2018年秋・英国/欧州アート写真オークション・レビュー
景気先行き不安が落札結果に反映

いままで、ユーロ圏経済は緩やかな回復傾向が続いてきた。昨年は2008年の経済危機後のもっとも高い2.4%成長を達成した。しかしマスコミ報道によると、ここにきて主要な輸出相手国である中国経済の減速、イタリアの財政リスク、米国との貿易摩擦、英国のEU離脱などで、先行きは不透明感が漂ってきたようだ。経済指標も景況感指数などで弱めの数字が出始めてきた。欧州委員会は2019年のユーロ圏の実質成長率を1.9%に下方修正している。
さて先週にかけて、ロンドンとパリでアート写真オークションの欧州ラウンドが行われた。昨年は、クリスティーズ・パリの“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”で、マン・レイの“Noire et Blanche, 1926”が268.8万ユーロ(3.57憶円)の高額で落札されたり、全般的に好調な結果だった結果だった。しかし今年は経済の先行き不安が多少なりとも反映されたやや弱含みの結果となった。

11月1日にフィリップスはロンドンで、8日から9日にかけてササビーズとクリスティーズがフォト・フェアーに合わせてパリで、合計5つのアート写真セールを開催した。

PHILLIPS London “Photographs”

フィリップス・ロンドンの出品数は108点、落札率は約73.1%、総売り上げは約127万ポンド(約1.9億円)だった。ちなみに昨年は出品数97点、落札率は77.32%、総売り上げは約154万ポンド(約2.32億円)。売り上げは約17.5%減、落札率も若干低下した。売り上げ減少は、注目されていた10万ポンド以上の落札予想価格が付いていたシャルル・ネグレ(Charles Negre)などを含む19世紀フランス写真からなるハイマン・コレクションの12点が出品取りやめとなったのが影響したと思われる。

パリの大手2社の4つのセールは、出品数218点、落札率約56.88%、総売り上げ約348万ユーロ(約4.53億円)だった。昨年は、出品数は389点、落札率は約61.18%、総売り上げは約758万ユーロ(約10.23億円)。パリの結果は昨年と比較すると、落札率が悪化、総売り上げも、出品数と高額落札の減少が影響して約54%減だった。

高額落札が期待されていたササビーズの“Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque D’hiver, Paris, 1955”。124.5 x 100cmの大判作品で、落札予想価格は60~90万ユーロ(約7620~1.14億円)だったが不落札だった。
またササビーズ“Modernism: Photographs from a Distinguished Private Collection”に出品されたポール・ストランドの“FERN, EARLY MORNING DEW, GEORGETOWN, MAINE, 1927”も、落札予想価格は20~30万ユーロ(約2600~3900万円)だったがこちらも不落札。2016年に低迷した市場は、2017年は秋にかけて回復傾向を示していた。しかし、ここにきて再び息切れしてきたようだ。

高額落札は、クリスティーズで開催された杉本博司の28点単独オークション“Hiroshi Sugimoto Photographs: The Fossilization of Time”に出品された“Sea of Japan, Rebun Island, 1996” 。

Christies Paris “Hiroshi Sugimoto Photographs: The Fossilization of Time”

極めて人気の高い海景シリーズからの、119.2  x 148.5 cm、エディション5の作品。落札予想価格は20~30万ユーロ(約2600~3900万円)だったが、30.75万ユーロ(約3997万円)で落札。同じシリーズの、“Bass Strait, Table Cape, 1997”も、27.15万ユーロ(約3529万円)で落札。しかし単独オークション全体の落札率は約53.5%、総売り上げは約120万ユーロ(約1.57億円)と低調だった。

先日にニューヨークのスワン・ギャラリーに出品されたコンスタンティン・ブランクーシ(1876- 1957)の“Vu d’atelier, c1928”。落札予想価格を大きく上回る12.5万ドル(約1400万円)で落札され話題になった。今回ササビーズ・パリの“Photographies”にもブランクーシが自身の彫刻をスタジオを撮影した“VUE D’ATELIER, C. 1923”が出品された。落札予想価格は3万~5万ユーロ(約390~650万円)だったが、前記スワンとほぼ同じ10.625万ユーロ(約1381万円)で落札されている。

これで年内の大手によるアート写真オークションは終了。これから年末にかけては、中堅のヴェストリヒト(WestLicht)・ウィーンの”18th Photo Auction”が11月23日、レンペルツ(Lempertz)・ケルンの“Photography”が11月30日、ドイル(Doyle)・ニューヨークの“Photographs”が12月13日が行われる予定。

(1ユーロ/130円、1ポンド/150円))

 

2018年秋の欧米アート写真市場
NY中堅業者のオークション・レビュー

10月のニューヨークでは、大手3社のほかに中堅のBonhams(ボナムス)、Heritage Auctions(ヘリテージ)、Swann auction galleries(スワン)のオークションが開催された。

Swann auction galleries 2018 Cataloge

こちらは、高額作品の出品は少なく、ほとんどが大手で取り扱わない低価格帯や知名度の低い写真家の作品が中心のオークションとなる。大手は出品作品を価格帯や写真史などを考慮して綿密な編集作業を行い、カタログを制作する。一方で中堅はあまりこだわらないのが特徴。それゆえ出品作品数が多くなる傾向がある。

今秋の3社の出品数合計は1000点で落札率は約65.5%、総売り上げ約297万ドル(約3.32億円)。昨年の同時期は、落札率65.08%、総売り上げ290万ドル、今年もほぼ変わらない結果だった。

既述のように大手3社の1万ドル以下の低価格帯の落札率は約59%だった。ここ数年中堅業者によるオークションの落札率は低位安定しているが、今秋は大手が扱う低価格帯作品の落札率も低調だったのはやや気になる。市場参加者の中心がミレニアム世代に移りかわり、単に好きな作品を買うのではなく、ヴァリューも求めるという、彼らのテイストが表れてきた可能性があるだろう。いわゆる、最近よく言われるアート写真作品の人気、不人気の2極化が徐々に進行しているということだ。

高額落札が期待されたのは、スワン・ギャラリーに出品されたエドワード・カーティスの“The North American Indian, Volumes 1-20 and Folios 1-20,1907-1930”。貴重な20巻完全セットで画像はカタログ・カヴァーにも収録作が採用されている。落札予想価格は100~150万ドルだったが不落札だった。

今秋の中堅業者オークションの最高額は、同じくスワン・ギャラリーに出品されたコンスタンティン・ブランクーシ(1876- 1957)の作品“Vu d’atelier, c1928”(掲載画像参照)。

Swann Auction Galleries, Artists & Amateurs: Photographs & Photobooks, lot 71, Constantin Brancusi “Vu d’atelier, c1928”

彼は20世紀を代表する彫刻家だが、ファインアート写真家でもあった。本作は彼の代表的な抽象彫刻4点をスタジオで撮影したもの。落札予想価格は3~4.5万ドルだったが資料的価値が高く評価され12.5万ドル(約1400万円)で落札された。
一方で、ボナムスで高額落札が期待されたリチャード・アヴェドンの有名作“Charlie Chaplin, Leaving America, September 13, 1952, 1952”。落札予想価格は8~12万ドルだったが不落札だった。

引き続く欧州で開催される主なアート写真オークションの日程は以下のようになっている。

11月1日、フィリップス・ロンドン“Photographs”
11月8日、クリスティーズ・パリ“Photographies”
11月8日、クリスティーズ・パリ“Hiroshi Sugimoto Photographs: The Fossilization of Time”
11月9日、ササビーズ・パリ“Modernism: Photographs from a Distinguished Private Collection”
11月9日、ササビーズ・パリ“Photographies”

ササビースの“Photographs”オークションで注目されているのは、リチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque D’hiver, Paris, 1955”。本作は1962年のプリント作品。リタッチされる以前のオリジナルのネガから制作されている。スミソニアン美術館で開催されたアヴェドン最初の美術館展用に制作された2点のうち1点。もう1点はスミソニアン美術館に収蔵とのこと。124.5X100cmの大判作品の落札予想価格は60~90万ユーロ(約7620~1.14億円)。2010年11月のクリスティーズ・パリでは、216.8X166.7cmサイズの同作が84.1万ユーロ(@112円/約9419万円)で落札された。今回、市場がどのような評価を下すかを関係者は注目している。

クリスティーズは杉本博司の28点の単独オークション“The Fossilization of Time”を開催。海景シリーズからの“Sea of Japan, Rebun Island, 1996”と“Bass Strait, Table Cape, 1997”はともに119.2 x 148.5 cmの大作。落札予想価格は2作品ともに20~30万ユーロ(約2540~3810万円)。“Bass Strait, Table Cape, 1997”は2005年秋のフィリップス・ニューヨークで24万ドルで落札された作品。

フィリップス・ロンドンでは19世紀の初期の写真家シャルル・ネグレ(Charles Negre)の1850年ごろに制作された“Model reclining in the artist’s studio”が出品される。極めて希少性が高いプリントで落札予想価格は、10~15万ポンド(1480~2220万円)。

(1ユーロ/127円、1ポンド/148円))

2018年秋のニューヨーク・アート写真シーン
最新オークション・レビュー

米国経済は、景気拡大サイクルの後半に関わらずトランプ政権による景気刺激策によって堅調を維持してきた。しかし、10月に入ると貿易戦争の懸念や中国株の下落で世界景気の先行きに不透明感が広がってきた。また長期金利上昇と財政赤字拡大により、一部投資家には米国の景気拡大シナリオの終焉が意識され始めたという。
秋のニューヨーク定例アート写真オークションの結果も、一部に顕在化し始めたそのような将来への不透明さが反映された結果だった。

今秋のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスの大手3業者の出品数は872点だった。(今春はトータルで772点、昨年秋は874点)合計6つのオークションの平均落札率は62.3%。今春の73.5%、2017年秋の69.9%、2017年春の73.8%から大きく低下した。業界では不落札率が35%を超えると市況はよくないと言われている。しかし総売り上げは約1648万ドル(約18.1億円)と、春の約1535.5万ドルから約7%増加。ただし、2017年秋の約1912万ドルよりは約14%減少している。
内訳をみると、1万ドル以下の低価格帯の落札率だけが、春の79%から59%に大きく減少している。一方で中高価格帯の落札率にはあまり変化がない。出品数が春より増加した中、低価格帯が大きく苦戦したのが今秋の特徴だったといえるだろう。

過去10回の売り上げ平均額と比較すると、リーマンショック後の低迷から2013年春~2014年春にかけて一時回復するものの、再び2016年まで低迷が続いた。2017年春、秋はやっと回復傾向を見せてきたが、今春に再び下回ってしまった。過去10年の年間総売り上げ額平均と比較してみると、2018年は平均値に近い水準に収斂してきた。また、今秋の実績は過去10シーズン(過去5年)の売り上げ平均ともほとんど同じレベルとなった。極めてニュートラルな売り上げ規模になってきたと判断できるだろう。

今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズ“Photographs”のダイアン・アーバスによる双子の女の子を撮影した代表作“Identical Twins, Roselle, NJ, 1966/1966-1969”。

Christie’s NY “Photographs Lot242 ”Diane Arbus “Identical Twins, Roselle, NJ, 1966/1966-1969”

本作は16X20″の印画紙にプリントされた作家生前制作の貴重な大判作品。このサイズの現存作はほとんどが主要美術館の収蔵品になっている。落札予想価格50万~70万ドルのところ約73.25万ドル(約8204万円)で落札。

2位はササビーズ“Photographs”の、アレクサンドル・ロトチェンコによる有名作“GIRL WITH A LEICA (DEVUSHKA S LEIKOI)”。予想落札価格30~50万ドル(3300~5500万円)が、51.9万ドル(約5812万円)で落札されている。

Sotheby’s NY Photographs Lot131 Aleksandr Rodchenko “Girl with a Leica, 1932-1934”

3位もササビーズ“Photographs”の、ラースロー・モホリ=ナジの、“Untitled (Photogram with circular shapes and diagonal line), c1923-1925”。予想落札価格12~18万ドルが、44.7万ドル(約5006万円)で落札されている。

今回注目されていたのが、クリスティーズの“An American Journey: The Diann G. and Thomas A. Mann Collection of Photographic Masterworks”だ。第1次大戦前から第2次大戦後の作品までの、写真史上の代表作を幅広く含む教科書的な184点の単独コレクションからのセールだ。残念ながら結果は、落札率51.9%と極めて不調に終わった。最高額は、アルフレッド・スティーグリッツの代表作“The Terminal, New York, 1893/c1910”で、22.5万ドル(約2520万円)で落札。しかし同じく有名作だった“The Steerage, 1907”は不落札だった。特にモダニズム系など20世紀写真の不調が目立った。
一方で比率は少なかったファッション系は好調で、ノーマン・パーキンソン、ホルスト、アーヴィング・ペン、ロバート・メイプルソープ、ハーブ・リッツ、サラ・ムーンなどは確実に落札されていた。その他では、エドワード・ウェストン、ルース・ベルナード、ロバート・メイプルソープなどのヌード系も人気があった。

最近は、市場に相場の先高観がなくなってきている。景気サイクル後半に差し掛かる経済状況とともに、20世紀の第1世代のコレクターが高齢になり、処分売りによる供給が増える一方で、次世代を担うアート写真コレクターが育っていないことが複合的に影響していると考えられる。
いくら貴重作でもプリント流通量が多い作品の場合、買い手は慎重で、落札予想価格が高いと不落札になる場合が多い。
写真史で有名な写真家で来歴が良い作品でも、有名でない絵柄の人気が低迷している。いわゆる人気、不人気作品の2極化が進んでいるという意味だ。

今回のオークション結果、特に“An American Journey”は、まさにこのような市場傾向と合致すると思われる。
また欧米のディーラーは、資金を調達して在庫を仕入れる場合がある。最近の金利上昇によるコスト上昇も落札率低下の一因だと思われる。

さてクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスは、10月下旬から11月にかけて、ロンドンとパリで複数のアート写真のオ―クションを予定している。ニューヨークでのオークション後に、世界の経済状況はさらに不透明感が増している。市場の関心は、今春は好調だった英国、欧州市場の動向に移っている。

(1ドル/112円で換算)

2018年秋のアート写真シーズンがスタート
大手・中堅ハウスのオークション・プレビュー

夏休みシーズンも今週で終了し、いよいよ来週からアート写真のニューヨーク定例オークションが開催される。大手と中堅のスケジュールと見どころを紹介しよう。

〇大手ハウスのオークション開催予定

  1. 10月3日
    Sothebys(ササビーズ)
    https://www.sothebys.com/en/
    ・Contemporary Photographs 78点
    ・Photographs 130点
  2. 10月4日

    Phillips(フィリップス)
    https://www.phillips.com/
    ・A Constant Pursuit: Photographs from the Collection of
    Ed Cohen & Victoria Shaw 83点
    ・Photographs 216点
  3. 10月4日~5日

    Christie’s(クリスティーズ)
    https://www.christies.com/
    ・An American Journey: The Diann G. and Thomas A. Mann
    Collection of Photographic Masterworks  184点
    ・Photographs 181点〇中堅ハウスのオークション開催予定
  4. 10月2日、Bonhams(ボナムス)
    ・Photographs 138点
  5. 10月12日、Heritage Auctions(ヘリテージ)
    ・ Photographs Signature Auction 430点
  6. 10月18日、Swann auction galleries(スワン)
    ・Artists & Amateurs: Photographs & Photobooks 433点

中~高価格帯を取り扱う大手3業者の出品数は872点(昨年同時期は874点、クリスティーズのMoMAオンライン・オークションを含む)、低価格帯を取り扱う中堅3業者の出品数は1001点(昨年同時期は985点)。今回もほぼ昨年並みの膨大な数のアート写真がオークションにかかる。
今回、ササビーズは午前に現代写真、午後に20世紀写真をカテゴリー分けしてオークションを行う。これからは、21世紀写真も高額作品は現代アートオークションの一部、中低価格帯は現代写真のカテゴリーに分類される可能性は十分にあるだろう。今後も各社による試行錯誤が続くと思われる。

フィリップスとクリスティーズが単独コレクションのセールを開催する。特に注目されているのは、クリスティーズの“An American Journey: The Diann G. and Thomas A. Mann Collection of Photographic Masterworks”だ。第1次大戦前から第2次大戦後の作品までの代表作を幅広く含む写真史の教科書的な184点のコレクションのセールとなる。フォト・セセッションを代表するアルフレッド・スティーグリッツのフォトグラヴュールの代表作、“The Terminal,New York, 1892”、“The Hand of Man, 1902”、“The Steerage, 1907”、30年代FSA(Farm Security Administration)時代の、ドロシア・ラング、ウォーカー・エバンス、マーガレット・バーク・ホワイトらの名作、モダニズム写真のポール・ストランド、エドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、またロバート・メイプルソープ、アーヴィング・ペンなども含まれる。ちなみにスティーグリッツの“The Steerage, 1907”は、予想落札価格20~30万ドル(2200~3300万円)。いま20世紀初期の数多くのヴィンテージ作品が美術館や主要コレクションの収蔵品となり、市場での流通量が極めて低くなってきている。現在では、貴重な傑作によるコレクション構築はもはや不可能だと思われる。このような極めて貴重なコレクションが現在の市場でどのような評価で取引されるのか、関係者は皆注目している。見方を変えると、現代美術などと比べるとはるかな低予算で20世紀写真の歴史を語る重要作が一度にコレクションできるチャンスだともいえる。

フィリップスの“A Constant Pursuit: Photographs from the Collection of Ed Cohen & Victoria Shaw”も、エド・コーエン氏によるパーソナルな視点からの良いコレクションのセールだ。注目作はリチャード・アヴェドンの代表作“Marilyn Monroe, New York City, May 6 1957”のヴィンテージ・プリント。予想落札価格は、20~30万ドル(2200~3300万円)。

その他の個別作品で注目されているのは、クリスティーズの複数委託者セールに出品されるダイアン・アーバスによる双子の少女を撮影した代表作“Identical twins, Roselle, N.J., 1966”、予想落札価格50~70万ドル(5500~7700万円)。
ササビーズの複数委託者セールに出品される、カタログのカヴァー作品となるアレクサンドル・ロトチェンコの有名作“GIRL WITH A LEICA (DEVUSHKA S LEIKOI)”は、予想落札価格30~50万ドル(3300~5500万円)。

現代アート系では、フリップスのPhotographsオークションカタログのカヴァー作品となるヴォルフガング・ティルマンスの大判抽象作品“Freischwimmer 20, 2003”。エディション1、アーティスト・プルーフ1の希少作品で、予想落札価格は12~18万ドル(1320~1980万円)。同じく、シンディー・シャーマンの“Untitled #296, 1994”は、予想落札価格は18~22万ドル(1980~2420万円)となっている。

(1ドル110円で換算)

2018年前期の市場を振り返る
アート写真のオークション高額落札

アート写真市場は前半のオークション・スケジュールをほぼ消化した。昨年前期と比べると、出品数は約15%減少して3488点、落札率は若干改善して69%。総売り上げは、1点の落札単価が約14%上昇したことでほぼ同じ約36億円だった。6月末までにオンライン・オークションが6回開催されているのが今年の特徴。とりあえず前半は予想通りの結果で、波乱なく無事に終了したといえるだろう。

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とを区別して分析している。厳密には、アンドレアス・グルスキー、ロバート・メイプルソープなどは評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、ここでは便宜上、出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。
それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

  1. ヘルムート・ニュートン
    “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    72.9万ポンド(1.09億円)
  2. ピーター・ベアード
    “Heart Attack City, 1972”
    フィリップス・ニューヨーク、4月9日
    60.3万ドル(約6633万円)
  3. ラースロー・モホリ=ナジ
    “Untitled, Weimar, 1923/1925”
    ヴィラ・グリーゼバッハ、5月20日
    48.75万ユーロ(約6240万円)
  4. リチャード・アヴェドン
    “Dovima with Elephants, Paris, 1955”

    クリスティーズ・ニューヨーク、4月6日
    45.65万ドル(約5021万円)
  5. ロバート・メイプルソープ
    “Double Tiger Lily, 1977”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    29.7万ポンド(4455円)

アート写真の上位の1位、2位、3位と5位は、すべて1点ものだとオークションハウスが判断している作品。現代アート系や絵画同様に希少性がある作品が高額になる傾向が一段と強まっている。それを考えると、4位のリチャード・アヴェドン作品は約124X101cm、エディション50点。極めて人気が高いのがわかる。90年代前半のアヴェドン存命時の価格は2,7万ドル(@130/約351万円)だった。ちなみに2010年11月のクリスティーズでは、美術館展用に特別制作された約216X166cmサイズの同作品が約84.1万ユーロ(@112/約9419万円)で落札されている。
なおダイアン・アーバス“A box of ten photographs, 1970”が、4月6日のクリスティーズ・ニューヨークにおいて79.25万ドル(約8717万円)で落札されている。しかしこれは10点のポートフォリオ・セットとなる。

現代アート系の高額売り上げ上位には、お馴染みの顔ぶれが並んでいる。

  1. リチャード・プリンス
    “Untitled (Cowboy), 1999”
    ササビーズ・ロンドン、3月7-8日
    102.9万ポンド(1.54億円)
  2. シンディー・シャーマン
    “Untitled Film Still #21A, 1978”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    94.6万ポンド(約1.41億円)
  3. アンドレアス・グルスキー
    “James Bond Island I, II, & III, 2007”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    67万ポンド(約1億円)
  4. アンドレアス・グルスキー
    “Avenue of the Americas, 2001”
    ササビーズ・ニューヨーク、5月16-17日
    75.9万ドル(約8349万円)
  5. デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ
    “Science Lesson, 1982-1983”

    クリスティーズ・ニューヨーク、5月17-18日
    70.8万ドル(約7793万円)

現代アート系ではアンドレアス・グルスキーの人気が高く、高額ベスト10に4点が入っている。これは2018年1月~4月にロンドンのヘイワード・ギャラリーで開催された英国初の回顧展による影響だと思われる。5位のデイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ(David Wojnarowicz)は、落札予想価格上限を超える高額落札。彼は、70年~80年代のニューヨーク・アート・シーンで活躍した話題の多いアーティスト、映画製作者。写真を含むマルチジャンルの表現で知られている。写真家ピーター・ヒュージャー(1934-1987)と個人的に親しく、本人もエイズで1987年に亡くなっている。7月13日からホイットニー美術館で“David Wojnarowicz: History Keeps Me Awake at Night”が開催されることから注目されたのだろう。主要美術館での展覧会開催は、現代アート系オークションの高額セクターには確実に影響を与えているようだ。

昨年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”。約268万ユーロ(約3.63億円)。2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999”の、約168万ポンド(約2.53億円)だった。

ちなみに、これらは年後半の出品作。いまのところ米国の景気は堅調だが、景気循環サイクルの最終局面との見方も根強くある。中期的には米国と中国の貿易摩擦やその影響も懸念されている。貿易戦争が激化して長期化すれば消費者心理が悪化すると思われる。2018年後半期の、高額で貴重なアート作品の出品にも影響がでてくる可能性もあるだろう。不安要素を抱えつつも、とりあえずアート写真市場は夏休み入りだ。

(1ドル/110円、1ポンド・150円、1ユーロ・128円)

2018年欧州アート写真オークション・レビュー
低価格帯分野で進行する人気・不人気の二極化

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて欧州で開催。欧州の経済状況は、昨年よりは弱くなったものの景気拡大傾向が続いている。しかし通商面では、EUと米国の対立が表面化しており、貿易戦争への懸念から企業業績の先行きには慎重な見方が増えている。またイタリアの政局が混迷してきており、将来的な財政悪化への懸念から国債の利回りが上昇しているのも懸念材料だろう。

Villa Grisebach lot 2062, László Moholy-Nagy, “Untitled, Weimar, 1923/1925”

5月30日にベルリンのヴィラ・グリーゼバッハ(Villa  Grisebach)、6月1日~2日にかけてケルンのレンペルツ(Lempertz)でオークションが開催された。2社合計で472点が出品され、落札率は約58%、総売り上げは167万ユーロ(約2.13億円)。低価格帯(約7500ユーロ以下)の出品が約90%だった。
最高額はヴィラ・グリーゼバッハで落札された、ラースロー・モホリ=ナジの“Untitled, Weimar, 1923/1925”。これは1点物の12.5 × 17.6 cmサイズのヴィンテージ・フォトグラム作品。落札予想価格30~50万ユーロのところ、48.75万ユーロ(約6240万円)で落札された。これはドイツのオークションで落札された最高額の写真作品とのことだ。
5月29日には、ササビーズ・パリで”Photographs Online”が開催。
低価格帯中心に57点が出品され、落札率約63%、総売り上げ約18万ユーロ(約2310万円)だった。

全体的に、ロバート・メイプルソープ、ウィリアム・クライン、ヘルムート・ニュートン、エリオット・アーウィット、杉本博司など知名度の高いアーティストの人気作は順調に落札されている。しかし、土地柄だろうか米国人アーティストの現代写真はあまり人気がない。特に知名度の低い20世紀写真の落札率は低くなっている。それらは落札予想価格は低めに設定されているのにかかわらず。コレクターの反応は鈍いのだ。欧州でも米国同様にコレクターのブランド志向の強まりを感じられる。低価格帯のなかでも、作品/アーティストの人気と不人気という、ふたつの二極化が進行しているようだ。

6月なってからニューヨークでも中堅業者の、ヘリテージ(Heritage)、ドイル(Doyle)で中低価格帯中心のオークションが開催されている。ヘリテージでは、423点が出品され、落札率は約76%、総売り上げは約135万ドル(1.48億円)だった。同社のオークションは、まるで90年代の大手のカタログを見ているような気がした。知名度が高いが、エディション数が多く、比較的低価格帯の良作が多数出品されている。ウォーカー・エバンス、エドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、ベレニス・アボット、アンリ・カルチェ=ブレッソンなどの20世紀写真から、ホルスト、ヘルムート・ニュートン、アーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツなどの人気の高いファッション系が多数みられる。大手が積極的に取り扱わない作品がこちらに出品されている印象だ。
最高額は、アーヴィング・ペンの“Cuzco Children, Peru, December, 1948”。落札予想価格10~15万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札された。本作は“World in the small room”からのペンの代表作。落札予想価格の下限付近の落札と、上値がやや重たい印象だ。
一方で、ドイルは、さらに低価格帯の19~20世紀の写真作品が多く出品されている。184点が出品、落札率約82%、総売り上げ約34.9万ドル(約3839万円)だった。

6月27日には、中堅のボンハムス(Bonhams)ニューヨークによるオンライン・オークション“Photographs Online”が行われた。こちらは低価格帯中心に117点が出品されるが落札率が約29%、総売り上げ約15.1万ドル(約1661万円)にとどまった。

今後、低価格帯のオークションは開催コストが低いオンライン・オンリーに移行していくと思われる。今までは、価格帯により大手と中小業者の棲み分けが行われていた。しかし、今回のボンハムスの結果を見るに、オンライン・オークションでも、高いブランド力とマーケティング力を持つ大手がシェアーを伸ばしていく予感がする。特にクリスティーズは積極的で、オンライン・オークションでの高ブランド低価格帯作品の取り扱いを強化している。5月には“Stephen Shore : Vintage photographs”を開催。結果は、落札率約60%、総売り上げ15.9万ドル(1749万円)だった。7月9日から19日には、クリスティーズ・ニューヨークで、先日に日本で内覧会が行われたオンライン・オークションの“MoMA: Tracing Photography’s History ”の開催が予定されている。中堅のヘリテージ・ダラスは、オンラインとライブを組み合わせた低価格帯中心の101点のオークション“Online Photographs Fine Art”を企画している。7月5日からオンライン・オークションを開始、最終日の7月25日にライブ・オークションを行うという。ここにきて伝統のあるオークション業界でも、デジタル技術を利用した効率化への試行錯誤が行われるようになってきた。

(1ユーロ・128円)(1ドル・110円)

2018年春ロンドン・アート写真オークション

5月17日~20日に行われたロンドンのサマーセット・ハウスで開催されたフォト・フェア”Photo London 2018”にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月17日~18日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビースで開催。

3社の実績を昨年春と比べてみよう。2017年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。今年は、総売り上げ約643万ポンドに約28%増加、365点が出品されて284点が落札、落札率も約78%と改善した。全体の出品数が減少しているものの、落札予想価格が2.5万ポンド(約375万円)以上の高額価格帯、5000ポンド(約75万円)以上の中間価格帯の落札数が増えていた。
今回はクオリティーの高い希少作の出品が多く、全般的に良好な結果だったといえるだろう。

Phillips London, ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales Catalogue

今春は、特にフィリップスの“ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales”の好調が目立った。同社は、適切にエディティングされた複数委託者と共に、複数の優れたコレクションからの委託を獲得し、出品数は昨年の93点から172点に大幅に増加させている。売り上げは昨年比約51%も増加して約355万ポンド(約5.32億円)、落札率も平均を上回る約85%だった。これは同社のロンドンでの最高売上とのこと。
今回の目玉となったのは、1点もの“POLAROIDS from the Piero Bisazza Collection”32点と、現代アート系写真の“Michel and Sally Strauss Contemporary Photography Collection”の50点のセール。ポラロイド・コレクションは、イタリアのガラス製モザイクタイル業界をリードするメーカー「ビザッツァ」のCEOのピエロ・ビザッツァ(Piero Bisazza)のもの。彼は、モザイク・タイルとの類似性からポラロイドに魅了されコレクションを行っているとのこと。アンディー・ウォーホール、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、パオロ・ロベルシ、ピーター・ベアード、サラ・ムーン、カルロ・モリーニ、荒木経惟など、様々なアーティストが多様なアプローチでポラロイドを利用していた事実がわかって興味深い。ニュートン作品の一部は、実際に写真集“Pola Woman”制作時のオリジナル作品とのこと。有名写真家の来歴の確かで絵柄もよい1点物。コレクター人気が高いのもうなずける。ウォーホール、ニュートン、ベアードなどの人気作は落札予想価格上限を超えて落札。全体の売り上げアップに大きく貢献していた。

高額落札はファッション系が目立った。
最高額はフィリップスに出品されたヘルムート・ニュートンの“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”。

Phillips London, Lot 16, “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989” ⓒ Helmut Newton

現存しているのは同作1点だけの可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品。希少性が寄与して、落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(約1.09億円)で落札された。これはニュートンのオークション最高額での落札となる。ちなみに同作はニュートンが亡くなった直後の2004年4月のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで、18.11万ドルで落札されている。当時の為替は約1ドル/107.70円、円貨で単純比較すると約15年間で作品の市場価値は約5.6倍になったことになる。
続くのは、同じくフィリップスのロバート・メイプルソープの“Double Tiger Lily,1977”。こちらは花の写真2点組からなる1点もの。90年代前半に日本で開催された展覧会にも何回か展示されている。落札予想価格上限を超える29.7万ポンド(約4455万円)で落札されている。

ササビーズ“Photographs”では、リチャード・アヴェドンの“AVEDON/PARIS, 1978”が、落札価格上限を超える23.7万ポンド(3555万円)で落札。本作は1978年にメトロポリタン美術館ニューヨークで開催されたファッションの回顧展の際に制作された、11点からなるパリで撮影された代表的ファッションのポートフォリオ。本作も、2010年11月にクリスティーズ・パリで16.9万ユーロで落札された作品。当時の為替は約1ユーロ/112.61円なので約1903万円、円貨で単純比較すると約8年間で作品の市場価値は約1.86倍になったことになる。ちなみにニュートン作品の希少性と比べて、こちらはエディション75点。

ファッション系がすべて好調というわけではない。今春のニューヨーク・オークションで、アーヴィング・ペンの、6万ドル以上の高価格帯作品や、キャリア後期作品などは不落札が目立ったことを報告した。
ロンドンでもフィリップスに出品されたペンの代表作“Black and White Vogue Cover (Jean Patchett), New York,1950”が不落札だった。こちらは、2012年4月のクリスティーズ・ニューヨークで43.45万ドル(@81.25/約3500万円)で落札されたプラチナ作品。今回の落札予想価格は20万~30万ポンド(3000万円~4500万円)。エディションが34点であることを考えると、前回の落札価格はやや過大評価だったということだろう。

日本人写真家では、石内都の“絶唱、横須賀ストーリー,1976-1977”の22点セットがフィリップスに出品。落札予想価格上限の9万ポンドを上回る、10.625万ポンド(約1593万円)で落札されている。こちらは11.9X16.3cmの小ぶりサイズの、1979年プリントの1点もの作品。出品作のシリーズは全体で約100点現存するうちの22点。40点はテート・モダンがコレクションしているとのことだ。

ここ数年の欧州における大手業者のアート写真オークションは、春は英国のフォトロンドンと、秋は大陸のパリフォトと同じ時期での開催が一般化してきた。春のニューヨークの大手のオークションは、AIPADフォトグラフィー・ショーと同時期の開催だ。今春の良好な結果は、欧州でもフォトフェアとオークションの同時開催が業者やコレクターの間で定着してきた証拠だろう。

(1ポンド・150円で換算)

2018年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー

アート相場に影響を与える株価は年初から乱高下が続いている。NYダウは1月に終値ベースの最高値26,616.71ドルを付けた後に、2月発表の雇用統計により短期金利の早期利上げ懸念が浮上して大きく調整。ボォラティリティーが急上昇し、景気拡大、低インフレ、低金利が続く適温相場が変調の兆しを見せ始めた。その後、オークションが行われた4月上旬は24,000ドル台で推移している。米中通商問題、ネット情報保護の問題、シリア情勢、北朝鮮動向などの中期的な不安定要因が横たわるものの、経済実態は拡大基調であることから、短期的にはしばらくはレンジ内相場が続く感じだ。オークション開催時のアート相場への株価の影響はほぼニュートラルといえるだろう。

4月5日から8日にかけて、大手3社が単独コレクションと複数委託者による5つのオークションを開催。クリスティーズは、4月6日に“Photographs”と“The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”、
フィリップスは、4月9日に“Photographs & The Enduring Image: The Collection of Dr. Saul Unter”
ササビーズは、4月10日に“A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と“Photographs”が行われた。クリスティーズの“MoMA: Walker Evans”オンラインオークションを加えると、今春はトータルで772点が出品。ちなみに昨年春741点、昨年秋は874点だった。

今回の平均落札率は73.5%で、昨年秋の69.9%から改善。ほぼ昨年春の73.8%と同じレベルだった。しかし総売り上げは減少して約1535.5万ドル(約16.9億円だった。昨春比マイナス約14.7%、昨秋比マイナス約19.7%だった。
内訳をみると、ササビーズが昨秋比約76%増加し、クリスティーズが約45%減、フィリップスも約24%減。過去10回の売り上げの平均値と比較すると、リーマンショック後の低迷から2013年春~2014年春にかけて一時回復するものの、再び2016年までずっと低迷していた。2017年春、秋はやっと回復傾向を見せてきたが、今春に再び下回ってしまった。(*チャートを参照)

中長期的な経済の先行きに不安定要素が多いことが心理的に影響を与えたのだろう。もしかしたら現在の売れ上げレベルは、リーマンショックからの回復過程というよりも、市場規模のニューノーマルなのかもしれない。

PHILLIPS NY “Photographs”Peter Beard “Heart Attack City,1972”

今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズ“The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”のダイアン・アーバスによる、アート史上重要な10枚のポートフォリオ・セット“A box of ten photographs”。落札予想価格50万~70万ドルのところ約79.25万ドル(約8198万円)で落札。
2位はフィリップの複数委託者オークションのピーター・ベアードのマリリン・モンローがフィーチャーされた“Heart Attack City,1972”。落札予想価格50万~70万ドルのところ約60.3万ドル(約6633万円)で落札されている。
3位はクリスティーズの“Photographs”のリチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955”の大判作品。落札予想価格30万~50万ドルのところ約45.65万ドル(約5021万円)で落札。ササビーズでも同じ作品が出品されたが、そちらは約37.5万ドル(約4125万円)で落札。プリントの制作年が古いほうが高額で落札された。
4位はフィリップ複数委託者オークションに出品されたオーストリア人写真家ルドルフ・コピッツによる“Bewegungsstudie Movement Study).1924”(動作研究)。落札予想価格20万~30万ドルのところ約39.9万ドル(約4389万円)だった。

あいかわらず貴重な美術館級のヴィンテージ作品やエディション数が少ない現代アート系アーティストの代表的作品に対する需要は順調だ。一方で、骨董品的価値しかない19世紀写真や、現代アート系でもブランドが確立していないアーティストの作品への需要は低調だ。またフィリップスに出品されたエドワード・スタイケンの“Gloria Swanson, New  York,1924”などの有名ヴィンテージ作も不落札だった。貴重作の評価はどうしても高く売りたい売り手の希望に左右されることになりがち。流通するプリントが複数あるような作品の場合、買い手は慎重で、落札予想価格が過大だと評価されがちになる。
5万ドルを超える価格帯では、アイコン的ではないエディション数が多い作品に対してはコレクターが慎重になりつつあるようだ。人気写真家の作品でも、強気の最低落札価格を設定している出品作は苦戦していた。ロバート・フランクでも、超有名作の“New Orleans(Trolley)” や“Hoboken(Parade, New jersey)”などは10~20万ドルで落札されるのだが、”アメリカン人”収録作品でもイメージのわりに相場が高いの作品、また70年代に制作された作品には不落札が多くみられた。

ファッション写真はドキュメント系より人気が高く出品数が多い。しかしアーヴィング・ペンでも、6万ドル以上の高価格帯では、キャリア後期作品などは不落札が目立った。ササビーズでは、ヴォーグ誌の1949円11月号の表紙を飾った“VOGUE CHRISTMAS COVER (NEW YORK)”が出品されるが、6~9万ドルの落札価格のところ不落札。ピカソのポートレート作品“PICASSO (B) CANNES”も7~10万ドルの落札価格のところ不落札だった。ファッションやポート-レート系の高額価格帯のペン作品の相場見直しはこれからも続きそうな気配だ。
同様の例は、リリアン・バスマン、ピーターリンドバークでも見られた。特に大判サイズで落札予想価格が高いものは、不落札が目立った。

いま市場には先高観があまりなく、特にいま無理して買わなくてもよいという雰囲気を感じる。中低価格帯では、あいかわらず人気、不人気作品の2極化が進んでいる。いくら写真史で有名な写真家で来歴が良くても、有名でない絵柄の人気が低い。よく20世紀写真を集めるコレクターが減少し、新しいコレクターはよりインテリアでの見栄えを重視して作品を選んでいると言われている。オークション動向がそのようなコレクターの傾向と合致する場合が多くなってきた。今まで以上に、写真は一つの独立したカテゴリーではなく、数多くあるアート表現の一部だと理解しなければならなくなってきたようだ。
(為替レート 1ドル/110円で換算)

2018年アート写真市場がいよいよ幕開け
春の大手業者のオークション・プレビュー

4月5日から8日にかけて、世界最大規模のアート写真に特化したアートフェアーの”AIPAD フォトグラフィー ショー2018″がニューヨークで行われる。今年もこの世界中のコレクターや関係者が集まる機会に合わせて大手3社のオークションが開催される。

クリスティーズでは、昨秋から続いているニューヨーク近代美術館コレクションのオンライン・セール6回目となる”MoMA: Walker Evans”が、4月3日から11日にかけて開催される。多数の代表作を含む落札予想価格が3000ドル~15,000ドル(約33~165万円)の109点が出品される。ほとんどの作品が同館で1971年に開催された回顧展の際に制作されたものとのことだ。ウォーカー・エバンスは、アーバスやウィノグランドなど多くのストリート系写真家に多大な影響を与えた巨匠。これまでのオンライン・セールの目玉となることから動向が注目されている。

ライブ・オークションでは、大手3者が単独コレクションと複数委託者による5つのオークションが開催される。
クリスティーズは、4月6日に”Photographs”と”The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”、フィリップスは、4月9日に”Photographs & The Enduring Image: The Collection of Dr. Saul Unter”、ササビーズは、4月10日に”A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と”Photographs”を開催する。
トータルで663点が出品。昨年春の741点、昨年秋の874点よりは少ない。

PHILLIPS NY “Photographs” Catalogue

高額落札が予想されている作品はフィリップスに集中している。”Photographs”に出品されるピーター・ベアードの”Heart Attack City,1972″。100.6 x 123 cmサイズの、銀塩写真、水彩ドローイングなどを含むコラージュ作品。落札予想価格は50万~70万ドル(5500~7700万円)。
同じく”The Enduring Image: Photographs from the Dr. Saul Unter Collection”に出品されるのは、エドワード・スタイケンの”Gloria Swanson, New York,1924″。こちらは24.1 x 19.1cmサイズの銀塩のヴィンテージ作品。落札予想価格は40万~60万ドル(4400~6600万円)。続いては、これも”Photographs”に出品されるアンドレアス・グルスキーのサッカー場と選手を撮影した”EM, Arena, Amsterdam I,2000″。207 x 166.7 cmサイズ、エディション4のクロモジェニックカラー・プリント作品。 こちらの落札予想価格は35万~45万ドル(3850~4950万円)。

クリスティーズの”The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”には、ダイアン・アーバスによる、アート史上において非常に重要なポートフォリオ・セット”A box of ten photographs”が出品される。このポートフォリオが、彼女の死後のキャリア評価を決定づけるとともに、写真がシリアスなアートだと認識されるきっかけを作ったと言われている。こちらには、ニール・セルカークがプリントして、ドーン・アーバスがサインしたポーツマス・プリント10点が収録。アーバス本人が作品をセレクションしていることから、数多い個別作品の中でもポートフォリオ収録作品の評価が高くなっている。落札予想価格は50万~70万ドル(5500~7700万円)。個人コレクターというよりも美術館などの公共機関がぜひ所有したい逸品だろう。

ササビーズの”Photographs”で注目されているのは、マン・レイの”MINOTAUR,1933″と、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの”THE PENCIL OF NATURE(自然の鉛筆)”の6冊完全セット。落札予想価格はともに15万~25万ドル(1650~2750万円)。

私が個人的に注目しているのは、ササビーズの”A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と、クリスティーズ”Photographs”に出品されるリチャード・アヴェドンの代表作”Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955″。ともに124.5 x 101.6 cmサイズ、エディション50の銀塩写真。落札予想価格は30万~50万ドル(3300~5500万円)。
ちなみに90年代の前半、まだアヴェドンが存命だったときは、一回り小さい20X24″(約51X61cm)の方が人気があって、値段も高かった。約4半世紀が経過して、アート写真は現代アートの一部となり、大きなサイズの方がはるかに高額になっている。本オークションの出品作の当時の値段は2.7万ドルだった。現在の評価は10倍以上になっている。

(為替レート1ドル/110円で換算)

2018年アート写真のオークションがスタート! アイコン的作品の人気が続く

今年のライブによるアート写真オークションは、2月15日に米国ニューヨークの中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)の”Icons & Images:Photographs & Photobooks”でスタートした。出品作品の約86.6%が落札予想価格上限1万ドル以下の低価格作品中心のオークションとなる。落札結果はほぼ予想通りで、落札率は約73%、総売り上げは約166万ドル(約1826万円)だった。
ちなみに2017年の同オークションも、落札率は約73.9%、総売り上げは約158万ドルとほぼ同等の結果だった。

Swann Auction Galleries, Robert B. Talfor

今回注目点ははフォトジャーナリズムのルイス・ハイン (1874-1940) の24作品が出品されたこと。注目されていたカタログの表紙を飾るハインの代表作”Mechanic at Steam Pump in Electric Power House, Circa 1921”。落札予想価格は7万~10万ドル(770~1100万円)のところ、8.125万ドル(約893万円)で落札された。
最高額だったのは19世紀の英国出身写真家Robert B. Talforによる113点の歴史的写真アルバム “Photographic Views of Red River Raft, 1873″。(上の画像)
落札予想価格は1.8万~2.2万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札された。アートコレクションとというよりも歴史的な資料の価値が強い作品。美術館や公共機関が購入したのではないだろうか。

2月15日には、ササビーズ・ロンドン”Erotic: Passion & Desire”オークションが開催された。リチャード・アヴェドン、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、マン・レイ、トーマス・ルフなどの高額評価のヌード写真が絵画、版画、ドローイング、彫刻などとともに出品された。
総売り上げは約371万ポンド(5.56億円)。写真関連作品は18点が出品された。全体の落札率は約70%、写真は約77%だった。

写真の最高額はクリス・レヴィーンの、ケイト・モスをモデルにした立体感のあるレンティキュラー・プリントのライトボックス作品”SHE’S LIGHT (LASER 3), 2013″の7.5万ポンド(約1125万円)だった。(下の画像)

Sotheby’s London, “Erotic: Passion & Desire”, Chris Levine SHE’S LIGHT (LASER 3), 2013

レヴィーンは、ロンドンを拠点に活躍しているカナダ出身のアーティスト。セントラル・セント・マーチンズを卒業してから、光とアートを融合した“ライトアート”作品を制作。最新テクノロジーを駆使して光や画像を形にして、レーザー、LED、レンズ、ライトボックス、写真などによる斬新な官能的作品を作り上げている2004年、エリザバベス2世のホログラム(レーザー光線によって作られる3次元の立体写真)撮影に指名される。20世紀に最もアイコニックなイメージと言われるこの3Dポートレートシリーズがレヴィーンを一躍著名なアーティストにした。今回のケイト・モス作品は彼の代表作。100X150cmの大判サイズでAPを含めて2点しか制作されていない写真だが絵画に近い貴重な作品。

ササビーズ・パリは、低価格帯から中間価格帯までの比較的買いやすい価格帯の現代アート、家具などのデザイン、アート写真をまとめ販売する”NOW!”を2月28日に開催。住空間の中でのアートや関連商品を新しいコレクター層に提案するオークションとなる。総売り上げは約179万ユーロ(約2.32億円)。

写真関連作品は現代アート系から銀塩20世紀写真まで約60点が含まれた。全体の落札率は約75%だったが写真は約58%にとどまった。最高額はドイツ人写真家ギュンター・ザックス(1932-2011) の、1点102X102cmの大判カラー作品の8点組”Hommage a Warhol, 1991″で、3万ユーロ(約390万円)で落札。ナン・ゴールディンの69.8 x 101.5 cmサイズのチバクローム作品”GREER AND ROBERT ON THE BED, NYC, 1982″は、2.357万ユーロ(約306万円)で落札された。

2月28日には、ヘリテージ・オークションが約170点の”Online Photographs Auction”を開催。こちらは1000ドルから1万ドルの作品が中心、総売り上げは約14.2万ドル(約1562万円)だった。今後は、このような低価格帯の20世紀写真はコストのかかるライブ・オークションからオンライン・オークションにシフトしていくと思われる。

2月になって1月の米国の雇用統計のよるインフレ懸念と長期金利上昇を受けて、景気回復、低インフレ、低金利が続く適温相場が変調の兆しを見せてきた。金融市場では相場の乱高下が続き、どうも低ボラティリティーの時代は終焉を迎えてようだ。金利上昇などがアート相場に与える影響にについては皆がまだ予想できないでいる。先の見通しが不明確だとなかなか参加者も入札に強気になれないだろう。作品の選別化が進行していたアート写真市場にはどのような影響が出てくるのだろうか?今週ロンドンで行われる現代アート・オークションとともに、来月のニューヨークのアート写真定例オークションが注目される。

(1ドル/110円、1ポンド/150円。1ユーロ/130円)