2018年秋のアート写真シーズンがスタート
大手・中堅ハウスのオークション・プレビュー

夏休みシーズンも今週で終了し、いよいよ来週からアート写真のニューヨーク定例オークションが開催される。大手と中堅のスケジュールと見どころを紹介しよう。

〇大手ハウスのオークション開催予定

  1. 10月3日
    Sothebys(ササビーズ)
    https://www.sothebys.com/en/
    ・Contemporary Photographs 78点
    ・Photographs 130点
  2. 10月4日

    Phillips(フィリップス)
    https://www.phillips.com/
    ・A Constant Pursuit: Photographs from the Collection of
    Ed Cohen & Victoria Shaw 83点
    ・Photographs 216点
  3. 10月4日~5日

    Christie’s(クリスティーズ)
    https://www.christies.com/
    ・An American Journey: The Diann G. and Thomas A. Mann
    Collection of Photographic Masterworks  184点
    ・Photographs 181点〇中堅ハウスのオークション開催予定
  4. 10月2日、Bonhams(ボナムス)
    ・Photographs 138点
  5. 10月12日、Heritage Auctions(ヘリテージ)
    ・ Photographs Signature Auction 430点
  6. 10月18日、Swann auction galleries(スワン)
    ・Artists & Amateurs: Photographs & Photobooks 433点

中~高価格帯を取り扱う大手3業者の出品数は872点(昨年同時期は874点、クリスティーズのMoMAオンライン・オークションを含む)、低価格帯を取り扱う中堅3業者の出品数は1001点(昨年同時期は985点)。今回もほぼ昨年並みの膨大な数のアート写真がオークションにかかる。
今回、ササビーズは午前に現代写真、午後に20世紀写真をカテゴリー分けしてオークションを行う。これからは、21世紀写真も高額作品は現代アートオークションの一部、中低価格帯は現代写真のカテゴリーに分類される可能性は十分にあるだろう。今後も各社による試行錯誤が続くと思われる。

フィリップスとクリスティーズが単独コレクションのセールを開催する。特に注目されているのは、クリスティーズの“An American Journey: The Diann G. and Thomas A. Mann Collection of Photographic Masterworks”だ。第1次大戦前から第2次大戦後の作品までの代表作を幅広く含む写真史の教科書的な184点のコレクションのセールとなる。フォト・セセッションを代表するアルフレッド・スティーグリッツのフォトグラヴュールの代表作、“The Terminal,New York, 1892”、“The Hand of Man, 1902”、“The Steerage, 1907”、30年代FSA(Farm Security Administration)時代の、ドロシア・ラング、ウォーカー・エバンス、マーガレット・バーク・ホワイトらの名作、モダニズム写真のポール・ストランド、エドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、またロバート・メイプルソープ、アーヴィング・ペンなども含まれる。ちなみにスティーグリッツの“The Steerage, 1907”は、予想落札価格20~30万ドル(2200~3300万円)。いま20世紀初期の数多くのヴィンテージ作品が美術館や主要コレクションの収蔵品となり、市場での流通量が極めて低くなってきている。現在では、貴重な傑作によるコレクション構築はもはや不可能だと思われる。このような極めて貴重なコレクションが現在の市場でどのような評価で取引されるのか、関係者は皆注目している。見方を変えると、現代美術などと比べるとはるかな低予算で20世紀写真の歴史を語る重要作が一度にコレクションできるチャンスだともいえる。

フィリップスの“A Constant Pursuit: Photographs from the Collection of Ed Cohen & Victoria Shaw”も、エド・コーエン氏によるパーソナルな視点からの良いコレクションのセールだ。注目作はリチャード・アヴェドンの代表作“Marilyn Monroe, New York City, May 6 1957”のヴィンテージ・プリント。予想落札価格は、20~30万ドル(2200~3300万円)。

その他の個別作品で注目されているのは、クリスティーズの複数委託者セールに出品されるダイアン・アーバスによる双子の少女を撮影した代表作“Identical twins, Roselle, N.J., 1966”、予想落札価格50~70万ドル(5500~7700万円)。
ササビーズの複数委託者セールに出品される、カタログのカヴァー作品となるアレクサンドル・ロトチェンコの有名作“GIRL WITH A LEICA (DEVUSHKA S LEIKOI)”は、予想落札価格30~50万ドル(3300~5500万円)。

現代アート系では、フリップスのPhotographsオークションカタログのカヴァー作品となるヴォルフガング・ティルマンスの大判抽象作品“Freischwimmer 20, 2003”。エディション1、アーティスト・プルーフ1の希少作品で、予想落札価格は12~18万ドル(1320~1980万円)。同じく、シンディー・シャーマンの“Untitled #296, 1994”は、予想落札価格は18~22万ドル(1980~2420万円)となっている。

(1ドル110円で換算)

2018年前期の市場を振り返る
アート写真のオークション高額落札

アート写真市場は前半のオークション・スケジュールをほぼ消化した。昨年前期と比べると、出品数は約15%減少して3488点、落札率は若干改善して69%。総売り上げは、1点の落札単価が約14%上昇したことでほぼ同じ約36億円だった。6月末までにオンライン・オークションが6回開催されているのが今年の特徴。とりあえず前半は予想通りの結果で、波乱なく無事に終了したといえるだろう。

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とを区別して分析している。厳密には、アンドレアス・グルスキー、ロバート・メイプルソープなどは評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、ここでは便宜上、出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。
それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

  1. ヘルムート・ニュートン
    “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    72.9万ポンド(1.09億円)
  2. ピーター・ベアード
    “Heart Attack City, 1972”
    フィリップス・ニューヨーク、4月9日
    60.3万ドル(約6633万円)
  3. ラースロー・モホリ=ナジ
    “Untitled, Weimar, 1923/1925”
    ヴィラ・グリーゼバッハ、5月20日
    48.75万ユーロ(約6240万円)
  4. リチャード・アヴェドン
    “Dovima with Elephants, Paris, 1955”

    クリスティーズ・ニューヨーク、4月6日
    45.65万ドル(約5021万円)
  5. ロバート・メイプルソープ
    “Double Tiger Lily, 1977”
    フィリップス・ロンドン、5月18日
    29.7万ポンド(4455円)

アート写真の上位の1位、2位、3位と5位は、すべて1点ものだとオークションハウスが判断している作品。現代アート系や絵画同様に希少性がある作品が高額になる傾向が一段と強まっている。それを考えると、4位のリチャード・アヴェドン作品は約124X101cm、エディション50点。極めて人気が高いのがわかる。90年代前半のアヴェドン存命時の価格は2,7万ドル(@130/約351万円)だった。ちなみに2010年11月のクリスティーズでは、美術館展用に特別制作された約216X166cmサイズの同作品が約84.1万ユーロ(@112/約9419万円)で落札されている。
なおダイアン・アーバス“A box of ten photographs, 1970”が、4月6日のクリスティーズ・ニューヨークにおいて79.25万ドル(約8717万円)で落札されている。しかしこれは10点のポートフォリオ・セットとなる。

現代アート系の高額売り上げ上位には、お馴染みの顔ぶれが並んでいる。

  1. リチャード・プリンス
    “Untitled (Cowboy), 1999”
    ササビーズ・ロンドン、3月7-8日
    102.9万ポンド(1.54億円)
  2. シンディー・シャーマン
    “Untitled Film Still #21A, 1978”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    94.6万ポンド(約1.41億円)
  3. アンドレアス・グルスキー
    “James Bond Island I, II, & III, 2007”
    ササビーズ・ロンドン、6月26-27日
    67万ポンド(約1億円)
  4. アンドレアス・グルスキー
    “Avenue of the Americas, 2001”
    ササビーズ・ニューヨーク、5月16-17日
    75.9万ドル(約8349万円)
  5. デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ
    “Science Lesson, 1982-1983”

    クリスティーズ・ニューヨーク、5月17-18日
    70.8万ドル(約7793万円)

現代アート系ではアンドレアス・グルスキーの人気が高く、高額ベスト10に4点が入っている。これは2018年1月~4月にロンドンのヘイワード・ギャラリーで開催された英国初の回顧展による影響だと思われる。5位のデイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ(David Wojnarowicz)は、落札予想価格上限を超える高額落札。彼は、70年~80年代のニューヨーク・アート・シーンで活躍した話題の多いアーティスト、映画製作者。写真を含むマルチジャンルの表現で知られている。写真家ピーター・ヒュージャー(1934-1987)と個人的に親しく、本人もエイズで1987年に亡くなっている。7月13日からホイットニー美術館で“David Wojnarowicz: History Keeps Me Awake at Night”が開催されることから注目されたのだろう。主要美術館での展覧会開催は、現代アート系オークションの高額セクターには確実に影響を与えているようだ。

昨年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”。約268万ユーロ(約3.63億円)。2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999”の、約168万ポンド(約2.53億円)だった。

ちなみに、これらは年後半の出品作。いまのところ米国の景気は堅調だが、景気循環サイクルの最終局面との見方も根強くある。中期的には米国と中国の貿易摩擦やその影響も懸念されている。貿易戦争が激化して長期化すれば消費者心理が悪化すると思われる。2018年後半期の、高額で貴重なアート作品の出品にも影響がでてくる可能性もあるだろう。不安要素を抱えつつも、とりあえずアート写真市場は夏休み入りだ。

(1ドル/110円、1ポンド・150円、1ユーロ・128円)

2018年欧州アート写真オークション・レビュー
低価格帯分野で進行する人気・不人気の二極化

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて欧州で開催。欧州の経済状況は、昨年よりは弱くなったものの景気拡大傾向が続いている。しかし通商面では、EUと米国の対立が表面化しており、貿易戦争への懸念から企業業績の先行きには慎重な見方が増えている。またイタリアの政局が混迷してきており、将来的な財政悪化への懸念から国債の利回りが上昇しているのも懸念材料だろう。

Villa Grisebach lot 2062, László Moholy-Nagy, “Untitled, Weimar, 1923/1925”

5月30日にベルリンのヴィラ・グリーゼバッハ(Villa  Grisebach)、6月1日~2日にかけてケルンのレンペルツ(Lempertz)でオークションが開催された。2社合計で472点が出品され、落札率は約58%、総売り上げは167万ユーロ(約2.13億円)。低価格帯(約7500ユーロ以下)の出品が約90%だった。
最高額はヴィラ・グリーゼバッハで落札された、ラースロー・モホリ=ナジの“Untitled, Weimar, 1923/1925”。これは1点物の12.5 × 17.6 cmサイズのヴィンテージ・フォトグラム作品。落札予想価格30~50万ユーロのところ、48.75万ユーロ(約6240万円)で落札された。これはドイツのオークションで落札された最高額の写真作品とのことだ。
5月29日には、ササビーズ・パリで”Photographs Online”が開催。
低価格帯中心に57点が出品され、落札率約63%、総売り上げ約18万ユーロ(約2310万円)だった。

全体的に、ロバート・メイプルソープ、ウィリアム・クライン、ヘルムート・ニュートン、エリオット・アーウィット、杉本博司など知名度の高いアーティストの人気作は順調に落札されている。しかし、土地柄だろうか米国人アーティストの現代写真はあまり人気がない。特に知名度の低い20世紀写真の落札率は低くなっている。それらは落札予想価格は低めに設定されているのにかかわらず。コレクターの反応は鈍いのだ。欧州でも米国同様にコレクターのブランド志向の強まりを感じられる。低価格帯のなかでも、作品/アーティストの人気と不人気という、ふたつの二極化が進行しているようだ。

6月なってからニューヨークでも中堅業者の、ヘリテージ(Heritage)、ドイル(Doyle)で中低価格帯中心のオークションが開催されている。ヘリテージでは、423点が出品され、落札率は約76%、総売り上げは約135万ドル(1.48億円)だった。同社のオークションは、まるで90年代の大手のカタログを見ているような気がした。知名度が高いが、エディション数が多く、比較的低価格帯の良作が多数出品されている。ウォーカー・エバンス、エドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、ベレニス・アボット、アンリ・カルチェ=ブレッソンなどの20世紀写真から、ホルスト、ヘルムート・ニュートン、アーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツなどの人気の高いファッション系が多数みられる。大手が積極的に取り扱わない作品がこちらに出品されている印象だ。
最高額は、アーヴィング・ペンの“Cuzco Children, Peru, December, 1948”。落札予想価格10~15万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札された。本作は“World in the small room”からのペンの代表作。落札予想価格の下限付近の落札と、上値がやや重たい印象だ。
一方で、ドイルは、さらに低価格帯の19~20世紀の写真作品が多く出品されている。184点が出品、落札率約82%、総売り上げ約34.9万ドル(約3839万円)だった。

6月27日には、中堅のボンハムス(Bonhams)ニューヨークによるオンライン・オークション“Photographs Online”が行われた。こちらは低価格帯中心に117点が出品されるが落札率が約29%、総売り上げ約15.1万ドル(約1661万円)にとどまった。

今後、低価格帯のオークションは開催コストが低いオンライン・オンリーに移行していくと思われる。今までは、価格帯により大手と中小業者の棲み分けが行われていた。しかし、今回のボンハムスの結果を見るに、オンライン・オークションでも、高いブランド力とマーケティング力を持つ大手がシェアーを伸ばしていく予感がする。特にクリスティーズは積極的で、オンライン・オークションでの高ブランド低価格帯作品の取り扱いを強化している。5月には“Stephen Shore : Vintage photographs”を開催。結果は、落札率約60%、総売り上げ15.9万ドル(1749万円)だった。7月9日から19日には、クリスティーズ・ニューヨークで、先日に日本で内覧会が行われたオンライン・オークションの“MoMA: Tracing Photography’s History ”の開催が予定されている。中堅のヘリテージ・ダラスは、オンラインとライブを組み合わせた低価格帯中心の101点のオークション“Online Photographs Fine Art”を企画している。7月5日からオンライン・オークションを開始、最終日の7月25日にライブ・オークションを行うという。ここにきて伝統のあるオークション業界でも、デジタル技術を利用した効率化への試行錯誤が行われるようになってきた。

(1ユーロ・128円)(1ドル・110円)

2018年春ロンドン・アート写真オークション

5月17日~20日に行われたロンドンのサマーセット・ハウスで開催されたフォト・フェア”Photo London 2018”にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月17日~18日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビースで開催。

3社の実績を昨年春と比べてみよう。2017年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。今年は、総売り上げ約643万ポンドに約28%増加、365点が出品されて284点が落札、落札率も約78%と改善した。全体の出品数が減少しているものの、落札予想価格が2.5万ポンド(約375万円)以上の高額価格帯、5000ポンド(約75万円)以上の中間価格帯の落札数が増えていた。
今回はクオリティーの高い希少作の出品が多く、全般的に良好な結果だったといえるだろう。

Phillips London, ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales Catalogue

今春は、特にフィリップスの“ULTIMATE Evening and Photographs Day Sales”の好調が目立った。同社は、適切にエディティングされた複数委託者と共に、複数の優れたコレクションからの委託を獲得し、出品数は昨年の93点から172点に大幅に増加させている。売り上げは昨年比約51%も増加して約355万ポンド(約5.32億円)、落札率も平均を上回る約85%だった。これは同社のロンドンでの最高売上とのこと。
今回の目玉となったのは、1点もの“POLAROIDS from the Piero Bisazza Collection”32点と、現代アート系写真の“Michel and Sally Strauss Contemporary Photography Collection”の50点のセール。ポラロイド・コレクションは、イタリアのガラス製モザイクタイル業界をリードするメーカー「ビザッツァ」のCEOのピエロ・ビザッツァ(Piero Bisazza)のもの。彼は、モザイク・タイルとの類似性からポラロイドに魅了されコレクションを行っているとのこと。アンディー・ウォーホール、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、パオロ・ロベルシ、ピーター・ベアード、サラ・ムーン、カルロ・モリーニ、荒木経惟など、様々なアーティストが多様なアプローチでポラロイドを利用していた事実がわかって興味深い。ニュートン作品の一部は、実際に写真集“Pola Woman”制作時のオリジナル作品とのこと。有名写真家の来歴の確かで絵柄もよい1点物。コレクター人気が高いのもうなずける。ウォーホール、ニュートン、ベアードなどの人気作は落札予想価格上限を超えて落札。全体の売り上げアップに大きく貢献していた。

高額落札はファッション系が目立った。
最高額はフィリップスに出品されたヘルムート・ニュートンの“Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989”。

Phillips London, Lot 16, “Panoramic Nude with Gun, Villa d’Este, Como, 1989” ⓒ Helmut Newton

現存しているのは同作1点だけの可能性が高いという151.5 x 49.5 cmサイズの巨大作品。希少性が寄与して、落札予想価格25~35万ポンドのところ、72.9万ポンド(約1.09億円)で落札された。これはニュートンのオークション最高額での落札となる。ちなみに同作はニュートンが亡くなった直後の2004年4月のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで、18.11万ドルで落札されている。当時の為替は約1ドル/107.70円、円貨で単純比較すると約15年間で作品の市場価値は約5.6倍になったことになる。
続くのは、同じくフィリップスのロバート・メイプルソープの“Double Tiger Lily,1977”。こちらは花の写真2点組からなる1点もの。90年代前半に日本で開催された展覧会にも何回か展示されている。落札予想価格上限を超える29.7万ポンド(約4455万円)で落札されている。

ササビーズ“Photographs”では、リチャード・アヴェドンの“AVEDON/PARIS, 1978”が、落札価格上限を超える23.7万ポンド(3555万円)で落札。本作は1978年にメトロポリタン美術館ニューヨークで開催されたファッションの回顧展の際に制作された、11点からなるパリで撮影された代表的ファッションのポートフォリオ。本作も、2010年11月にクリスティーズ・パリで16.9万ユーロで落札された作品。当時の為替は約1ユーロ/112.61円なので約1903万円、円貨で単純比較すると約8年間で作品の市場価値は約1.86倍になったことになる。ちなみにニュートン作品の希少性と比べて、こちらはエディション75点。

ファッション系がすべて好調というわけではない。今春のニューヨーク・オークションで、アーヴィング・ペンの、6万ドル以上の高価格帯作品や、キャリア後期作品などは不落札が目立ったことを報告した。
ロンドンでもフィリップスに出品されたペンの代表作“Black and White Vogue Cover (Jean Patchett), New York,1950”が不落札だった。こちらは、2012年4月のクリスティーズ・ニューヨークで43.45万ドル(@81.25/約3500万円)で落札されたプラチナ作品。今回の落札予想価格は20万~30万ポンド(3000万円~4500万円)。エディションが34点であることを考えると、前回の落札価格はやや過大評価だったということだろう。

日本人写真家では、石内都の“絶唱、横須賀ストーリー,1976-1977”の22点セットがフィリップスに出品。落札予想価格上限の9万ポンドを上回る、10.625万ポンド(約1593万円)で落札されている。こちらは11.9X16.3cmの小ぶりサイズの、1979年プリントの1点もの作品。出品作のシリーズは全体で約100点現存するうちの22点。40点はテート・モダンがコレクションしているとのことだ。

ここ数年の欧州における大手業者のアート写真オークションは、春は英国のフォトロンドンと、秋は大陸のパリフォトと同じ時期での開催が一般化してきた。春のニューヨークの大手のオークションは、AIPADフォトグラフィー・ショーと同時期の開催だ。今春の良好な結果は、欧州でもフォトフェアとオークションの同時開催が業者やコレクターの間で定着してきた証拠だろう。

(1ポンド・150円で換算)

2018年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー

アート相場に影響を与える株価は年初から乱高下が続いている。NYダウは1月に終値ベースの最高値26,616.71ドルを付けた後に、2月発表の雇用統計により短期金利の早期利上げ懸念が浮上して大きく調整。ボォラティリティーが急上昇し、景気拡大、低インフレ、低金利が続く適温相場が変調の兆しを見せ始めた。その後、オークションが行われた4月上旬は24,000ドル台で推移している。米中通商問題、ネット情報保護の問題、シリア情勢、北朝鮮動向などの中期的な不安定要因が横たわるものの、経済実態は拡大基調であることから、短期的にはしばらくはレンジ内相場が続く感じだ。オークション開催時のアート相場への株価の影響はほぼニュートラルといえるだろう。

4月5日から8日にかけて、大手3社が単独コレクションと複数委託者による5つのオークションを開催。クリスティーズは、4月6日に“Photographs”と“The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”、
フィリップスは、4月9日に“Photographs & The Enduring Image: The Collection of Dr. Saul Unter”
ササビーズは、4月10日に“A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と“Photographs”が行われた。クリスティーズの“MoMA: Walker Evans”オンラインオークションを加えると、今春はトータルで772点が出品。ちなみに昨年春741点、昨年秋は874点だった。

今回の平均落札率は73.5%で、昨年秋の69.9%から改善。ほぼ昨年春の73.8%と同じレベルだった。しかし総売り上げは減少して約1535.5万ドル(約16.9億円だった。昨春比マイナス約14.7%、昨秋比マイナス約19.7%だった。
内訳をみると、ササビーズが昨秋比約76%増加し、クリスティーズが約45%減、フィリップスも約24%減。過去10回の売り上げの平均値と比較すると、リーマンショック後の低迷から2013年春~2014年春にかけて一時回復するものの、再び2016年までずっと低迷していた。2017年春、秋はやっと回復傾向を見せてきたが、今春に再び下回ってしまった。(*チャートを参照)

中長期的な経済の先行きに不安定要素が多いことが心理的に影響を与えたのだろう。もしかしたら現在の売れ上げレベルは、リーマンショックからの回復過程というよりも、市場規模のニューノーマルなのかもしれない。

PHILLIPS NY “Photographs”Peter Beard “Heart Attack City,1972”

今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズ“The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”のダイアン・アーバスによる、アート史上重要な10枚のポートフォリオ・セット“A box of ten photographs”。落札予想価格50万~70万ドルのところ約79.25万ドル(約8198万円)で落札。
2位はフィリップの複数委託者オークションのピーター・ベアードのマリリン・モンローがフィーチャーされた“Heart Attack City,1972”。落札予想価格50万~70万ドルのところ約60.3万ドル(約6633万円)で落札されている。
3位はクリスティーズの“Photographs”のリチャード・アヴェドンの代表作“Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955”の大判作品。落札予想価格30万~50万ドルのところ約45.65万ドル(約5021万円)で落札。ササビーズでも同じ作品が出品されたが、そちらは約37.5万ドル(約4125万円)で落札。プリントの制作年が古いほうが高額で落札された。
4位はフィリップ複数委託者オークションに出品されたオーストリア人写真家ルドルフ・コピッツによる“Bewegungsstudie Movement Study).1924”(動作研究)。落札予想価格20万~30万ドルのところ約39.9万ドル(約4389万円)だった。

あいかわらず貴重な美術館級のヴィンテージ作品やエディション数が少ない現代アート系アーティストの代表的作品に対する需要は順調だ。一方で、骨董品的価値しかない19世紀写真や、現代アート系でもブランドが確立していないアーティストの作品への需要は低調だ。またフィリップスに出品されたエドワード・スタイケンの“Gloria Swanson, New  York,1924”などの有名ヴィンテージ作も不落札だった。貴重作の評価はどうしても高く売りたい売り手の希望に左右されることになりがち。流通するプリントが複数あるような作品の場合、買い手は慎重で、落札予想価格が過大だと評価されがちになる。
5万ドルを超える価格帯では、アイコン的ではないエディション数が多い作品に対してはコレクターが慎重になりつつあるようだ。人気写真家の作品でも、強気の最低落札価格を設定している出品作は苦戦していた。ロバート・フランクでも、超有名作の“New Orleans(Trolley)” や“Hoboken(Parade, New jersey)”などは10~20万ドルで落札されるのだが、”アメリカン人”収録作品でもイメージのわりに相場が高いの作品、また70年代に制作された作品には不落札が多くみられた。

ファッション写真はドキュメント系より人気が高く出品数が多い。しかしアーヴィング・ペンでも、6万ドル以上の高価格帯では、キャリア後期作品などは不落札が目立った。ササビーズでは、ヴォーグ誌の1949円11月号の表紙を飾った“VOGUE CHRISTMAS COVER (NEW YORK)”が出品されるが、6~9万ドルの落札価格のところ不落札。ピカソのポートレート作品“PICASSO (B) CANNES”も7~10万ドルの落札価格のところ不落札だった。ファッションやポート-レート系の高額価格帯のペン作品の相場見直しはこれからも続きそうな気配だ。
同様の例は、リリアン・バスマン、ピーターリンドバークでも見られた。特に大判サイズで落札予想価格が高いものは、不落札が目立った。

いま市場には先高観があまりなく、特にいま無理して買わなくてもよいという雰囲気を感じる。中低価格帯では、あいかわらず人気、不人気作品の2極化が進んでいる。いくら写真史で有名な写真家で来歴が良くても、有名でない絵柄の人気が低い。よく20世紀写真を集めるコレクターが減少し、新しいコレクターはよりインテリアでの見栄えを重視して作品を選んでいると言われている。オークション動向がそのようなコレクターの傾向と合致する場合が多くなってきた。今まで以上に、写真は一つの独立したカテゴリーではなく、数多くあるアート表現の一部だと理解しなければならなくなってきたようだ。
(為替レート 1ドル/110円で換算)

2018年アート写真市場がいよいよ幕開け
春の大手業者のオークション・プレビュー

4月5日から8日にかけて、世界最大規模のアート写真に特化したアートフェアーの”AIPAD フォトグラフィー ショー2018″がニューヨークで行われる。今年もこの世界中のコレクターや関係者が集まる機会に合わせて大手3社のオークションが開催される。

クリスティーズでは、昨秋から続いているニューヨーク近代美術館コレクションのオンライン・セール6回目となる”MoMA: Walker Evans”が、4月3日から11日にかけて開催される。多数の代表作を含む落札予想価格が3000ドル~15,000ドル(約33~165万円)の109点が出品される。ほとんどの作品が同館で1971年に開催された回顧展の際に制作されたものとのことだ。ウォーカー・エバンスは、アーバスやウィノグランドなど多くのストリート系写真家に多大な影響を与えた巨匠。これまでのオンライン・セールの目玉となることから動向が注目されている。

ライブ・オークションでは、大手3者が単独コレクションと複数委託者による5つのオークションが開催される。
クリスティーズは、4月6日に”Photographs”と”The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”、フィリップスは、4月9日に”Photographs & The Enduring Image: The Collection of Dr. Saul Unter”、ササビーズは、4月10日に”A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と”Photographs”を開催する。
トータルで663点が出品。昨年春の741点、昨年秋の874点よりは少ない。

PHILLIPS NY “Photographs” Catalogue

高額落札が予想されている作品はフィリップスに集中している。”Photographs”に出品されるピーター・ベアードの”Heart Attack City,1972″。100.6 x 123 cmサイズの、銀塩写真、水彩ドローイングなどを含むコラージュ作品。落札予想価格は50万~70万ドル(5500~7700万円)。
同じく”The Enduring Image: Photographs from the Dr. Saul Unter Collection”に出品されるのは、エドワード・スタイケンの”Gloria Swanson, New York,1924″。こちらは24.1 x 19.1cmサイズの銀塩のヴィンテージ作品。落札予想価格は40万~60万ドル(4400~6600万円)。続いては、これも”Photographs”に出品されるアンドレアス・グルスキーのサッカー場と選手を撮影した”EM, Arena, Amsterdam I,2000″。207 x 166.7 cmサイズ、エディション4のクロモジェニックカラー・プリント作品。 こちらの落札予想価格は35万~45万ドル(3850~4950万円)。

クリスティーズの”The Yamakawa Collection of Twentieth Century Photographs”には、ダイアン・アーバスによる、アート史上において非常に重要なポートフォリオ・セット”A box of ten photographs”が出品される。このポートフォリオが、彼女の死後のキャリア評価を決定づけるとともに、写真がシリアスなアートだと認識されるきっかけを作ったと言われている。こちらには、ニール・セルカークがプリントして、ドーン・アーバスがサインしたポーツマス・プリント10点が収録。アーバス本人が作品をセレクションしていることから、数多い個別作品の中でもポートフォリオ収録作品の評価が高くなっている。落札予想価格は50万~70万ドル(5500~7700万円)。個人コレクターというよりも美術館などの公共機関がぜひ所有したい逸品だろう。

ササビーズの”Photographs”で注目されているのは、マン・レイの”MINOTAUR,1933″と、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの”THE PENCIL OF NATURE(自然の鉛筆)”の6冊完全セット。落札予想価格はともに15万~25万ドル(1650~2750万円)。

私が個人的に注目しているのは、ササビーズの”A Beautiful Life: Photographs from the Collection of Leland Hirsch”と、クリスティーズ”Photographs”に出品されるリチャード・アヴェドンの代表作”Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955″。ともに124.5 x 101.6 cmサイズ、エディション50の銀塩写真。落札予想価格は30万~50万ドル(3300~5500万円)。
ちなみに90年代の前半、まだアヴェドンが存命だったときは、一回り小さい20X24″(約51X61cm)の方が人気があって、値段も高かった。約4半世紀が経過して、アート写真は現代アートの一部となり、大きなサイズの方がはるかに高額になっている。本オークションの出品作の当時の値段は2.7万ドルだった。現在の評価は10倍以上になっている。

(為替レート1ドル/110円で換算)

2018年アート写真のオークションがスタート! アイコン的作品の人気が続く

今年のライブによるアート写真オークションは、2月15日に米国ニューヨークの中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)の”Icons & Images:Photographs & Photobooks”でスタートした。出品作品の約86.6%が落札予想価格上限1万ドル以下の低価格作品中心のオークションとなる。落札結果はほぼ予想通りで、落札率は約73%、総売り上げは約166万ドル(約1826万円)だった。
ちなみに2017年の同オークションも、落札率は約73.9%、総売り上げは約158万ドルとほぼ同等の結果だった。

Swann Auction Galleries, Robert B. Talfor

今回注目点ははフォトジャーナリズムのルイス・ハイン (1874-1940) の24作品が出品されたこと。注目されていたカタログの表紙を飾るハインの代表作”Mechanic at Steam Pump in Electric Power House, Circa 1921”。落札予想価格は7万~10万ドル(770~1100万円)のところ、8.125万ドル(約893万円)で落札された。
最高額だったのは19世紀の英国出身写真家Robert B. Talforによる113点の歴史的写真アルバム “Photographic Views of Red River Raft, 1873″。(上の画像)
落札予想価格は1.8万~2.2万ドルのところ、9.375万ドル(約1031万円)で落札された。アートコレクションとというよりも歴史的な資料の価値が強い作品。美術館や公共機関が購入したのではないだろうか。

2月15日には、ササビーズ・ロンドン”Erotic: Passion & Desire”オークションが開催された。リチャード・アヴェドン、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、マン・レイ、トーマス・ルフなどの高額評価のヌード写真が絵画、版画、ドローイング、彫刻などとともに出品された。
総売り上げは約371万ポンド(5.56億円)。写真関連作品は18点が出品された。全体の落札率は約70%、写真は約77%だった。

写真の最高額はクリス・レヴィーンの、ケイト・モスをモデルにした立体感のあるレンティキュラー・プリントのライトボックス作品”SHE’S LIGHT (LASER 3), 2013″の7.5万ポンド(約1125万円)だった。(下の画像)

Sotheby’s London, “Erotic: Passion & Desire”, Chris Levine SHE’S LIGHT (LASER 3), 2013

レヴィーンは、ロンドンを拠点に活躍しているカナダ出身のアーティスト。セントラル・セント・マーチンズを卒業してから、光とアートを融合した“ライトアート”作品を制作。最新テクノロジーを駆使して光や画像を形にして、レーザー、LED、レンズ、ライトボックス、写真などによる斬新な官能的作品を作り上げている2004年、エリザバベス2世のホログラム(レーザー光線によって作られる3次元の立体写真)撮影に指名される。20世紀に最もアイコニックなイメージと言われるこの3Dポートレートシリーズがレヴィーンを一躍著名なアーティストにした。今回のケイト・モス作品は彼の代表作。100X150cmの大判サイズでAPを含めて2点しか制作されていない写真だが絵画に近い貴重な作品。

ササビーズ・パリは、低価格帯から中間価格帯までの比較的買いやすい価格帯の現代アート、家具などのデザイン、アート写真をまとめ販売する”NOW!”を2月28日に開催。住空間の中でのアートや関連商品を新しいコレクター層に提案するオークションとなる。総売り上げは約179万ユーロ(約2.32億円)。

写真関連作品は現代アート系から銀塩20世紀写真まで約60点が含まれた。全体の落札率は約75%だったが写真は約58%にとどまった。最高額はドイツ人写真家ギュンター・ザックス(1932-2011) の、1点102X102cmの大判カラー作品の8点組”Hommage a Warhol, 1991″で、3万ユーロ(約390万円)で落札。ナン・ゴールディンの69.8 x 101.5 cmサイズのチバクローム作品”GREER AND ROBERT ON THE BED, NYC, 1982″は、2.357万ユーロ(約306万円)で落札された。

2月28日には、ヘリテージ・オークションが約170点の”Online Photographs Auction”を開催。こちらは1000ドルから1万ドルの作品が中心、総売り上げは約14.2万ドル(約1562万円)だった。今後は、このような低価格帯の20世紀写真はコストのかかるライブ・オークションからオンライン・オークションにシフトしていくと思われる。

2月になって1月の米国の雇用統計のよるインフレ懸念と長期金利上昇を受けて、景気回復、低インフレ、低金利が続く適温相場が変調の兆しを見せてきた。金融市場では相場の乱高下が続き、どうも低ボラティリティーの時代は終焉を迎えてようだ。金利上昇などがアート相場に与える影響にについては皆がまだ予想できないでいる。先の見通しが不明確だとなかなか参加者も入札に強気になれないだろう。作品の選別化が進行していたアート写真市場にはどのような影響が出てくるのだろうか?今週ロンドンで行われる現代アート・オークションとともに、来月のニューヨークのアート写真定例オークションが注目される。

(1ドル/110円、1ポンド/150円。1ユーロ/130円)

 

MoMAオンラインオークションの続報 いま20世紀写真は誰がコレクションするのか?

アート写真市場の本格的な幕開けは、ニューヨークで4月に行われる大手業者のオークションからだ。今年は、クリスティーズで昨年秋から断続的に行われているニューヨーク近代美術館(MoMA)の重複コレクションを売却するオンラインオークションが既に年初に行われている。124日締め切りが“MoMA: Bill Brandt”25日締め切りが“MoMA: Garry Winogrand”だった。二人はMoMAにゆかりの深い20世紀写真家として知られる。

“Bill Brandt: A Life” Stanford Univ Pr, 2004

英国人写真家ビル・ブランド (1904-1983)は、1941年のグループ展で展示されて以来、ドキュメントやヌードなどが何度も展示されている。初個展“Bill Brandt”1969年に開催、その時にプリントされた多くの作品が今回のオークションに出品されているという。その後、19831984年に2回目の個展“Bill Brandt 1905-1983”、死後の2013年にも “Bill Brandt: Shadow and Light”が開催されている。
本オークションでは、落札予想価格2000ドル~10000ドルの43点が出品。落札率は100%、総売り上げは43万ドル(約4730万円)だった。最高落札作品は、目部分を拡大したポートレート“Jean Arp, 1960”で、落札予想価格5000~7000ドルのところ35,000ドル(約385万円)で落札されている。(紹介している写真集“Bill Brandt A Life”の表紙は別作品)

“Garry Winogrand: The Game of Photography” Tf Editions, 2001

米国人写真家ゲイリー・ウィノグランド (1928-1984) は、ウォーカー・エバンスを崇拝し、ロバート・フランクをリスペクトしていたことで知られている。1955年にエドワード・スタイケンが企画した伝説的展覧会“The Family of Man”に選出される。スタイケンは、彼のプリント3枚を合計30ドルで購入したとのことだ。1963年には、同館の当時の新任写真部長ジョン・シャーカフスキーが企画した“Five Unrelated Photographers”に選出。ウィノグランドはシャーカフスキーの多大な影響を受けたことで知られている。
1967年には、これも写真史上重要な“New Documents”展にダイアン・アーバス、リー・フリードランダーとともに選出された。しかし彼は56歳という若さで亡くなってしまう。なんと死亡時には約2500本の未現像フィルムが残されていたという。それを整理するのには約4年の時間がかかり、1988年に死後の回顧展“Garry Winogrand : Figments from the Real World”が開催された。90年代には、コレクターのBarbara Schwartzが同館に約200点のウィノグランド作品を寄贈。その後、1998年には“Garry Winogrand : Selections from a major Acquisition”が開催された。今回のオンラインオークションの出品作はこの時の展示作品が多くを占めるとのことだ。こちらは、落札予想価格3000ドル~10000ドルの作品48点が出品。落札率は約96%、総売り上げは18.68万ドル(2054万円)だった。最高額は、“World’s Fair, New York City, from Women Are Beautiful, 1964″、こちらは1981年プリントのエディション80点の作品。落札予想価格8000ドル~12000ドルを超える16,250ドル(178万円)で落札。(上記写真集の表紙作品)

いずれのオークションも落札率が高かったのは、通常のような価格に最低落札価格(リザーブ)が設定されていなかったからだと思われる。リザーブは通常は未公開だが、だいたい落札予想価格下限の80%前後に設定される。結果を見渡してみると、写真集掲載の有名作などは落札予想価格上限を超える価格で落札されている。しかし一部の不人気作は予想落札価格下限を大きく下回る1000ドル台でも落札されている。通常通りの最低落札価格が設定されていれば不落札だったと思われる。

MoMAオンラインオークションという、最高の来歴の写真作品でも、ブランド力が弱い写真家の市場性は相変わらず低いようだ。実際に昨年末に開催された、より知名度が低い20世紀の女性写真家のオンライン・オークション“MoMA:Women in photography”の落札率は約62%201710月に開催された“MoMA: Pictorialism into Modernism”の落札率は約52%同じく10月に行われた“MoMA: Henri Cartier-Bresson”でさえ落札率は約71%だった。
20世紀を代表する有名写真家による、MoMA収蔵作品でも、有名作以外は需要が思いのほか低いのが現状のようだ。ここ数年続いている市場の傾向がここでも明らかだった。
もし一連のオークションが15年位前に行われていたら状況はもっと良かったのでないか。有名写真家の銀塩モノクロ写真は、従来のコレクターが最も好んだカテゴリーだ。しかし、2010年代に入りベテラン・コレクターが亡くなったり引退し、また売り手に回ることで、購入サイドでの彼らの影響力が落ちてきている。一方でベビーブーマーやジェネレーションX世代が市場に参加してきたものの、彼らの好みは現代アート系や有名写真作品が中心なのだ。またコレクション構築に興味があるというよりもデコレーションの一環として写真を含むアート作品を購入する傾向が強い。オークションハウスはそれらのニーズの受け皿として、マルチ・ジャンルのオークションを企画している。新しい世代の人たちは、コレクションを通してアートや世界を学ぶという姿勢があまりないのだろう。個人的には、販売価格があまり変わらない、現役アーティストによる派手で大判サイズのデジタルによるコンテンポラリー写真よりも、有名写真家による地味で小ぶりの銀塩の20世紀写真の方が将来的には高い資産価値を持つと考える。しかし、そこにアート的価値があると気づくには、様々な経験の積み重ねと地道な勉強が必要となる。かつてのアート写真コレクターは学んで視野が広がることに喜びを感じていたものだ。ただし、もし多くの人が価値を見出さないと作品の相場は永遠に上昇しないで忘れ去られてしまうという冷徹な現実もある。はたして未来のアート写真は高級ブランド品と同じ贅沢品の一部と、それ以外になってしまうのだろうか?
今後の動向を注意深く見守っていきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2018年アート写真市場 ジャンル横断のアート・オークションが開催!

今年のアート写真オークションはいよいよ今週からスタートする。

215日に、米国の中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)“Icons & Images:Photographs & Photobooks”が例年通り開催される。アート写真、ヴァナキュラー写真、フォトブックなど、ほとんどが1万ドル以下の低価格帯作品332点が出品される。今回はフォトジャーナリズムが特集されており、ルイス・ハイン (1874-1940) の作品が数多く出品されている。
高額落札が予想されるのは、カタログの表紙を飾るハインの代表作“Mechanic at Steam Pump in Electric Power House, Circa 1921”。落札予想価格は7万~10万ドル(770~1100万円)。ややブームが去った感があるレア・フォトブックはわずか19点の出品にとどまっている。

Swann Auction Galleries NY Catalogue

春前のアート市場は閑散期となる。オークション・ハウスは新しいコレクターを獲得するために新たな切口でアート作品やコレクタブルの紹介を試みる。今年はササビーズが積極的で、ロンドンとパリでユニークな取り組みを行う。

ササビーズ・ロンドンでは、216日までのオンライン・オークションでエロティック・アートに特化した“Erotic Art Online”を開催。

Sotheby’s London

絵画、彫刻、ドローイング、ヌード系写真など78点が出品。ハーブ・リッツ、パトリック・デマルシェリエ、ミッシェル・コンテ、ヘルムート・ニュートン、ボブ・カルロス・クラーク、ベッティナ・ランス、荒木経惟などが含まれる。

215日には、“Erotic: Passion & Desire”オークションを開催。こちらにはやや高めの評価の、リチャード・アヴェドン、ロバート・メイプルソープ、ヘルムート・ニュートン、マン・レイ、トーマス・ルフなどのヌード写真が他分野の作品とともに出品される。

ササビーズ・パリは、お求めやすい価格帯の現代アート、家具などのデザイン、アート写真をまとめ販売する“NOW!”228日に開催する。

Sotheby’s Paris NOW!

続いてササビーズ・ロンドンでは、英国にゆかりのある低価格帯の、絵画、版画、アート写真、陶器などを取り扱う“Made in Britain”320日に開催。

一方、フィリップス・ニューヨークは、高額セクターを含む幅広い価格帯の写真表現を含む現代アート系作品のオークション“NEW NOW”228日に開催する。このシーズンに行われる新機軸のオークションは徐々に定着しつつあるようだ。

定例のニューヨークの大手業者のアート写真オークションは、世界最大のフォト・フェア“The Photography Show”45日から8日に開催されるのに合わせて開催される。クリスティーズが46日、フィリップスが49日、ササビーズが410日を予定している。

実は今年になってからクリスティーズでは昨年来から続いているMoMAコレクションのオンラインセールが行われている。
1月には“MoMA: Bill Brandt”“MoMA: Garry Winogrand”が開催。こちらの分析は近日中にお届けする予定だ。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2017年アート写真高額落札
現代アート系を貴重なマン・レイ作品が撃破

Christie’s Paris “STRIPPED BARE” Auction Catalogue (Cover image Man Ray)

ここ数年、写真オークション高額落札のリストは、現代アート系作品で占められていた。20世紀写真が100万ドルの大台を超えることはめったになかった。しかし、2017年はマン・レイの極めて貴重な2作品が全体でも1位と3位に食い込んだ。2017年の最高額落札は、クリスティーズ・パリで11月9日に開催された“Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer”に出品されたマン・レイのヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”の、2,688,750ユーロ(約3.63億円)。

Phillips London, Andreas Gursky “Los Angeles, 1998-1999”

ちなみに2位はアンドレアス・グルスキー。フィリップス・ロンドンで10月に開催された“20th Century & Contemporary Art”に出品された“Los Angeles, 1998-1999″の、1,689,000ポンド(約2.53億円)だった。

2017年の100万ドル越え作品は9点だった。2016年は5点、2015年は8点だったことからも、昨年後半から、高額セクター主導で相場が回復傾向を示してきたのがわかる。

総合順位
1.マン・レイ : 約3.62億円
2.アンドレアス・グルスキー : 約2.53億円
3.マン・レイ : 約2.38億円
4.リチャード・プリンス : 約1.99億円
5.ギルバート&ジョージ :約1.72億円

私どもは現代アート系と20世紀写真中心のアート写真とは区別して分析している。現代アート系では、高額売り上げ上位にお馴染みの顔ぶれが並んでいる。

現代アート系 高額落札
1.アンドレアス・グルスキー
2.リチャード・プリンス
3.ギルバート&ジョージ
4.ゲルハルト・リヒター
5.ギルバート&ジョージ

Phillips London,”20th Century & Contemporary Art” 2017 June, Wolfgang Tillmans “Freischwimmer #84, 2004”

上位20位まで見ていくと、常連のアンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、ギルバート&ジョージ、シンディー・シャーマン、ゲルハルド・リヒターの中で、ウォルフガング・ティルマンズの作品が8点も含まれていた。これはグルスキー5作品を上回る結果。ティルマンスの回顧展“WOLFGANG TILLMANS:2017”が英国ロンドンのテート・モダンで開催されたことで、特に巨大抽象作品は急騰したのだ。美術史的にも、非常に高い評価を受けており、マン・レイやジョージ・ケペッシュの実験的創作の流れを踏襲し、抽象絵画のカラーフィールド・ペインティングとのつながりが指摘されている。

フィリップス・ロンドンで、6月29日に開催された“20th Century & Contemporary Art”では、“Freischwimmer #84,2004”が、落札予想価格上限の約2倍の60.5万ポンド(約9075万円)で落札。ちなみに、同作は2012年10月フリップス・ロンドンでわずか3.9万ポンドで落札されている。4年間で約15倍に高騰したのだ。ちなみに同作は高額落札ランキング全体の13位だった。

20世紀アート写真 高額落札
1.マン・レイ
2.マン・レイ
3.エドワード・ウェストン
4.ロバート・メイプルソープ
5.エドワード・ウェストン

20世紀アート写真では、マン・レイの2作に続いたのはクリスティーズ・ニューヨークで4月に開催された“Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs”に出品されたエドワード・ウェストンの“Nude, 1925”で、87.15万ドル(約9586万円)だった。ウェストンのヴィンテージ作品は4位にも入っている。貴重作品への根強い需要が再認識された。

現代アート市場では、一部の人気作家の有名作品に人気が集中する傾向があると前回に紹介した。参考のために、大きな意味があるかは定かではないが、今回の写真部門でも上位30位の全体売り上げに対する比率を単純計算してみた。20世紀写真部門は0.6%の落札数が約18.8%、現代アート系部門では4.5%の落札数が約41%だった。この数字からは現代アート系写真は、20世紀写真と比べて一部の高額な人気作家に人気が集中している傾向が大まかだが読み取れる。両カテゴリーを総合したアート写真部門では総落札数の僅か0.9%の上位50位までの高額落札の合計が、全体の売り上げの約28%を占めていた。高額な現代アート系が写真市場を席巻しているのが明らかだ。
アート写真市場の中には、多様な価値観を持つ中間層中心のコレクターが支える20世紀写真と、一部の人気作家の代表作に関心が集中している富裕層中心の現代アート系写真が併存している。今までは、経済グローバル化の流れとともに、現代アート系写真の勢いが加速度的に増してきた。いまや金額ベースでは両者はほぼ互角になっている。「グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)」が語られる中で、アート写真界でも今までの傾向に変化が訪れるのか。2018年はこの点を注視しながら市場動向を見守りたい。

(1ドル/110円~112円、1ポンド/150円、1ユーロ/135円で換算)