MoMAオンラインオークションの続報 いま20世紀写真は誰がコレクションするのか?

アート写真市場の本格的な幕開けは、ニューヨークで4月に行われる大手業者のオークションからだ。今年は、クリスティーズで昨年秋から断続的に行われているニューヨーク近代美術館(MoMA)の重複コレクションを売却するオンラインオークションが既に年初に行われている。124日締め切りが“MoMA: Bill Brandt”25日締め切りが“MoMA: Garry Winogrand”だった。二人はMoMAにゆかりの深い20世紀写真家として知られる。

“Bill Brandt: A Life” Stanford Univ Pr, 2004

英国人写真家ビル・ブランド (1904-1983)は、1941年のグループ展で展示されて以来、ドキュメントやヌードなどが何度も展示されている。初個展“Bill Brandt”1969年に開催、その時にプリントされた多くの作品が今回のオークションに出品されているという。その後、19831984年に2回目の個展“Bill Brandt 1905-1983”、死後の2013年にも “Bill Brandt: Shadow and Light”が開催されている。
本オークションでは、落札予想価格2000ドル~10000ドルの43点が出品。落札率は100%、総売り上げは43万ドル(約4730万円)だった。最高落札作品は、目部分を拡大したポートレート“Jean Arp, 1960”で、落札予想価格5000~7000ドルのところ35,000ドル(約385万円)で落札されている。(紹介している写真集“Bill Brandt A Life”の表紙は別作品)

“Garry Winogrand: The Game of Photography” Tf Editions, 2001

米国人写真家ゲイリー・ウィノグランド (1928-1984) は、ウォーカー・エバンスを崇拝し、ロバート・フランクをリスペクトしていたことで知られている。1955年にエドワード・スタイケンが企画した伝説的展覧会“The Family of Man”に選出される。スタイケンは、彼のプリント3枚を合計30ドルで購入したとのことだ。1963年には、同館の当時の新任写真部長ジョン・シャーカフスキーが企画した“Five Unrelated Photographers”に選出。ウィノグランドはシャーカフスキーの多大な影響を受けたことで知られている。
1967年には、これも写真史上重要な“New Documents”展にダイアン・アーバス、リー・フリードランダーとともに選出された。しかし彼は56歳という若さで亡くなってしまう。なんと死亡時には約2500本の未現像フィルムが残されていたという。それを整理するのには約4年の時間がかかり、1988年に死後の回顧展“Garry Winogrand : Figments from the Real World”が開催された。90年代には、コレクターのBarbara Schwartzが同館に約200点のウィノグランド作品を寄贈。その後、1998年には“Garry Winogrand : Selections from a major Acquisition”が開催された。今回のオンラインオークションの出品作はこの時の展示作品が多くを占めるとのことだ。こちらは、落札予想価格3000ドル~10000ドルの作品48点が出品。落札率は約96%、総売り上げは18.68万ドル(2054万円)だった。最高額は、“World’s Fair, New York City, from Women Are Beautiful, 1964″、こちらは1981年プリントのエディション80点の作品。落札予想価格8000ドル~12000ドルを超える16,250ドル(178万円)で落札。(上記写真集の表紙作品)

いずれのオークションも落札率が高かったのは、通常のような価格に最低落札価格(リザーブ)が設定されていなかったからだと思われる。リザーブは通常は未公開だが、だいたい落札予想価格下限の80%前後に設定される。結果を見渡してみると、写真集掲載の有名作などは落札予想価格上限を超える価格で落札されている。しかし一部の不人気作は予想落札価格下限を大きく下回る1000ドル台でも落札されている。通常通りの最低落札価格が設定されていれば不落札だったと思われる。

MoMAオンラインオークションという、最高の来歴の写真作品でも、ブランド力が弱い写真家の市場性は相変わらず低いようだ。実際に昨年末に開催された、より知名度が低い20世紀の女性写真家のオンライン・オークション“MoMA:Women in photography”の落札率は約62%201710月に開催された“MoMA: Pictorialism into Modernism”の落札率は約52%同じく10月に行われた“MoMA: Henri Cartier-Bresson”でさえ落札率は約71%だった。
20世紀を代表する有名写真家による、MoMA収蔵作品でも、有名作以外は需要が思いのほか低いのが現状のようだ。ここ数年続いている市場の傾向がここでも明らかだった。
もし一連のオークションが15年位前に行われていたら状況はもっと良かったのでないか。有名写真家の銀塩モノクロ写真は、従来のコレクターが最も好んだカテゴリーだ。しかし、2010年代に入りベテラン・コレクターが亡くなったり引退し、また売り手に回ることで、購入サイドでの彼らの影響力が落ちてきている。一方でベビーブーマーやジェネレーションX世代が市場に参加してきたものの、彼らの好みは現代アート系や有名写真作品が中心なのだ。またコレクション構築に興味があるというよりもデコレーションの一環として写真を含むアート作品を購入する傾向が強い。オークションハウスはそれらのニーズの受け皿として、マルチ・ジャンルのオークションを企画している。新しい世代の人たちは、コレクションを通してアートや世界を学ぶという姿勢があまりないのだろう。個人的には、販売価格があまり変わらない、現役アーティストによる派手で大判サイズのデジタルによるコンテンポラリー写真よりも、有名写真家による地味で小ぶりの銀塩の20世紀写真の方が将来的には高い資産価値を持つと考える。しかし、そこにアート的価値があると気づくには、様々な経験の積み重ねと地道な勉強が必要となる。かつてのアート写真コレクターは学んで視野が広がることに喜びを感じていたものだ。ただし、もし多くの人が価値を見出さないと作品の相場は永遠に上昇しないで忘れ去られてしまうという冷徹な現実もある。はたして未来のアート写真は高級ブランド品と同じ贅沢品の一部と、それ以外になってしまうのだろうか?
今後の動向を注意深く見守っていきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2018年アート写真市場 ジャンル横断のアート・オークションが開催!

今年のアート写真オークションはいよいよ今週からスタートする。

215日に、米国の中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)“Icons & Images:Photographs & Photobooks”が例年通り開催される。アート写真、ヴァナキュラー写真、フォトブックなど、ほとんどが1万ドル以下の低価格帯作品332点が出品される。今回はフォトジャーナリズムが特集されており、ルイス・ハイン (1874-1940) の作品が数多く出品されている。
高額落札が予想されるのは、カタログの表紙を飾るハインの代表作“Mechanic at Steam Pump in Electric Power House, Circa 1921”。落札予想価格は7万~10万ドル(770~1100万円)。ややブームが去った感があるレア・フォトブックはわずか19点の出品にとどまっている。

Swann Auction Galleries NY Catalogue

春前のアート市場は閑散期となる。オークション・ハウスは新しいコレクターを獲得するために新たな切口でアート作品やコレクタブルの紹介を試みる。今年はササビーズが積極的で、ロンドンとパリでユニークな取り組みを行う。

ササビーズ・ロンドンでは、216日までのオンライン・オークションでエロティック・アートに特化した“Erotic Art Online”を開催。

Sotheby’s London

絵画、彫刻、ドローイング、ヌード系写真など78点が出品。ハーブ・リッツ、パトリック・デマルシェリエ、ミッシェル・コンテ、ヘルムート・ニュートン、ボブ・カルロス・クラーク、ベッティナ・ランス、荒木経惟などが含まれる。

215日には、“Erotic: Passion & Desire”オークションを開催。こちらにはやや高めの評価の、リチャード・アヴェドン、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、マン・レイ、トーマス・ルフなどのヌード写真が他分野の作品とともに出品される。

ササビーズ・パリは、お求めやすい価格帯の現代アート、家具などのデザイン、アート写真をまとめ販売する“NOW!”228日に開催する。

Sotheby’s Paris NOW!

続いてササビーズ・ロンドンでは、英国にゆかりのある低価格帯の、絵画、版画、アート写真、陶器などを取り扱う“Made in Britain”320日に開催。

一方、フィリップス・ニューヨークは、高額セクターを含む幅広い価格帯の写真表現を含む現代アート系作品のオークション“NEW NOW”228日に開催する。このシーズンに行われる新機軸のオークションは徐々に定着しつつあるようだ。

定例のニューヨークの大手業者のアート写真オークションは、世界最大のフォト・フェア“The Photography Show”45日から8日に開催されるのに合わせて開催される。クリスティーズが46日、フィリップスが49日、ササビーズが410日を予定している。

実は今年になってからクリスティーズでは昨年来から続いているMoMAコレクションのオンラインセールが行われている。
1月には“MoMA: Bill Brandt”“MoMA: Garry Winogrand”が開催。こちらの分析は近日中にお届けする予定だ。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2017年アート写真高額落札
現代アート系を貴重なマン・レイ作品が撃破

Christie’s Paris “STRIPPED BARE” Auction Catalogue (Cover image Man Ray)

ここ数年、写真オークション高額落札のリストは、現代アート系作品で占められていた。20世紀写真が100万ドルの大台を超えることはめったになかった。しかし、2017年はマン・レイの極めて貴重な2作品が全体でも1位と3位に食い込んだ。2017年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”の、2,688,750ユーロ(約3.63億円)。

Phillips London, Andreas Gursky “Los Angeles, 1998-1999”

ちなみに2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999″の、1,689,000ポンド(約2.53億円)だった。

2017年の100万ドル越え作品は9点だった。2016年は5点、2015年は8点だったことからも、昨年後半から、高額セクター主導で相場が回復傾向を示してきたのがわかる。

総合順位
1.マン・レイ : 約3.62億円
2.アンドレアス・グルスキー : 約2.53億円
3.マン・レイ : 約2.38億円
4.リチャード・プリンス : 約1.99億円
5.ギルバート&ジョージ :約1.72億円

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とは区別して分析している。現代アート系では、高額売り上げ上位にお馴染みの顔ぶれが並んでいる。

現代アート系 高額落札
1.アンドレアス・グルスキー
2.リチャード・プリンス
3.ギルバート&ジョージ
4.ゲルハルト・リヒター
5.ギルバート&ジョージ

Phillips London,”20th Century & Contemporary Art” 2017 June, Wolfgang Tillmans “Freischwimmer #84, 2004”

上位20位まで見ていくと、常連のアンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、ギルバート&ジョージ、シンディー・シャーマン、ゲルハルド・リヒターの中で、ウォルフガング・ティルマンズの作品が8点も含まれていた。これはグルスキー5作品を上回る結果。ティルマンスの回顧展“WOLFGANG TILLMANS:2017”が英国ロンドンのテート・モダンで開催されたことで、特に巨大抽象作品は急騰したのだ。美術史的にも、非常に高い評価を受けており、マン・レイやジョージ・ケペッシュの実験的創作の流れを踏襲し、抽象絵画のカラーフィールド・ペインティングとのつながりが指摘されている。

フィリップス・ロンドンで、6月29日に開催された“20th Century & Contemporary Art”では、“Freischwimmer #84,2004”が、落札予想価格上限の約2倍の60.5万ポンド(約9075万円)で落札。ちなみに、同作は2012年10月フリップス・ロンドンでわずか3.9万ポンドで落札されている。4年間で約15倍に高騰したのだ。ちなみに同作は高額落札ランキング全体の13位だった。

20世紀アート写真 高額落札
1.マン・レイ
2.マン・レイ
3.エドワード・ウェストン
4.ロバート・メイプルソープ
5.エドワード・ウェストン

20世紀アート写真では、マン・レイの2作に続いたのはクリスティーズ・ニューヨークで4月に開催された“Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs”に出品されたエドワード・ウェストンの“Nude, 1925”で、87.15万ドル(約9586万円)だった。ウェストンのヴィンテージ作品は4位にも入っている。貴重作品への根強い需要が再認識された。

現代アート市場では、一部の人気作家の有名作品に人気が集中する傾向があると前回に紹介した。参考のために、大きな意味があるかは定かではないが、今回の写真部門でも上位30位の全体売り上げに対する比率を単純計算してみた。20世紀写真部門は0.6%の落札数が約18.8%、現代アート系部門では4.5%の落札数が約41%だった。この数字からは現代アート系写真は、20世紀写真と比べて一部の高額な人気作家に人気が集中している傾向が大まかだが読み取れる。両カテゴリーを総合したアート写真部門では総落札数の僅か0.9%の上位50位までの高額落札の合計が、全体の売り上げの約28%を占めていた。高額な現代アート系が写真市場を席巻しているのが明らかだ。
アート写真市場の中には、多様な価値観を持つ中間層中心のコレクターが支える20世紀写真と、一部の人気作家の代表作に関心が集中している富裕層中心の現代アート系写真が併存している。今までは、経済グローバル化の流れとともに、現代アート系写真の勢いが加速度的に増してきた。いまや金額ベースでは両者はほぼ互角になっている。「グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)」が語られる中で、アート写真界でも今までの傾向に変化が訪れるのか。2018年はこの点を注視しながら市場動向を見守りたい。

(1ドル/110円~112円、1ポンド/150円、1ユーロ/135円で換算)

2017年アート写真市場を振り返る
相場回復の中、現代アートとの
融合が進む

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

今世界が歴史的な転換点に直面していると、マスコミや識者が盛んに指摘している。英国のEU離脱とトランプ大統領登場に象徴されるように、経済のグローバル化の変調がそれを推進してきた英国と米国から起きているということだ。グローバル化の終わりが始まり、国民国家や地域が志向されるようになったという言い方も見られる。トマ・ピケティが「21世紀の資本」で指摘しているように、欧米で70年代以降に貧富の格差が拡大したのが原因との見方が多い。

 

さてアート業界に目を向けると、2017年にはまだ変化が訪れるような際立った兆しは見られなかった。それどころか、市場の1極集中が進行した印象だった。まずアーティスト人気の集中化が進んだ。artnetニュースの分析によると、2017年前半の戦後/現代アートオークションでは25人の有名アーティストがオークション売り上げの約50%を占めたという。1位バスキア、2位ウォーホール、3位リヒテンシュタインとのこと。まさに一部の勝者が市場シェアを席巻したといえよう。

ギャラリーのプライマリー市場では、欧米の大手ブランド・ディーラーが市場が拡大しているアジアに拠点を新設する動きを見せる中、中堅クラスのギャラリーの閉鎖が各地で数多く見られた。
アート界も資本主義の一部として成立している。ギャラリーやディーラーは、経済グローバル化の影響を受け、コストのかかる世界的なアートフェアへの参加、家賃の高い世界的大都市でのギャラリー運営などを強いられてきた。しかしここにきて一部の富裕層を世界中で奪い合うという、コストのかかるアートビジネスは限界にきている印象だ。それに生き残り可能なのは、豊富な資金力を持つ大手ディーラーのみ。視点を変えれば、貧富の格差拡大により、富裕層相手の大手が繁栄して、中間層相手の中小ギャラリーが苦戦している構図ともいえるだろう。
中堅ギャラリーがビジネスを見直すのは、フランスの学者エマニュエル・トッドがいう”グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)”のアート版の動きともいえるだろう。もしかしたら、中期的には地元の幅広い中間層相手の民主的なアート・ビジネス回帰が始まったのかもしれない。もちろんそれにはやせ細った中間層の復興が前提となる。

 

2017年アート写真オークション実績の内容を見てみよう。念のためにに、ここでカバーずるカテゴリーを確認しておく。
現在は、写真表現は現代アート分野まで広がっている。また、高額な19~20世紀写真が現代アートのカテゴリーに出品される場合もある。しかし、統計数字の継続性を重視して、ここでは従来の“Photographs”分野のオークションの数字を集計している。
2017年の出品数は7248点。前年比約0.85%微減、一方で落札数は4884点で落札率は61.7%から67.3%へ改善した。
地域別では、北米は出品数が約6.3%増、落札率は64.8%から71.7%に改善。欧州は出品数が約21.6%増、落札率はほぼ横ばいの60.7%から61.1%。 英国は出品数が約53%減少、落札率は55.6%から60.2%に上昇した。
総売り上げの比較は、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもは円換算して比較している。
それによると総売り上げは約78.9億円で、前年比約17%増加した。内訳は米国が約18%増加、欧州が約70%増加、英国が約27%減だった。主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2016年比で約9.3%減少している。
これは、高額セクターの19~20世紀の写真作品が現代アートのカテゴリーに出品される傾向が強まったことによると判断したい。
ちなみに2017年アート写真部門の最高額落札はクリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品された極めて貴重なマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”の、2,688,750ユーロ(約3.63億円)だった。 現代アートを含む写真の高額落札の分析は機会を改めて行いたい。
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Christie’s Paris, Man Ray “Noire et Blanche, 1926”
以上の数字から、米国市場が好調な経済環境の影響により良好だった一方、欧州では市場の中心がEUを離脱する英国から大陸にシフトしている構図が浮かび上がってくる。好調な欧州経済と減速気味の英国経済もその流れをサポートしていると思われる。
オークションの総売り上げの推移を中期的におさらいしておこう。まずリーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。
しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。
2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていたものの、2017年は春から市場が回復傾向を示し、年間総売上高では急減前の2015年春のレベルを上回ってきた。過去5年の売上平均値を春と秋ともに上回ってきた。売り上げサイクルは2016年秋を直近の底に2017年に回復したと判断できるだろう。

戦後・現代アート市場と同様に、写真市場も一部の人気作家の人気作品への需要集中傾向が見られた。これは、従来中心だった中間層のアート写真コレクターではなく、現代アート分野の富裕層コレクターが主導したと思われる。現代アート分野で、だれでも知っている人気作品を購入するのには多額な資金が必要だ。
しかし、エディションがあるアート写真ならいまでも写真史上の名だたる写真家の代表作品を現代アート系と比べるとはるかに手ごろな価格で購入可能なのだ。
もちろん、それは従来のアート写真コレクターの相場観からは高額なのはいうまでもない。

一方で、有名写真家の作品でも絵柄が良くない、来歴に特徴のない作品の市場性は低くなっている。ギャラリー店頭では低価格帯の作品の売り上げは好調だったという。日本でもブランド作家の低価格作品の売り上げは順調だった。
経済グローバル化の揺り戻しはまだ始まったばかりだ。アート写真市場全体でみると、オークションで高額人気作品、ギャラリーで低価格作品が売れる一方、
中間価格帯の特徴がない作品が売れない状況がしばらくは続きそうだ。

日本ではアート写真はまだ20世紀写真を意味する場合が多い。欧米市場ではますますアート写真と現代アート系写真との融合が進んだ。
ちなみに2017年に現代アートのカテゴリに出品されたされた写真関連作品は867点となり、落札総額は約67.6億円にもなるのだ。現在はちょうど過渡期にあたりカテゴリー分類の考え方は各業者により違いがある。将来的には19~20世紀のクラシック写真と、現代アートの一部のコンテンポラリー写真に分類されていくのではないだろうか。今年からは、それを考慮したより多面的な市場分析を検討したい。

マン・レイ作品がクラシック写真の
世界最高落札額!
欧州英国オークションレビュー

11月、大手業者のアート写真オークションは舞台を欧州英国に移して開催された。
まず2日にロンドンでフリップスの”Photographs”が開催。続いてパリフォトの開催に合わせて、クリスティーズとササビーズが、それぞれ単独コレクションと複数委託者のセールを開催した。ちなみに春には、大手3社ともにフォト・ロンドンに合わせてロンドンでオークションを開催している。
合計5セールの総出品数は486点で前年同期より約3%減。しかし落札率は約58%から約64%に改善した。売り上げ高は、ロンドンのフィリップスが約43%も減少したものの、パリの2社合計は約64%増加。トータルではユーロとポンドを円貨換算して合計すると約12.56億円となり、昨年同期を約33%上回る結果となった。
各社の売上結果を見る比べると、クリスティーズは約71%増、ササビーズが約57%増。数字からは、市場の中心地がロンドンからパリに移りつつある印象を受ける。
今回のロンドン・パリの結果は、2017年に回復傾向を示し始めたニューヨークと同様といえるだろう。景気が順調に回復して、株価も1年前と比べて上昇している状況が素直に反映しているのだろう。ちなみに為替レートは対ポンド・ユーロ共に昨年と比べて円安になっている。
最高額は、クリスティーズ・パリの”Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイの”Noire et Blanche, 1926″。落札予想価格上限の150万ユーロを大きく超える268.8万ユーロ(3.57憶円)で落札された。(上記のカタログ表紙作品)
クリスティーズによると、これはオークションでのマン・レイ作品の最高額であるとともにクラシック写真の世界最高額とのことだ。クラシック写真の時期の定義は難しいのだが、もちろん現代アート系の写真作品は含まれない。続いたのは同じオークションに出品されたダイアン・アーバスの双子を撮影した代表作”Identical twins, Roselle, N.J, 1966″。落札予想価格の範囲内の54.75万ユーロ(約7281万円)で落札されている。

アーヴィング・ペンの”The Hand of Miles Davis (B), New York, 1986″も人気が高く、落札予想価格上限の10万ユーロの2倍近い19.95万ユーロ(約2653万円)で落札された。

今シーズンは、ペンのスティル・ライフや花などの作品の高額落札が多くみられた。ササビーズ・パリの”Collection Europeenne de Photographies”では、ダイ・トランスファー作品の”STILL LIFE WITH WATERMELON, NEW YORK, 1947″が、落札予想価格上限の8万ユーロを超える15万ユーロ(1995万円)、プラチナ・プリントの”PICASSO (B), CANNES,1957″が11.87万ユーロ(約1578万円)、”FROZEN FOODS, NEW YORK, 1977″が8.75万ユーロ(約1163万円)で落札されている。

フリップス・ロンドンでも、写真集”Flowers”に掲載されている”Single Oriental Poppy, New York, 1968″(上記画像の作品)が落札予想価格上限の7万ポンドを超える11.87万ポンド(約1780万円)で落札されている。今年はペンの生誕の百年を祝ってニューヨークのメトロポリタン美術館で大規模回顧展が開催された。ここ数年はやや上値が重かったペン作品だったが、再び注目が集まるようになったのだろう。

欧米では美術館での展覧会開催は作家の相場に大きな影響を与える。現代アート分野では2017年2月~6月にかけては、ウォルフガンク・ティルマンスの回顧展”WOLFGANG TILLMANS:2017″が英国ロンドンのテート・モダンで開催された。今年になって彼の巨大抽象作品は急騰しているのだ。

フィリップス・ロンドンで、6月29日に開催された”20th Century & Contemporary Art”では、彼の”Freischwimmer #84,2004″が、落札予想価格上限の約2倍の60.5万ポンド(約9075万円)で落札。ちなみに、同作は2012年10月フリップス・ロンドンでわずか3.9万ポンドで落札されている。4年間で約15倍に高騰したのだ。
現代アート分野の写真作品の動向は機会を改めて分析してみたい。
(1ユーロ/133円、1ポンド/150円)

2017年秋のNYアート写真シーズン到来!最新オークション・レビュー
(パート2)

今秋の大手3社による定例オークションは、複数委託者セールとともに、珠玉の名品を含む単独コレクションのセールが多く開催された。
フィリップスでの今春に続く“The Odyssey of Collecting”229点のセール、クリスティーズでは“Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection”の40点と、“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”67点が開催された。また同社の“Photographs”では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)コレクションからのセールが含まれる。同時にMoMAコレクションのオンライン・オークション“MoMA HC Bresson”35点、“MoMA Pictorialism to Modernism”58点も行われた。
2017年春は合計5つのオークションが開催された。出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。
今秋はオンラインを含めると合計8つのオークションが行われ、出品数は今春から約18%増加して874点、落札率は約69.8%、総売り上げは約6.1%増加して約1912万ドル(約21.4億円)だった。これは好調な企業決算やトランプ政権の税制改正や規制緩和期待から、ダウ工業株平均株価が史上最高値付近の2.2万ドル台で取引されているという好調な経済環境が影響しているといえるだろう。また最高の来歴のMoMAコレクションの売却や、多数の質の高いヴィンテージ作品を含む上記のような単独コレクションのオークション開催も大きく貢献している。
ちなみに3つの単独コレクションのセールは、平均落札率が約80.9%、売り上げは全体の52%を占めている。
オークションの総売り上げは、リーマン・ショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が続いていた。2017年は春から市場が回復傾向を示し、年間実績はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルを上回ってきた。過去5年の売上平均値を春・秋ともに上回った。売り上げサイクルは、2016年秋を直近の底に回復傾向にあると判断できるだろう。
ただし、クリスティーズで開催された2つのMoMA作品のオンライン・オークションの結果にはやや気になる点があった。5万ドルを超える高額予想のアンリ・カルチェ=ブレッソン、エドワード・スタイケン、クレランス・ホワイトなどの作品が軒並み不落札だったのだ。これはオンライン・オークションが高額作品には向いていないのか、それとも、20世紀を代表する写真家の最高の来歴の作品が過大評価されていたかのどちらかだと思われる。現時点で判断を下すのは難しいところだろう。
MoMA作品オンライン・オークションでは来年にかけて合計約400点が7つのオークションで売りだされる。今後の動向を注視していきたい。
今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズの“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”のエドワード・ウェストンによる“Betty in her Attic, 1920”。落札予想価格60万~90万ドルの範囲内の約73.2万ドル(約8198万円)で落札。
2位はクリスティーズの複数委託者オークションのピーター・ベアードの“Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968”。落札予想価格30万~50万ドルの上限を超える約67.25万ドル(約7532万円)で落札されている。
3位はクリスティーズの“Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection”のポール・ストランドの“Rebecca, New York, 1923”。落札予想価格50万~70万ドルのほぼ下限の約49.25万ドル(約5516万円)で落札。
4位もクリスティーズ“Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe”のエドワード・ウェストンによる“Dunes, Oceano, 1936”。落札予想価格25万~35万ドルの上限越えの約43.25万ドル(約4844万円)で落札された。
ランク外だが、杉本博司の海景作品“North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996”は、予想外の高額で落札された。これはエディション25の銀塩作品、落札予想価格上限3.5万ドルの4倍近い15万ドル(約1680万円)だった。
大手3者の実績を比較してみよう。
落札上位の結果からわかるように、今秋はクリスティーズがMoMAなどの単独コレクションセールで市場をリードした。売上トップは2014年秋以来ずっとフィリップスだった。今シーズンはクリスティーズが2013年春以来に久しぶりに奪い返した。一方でササビーズは、売り上げ、落札率ともに元気がなかった。
11月には、アート写真オークションの舞台は欧州に移る。
クリスティーズはパリで“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”と“Photographies”。ササビーズもパリで“Importante Collection Europeenne de Photographies”と“Photographies”。フィリップスはロンドンで“Photographs”を開催する。
なおヘリテージ、10月19日のスワンなど、フォトブックを含む中低価格帯のオークション結果は後日にお伝えする予定だ。
(1ドル/112円で換算)

2017年秋のNYアート写真シーズン到来!最新オークション・レビュー
(パート1)

今秋の定例オークションは、前半の10月第1週の2日から5日にかけてボンハムス(Bonhams)、フリップス(Phillips)、ササビーズ(Sotheby’s)が、後半の10月第2週からは、10日にクリスティーズ(Christie’s)、11日にヘリテージ(Heritage Auctions)、19日にスワンで(Swann Auction Galleries)で開催される。今回は前半のレビューをお届けしよう。
 前半の注目はフリップスで開催される“The Odyssey of Collecting”セール。これは春にも開催された、米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからのセール。いままで2回行われて今回が最終回となる。
19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントから、20世紀写真、コンテンポラリー作品まで、幅広いジャンルの作品229点(春は228点)が出品された。今回は春と比べて中低価格帯の出品が中心。春の落札予想額合計の上限は約795万ドルだが、今回は470万ドルになっている。落札率は約83.4%で春とほぼ同じ、総売り上げは前回の638万ドルから363万ドル(約4.06億円)に減少しているが、事前予想の範囲内だった。やはり来歴がよいことはブランド価値を高めることになるようだ。
最高額を付けたのは、アルフレッド・スティーグリッツが編集した“Camera Work: A Photographic Quarterly”の雑誌セット。1903年~1917年に刊行された1号のみが欠落した2号から50号までのほぼ完璧なセット。落札予想価格10万~15万ドルの範囲内の約13.1万ドル(約1470万円)で落札されている。
ラースロー・モホリ=ナジの“Self-Portrait, 1925”は、落札予想価格上限の約2倍の11.25万円(約1260万円)で落札されている。
興味深い出品には、いまDIC川村記念美術館で展覧会が開催されているフェリーチェ・ベアトの写真アルバム“Japan, 1863-1866”があった。43点の鶏卵紙プリントが収録されている。こちらは、落札価格上限の3万ドル(約336万円)で落札されている。
複数委託者のオークションには、134点が出品された。こちらの落札率は67%にとどまった。
最高額はマン・レイの1点もの銀塩写真の“Rayograph, 1922”で、予想落札価格内の30万ドル(約3360万円)だった。
続くのはウィリアム・エグルストンの“Untitled, 1971-1974”。これは96.5 x 147 cmサイズ、エディション2の、ガゴシアン・ギャラリーで売られたピグメント・プリントになる。彼の作品は、いまや写真ではなく現代アートのカテゴリーと考えられている。落札予想価格7万~9万ドルを超える13.75万ドル(約1540万円)で落札されている。
現代アート系のクリスチャン・マークレー(Christian Marclay)によりサイアノタイプ技法で制作された“Untitled (Luciano Pavarotti, Halo and Four Mix Tapes II), 2008”は、カタログのカヴァー作品。なんと作家のオークション落札最高額の10.25万ドル(約1148万円)で落札された。
おなじく、セバスチャン・サルガドの179.1 x 245.1 cmの巨大作品“Southern Right Whale, Navigating in the GolfoNuevo, Valdes Peninsula, Argentina, 2005”も作家のオークション落札最高額の10万ドル(約1120万円)で落札されている。
フィリップスの総売り上げは約640.4百万ドル(約7.12億円)で、落札率は約77%だった。売り上げは、昨秋よりはよいものの、春の899万ドルよりは約29%減少している。落札率はほぼ春並みだった。

ササビーズは、10月5日に200点の“Photographs”オークションを開催。落札率は54%、総売上高は約290.1万ドル(約3.24億円)だった。売り上げはほぼ昨秋と同じだが春より約15%減少、落札率も昨秋66%、今春68%から低下した。
最初の53点が19世紀の貴重なダゲレオタイプ写真の単独コレクションのセールとなる“IMPORTANT DAGUERREOTYPES FROM THE STANLEY B. BURNS, MD, COLLECTION”。こちらの落札率は37.7%。多くの作者不詳作品が不落札だった。歴史的、骨董品価値の市場評価の難しさを感じさせられた。

複数委託者の147点の落札率は60.5%だった。最高額は19世紀中期のフィリップ・ハース作品“JOHN QUINCY ADAMS、1843”。被写体のジョン・クィンジー・アダムズ(John Quincy Adams)はアメリカ合衆国第6代の大統領だ。こちらは、 落札予想価格20万~25万ドルの上限を超える約36万ドル(約4032万円)で落札されている。
現代写真の最高値はロバート・フランクの“CHARLESTON, S. C.’,1955”歴史的フォトブック“The Americans”に掲載されている、黒人女性が白人の赤ん坊を抱いているイメージ。1969年にフィラデルフィア美術館で展示されたという来歴を持つ作品。こちらはほぼ落札予想価格下限の34.85万ドル(約3903万円)で落札されている。
しかし、フランク作品でも、代表作“New Orleans、1955 (Trolley)”は、落札予想価格20万~30万ドルだったが不落札だった。
高額落札3位は、エドワード・ウェストンの“NUDE ON SAND,1936”。落札予想価格20万~30万ドルの上限を超える約32.45万ドル(約3634万円)で落札された。
ロバート・メイプルソープの貴重な初期のコラージュ、ジュエリー、紙作品も7点が出品されるが、わずか1点のみが落札。これら有名アーティストの関連作品の市場性評価が極めて難しいことが印象付けられた。
ボンハムス(Bonhams)は2日に中低価格帯作品が中心108点の“Fine Photographs”を開催。こちらはすべての価格帯が低迷して落札率は約30.5%、落札額約72.9万ドル(約8164万円)だった。
最高額は、アーヴィング・ペンのフォトブック“Passage”のカヴァー作品の“Ginko Leaves (New York), 1990”で、落札予想価格内の19.95万ドル(約2234万円)で落札された。

全体的に中低価格帯で、人気、不人気作品の2極化が進んでいる印象だ。貴重な19世紀写真でも骨董品的価値しかないものへの市場の関心は低調だ。20世紀写真の有名写真家でも、絵柄によってはコレクターが関心を示さないという厳しい状況も見られた。ここ数年続いている傾向がより明確になってきた印象だ。一方で人気写真家の有名作品でも、強気の最低落札価格を設定している出品作は苦戦していた。2極化が進む中でも、人気作の高値はそろそろピークを迎えつつあるようだ。

さて10月第2週に開催されるクリスティーズは大忙しのスケジュールになっている。複数委託者によるオークションとともに、2つの単独コレクションからのオークションを開催する。また、同時にMoMAコレクションのオンライン・オークションも開催される。中低価格帯中心のヘリテージ、スワンのオークション結果とともにパート2でお伝えしよう。
(1ドル/112円で換算)

秋のニューヨーク・アート写真オークション クリスティーズがMoMA所蔵品セール!

今秋のニューヨーク定例オークションでの大きな話題になっているのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の所蔵品がクリスティーズで競売されることだ。
まず10月10日に“Photographs From The Museum of Modern Art”のデイ・オークションが開催。続いて同月の“MoMA: Pictorialism into Modernism”、“MoMA: Henri
Cartier-Bresson”を皮切りに、12月に“MoMA: Women in Photography”、来年1月に“MoMA: Garry  Winogrand”、”MoMA: Bill Brandt”、4月の“MoMA: Walker Evans”まで、テーマやアーティストを絞って複数回のオンライン・オークションが行われるという。オークション前には全米各都市で内覧会が行われるという。写真部門ではとても珍しく、クリスティーズの本セールへの異例の力の入れようがわかる。
ちなみにササビースは、オンラインのみのオークションの落札手数料の廃止を発表したが、クリスティーズのポリシーに変更はない。
美術館がコレクションをオークションで売却するのは、日本人にはやや違和感があるかもしれない。しかし、欧米の主要美術館だと、複数のプライベート・コレクションから節税目的で作品が寄贈される。当然のこととして、特に写真の場合は有名作品が重複する場合もでてくる。また、コレクションには各館の方針があり、それ以外のカテゴリーの作品の収蔵数が意図せずに増える場合がある。その場合は、将来の収蔵予算捻出を理由としての作品売却が可能なのだ。決して経営が苦しくて運営費用のためにコレクションの切り売りをしているのではない。
今回は約400点が売却され、落札予想価格は1000(約11万円)~30万ドル(約3300万円)まで、総額約360万ドル(約3.96億円)の売り上げを見込んでいるとのことだ。出品されるのは、20世紀初期から戦後にかけて活躍した写真史を代表する人たちが中心になる。アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、マン・レイ、エドワード・ウェストン、アンリ・カルチェ=ブレッソン、ウォーカー・エバンス、アンセル・アダムスなど。
目玉になるのは、1923年と1928年にマン・レイにより制作されたともに1点もののレイヨグラフ作品。20~30万ドルと、15~25万ドルの落札予想価格になっている。前者はマン・レイの友人の、詩人、ダダイズムの創始者のトリスタン・ツァラ(Tristan Tzara)が寄贈した作品とのことだ。

ニューヨーク近代美術館同館は1940年に全米で初めて専門部門を設立している写真コレクションの殿堂。同館でコレクションされていたことは、作品評価上で最高の来歴となる。世界中の美術館、企業や個人コレクションが強い興味を示すと思われる。

(為替レート 1ドル/110円換算)

2017年欧州アート写真オークション
ネット時代の情報氾濫は市場に何を起こしているのか?

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心(約7500ユーロ以下)の中堅業者の、Villa Grisebach(ベルリン)、Kunsthaus Lempertz(ケルン)、WestLicht(ヴェストリヒト・ウィーン)によるオークションが開催された。ユーロ圏は底堅い個人消費や輸出の回復により経済の好循環が続いており、景気下振れリスクは和らいでいるようだ。以上から、将来的にECBが政策正常化に向かうとの観測もでているようだ。昨年と比べると円の対ユーロ為替相場は大きく円安になっている。欧州の経済状況は昨年よりは改善していると思われる。
さて3社の結果だが、昨年同時期と比べると、総出品数はほぼ同数の648点。売り上げはWestLichtが伸ばしたものの他の2社は減少。全体では約11%減の約165万ユーロ(約2.06億円)だった。落札率は3社ともわずかに改善。全体では約61%から約63.5%にわずかに改善した。
2017年前期の複数市場における落札率を比較すると、大手業者はニューヨーク73.8%、ロンドンが64%。一方で中堅はニューヨーク約66%、そして今回の欧州が約63.5%という結果だ。今年は高額作品の多いニューヨーク市場が改善しているものの、低価格帯中心の欧州市場は元気がない状況のようだ。
先週にフリップス・ロンドンで行われた”20th Century & Contemporary Art Evening Sale”では、今年になって相場が急騰しているウォルフガング・ティルマンズのFreischwimmerシリーズからの”Freischwimmer #84 ,2004″が、落札予想価格を大きく上回る60.5万ポンド(約9075万円)で落札されて大きな話題になっている。有名アーティストのエディションが少ない国際的に活躍する人気作品への強い需要が改めて印象付けられた。

今季の欧州アート写真オークションの結果を振り返るに、低価格帯カテゴリーの低迷が相変わらず続いている印象が強かった。ここからはその原因を考えてみたい。

そもそもは、2009年春のオ―クションで起きたリーマン・ショックによる市場規模の急激な縮小から始まる。それが2011年秋くらいから、高額価格帯の動きが次第に改善していく。しかし、中低価格帯は低迷からなかなか抜け出せないのだ。その後、株価の上昇、現代アート・コレクターのアート写真市場参入により高額セクターの市況の回復は続く。一方で中低価格帯の市場では、今度は内部での分断が始まるのだ。有名作家の人気作品に需要が集中して、知名度の低い作家の不人気作品の低迷という状況が顕在化する。現在でもその傾向は続いている。

いままでは、アート写真の主なコレクターだった中間層の没落がこの状況を引き起こした主因だとを考えていた。最近は、それとともにインターネットの普及も一因ではないかと疑っている。つまり、アートの情報がネットで発信・拡散され、また作品自体を販売されるようになったことだ。どのように考えているかを簡単に説明してみよう。

かつて、といってもわずか15~20年くらい前までは、アート写真をオークションで買う場合は、海外の業者からカタログを航空便で取り寄せる必要があった。もし入札する場合は、現地に赴くか、電話するか、事前に入札額の書類を提出する必要があった。銀行の残高照明を求められることもあった。落札結果はFAXか郵送されてきた。アート写真の情報にはかなり偏りがあり、コレクターやディーラーでさえすべての情報を持っていたわけではなかった。
現在は、その状況が大きく変化した。世界中で行われるアート写真のオークション情報はすべてネット上で公開されている。オンラインでの入札やカード決済も可能になり、結果も即時にわかる。従来の公開オークション以外にも、テーマごとのオンライン・オークションが大手競売業者や専門業者により頻繁に行われている。
かつてのコレクターはゆっくりと時間をかけてカタログを眺め、欲しい作品を吟味して入札していた。いまや自主的に情報を取りに行くと、おのずと膨大な情報の洪水に直面してしまう。アート関係のウェブサイトは世界中に無数にあり、日々情報満載のニュースレターが送りつけられる。
情報は多い方がよいに決まっている。しかし、問題は人間の情報処理能力なのだ。いまアート情報のオーバーロードが起きているのではないか?これが私がいま持っている素朴な疑問だ。心理学によると、情報が多いと人間は判断無能に陥り、コンテンツの内容判断が的確にできなくなり、しまいには選択を放棄するといわれている。

オークションは現状販売となる。高額作品は点数が少ないものが多く現物確認が必須だが、低価格帯作品はエディション数が多く、業者のコンディションレポートを頼りに入札することも多い。高額品は通常の公開オークションに、低価格帯はネットオークションに向いている。たぶん低価格帯作品の情報量がより増加したのではないか。結果的にコレクターは同じような作品の情報に触れる機会が多くなる。心理的に、いつでも買えるような気分になり、作品の競り合い少なくなったのではないか。情報量が少ない時代は、欲しい作品はいま買わないと二度と入手できないかもしれないという、脅迫概念があったものだ。

また人間は判断不能に陥れるとブランドに基準を求める傾向がある。その結果として、低価格帯カテゴリーでは知名度の高い写真家の作品が好まれ、その中でも代表作や有名作に人気が集中してるのではないだろうか。

いま業界では、ネット普及のアート市場への影響がホットな話題になっている。わたしどもも市場の最前線の動きを参考にしながら分析を継続していきたい。

(為替レート 1ユーロ/125円で換算)

2017年春NY現代アートオークション
マン・レイのヴィンテージ作品が高額落札!

ロンドンのアート写真オークションに先立つ5月17~19日にニューヨークで戦後美術・現代アートの定例オークションが行われた。ササビーズ”Contemporary Art Evening Auction”では、スタートトゥデイ社長の前沢友作氏が、ジャンミシェル・バスキアが1982年に制作した”UNTITLED”を約1.1億ドル(約121.5億円)で落札。高額落札がマスコミで大きな話題になったのは記憶に新しいだろう。
いまや写真は現代アート系アーティストの表現方法としても完全に定着している。一方で歴史的経緯から、アート写真と現代アート/戦後美術のオークションは個別のカテゴリーとしていまでも開催されている。しかし、二つの分野にまたがる写真は確実に融合が進行中だ。最近は、だいたい作品の価値評価によってカテゴリーの振り分けが行われている。現代アート系でも知名度が低い若手・中堅や、有名アーティストでもエディション数が多いものはアート写真カテゴリ―。これらは、写真コレクターには高額だが、現代アートコレクタ―にとっては低額の作品となる。20世紀写真も、極めて貴重で価値評価が高いヴィンテージ作品は現代アートカテゴリーのオークションに出品されるケースが多い。
今回の現代アート・オークションにも、マン・レイやダイアン・アーバスのヴィンテージ作品が含まれていた。現代アートのオークションは、だいたい価値評価の低い順に、午前(Morning)、午後(Afternoon)、夜(Evening)に別れて出品される。マスコミに取り上げられるような有名作品のオークションは夜のイーブニング・セールにかけられる。
これから先は、5万ドルくらいまでのエディション数が多い中間価格帯の写真作品のカテゴリーの整理整頓が行われると考えている。最終的には、19~20世紀写真というカテゴリーが残り、21世紀の現代写真や現代アート系の評価が低い作品は、午前や午後の現代アート、および写真と親和性が高いデザイン・インテリア系のオークションでの取り扱いになっていくだろう。
今回の現代アート系オークションの写真系作品の最高額は、クリスティーズの”Post-War and Contemporary Art Evening Sale”に出品されたマン・レイの”Portrait of a Tearful Woman,1938″だった。なんと216.75万ドル(約2.38億円)で落札されている。
Man Ray”Portrait of a Tearful  Woman,1938″ Christie’s NY “Post-War and Contemporary Art”Auction

これはゼラチン・シルバー・プリントに着色が施された貴重なヴィンテージ作品。同じく20世紀写真を代表するダイアン・アーバスのヴィンテージ作品”A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y., 1970″は、58.35万ドル(約6418万円)で落札された。

その他、今シーズンは、リチャード・プリンス、アンドレアス・グルスキー、シンディー・シャーマン、ウォルフガング・ティルマンズらの常連アーティスト作品が好調に落札されていた。この中でもリチャード・プリンスは別格。ササビーズ”Contemporary Art”に出品された”Untitled(Cowboy), 2001″は、100万ドル超えの約181.25万ドル(約1.99億円)での落札だった。

ティルマンズも予想落札価格を超える高額での落札が相次いだ。英国のテート・モダンで開催中の回顧展の影響だと思われる。出品8点すべてが落札され、ササビーズ”Contemporary Art”に出品された全4点は落札予想価格上限を大きく超えて落札。181X240cmの大作”Freischwimmer 123, 2004″は、予想上限の約2倍の66.05万ドル(約7265万円)だった。
フィリップスでも、186.7 X 233.4cm.、エディション1/1でAP1点の”quiet mind,2005″が落札予想価格上限の約3倍の32.2万ドル(約3542万円)で落札。クリスティーズでも227.3 x 170.8 cmの”Freischwimmer
102″が40.35万ドル(約4438万円)で落札されている。
彼の作品は大判サイズで、エディション1/1でAP1点が多い。写真でも1点ものに近い点数が限られた大判作品は需給関係により絵画同様に高額になる。ティルマンズの抽象作品は、プリンスのカウボーイ作品のようにブランドが確立されつつあるようだ。
次回のオークション・レビューでは、5月下旬~6月上旬に欧州各都市で開催された中堅業者のアート写真オークションを取り上げたい。
(1ドル/110円で換算)