秋のニューヨーク現代アート・オークションでは、11月7日/10日にクリスティーズで「21st Century Evening and Post-War & Contemporary Art Day Sales」、11月14/15日にフリップスで「20th Century & Contemporary Art Evening and Day Sales」、11月15/16日にサザビーズで「Contemporary Art Evening and Day Auctions」が開催。
サザビーズでは、ゲルハルド・リヒターとジョン・バルデッサリの写真作品2点が100万ドル越えで落札された。しかし全般的に動きは低調で、今年5月にクリスティーズ・ニューヨークの「A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I and II」で記録した、リチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy), 1999」の、156.25万ドルを超えることはできなかった。
2023年秋のニューヨーク・フォトグラフス・オークションでは、クリスティーズで10月6日行われたスティーブン・マイゼル撮影によるマドンナの写真集「SEX book」からのセール「Madonna x Meisel – The SEX Photographs」が大きな話題になった。1992年刊行のこの写真集はなんと世界中で150万部を販売したという。日本版は同朋舎出版から販売されている。
同オークションは42点が出品され、落札16点、落札率は38.1%、総売り上げは133.45万ドル(1.97億円)だった。残念ながら26点が不落札という全くの期待外れの結果だった。落札内容もよくなく、買い手がついた作品の多くが落札予想価格の下限以下だった。ほとんどの作品は163.8 x 132.3 x 5.7 cmと巨大サイズ、マイゼルとマドンナの二人のサインが入った1点ものだった。 作品の人気度により落札予想価格は最低5万ドルから最高35万ドルと幅があった。内訳は、5~7万ドルが10点、8~10万ドルが1点、8~12万ドルが11点、10~15万ドルが10点、15~25万ドルが7点、20~30万ドルが1点、25~35万ドルが2点。写真集発売時にプレス用に利用され、幅広く流通したイメージが高額の評価だった。 最高額はロット4の「Madonna, New York, 1992」で、落札予想価格8~12万ドルのところ20.16万ドル(約2983万円)で落札されている。
Christie’s NY, Steven Meisel,「Madonna, New York, 1992」
過去のオークション・データを調べてみると、マイゼル作品のオークションでの出品数は思いのほか少なかった。今回の出品作と同様の大判サイズで、少ないエディションの作品を比べてみると、最高額は、2017年11月2日にフィリップス・ロンドンのULTIMATEオークションに出品された「CK One, New York City、1994」。これは93 x 274.3 cmという横長巨大サイズの1点もの作品が75,000ポンドで落札されている。当時は1ポンド=1.34程度だったで、約100,500ドルだったことになる。
Phillips London, 2017, Steven Meisel,「CK One, New York City、1994」
ほぼ同じサイズでは、やや古くなるがフィリップス・ニューヨークで2012年10月2日に行われたオークションで、「Walking in Paris, Linda Evangelista & Kristen McMenamy, Vogue, October 1992」がある。187 x 147.5 cmサイズの1点もので、86,500ドルで落札されている。同作は、写真集「In Vogue: The Illustrated
History of the World’s Most Famous Fashion Magazine」(Rizzoli、2006年刊)の、カヴァーに採用された作品だ。
「In Vogue: The Illustrated History of the World’s Most Famous Fashion Magazine」(Rizzoli、2006年刊)
業者ごとのオークションをまとめると、クリスティーズは、10月3日に「A Century of Art: Photographs from The Gerald Fineberg Collection(Online)」、4日に複数委託者による「Photographs(Online)」、6日にスティーブン・マイゼルが撮影したマドンナの写真作品のセール「Madonna x Meisel – The SEX Photographs」を行っている。
サザビーズは、5日に「Photographs(Online)」、フィリップスは、10月11日に複数委託者による「Photographs」を開催した。サザビーズでは、「ピア24フォトグラフィー」閉鎖に伴う2回のオークションを春に続き開催。10月3日に「Photographer Unknown: Pier 24 Photography from the Pilara FamilyFoundation」、25日に「Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation」が行われている。 ただし春の売り上げをニューヨークのセールに含んでいないので、今秋の同セールも合計に含めないことにする。
Phillips NY「Photographs」、William Eggleston「Memphis, circa 1969」
今シーズンの高額落札は、フィリップス「Photographs」の、ウィリアム・エグルストンの代表作「Memphis, circa 1969」だった。1970年ごろに製作された、約30.5X
43.8cmの貴重なヴィンテージのダイ・トランスファー作品。落札予想価格25万~35万ドルのところ31.75万ドル(約4667万円)で落札された。
2位も、フィリップス「Photographs」に出品された杉本博司の「Opticks 161、2018」だった。、118.7 X 119.4 cmサイズ、エディション1/1のChromogenic作品が落札予想価格10万~15万ドルのところ24.13万ドル(約3547万円)で落札されている。今シーズン杉本博司作品の人気は高かった。25日にサザビーズで開催された「ピア24 フォトグラフィー」で行われたセールでも、7点セットの作品「Henry
VIII, Catherine of Aragon, Anne Boleyn, Jane Seymour, Anne of Cleves, Catherine
Howard, and Catherine Parr、1999」が、落札予想価格40万~50万ドルのところ44.45万ドル(約6534万円)で落札されている。こちらは各149.2 X 119.4 cmサイズ、エディション5の銀塩作品。
Sotheby’s NY, Hiroshi Sugimoto 「Henry VIII, Catherine of Aragon, Anne Boleyn, Jane Seymour, Anne of Cleves, Catherine Howard, and Catherine Parr、1999」
2023年10月からロンドンのヘイワード・ギャラリーで彼の大規模回顧展「Hiroshi Sugimoto: Time Machine」がスタートしている。やはり有名美術館での展覧会開催はオークションでの相場に少なからず影響を与えているのだろう。
Christie’s NY,「Steven Meisel, Madonna, New York, 1992」
3位は、クリスティーズ「Madonna x Meisel – The SEX Photographs」の、「Steven Meisel, Madonna, New York, 1992」、163.8 x 132.3の1点もの、落札予想価格8万~12万ドルのところ20.16万ドル(約2963万円)で落札された。このオークション結果については後日に詳しく分析してみたい。
アート写真オークションは、今年はパンデミックの影響もなく、2023年前半の主要スケジュールが無事に終了した。通常7月からは、アート界は夏休みシーズンにはいる。次回は秋の大手業者によるニューヨークでの定例オークションとなる。 昨年前期と比べると、私どもがフォローして集計したアート写真関連オークション数は17から21に増加。出品数は2573点から3265点に大きく増えた、落札率は66.5%から71.6%に改善している。ただし、出品数の増加はほとんどが低価格帯で、このカテゴリーだけが671点増加した。 昨年来、インフレと米国の短期金利の利上げ継続、そして今年春には金融不安による信用収縮などが発生した。金融市場で先行きの不確実の高まりは、オークション参加者に心理的な影響を与えたと思われる。特に高額価格帯の作品では、コレクターは売買に対しての慎重姿勢が続いていた。逆に、低価格帯は出品が増加した。前半の総売り上げは約42.5億円で、昨年同期比で約42%アップしている。しかしこれは5月にサザビーズ・ニューヨークで開催された単独コレクションセール「Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation」による1062万ドル(約14.65億円)の売り上げ貢献による。これがなければ2023年前半の売り上げは、ほぼ2022年前半並みになる。 ピア24フォトグラフィー(Pier 24 Photography)は、2010年にサンフランシスコのエンバカデロ沿いの空き倉庫にオープンした写真専門の大規模展示スペース。しかし次回の契約更新で施設の家賃が3倍に上昇する事態に直面し、同館はやむなくリース期間が切れる2025年7月に正式に施設のクローズを決め、美術館コレクションの売却を今回のセールを皮切りに行うことになったのだ。個人コレクターではないので、彼らは経済見通しとは関係なく組織の決定を粛々と実行する。皮肉にもアメリカを襲う高インフレによる影響が、前半のオークション売り上げに大きく貢献していたのだ。そして多くの高額落札も同セールから生まれている。
1.リチャード・プリンス “Untitled (Cowboy), 1999” クリスティーズ・ニューヨーク、A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I and II、5月17~18日 落札予想価格150万~200万ドル 156.25万ドル(約2.1億円)
2.シンディー・シャーマン “Untitled Film Still #48, 1979” サザビース・ロンドン、Now Evening, Modern & Contemporary Evening and Day Auctions、6月27~28日 落札予想価格60万~80万ポンド 76.2万ポンド(約1.28億円)
3.アンドレアス・グルスキー “Chicago, Board of Trade, 1997” クリスティーズ・ニューヨーク、A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I and II, 5月17-18日 落札予想価格60万~80万ドル 75.6万ドル(約1.02億円)
Christie’s NY, Richard Prince、“Untitled (Cowboy), 1999”
最高額は、クリスティーズ・ニューヨークで開催された、「A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I」に出品されたリチャード・プリンスの“Untitled (Cowboy), 1999”だった。落札予想価格150~200万ドルのところ、1,562,500ドル(約2.15億円)で落札された。エディション2、AP1のアーティスト・プルーフ作品、サイズは152.4 x 203.2 cmのエクタカラー・プリント(Ektacolor print)になる。本作はリチャード・プリンスが1980年代に開始したタバコ広告を挑発的に使用し、西部劇をテーマにした画期的なアプロプリエーション・シリーズがさらに発展した作品。彼は現存する広告写真をもとに、シーンを操作し、リフレーミングすることで、その制作と使用の意図を私たちに問いかけている。クリスティーズのロット・エッセイには、“彼の仮面剥ぎとりと解体は、消費者イメージの背後にある空虚さを暴露する…我々は、描写されているものから何らかの形で浮遊している表現を見る。…イメージは内実のない外観である…”というロゼッタ・ブルックスによるプリンスのカウボーイ作品の解説文章が引用されている。 (R. Brooks, “Survey: Prince of Light or Darkness ? ”, Richard Prince, London: Phaidon, 2003, p. 54)
それ以外では、クリスティーズ「21st Century Evening Sale」で、ダイアン・アーバスの貴重な10点のポートフォリオとウィリアム・エグルストンの代表作である3輪車の大判作品がともに100万ドル越えで落札された。アーバスの“A box of ten photographs”は、1970年に製作が開始されたシルバー・プリントの10枚セット。エディションは50だが、アーバスが1971年に亡くなっているので、ほとんどがニール・セルカーク(Neil Selkirk)によるプリントとなる。ほとんどのポートフォリオは主要美術館に収蔵されているか、または1枚づつばらして個別販売されているために、市場に完全セットが出品されるのは極めて珍しい。本セットは落札予想価格90~120万ドルのところ、1,008,000ドル(約1.39億円)で落札されている。 カタログの資料によると、本作は2003年10月のフィリップス・ニューヨークで(Phillips de Pury & Luxembourg)で落札予想価格9~12万ドルのところ、405,000ドルで落札されている。ちなみに1年複利で、手数料など諸経費を無視して単純計算すると約20年で約4.66%の運用だったことになる。
Christie’s NY, Diane Arbus “A box of ten photographs”
エグルストンの“Untitled, 1970”は、1976年にニューヨーク近代美術館で開催された彼のカラー写真の個展の際に刊行された、写真集“William Eggleston Guide”の表紙に使用されている代表作。同作は80年代に染料を転写してカラー画像を作り出すダイトランスファーでエディション付きで販売されて完売している。本作は2012年にデジタル写真のピグメント・プリントで新たに制作されて大きな話題になった、112 x 152 cmサイズ、エディション2の作品。落札予想価格100~150万ドルのところ、こちらも1,008,000ドル(約1.39億円)で落札されている。今回の出品作は、2012年3月のクリスティーズ・ニューヨークの「Photographic Masterworks by William Eggleston Sold to Benefit the Eggleston Artistic Trust」で、落札予想価格20~30万ドルのところ、578,500ドルで落札されている。ちなみに1年複利で、手数料など諸経費を無視して単純計算すると約11年で約5.17%の運用だったことになる。
写真に特化した大規模な単独コレクション・セールの“Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation Sold to Benefit Charitable Organizations Sale”が、5月1日~2日にサザビーズ・ニューヨークにおいて2部構成で開催された。
Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Hiroshi Sugimoto
杉本博司の「The Music Lesson、1999」も高額で落札された。同作は1999年にベルリンのグッゲンハイム美術館から依頼された「ポートレート」シリーズのひとつ。マダム・タッソー館アムステルダムは、ヨハネス・フェルメールの名作「Lady at the Virginal with a Gentleman」をモチーフにした蝋人形を制作していた。杉本は、フェルメールがイーゼルを置いたであろう場所に三脚を立て、同作を撮影。こちらは2004年制作のエディション5、135.5X106 cmサイズの作品。落札予想価格30万~50万ドルのところ、508,000ドル(約7010万円)で落札された。
Sotheby’s NY “Pier 24 Photography”, Richard Avedon, 「Juan Patricio Lobato, Carney, Rocky Ford, Colorado, August 23, 1980」
生誕100周年を迎えたリチャード・アヴェドンの人気は全く衰えない。特に大判サイズ作品への需要の強さを感じる。2枚組作「Clarence Lippard, Drifter, Interstate 80, Sparks, Nevada, 29 August 1983」と、1985年プリントの142.9X114.3 cmサイズの「Juan Patricio Lobato, Carney, Rocky Ford, Colorado, August 23, 1980」が、ともに落札予想価格20万~30万ドルのところ、444,500ドル(約6134万円)の同額で落札されている。その他のいままではあまり人気がなかったアヴェドンのポートレートも再評価されており、軒並み落札予想価格以上で落札されている。
2023年春の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、今回は4月上旬から4月中旬にかけて、複数委託者、単独コレクションによる合計4件が開催された。 フィリップスは、4月4日に複数委託者による“Photographs”(311点)と、昨秋に続いて“Drothea Lannge : The Family collection, Part Two (Online)”(50点)、サザビーズは、4月5日に、複数委託者による“Photographs (Online)”(87点)、クリスティーズは、4月13日に複数委託者による”Photographs (Online)”(107点)を開催した。サザビーズの出品数が少ないのは、5月1日~2日に単独コレクションセールの“Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation Sold to Benefit Charitable Organizations Sale”(合計188点)が予定されているからだと思われる。
今シーズンの最高額は、フィリップス“Photographs”に出品されたアンセル・アダムスの「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」だった。落札予想価格15万~25万ドルのところ38.1万ドル(約5029万円)で落札されている。
Phillips NY, Ansel Adams「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」
フィリップスの資料によると、本作はニューヨーク近代美術館やプリンストン大学などで約35年のキャリアを積み、写真表現をプロ写真家の間の関心から、厳密な学問分野へと変貌させたことで知られる、キュレーター、写真史家ピーター・C・バンネル(Peter C. Bunnell、1937-2021)のコレクションの一部とのこと。彼が、1959年にアンセル・アダムスから直接に入手した極めて貴重な初期の大判サイズ作品となる。 この「Moonrise, Hernandez, New Mexico」は、1941年秋に夕陽に照らされるニューメキシコの小さな村を撮影した、彼のキャリアの中で最も有名な写真で、20世紀写真を代表する1枚ともいわれている。しかし、ネガの扱いが非常に難しく、彼の高い基準を満たすプリント制作にはきわめて複雑な工程の繰り返しが必要で、アダムスはプリント依頼をほとんど断っていた。しかし制作依頼注文はやむことがなかった。1948年、彼はネガを再処理して階調を強め、完璧なプリント作りを目指すという大胆な行動を決断する。再処理は見事に成功し、彼は非常にゆっくりとプリント注文に応じるようになるのだ。しかし、いま市場に流通するプリントの大半は1970年以降に作られたもの。今回のバンネルのコレクションは、由緒正しき来歴はもちろんのこと、アダムスがこのイメージの後期の解釈を確立する前の1950年代に制作された、81.3 x 95.3 cmという大判サイズのきわめて希少な作品となる。オークションでは、作品にまつわるサイドストーリーが多いほど高額落札されるのだ。
高額落札2位も、フィリップス“Photographs”に出品されたアーヴィング・ペン「Harlequin Dress (Lisa Fonssagrives-Penn), 1950/1979」、ロバート・メイプルソープ「Man in
Polyester Suit, 1980」、シンディー・シャーマン「Untitled #546,2010」で、3作が同額の355,600ドル(約4693万円)で並んだ。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
2023年のファインアート写真のオークションがいよいよスタートした。 2月22日、サザビーズ・ニューヨークで20世紀写真を代表するスイス人写真家ロバート・フランク(1924-2019)の主要作品109点のセールが行われた。「オン・ザ・ロード(On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn)」と命名された同セールは、世界で最も大規模なロバート・フランク作品の個人コレクションのアーサー・ペン(Arthur S. Penn)コレクションからの出品。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
20世紀を代表する写真作品として知られる“Hoboken N. J.’ (Parade),1955”や、「The
Americans」などの主要写真集に収録されている作品、コニーアイランド、ロンドンのビジネスマン、ウェールズの鉱夫のシリーズ、1950年代後半の映画的な「From the Bus」シリーズからの印象的な写真、そして家族の肖像写真まで、ロバート・フランクの輝かしい写真家キャリアを網羅する出品内容になっている。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
しかし今回のオークション、ロバート・フランクの質の高い作品が多い単独セールだったが、かなり厳しい落札結果だった。 109点のうち落札は53点で、落札率は50%割れの約48.6%。総売り上げは991,235ドル(約1.28億円)だった。最高額の落札が期待された注目作の“Hoboken N. J.’ (Parade), 1955”。1978年までにプリントされた20.6X31.1cmサイズ作品で、落札予想価格12万~15万ドルの評価だったが不落札だった。 1万ドル以下の低価格帯の落札率は60%台だったものの、1万~5万ドルの中間価格帯、5万ドル以上の高額価格帯の落札率が約50%程度と不調が目立った。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
最高額落札は2作品が同額の63,500ドル(約825万円)で並んだ。 “From the Bus NYC’ (Woman and Man on the Sidewalk), 1958”は、落札予想価格6万~9万ドル、もう一点の“Chicago (Car), 1956”は、落札予想価格4万~6万ドル。2点とも50年代から60年代にプリントされたヴィンテージ・プリントの可能性の高い作品だった。今回のサザビーズの企画は、市場の閑散期の活性化を狙った珠玉のロバート・フランク・コレクションの単独オークションだった。しかし開催時期がちょうど経済状況の先行きの不透明が強まったに時期と重なり、不運だったといえるだろう。
2022年アート写真市場では、2点の1000万ドル越えの落札作品が最大の話題になった。ちなみにいままでの写真のオークション最高額は、2011年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたアンドレアス・グルスキー「Rhein II」の433.8万ドルだった。2022年はいきなり以前の最高額の2倍以上の高額落札が2点もあったのだ。 年間最高額の1241万ドルを記録したマン・レイ作品「Le Violon d’Ingres, 1924」は、5月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs”セールに、年間2位の1184万ドルのエドワード・スタイケン作品「The Flatiron, 1904/1905」は、11月にクリスティーズ・ニューヨークで行われた故マイクロソフトの共同創業者ポール・アレン(1953-2018)の“Visionary: The Paul G. Allen Collection Parts I and II”セールに出品された。いずれも写真に特化したカテゴリーのオークションではない。 ポール・アレン・コレクションのセールは、ゴッホ、セザンヌ、スーラ、ゴーギャン、クリムトなどの20世紀美術界巨匠のモダンアート絵画とともにスタイケンの写真作品が出品されている。落札額の1184万ドルは、同オークションでスタイケンと同時期に活躍した画家ジョージ・オキーフ(GEORGIA O’KEEFFE /1887-1986)の油彩画「Red Hills with Pedernal, White Clouds」の1229.8万ドルとほぼ同じ額になる。これは20世紀写真の貴重なヴィンテージプリントは、1点もの絵画と同じ価値があるという意味でもある。 アート作品のカテゴリー分けは固定的に決まっているわけではなく、いつの時代でも流動的に変化している。2022年は、写真とその他の分野のアート作品とのカテゴリー分けがより一層困難になった。かつては独立した分野として存在していた写真が、完全に大きなアート作品分野の中の一つの表現方法になったと理解してよいだろう。アート史で、写真家と画家が同じアーティストとして取り扱われるようになったともいえる。
1.マン・レイ「Le Violon d’Ingres, 1924」 クリスティーズ・ニューヨーク、“The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs”、2022年5月14日 $12,412,500.(約16.43億円)
Man Ray「Le Violon d’Ingres, 1924」Christie’s NY
2.エドワード・スタイケン 「The Flatiron, 1904/1905」 クリスティーズ・ニューヨーク、“Visionary: The Paul G. Allen Collection Parts I and II”、2022年11月9日 $11,840,000.(約15.67億円)
Edward Steichen
「The Flatiron, 1904/1905」Christie’s NY
3.マン・レイ 「Noire et Blanche, 1926」 クリスティーズ・ニューヨーク、“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art”、2022年11月17-18日 $4.020,000.(約5.32億円)
Man Ray 「Noire et Blanche, 1926」Christie’s NY
4.ヘルムート・ニュートン 「Big Nude III (Variation), Paris」 クリスティーズ・ニューヨーク、“21st Century Evening and Post-War and Contemporary Art Day Sales”、2022年5月10-13日 $2,340,000.(約3.09億円)
Helmut Newton「Big Nude III (Variation), Paris」 Christie’s NY
5.バーバラ・クルーガー 「Untitled (My face is your fortune), 1982」 サザビーズ・ニューヨーク、“Contemporary Evening and Day Auctions”、2022年11月16-17日 $1,562,500.(約2.06億円)
Barbara Kruger「Untitled (My face is your fortune), 1982」 Sotheby’s NY
6.リチャード・プリンス 「Untitled(Cowboy), 1998」 サザビーズ・ロンドン、“Modern and Contemporary evening”、20221年6月29日 GBP942,500.(約1.56億円)
Richard Prince「Untitled(Cowboy), 1998」Sotheby’s London
7.リチャード・アヴェドン 「The Beatles Portfolio: John Lennon, Ringo Starr, George Harrison and Paul McCartney, London, 1967/1990」 フィリップス・ロンドン、“Photographs”、2022年11月22日 GBP809,000.(約1.34億円)
Richard Avedon「The Beatles Portfolio: John Lennon, Ringo Starr, George Harrison and Paul McCartney, London, 1967/1990」Phillips London
8.シンディー・シャーマン 「Untitled, 1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、“21st Century Evening and Post-War and Contemporary Art Day Sales”、2022年5月10-13日 $882,000.(約1.16億円)
Cindy Sherman「Untitled, 1981」Christie’s NY
9.リチャード・プリンス 「Untitled (Cowboys), 1992」 サザビーズ・ニューヨーク、“Contemporary Art Day Auction”、2022年5月20日 $724,000.(約9594万円)
Richard Prince「Untitled (Cowboys), 1992」Sotheby’s NY
10.ゲルハルド・リヒター 「Ema (Akt auf einer Treppe) (Ema <Nude on a Staircase>), 1992」 サザビーズ・ロンドン、“Contemporary Evening and Day Auctions”、2022年10月14-15日 GBP567,000.(約9407万円)
Gerhard Richter「Ema (Akt auf einer Treppe) (Ema <Nude on a Staircase>), 1992」Sotheby’s London
クリスティーズ・ニューヨークは、11月9日に故マイクロソフトの共同創業者ポール・アレン(1953-2018)の「Visionary: The Paul G. Allen Collection」オークションを2回のパートで開催した。 アレン氏は1975年、高校時代からの友人ビル・ゲイツ氏とマイクロソフトを設立。その後、IT業界の先駆者として活躍したが、2018年にがんによる合併症で65歳で亡くなった。今回のオークションでは、ゴッホ、セザンヌ、スーラ、ゴーギャン、クリムトなどの傑作5点の絵画が1億ドル以上で落札され大きな話題となった。最高額はジョルジュ・スーラの「Les Poseuses, Ensemble (Petite version)」で、1億4920万ドルで高額落札された。第1部、第2部と合わせると合計売上高は16億2224万9500ドル(約2271億円)に達し、これは単一のオークションでの最高の合計売上だと発表されている。
Christie’s NY, IRVING PENN, “12 Hands of Miles Davis and His Trumpet, New York, July 1, 1986”
・アーヴィング・ペン(IRVING PENN, 1917-2009) “12 Hands of Miles Davis and His Trumpet, New York, July 1, 1986” セレニウムトーン・シルバー・プリント 落札予想価格 30,000~50,000ドル 落札価格 195,300ドル
Christie’s NY, MAN RAY,” Swedish Landscape, 1925″
・マン・レイ(MAN RAY, 1890-1976) “Swedish Landscape, 1925” 1点ものシルバー・プリント 落札予想価格 300,000~500,000ドル 落札価格 189,000ドル (購入履歴) “Photographs from the Collection of 7-Eleven, Inc., Sotheby’s, New York” 2000年4月5日、lot 26. 落札価格 258,750ドル(落札予想価格 120,000~180,000ドル)