスに転じそうだが、新型コロナ感染第2波のリスクもあり、当初言われていたよなV字回復は難しそうだ。

アート写真市場で、今回のコロナウィルスが従来の景気悪化と違う点は、美術館、ギャラリーなどが長期にわたり閉鎖されていること。美術館は閉鎖期間の入場料収入が蒸発する、ギャラリーは売り上げが減少する。ともに経営が非常に厳しくなる。一部では従業員のレイオフが始まっているという。従来、美術館はオークション市場を通してアート史での重要作品を購入し、コレクション充実を図っていた。ギャラリーは、在庫の仕入れ元だった。このような状況だと、彼らの新規購入は難しく、今後は逆に運転資金確保のためのコレクション、在庫の売却に動く可能性もあると考える。

さて参考のために2008年の金融危機後の市場動向を振り返ってみよう。
2008年にはニューヨークの大手3社の年間売り上げは約1.22億ドルだった。明らかにバブルの様相を呈していた。それが2009年には1980万ドルと、約83%も減少。その後、2013年には約4782万ドルまで回復したが再度低迷する。2019年の売り上げは約3528万ドルと、ピークだった2008年の28%にとどまっている。
売り上げが回復しないのは、写真表現においても現代アート系作品の存在感が増してきたことが背景にあると考える。つまり、現代写真は“Photographs”ではなく、他のアート作品と共に“Contemporary Art”系カテゴリーでの取り扱いになる場合が多くなっている。

さて既にレポートしたように、通常は3月下旬から4月上旬にかけて行われる大手業者によるニューヨークの公開アート写真オークションは全て中止となった。各社、開催時期の変更やオンライン・オークション開催で、コロナウィルス感染時の市場動向を探っている状況だ。
大手3社の対応方法は全く違う。既報のようにササビーズは3月24日から4月3日までの期間に、ほぼ公開オークションと同じ内容で“Photographs”を開催。結果は122点が入札されて落札率は約61.3%、総売り上げは約299万ドル(約3.29億円)を達成している。
クリスティーズは、メインの“Photographs”をオンライン・オンリーに変更して、5月19日~6月3日にかけて238点のオークションを行う。フィリップスは、開催時期を変更して“Photographs”236点の公開オークションを7月13日に開催、同様にスワン・オークション・ギャラリーも、6月11日に324点の“Fine Photographs”の開催を予定している。公開オークションでも、入札の中心はオンラインや電話になると予想される。

一方、クリスティーズは4月末から5月にかけて取扱い分野を19~20世紀写真に絞った二つのオンライン・オークションを行った。4月21日~29日にかけて、“Walker Evans: An American Master”、4月30日~5月13日にかけてピクトリアリズムからモダニズム関連のモノクロ写真を集めた“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”を開催。作品の詳細をみるに、両方ともほとんどがニューヨーク近代美術館収蔵という最高の来歴の作品。たぶん海外でよくある、新規コレクション購入のための重複コレクションの売却なのだろう。
両オークションともに全作品が落札されたものの、その詳細は驚くべきものだった。どうも今回は最低落札価格が設定されていないか、極端に低い金額に決められていたようだった。“Walker Evans: An American Master”では、落札39点のうち落札予想価格下限以下での落札が36点に達した。総売上げは9.1875万ドル(約1010万円)。1000ドル以下も4点あった。

Christie’s NY, Edward Steichen “Heavy Roses, Voulangis, France, 1914”

“From Pictorialism into Modernism: 80 Years of Photography”では、89点中78点が落札予想価格下限以下の落札。総売り上げは約30.5375万ドル(約3359万円)。出品写真家は、エドワード・スタイケン、アルフレッド・スティーグリッツ、イモージン・カニンガム、イルゼ・ビング、ベレニス・アボット、ドロシア・ラング、アンリ・カルチェ=ブレッソンなど一流どころ21名。ただし、写真家の代表的作品は非常に少なかった。スタイケンやカルチェ=ブレッソンのような有名写真家の多くの作品も、最低落札予想価格下限の数分の一という、通常なら不落札の信じられない低い金額で落札されていた。1000ドル以下は26件だった。
最高額は、エドワード・スタイケンの“Heavy Roses, Voulangis, France, 1914”。落札予想価格4~6万ドルのところ2.75万ドル(約302万円)で落札。アンリ・カルチェ=ブレッソン“Madrid, 1933”も、落札予想価格3~5万ドルのところ、同額の2.75万ドル(約302万円)で落札された。

Christie’s NY, Henri Cartier-Bresson “Madrid, 1933”

もともと新世代のコレクターにあまり人気がなかった19~20世紀写真。有名写真家の代表作以外は動きが極端に鈍くなっていた。写真表現でも現代アート系作品が市場の中心になる中で、もし19~20世紀写真にアート的価値を見出すのなら今回のオークションでの買い物はバーゲン価格だっただろう。しかし、それらに古い骨董品や伝統工芸の写真版の価値しかないと認識する人には適正価格ということではないか。今回は、大手オークション会社の、有名写真家の、最高の来歴の作品だったから低価格でも落札されたと考える。それ以外の作品の評価は本オークション結果が既成事実となり、かなり厳しくなると予想できる。この分野の在庫を抱えるディーラーは肝を冷やしているのではないだろうか。
いま市場では、アート性がある人気アーティストとそれ以外、重要作と不人気作、という二つの2極化が同時進行している。今春のいままでのオークションではこの傾向が強まった印象だ。しかしそれらは世界的な緊急事態下という極めて特殊な時期に開催された。多くの参加者は、健康を第一義と考え、決して冷静に作品を総合評価していなかったと思う。
これからのコロナウィルスとともに生きる新しい時代、はたしてこの流れが続いていくのだろうか?初夏に予定されている、各社の“Photographs”オークションの動向に注目したい。

(1ドル/110円で換算)