2021年のアート写真オークション
現代アート系で300万ドル超えの落札が続出

2020年のオークション市場は、世界的なパンデミックの影響で総売上高が2019年比で約31%も急減した。2021年も感染状況はあまり好転しなかった。しかし、各オークションハウスは、前年の経験からライブとオンラインとの組み合わせでほぼ通常期通りの開催予定を消化した。
総売り上げも約61.1億円と、2021年比で約20%増加した。出品点数は6276点から5063点に減少、落札率は約67.8%から71.6%に上昇している。落札点数の減少に関わらず、前記のように落札金額合計は約20%増加した。これは1点の単純落札単価が119万円から168万円に大きく増加したことによる。
2020年は、高額評価作品では出品の先送り傾向が見られ、中低価格帯では多数の換金売り的な売却が見られた。2021年になって、市場は一時のパニック状態から冷静になり、投げ売りが減少し、高額価格帯の出品が戻ってきたのだろう。なおオークションは、開催地の通貨が違うのですべて円貨換算して比較を行っている。

2021年は世界中の写真作品中心の38オークションをフォローした。いまや現代アート系オークションにアーティスト制作の写真作品や、高額なリチャード・アヴェドン、ダイアン・アーバス、アンセル・アダムスなどの20世紀写真が当たり前に出品されている。それらを取り出して、集計に加えるという考え方もあるが、ここでは今まで継続して行ってきた統計の一貫性を保つために除外している。ただし、総合の高額落札ランキングには現代アート系オークションの結果を反映させている。しかし、例えば11月のササビーズ・ニューヨークのContemporary Artオークションに出品されたロマーレ・ビアデン(Romare Bearden/1911-1988)の作品などは、写真素材を使ったコラージュ作品だ。写真作品に含めるかどうかの解釈は分かれると思う。今回の集計では、オークションへの出品実績が少ないことから除外している。
またオークションは世界中で開催されている。今回の集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。また為替レートは年間を通じて大きく変動している。どの時点のレートを採用するかによって、ランキング順位が変わる場合もある。
それらの点はご了承いただくとともに、漏れた情報に気付いた人はぜひ情報の提供をお願いしたい。以上から、本ランキングは写真作品の客観的なランキングというよりも、アート・フォト・サイトの視点によるものと理解して欲しい。

「Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh, accompanied by Twin Flames Full Physical Collection (100 prints), 2017-2018」,Christie`s NY “Photographs”

さて2021年のオークション市場で特筆すべきは、やはりクリスティーズ・ニューヨークの秋のオ―クションに出品されたジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)による、“Twin Flames”シリーズの写真NFT作品だろう。本作は主要オークションハウスが写真オークションでNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品した最初の事例となった。出品されたのは、アベルサノの作品集のカバー作品「Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh」に対するNFTと、100枚の同シリーズの物理的なプリント作品が含まれる。落札予想価格10万~15万ドルが、予想をはるかに上回る111万ドル(約1.22億円)で落札された。写真オークションで初めて落札されたNFTであり、写真NFTの世界記録となる。
またクリスティーズの2021年の写真(Photographs)部門での最高額となった。知名度があまり高くない人の作品の落札価格が、ダイアン・アーバス、アンセル・アダムス、マン・レイなどの希少なヴィンテージ作品を遥かに上回ったことは大きな驚きだった。歴史的にも、オークションでの高額取引の実績は市場ルールを変えるきっかけになっている。果たして今回の落札がNFTブームが反映された特殊例なのか、それとも写真の伝統的市場がさらに流動化する兆候なのか?2022年の展開を注意深くを見守りたい。

高額落札総合ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少していた。つまり市況が良くないので、高額評価の作品の出品が控えられていたということ。2016年以来、300万ドル越えの高額落札はなかった。2020年の最高額の落札は、現代アート系のリチャード・プリンスを差し置いて、リチャード・アヴェドン「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」の約1.99億円だった。(クリスティーズ、“ONE, a global 20th-cantury art auction”、2020年7月10日)
しかし2021年は、好調な現代アート市場の影響により状況が一変した。11月9日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“21st Century Evening Sale”で、久しぶりにシンディー・シャーマンとリチャード・プリンスの作品が300万ドル越えで落札された。特に年後半に現代アート系中心に100万ドル越えの落札が続出した。2020年1位のアヴェドン作品は、2021年では6位でしかない。

総合順位

1.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年11月9日
約3.46億円

Christie’s New York, Cindy Sherman

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1997」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年11月9日
約3.33億円

3.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 2000」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年5月11日
約2.4億円

4.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年11月9日
約2.27億円

5.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット「Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846」
サザビーズ・ニューヨーク、“50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”、
2021年4月21日
約2.15億円

6.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年11月9日
約1.74億円

7.ゲルハルド・リヒター「Strip, 2012」
クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century Evening Sale and Post-War and Contemporary Art ”、
2021年10月15日
約1.4億円

8.バーバラ・クルーガー「Untitled (Your Manias Become Science), 1981」
クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、
2021年11月9日

約1.28億円

9.ジャスティン・アベルサノ「Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh, accompanied by Twin Flames Full Physical Collection (100 prints), 2017-2018」
クリスティーズ・ニューヨーク、“Photographs”、
2021年10月6日
約1.21億円

10.リチャード・アヴェドン「The Beatles, London, August 11, 1967」
クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century Evening Sale and Post-War and Contemporary Art ”、
2021年10月15日
約1.12億円

◎出品カテゴリー別ランキング

・19/20/21世紀アート写真(Photographs)

William Henly Fox Talbot, Sotheby`s NY, “50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”

1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット 2.15億円

2.ジャスティン・アベルサノ 1.21億円

3.アンセル・アダムス 1.02億円

4.ダイアン・アーバス 6875万円

5.ヘルムート・ニュートン 6703万円

最高額は、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、“50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”に出品されたウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットのサルトプリントの写真とアルバムのセット作品。落札予想価格30-50万ドルが、195万ドル(約2.15億円)で落札(上記掲載画像はその1点)。

・現代アート系

1.シンディー・シャーマン 3.46億円

2.リチャード・プリンス 3.33億円

Richard Prince”Untitled (Cowboy), 1997″, Christie’s NY , “21st Century Evening Sale”

3.リチャード・プリンス 2.4億円

4.シンディー・シャーマン 2.27億円

5.シンディー・シャーマン 1.74億円

現代アート系では、上位20位のなかにシンディー・シャーマンが7点、リチャード・プリンスが5点、ジョン・バルデッサリが2点含まれる。代表作の出品がなかったアンドレアス・グルスキーは1点にとどまっている。

上記のように、いま市場での写真表現の定義は極めて複雑になっている。「ファインアート写真の見方」(玄光社/2021年刊)で詳しく触れているが、これからは「19-20世紀写真」、「21世紀写真」、「現代アート系」へと分かれていくとみている。21世紀になって制作された写真作品は、すべて現代アート系写真だという考えもある。しかし内容的には、19-20世紀写真の延長線上にある「21世紀写真」と「現代アート系」とに分かれるのではないだろうか。
オークションハウスによるカテゴリー分けでは、中期的には19-20世紀写真の貴重で高額作品、21世紀写真のサイズの大きくエディションが少ない高額作品が現代アート・カテゴリーに定着し、その他の「19-20世紀写真」、「21世紀写真」が「Photographs」カテゴリーへ分類されていくと予想している。

(1ドル/110円、1ポンド・152円、1ユーロ・130円)

2021年秋/ロンドン・パリ
アート写真オークションレビュー

例年は11月に開催されるフォトフェア「Paris Photo」。2020年はコロナウイルスの感染拡大の影響で延期になった。2021年のフェアは通常通り11月11日から14日にかけて無事に開催された。しかし大手業者によるパリ/ロンドンの定例アート写真オークションは、今年も開催時期を集中することはできず、11月中に分散して行われた。
クリスティーズは11月9日にパリで“Photographies”、ササビーズは11月16日にロンドンで“Photographs”(オンライン)、フィリップスは11月23日にロンドンで “Photographs”を 開催した。

欧州のオ―クションは開催地の通貨が違うので円貨換算して昨年同期と単純比較している。大手3社の合計売上は、2019年が約7.64億円、2020年は7.87億円だったが、2021年は7.15億円と微減だった。2021年に欧州通貨に対して円安が進んだことを考慮すると、市場規模は若干縮小したといえるだろう。落札率は2019年の約75.6%、2020年約70%に対して、2021年は約80.5%と改善した。特にフィリップス・ロンドンの約93.1%という高い数字が全体の数字を押し上げた。米国市場では今秋のニューヨーク定例オークションの売り上げが大きく回復した。それに比べて、英国/欧州市場の回復ペースはまだ緩やかのようだ。 

Phillips London “Photographs”, Irving Penn, “Milkman (A), New York, 1951”

今シーズンで注目されたのは、フィリップス・ロンドンに“ULTIMATE IRVING PENN”と題されて出品されたアーヴィング・ペンのSmall Tradesシリーズの貴重なプラチナ・パラディウム・プリント10点だった。これは1950~51年に撮影され、ペンがプラチナ・パラディウム・プロセスを完成させた1967年に自らが制作に携わってプリントされた作品。ペンは、彼の特徴的なグレーの背景の前に、作業道具を持ち、仕事着でたたずむ様々な職種の人々をヴォーグ誌用に撮影。これらの作品は時代性が反映された一種のファッション写真として制作されたのだ。彼は、世紀の変わり目にパリの職人を撮影したアジェ、そして“American Photographs”のウォーカー・エバンスに触発されてこのプロジェクトに取り組んだという。当初は市場で過小評価されていたが、2009年にJ・ポール・ゲティ美術館で開催された“The Small Trades”展以降に再評価が進み相場は大きく上昇。同展に際して刊行されたフォトブックも完売、いまではレアブック扱いになり、古書市場で値上がりして取引されている。
今回の出品作の特徴は、シートサイズが約57.5 x 46 cmと大きめ、エディション数は少なめで、他作品は世界の主要美術館がコレクションしている貴重作品であること。オークションハウスによると、10年以上にわたって同じプライベート・コレクションに所蔵されており、オークション出品は今回が初めてとのこと。

今回の落札予想価格は、作品により5万~7万ポンド(約760~1064万円)だった。結果は全作が落札、10点のうち7点が落札予想価格の上限を超えた。最高額は、“Milkman (A), New York,1951”で、なんと落札予想価格上限の5万ポンドの約3倍の15.12万ポンド(約2298万円)で落札。“Barber, New York,1951”も、13.86万ポンド(約2106万円)で落札されている。

今回の3つのオークションの最高額は、これもフィリップス・ロンドンに出品されたヘルムート・ニュートンの大判作品“Charlotte Rampling at the Hotel Nord-Pinus, Arles, France 1973”だった。イメージサイズは 161.5 x 111.9 cm、AP 1/2、落札予想価格は25万~35万ポンドのところ、44.1万ポンド(約6703万円)で落札された。ちなみに同作は、2017年10月3日にクリスティーズ・ロンドンで開催された“Christie’s, London, Masterpieces of Design & Photography”で落札予想価格は20万~30万ポンドのところ、33.275万ポンドで落札された作品。手数料などの諸経費などを勘案すると所有期間4年間の収支はだいたいとんとんだろう。

Phillips London “Photographs”, Helmut Newton, “Charlotte Rampling at the Hotel Nord-Pinus, Arles, France, 1973”

ニュートンに続いたのは、クリスティーズ・パリに出品された、2019年に亡くなったピーター・リンドバークの大判ファッション写真の“Mathilde on the Eiffel Tower (Hommage a Marc Riboud), Paris, 1989”だった。210 x 168 cmサイズのデジタル・プリント作品でエディション1/1という1点ものの貴重作。落札予想価格上限の8万ユーロの約2倍以上の20万ユーロ(約2600万円)で落札されている。

Christie’s Paris, “Photographies”, Peter Lindberg, “Mathilde on the Eiffel Tower (Hommage a Marc Riboud), Paris, 1989”

リンドバークに続いたのが、上記のフィリップスで落札されたアーヴィング・ペンの“Milkman (A), New York,1951”の15.12万ポンド、そして“Barber, New York,1951”の13.86万ポンドとなる。
高額落札が期待されたのは、ササビーズ・ロンドン(オンライン)に出品された、マン・レイの“Erotique Voilee, 1933”。落札予想価格18万~26万ポンド(約2736万~3952万円)だったが不落札だった。

パリ/ロンドンの定例アート写真オークションでは、高額落札上位にニュートン、リンドバーク、ペンなどの20世紀のファッション写真が並んだ。特にニュートン、リンドバークなのアイコニックな大判作品は、現代アート系作品だと認識されているようだ。見方を変えると、これらの有名ファッション写真家の大判作品は、アート写真市場だけ見ていると高額だが、現代アート市場の相場レベルからみるとリーズナブルだと解釈可能なのだと思う。ちなみに11月のニューヨーク現代アートオークションでは、シンディー・シャーマンの“Untitled, 1981”やリチャード・プリンスの“Untitled (Cowboy), 1997”などの写真作品が300万ドル(約3.36億円)越えで落札されているのだ。たぶん今後も、これらの20世紀ファッション写真の大判貴重作品への需要は変わらないのではないだろうか。

(1ポンド・152円、1ユーロ・130円、1ドル・112円で換算)

2021年秋ニューヨーク写真オークションレヴュー
写真NFT作品の高額落札で市場が騒然

2021年秋の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、
今回は9月下旬から10月上旬にかけて、複数委託者、単独コレクションからによる合計7件が開催された。
サザビーズは、9月29日に現代アート系作品中心のプライベート・オークションから“A Life Among Artists: Contemporary Photographs from an esteemed private collection”、10月5日に“Classic Photographs”と、“Contemporary Photographs”を開催。
クリスティーズは、10月6日に複数委託者による“Photographs”、メトロポリタン美術館コレクションからの単独セール“Photography of the Civil War: Property from The Metropolitan Museum of Art”を開催。
フィリップスは、10月7日にプライベート・コレクションからの“Reframing Beauty: A private Seattle collection”、複数委託者による“Photographs”を開催している。
昨年の春以来、オークションハウスはコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などの対応を行ってきた。今秋からほぼ通常通りの開催モードに戻った印象だ。

結果は、3社合計で922点が出品され、654点が落札。不落札率は約29.1%だった。総売り上げは、約1484万ドル(約16.32億円)で、コロナ禍で相場環境が状況が厳しかった2020年秋の約765万ドル(約約8.41億円)、2021年春約969万ドル(約10.65億円)から大きく改善。ほぼ約2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)の売り上げレベルを回復している。
落札作品1点の平均金額は約22,692ドルと、2021年春の23,774ドルと同じレベルにとどまった。2021年秋の約16,000ドル。2020年春の約17,000ドルよりは改善しているものの、 2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルと比べるといまだに低い水準だ。高額セクターの動きにまだ活気がないとともに、中価格帯セクターも全般的に上値を積極的に追っていくような力強さは感じられなかった。
これで2021年のニューヨークの大手業者の総売り上げは、約2454万ドル(約26.9億円)となった。2020年の約2139万ドル(約23.47億円)より微増している。しかし、コロナ禍前だった2019年の約3528万ドルには及ばない。

NY 大手オークション会社 春/秋 シーズンの売上 推移

今シーズンの写真作品の最高額は、クリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのポートフォリオ・セット。本作は主要オークションハウスが写真オークションでNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品した最初の事例となった。出品されたのは、アベルサノの作品集のカヴァー作品“Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”に対するNFTと、100枚の同シリーズの物理的なプリント作品が含まれる。落札予想価格10万~15万ドルが、予想をはるかに上回る111万ドル(約1.22億円)で落札された。写真オークションで初めて落札されたNFTであり、写真NFTの世界記録となる。またクリスティーズの2021年の最高額の写真作品となった。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh”

2位は、同じくクリスティーズに出品されたアンセル・アダムスの名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルが、予想上限を超える93万ドル(約1.02億円)で落札された。本作は1996年4月のササビーズ・ニューヨークで取引された作品。当時の落札予想価格は3万~5万ドルだった。

Christie’s NY, Ansel Adams, “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”

3位もクリスティーズのダイアン・アーバスの代表作“Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”。本作は極めて貴重なダイアン・アーバス本人によるプリントされた作品。落札予想価格50万~70万ドルが、予想予想価格の範囲内の62.5万ドル(約6875万円)で落札。

Christie’s NY, Diane Arbus “Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”

4位はササビーズに出品されたマン・レイのソラリゼーション作品“Calla Lilies, 1931”。落札予想価格30万~50万ドルが35.2万ドル(約3872万円)で落札されている。同作は、2002年10月のクリスティーズ・ニューヨークで18.55万ドルで落札された作品。約19年の利回りは各種手数料などのコストを考慮しなくて1年複利で単純計算すると約3.41%となる。

Christie’s NY, Justin Aversano, “Twin Flames”

今秋、一番話題なったのは、やはりクリスティーズに出品されたジャスティン・アベルサノによる、“Twin Flames”シリーズの写真NFT作品。落札価格が、ダイアン・アーバス、アンセル・アダムス、マン・レイなどの希少なヴィンテージ作品を遥かに上回ったことは大きな驚きだった。歴史をみても、オークションでの高額での取引実績は市場ルールを変えるきっかけになっている。
果たして今回の落札がNFTブームが反映された特殊例なのか、それとも写真の伝統的市場がさらに流動化する兆候なのか?この判断は極めて難しいだろう。実際、今後の展開を注意深くを見守りたいという、写真関係者の意見が多いようだった。

(1ドル/110円で換算)

2021年前期の市場を振り返る アート写真のオークション高額落札

2021年前半のアート写真主要オークション・スケジュールは、クリスティーズ・パリで6月29日開催された「Photographies」で終了した。7月のアート界は通常は夏休みシーズンにはいるのだが、今年はササビーズ・パリがファッション写真家パオロ・ロベルシの作品やコレクションを特集した「In the Studio of Paolo Roversi」を7月9日にオンライン開催している。昨年ほどではないにしても、パンデミックによる開催スケジュールへの影響はまだ残っているようだ。
昨年前期と比べると、オークション数は18から21に増加。昨年12もあったオンライン・オークションは6に減少。オークション業界は1年の経験から今回のパンデミック時代に合った業務形態を模索し適応してきたといえるだろう。

昨年の前半はパンデミックの環境下で、開催延期が頻発して、オンライン中心の極めて異例なオークション開催が続いた。今年との比較はあまり意味がないと思うが、出品数はほぼ同数の2611点、落札率は68%から73.6%に改善した。総売り上げは約32億円で、昨年同期比で約59%アップしている。1点の落札単価が約168万円と約49%アップしたことが影響している。これは、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、「50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs」で、高額落札されたタルボットとリー・ミラー作品による影響が大きいと思われる。まだ相場はやっと通常モードに戻ってきたような印象だ。
今後の見通しだが、ワクチン接種は進んでいるが、変異株などのよる不透明要素が残る状況が続いている。秋シーズンのオークションに、相場回復期待から高額作品の出品がどれだけ戻ってくるかにかかっているだろう。

私どもは現代アート系と19/20/21世紀写真中心のアート写真とを区別して継続分析を行っている。厳密には、アンドレアス・グルスキー、マン・レイなどは作品評価額によって両方のカテゴリーに出品される。しかし、統計の継続性などを鑑み、ここでは出品されたカテゴリー別の高額落札作品のランキングを制作している。それではアート写真オークションでの高額落札をみてみよう。

◎19/20/21世紀写真部門

1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット
“Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846”
(salt Print の写真作品とアルバムのセット)

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
195万ドル(約2.15億円)

2.リー・ミラー
“Nude, 1930”

ササビーズ・ニューヨーク、
50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs 、4月21日、
50.4万ドル(約5544万円)

3.マン・レイ
“Le Violon d’Ingres, 1924/1950s”

クリスティーズ・ニューヨーク、
Photographs、4月6日、
47.5万ドル(約5225万円)

4.ロバート・フランク
“Trolley-New orleans, 1955”

フィリップス・ニューヨーク、
Photographs、4月8日、
40.3万ドル(約4435万円)

5.マン・レイ
“Erotique voilee, 1933”(9作品)

クリスティーズ・パリ、
Man Ray et les surrealistes. Collection Lucien et Edmonde Treillard、3月2日、
31.25万ユーロ(約4062万円)

◎現代アート系

現代アート系ではリチャード・プリンス作品が200万ドル越えで落札されている。久々に高額評価の作品が市場に戻ってきたのだ。彼の作品は写真でも現代アートと同じカテゴリーでの取り扱いとなる。同じオークションではジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case, 1983”が9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

1.リチャード・プリンス
“Untitled (Cowboy), 2000”

クリスティーズ・ニューヨーク、
21st Century Evening Sale、
5月11日
219万ドル(約2.4億円)

2.ジョン・バルデッサリ
“Dining Scene (Two Greys) with Disruption at Source (Red, Yellow, Blue), 1990”
クリスティー・ロンドン、
Post-War and Contemporary Art Day sale、
3月25日、
31.25万ポンド(約4750万円)

(1ドル/110円、1ポンド・152円、1ユーロ・130円)

リチャード・プリンス作品が高額落札 NY現代アート系オークション

春のニューヨーク現代アート系オークションで、リチャード・プリンス作品が写真関連では久しぶりに200万ドル越えで落札された。
クリスティーズ・ニューヨークでは、新しい3カテゴリー分けのオークションが5月11日から13日にかけて開催された。
“21st Century Evening sale” は1980年から現代までの作品、“20th Century Evening sale”は、1880年から1980年の作品、“Post-War and Contemporary Art Day sale” は主に低価格帯作品が出品された。ちなみに、“21st Century Evening sale” では、ジャン・ミシェル・バスキアのアクリル製絵画“In This Case、1983”が、9310.5万ドル(約102.4億円)で落札されている。

写真の最高額も同じオークションに出品されたリチャード・プリンス(1949-)の“Untitled (Cowboy), 2000”だった。落札予想価格100万~150万ドルのところ219万ドル(約2.4億円)で落札。132 x 184.1cmサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント、ブランド・ギャラリーのガゴシアンが取り扱ったという来歴の作品だ。

Christie`s NY, Richard Prince “Untitled (Cowboy), 2000”

リチャード・プリンスは、70年代後半から80年代前半にかけて、シンディ・シャーマン、バーバラ・クルーガー、シェリー・レヴィンなど、「ピクチャーズ・ジェネレーション」と呼ばれる若手アーティストたちとともに登場してきた。既存の広告や写真を再度撮影することで、イメージを「流用(appropriation)」し、新たな文脈の作品として提示した。これは作品のオリジナリティや神聖さを疑うポストモダン的なアプローチだと言われている。プリンスは約40年にわたって「Untitled (Cowboy)」シリーズで、アメリカの象徴であるカウボーイにこだわり続けてきた。カウボーイは、アメリカの最初の開拓者たちを鼓舞したワイルド・ウェストの憧れを呼び起こすとともに、西部開拓者たちの勤勉さ、決意、独立精神を象徴している。オリジナルの「カウボーイ」シリーズは1980~84年年に制作。それらは70年代後半から80年代前半にかけてのマルボロのタバコ広告を10×14インチサイズで表現したものだった。本作は、プリンスが2000年頃に制作を開始した「カウボーイ」シリーズの第2弾。デジタルスキャナーを使って加工し、現代アート的な巨大サイズに拡大。しかし、プリンスは意図的に作品にオリジナルの粒状性を残している。これによりオリジナル画像が雑誌広告であることが強調されているのだ。

シンディー・シャーマン(1954)の“Untitled #150,1985”は、落札予想価格60万~80万ドルのところ52.5万ドル(約5775万円)で落札された。125.7 x 168.5 cmサイズ、エディション6/AP1のタイプCプリント。こちらもブランド・ギャラリーで、2021年末に閉廊するメトロ・ピクチャーズが取り扱ったという来歴の作品だ。本作は、1985年のメトロ・ピクチャーズで個展で展示された「Fairy Tales」シリーズの重要作品。彼女は、子供向けのおとぎ話に隠された深い闇からインスピレーションを得て創作。グロテスクさと魅惑的な雰囲気が象徴的に表現された作品で、アーティストにとって重要なコンセプトの出発点と言われている。同作は、その後の彼女の作品の多くに影響を与えており、作家に関する文献/資料にも広く引用されている。

Christie’s NY, Cindy Sherman, “Untitled #150,1985”

一方でサザビーズ・ニューヨークでは、5月12日から13日にかけ“Contemporary Art”の2回のオークションを開催。こちらも最高額はリチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy)、1993」だった。落札予想価格20万~30万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。50.8x 61 cmの小さめサイズ、エディション2/AP1のエクタカラー・プリント。

シンディー・シャーマンの「Cover Girl (Vogue),1976-2011」は、落札予想価格6万~8万ドルのところ16.38万ドル(約1801万円)で落札。小ぶりの26.7 x 20.3 cmサイズの3点組作品、エディション3/AP1のゼラチン・シルバー・プリント。
サザビーズに出品されたのは、有名現代アート系アーティストによる、“Photographs”で取り扱われるような小さいサイズの作品。彼らの代表的作品はサイズが小さくても高額で取引されるようになってきたようだ。

ここ数年、現代アート系を含めて写真関連作品の高額落札はあまり多くなく、2017年からは、200万ドル超えの落札はなかった。リチャード・プリンス作品でも、2018年秋のサザビーズ・ニューヨーク“Contemporary Art”において169.5万ドルで落札された「Untitled (Cowboy), 2013」以来となる。新型コロナウイルスの経済対策として世界中の政府が行っている積極財政策と中央銀行による超金融緩和の影響だと思われる。米国の中銀に当たるFRBが出口戦略の模索を開始したとの報道も見られる。有名アーティスト/写真家の代表シリーズへの人気集中は続くのだろうか?今後の動向を注視していきたい。

(為替レート 1ドル/110円で換算)

2021年春
NYファインアート写真市場
最新オークション・レビュー!

通常は4月に集中的に行われる大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。2020年は、前例のないコロナウイルスの感染拡大により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの手探りの対応を行った。1年の経験で、オークションはオンラインなどを有効的に活用することで十分に機能することが証明された。

今シーズンは、約1年ぶりに大手3社の複数委託者による“Photographs”オークションが4月に集中して行われた。クリスティーズは、4月6日、ササビーズは、4月7日、フィリップスは、4月8日に開催している。
今春の大手3社のオークションでは、トータル557点が出品された。コロナ禍で昨年の開催時期が変則になり、単純比較はあまり意味がないかもしれないが、昨年秋は709点、昨年春は1074点の出品数だった。平均落札率は73.2%、昨秋の67.7%より改善。ちなみに昨年春は74.4%だった。
今春は総売り上げが約969万ドル(約10.65億円)だった。昨秋は約765万ドル、昨春は約1368万ドル。2期続けて1000万ドル割れは、2003年春/秋シーズン以来となる。今春の結果は、過去5年間10シーズンの売上平均と比べても約33.8%減となる。リーマンショック後は、2009年春に大きく売り上げが減少しているが、2009年秋には急回復していた。今回の結果はコロナウイルス感染拡大が長引いていることが影響していると思われる。しかし1点の落札単価は約2.3万ドルに改善している。昨秋は約1.59万ドル、昨春は1.71万ドルだった。(過去5年間10シーズンの売上平均と比べて約12.9%減) 落札額単価の上昇は高額作品の出品が増えたことを意味する。コレクターの市場先行きの過度な不安感が減少したと解釈したい。

業者別では、売り上げ1位は約541万ドルのフィリップス(落札率80.4%)、2位は約219万ドルでクリスティーズ(落札率63.3%)、3位は209万ドルでサザビース(落札率70.3%)だった。
今シーズンの最高額は、クリスティーズ“Photographs”に出品されたマン・レイの代表作“Le Violon d’Ingres, 1924”。これは50年代に制作された作品で、落札予想価格20万~30万ドルのところ47.5万ドル(約5225万円)で落札された。本作は1995年10月5日のクリスティーズ・ニューヨークのオークション“Photographs, Part 1”で4.83万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約25年で約9.33%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Man Ray“Le Violon d’Ingres, 1924”

2番は、フィリップス“Photographs”オークションに出品されたロバート・フランクの代表作で写真集「The American」の表紙作品の、“Trolley-New Orleans, 1955”。落札予想価格15万~25万ドルのところ40.32万ドル(約4435万円)で落札された。“1956”と日付とサインが入った貴重なヴィンテージ作品。

Phillips NY, “Photographs”, Robert Frank “Trolley-New Orleans, 1955”

続いたのは、クリスティーズ“Photographs”に出品されたルイス・W・ハインの代表作“Mechanic and Steam Pump, 1921”。落札予想価格10万~15万ドルのところ27.5万ドル(約4435万円)で落札された。本作は1994年4月20日のクリスティーズ・ニューヨークのオークション“Photographs, Part 1”で9.05万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約26年で約3.99%で運用できたことになる。

Christie’s NY, “Photographs”, Lewis Hine “Mechanic and Steam Pump, 1921”

上記のマン・レイ作品とルイス・W・ハインとの利回りの違いは、過去25年間に写真の評価基準が大きく変化したことが如実に反映されている。90年代、ファインアート写真は、他のアート分野と独立して存在していた。そこでは、撮影後数年以内に制作されたヴィンテージ・プリントが極めて珍重されていたのだ。94年のルイス・W・ハインの落札予想価格は7万~9万ドルで、マン・レイの95年当時の落札予想価格は1.2万~1.8万ドルにとどまっていた。2021年では写真は大きな現代アート市場における表現の一部だと考えられるようになった。ファインアートとして認知されているマン・レイ作品と、骨董的価値が高いルイス・W・ハインの20世紀ヴィンテージ作品の評価は逆転したのだ。ルイス・W・ハインの落札予想価格は10万~15万ドルにとどまっているが、マン・レイは落札予想価格20万~30万ドルに大きく上昇している。
市場における評価基準の変化は「ファインアート写真の見方」(2021年玄光社)に詳しく書いてある。興味ある人はぜひご一読ください。

いまニューヨーク・ダウの株価は金融緩和の継続やワクチン接種進行を背景に高値で推移している。しかしワクチン接種による感染収束や楽観的な景気回復予想など、すでに市場は良いニュースを大方織り込んでいると思われる。実際のところ、日本や欧州では感染者数が再上昇している。日本の一部都市では、まん延防止措置法が適用、欧州の一部都市ではロックダウンが再度実施されている。またこれらの地域ではワクチンの普及も遅延している。市場が楽観視するほど新型コロナウイルスの感染問題は世界規模では簡単に解決しない可能性もあるだろう。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。先行きに予断は許されないが、今後にコロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくると思われる。しかしリーマンショック後の2019年秋のような、急激なV字回復は難しいと思われる。

ルース・オーキン単独オークション開催
アート写真オークションレビュー

2021年のファインアート写真オークションが2月2日から始まった。中堅業者のボナムス・ニューヨークで米国人女性写真家(Ruth Orkin, 1921-1985)の単独オークションが開催された。彼女は女性フォトジャーナリストの草分け的な存在。フリーランスとして雑誌の「ライフ」、「ルック」などの仕事で世界中で撮影旅行を行っている。フォトブックでは、ニューヨーク市のアパートからセントラルパークをカラーで撮影した「A World Through My Window」(Harper Collins, 1978)が知られている。1995年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)で回顧展が開催されている。今回の単独オークションは、彼女の生誕100年を記念するとともに、最近の20世紀に活躍した女性写真家の再評価の流れの一環だと思われる。ファインアート市場がまだ成熟していなかった1985年に亡くなっていることからサインが入ったプリント作品の流通量は多くないと思われる。

今回の総売り上げは約17.63万ドル(約1851万円)、54点が出品されて33点が落札、落札率は約61.1%だった。最高額は彼女の代表作<<An American Girl in Italy (1951)>> で、US$ 52,812(約554万円)だった。

Bonhams NY, Photographs by Ruth Orkin, “American Girl in Italy, 1951”

フローレンスの市街地を、一人のアメリカ人女性がやや不安げに大勢のイタリア人男性に声をかけられる中をさっそうと歩く作品。女性の海外一人旅の楽しさを表現した彼女の名作。本作は演出されたものではないという、文脈が語られることで魅力が一層高まる作品だ。

興味深いのは、本オークションには同作のモダンプリントが複数点出品されていたこと。上記の最高額で落札されたのは80.7 x 122cmサイズの、サイン付き大判作品だった。一方で10.5 x 21.2cmサイズの、クレジット、写真家アドレス、スタンプのみ、サインなしの作品はUS$ 1,020(約10.7万円)、28 x 35.5cmサイズのサイン入り作品は US$ 12,750(約133万円)だった。作品のサイズ、サインの有無が相場に与える影響が明確に反映されていたと思う。

本オークションは、彼女の関連アイテムも一緒に出品している。オーソン・ウェルズから彼女への手紙、作品が掲載されたカタログ、カメラとカメラバックも出品されていた。1955年に購入されたニコンF、50㎜と135㎜レンズ、カメラバックは、 US$ 1,402(約14.7万円)で落札されている。
同ロットには、「A Photo Journal, Viking Press, 1981」に掲載された、以下のような彼女のコメントが紹介されていた。
“写真を撮るということは、被写体の人に「これを見てください」「あれを見てください」とお願いすることだと思っています。自分が撮った写真が、それを見た人に自分が意図したことを感じてもらえれば、目的は達成されたことになります。”
作品売買の場であるオークションだが、そこでも作品の価値を高めるために様々な写真家の情報が提供されていのだ。

(為替 1ドル105円で換算)

2020年オークション高額落札ランキング
20世紀ファッション写真が大健闘 アヴェドンが第1位!

2020年は、ファイン・アート写真市場にとって波乱の1年だった。2月にロンドンで開催された大手業者の現代アート系オークションまでは通常通りに実施された。しかし3月には、ニューヨーク、ロンドンなどで新型コロナウイルスの感染が拡大、都市のロックダウンが発生。通常は春と秋に行われるオークション・スケジュールは中止または延期を余儀なくされた。そしてオークションは、多くの人が集まる華やかなライブから、無参加者のオンライン/電話へと大きく運営システムが変化することになる。またスケジュールの遅れから、通常は夏休みに入る7月まで、また年末の12月になってからも、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーの複数セールが複数業者により開催される事態となった。少なくとも、2020年は各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。

2020年は世界中の写真作品中心の37のオークションをフォローした。いまや現代アート系オークションの一部にアーティストによる写真作品や高額な20世紀写真が当たり前に出品されている。それらを取り出して、集計に加えるという考え方もあるが、ここでは比較可能な統計数字の一貫性を保つために除外している。ただし、高額ランキングには現代アート系オークションの落札結果を反映させている。しかし、例えばジョン・バルデッサリ(1931-2020)の作品などには、写真素材を使ったコンセプチュアルな混合作品がある。それらを写真作品に含めるかどうかの解釈は分かれると思う。またオークションは世界中で開催されている。今回の集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。もし漏れた情報に気付いた人はぜひ連絡してほしい。また為替レートは年間を通じて大きく変動している。どの時点のレートを採用するかによって、ランキング順位が変わる場合もある。それらの点はどうかご了承いただきたい。
以上から、本ランキングは写真作品の客観的なランキングというよりも、アート・フォト・サイトの視点によるものなのだ。

さて2020年のオークション市場で特筆すべきは、オンラインのシェアー急拡大だ。出品点数ベースで約45.7%、落札金額ベースで33%となった。昨年までは、オンライン・オークションは低価格帯作品を取り扱う場だった。コロナウイルス感染拡大で状況は様変わりした。2019年のオークション・データと比較すると、2020年の特徴が見えてくる。出品点数は5452点から6276点に増加、落札率は約65.94%から67.88%に上昇している。開催地の通貨が違うので円貨換算して比較した落札金額合計は、73.13億円から50.8億円に約31%減、1点の単純落札単価も203万円から119万円に大きく減少している。相場の見通しが極めて不透明なことから、高額評価の作品の委託者は出品を先送りする傾向が明確に見られた。
逆に中低価格帯の作品は換金売り的な売却も目立った。出品数は高額価格帯が減少し、中低価格帯が増加したのだ。

落札ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2016年以来、300万ドル越えの高額落札は記録されていない。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の先行き不透明感から、現代アート系の高額作品の不落札が相次いだ。その影響から年後半には高額の写真作品の出品取り止めが多く見られた。
2020年の現代アート系第1位は、ササビーズ・ニューヨークで6月29日に開催された“Contemporary Art Evening Auction”に出品されたリチャード・プリンスの約152X228cmサイズ、エディション1/2のタイプCプリント作品「Untitled (Cowboy),2015」で、約128万ドル(@110/約1.4億円)だった。しかし総合順位では第2位となる。

Sotheby’s NY, “Contemporary Art Evening Auction”, Richard Prince, 「Untitled (Cowboy),2015」


2020年の高額落札は、7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション“ONE, a global 20th-cantury art auction”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。約203X161cmサイズ、エディション9/10の銀塩プリント作品で、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと作家最高落札額の181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。

Christie’s “ONE, a global 20th-cantury art auction”, Richard Avedon「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。2020年も、20世紀写真系が1位を含む5作品を占めている。特にササビーズ・ニューヨークで12月に開催されたアンセル・アダムスの単独セールの“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”では、高額落札が相次いだ。総合3位になったのは、60年代にプリントされた、約98X131cmサイズの銀塩プリント作品の「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」で、98.8万ドル(約1.08億円)の作家最高落札額を記録している。

2020年は、各オークションハウスの努力により、セカンダリー市場はコロナ禍でもオンライン・オークションなどを取り入れることで十分に機能することが証明された。2021年も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りするだろう。

一方でプライマリー市場のギャラリーは、業務の100%オンライン化は難しい。新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まる気配を見せない中で、2021年の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも経営が持続可能な企画を考えないといけないのだ。特に若手新人を中心に取り扱っているところが厳しいと思う。今春以降の市場動向に注視していきたい。

総合順位

1.リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」
クリスティーズ “ONE, a global 20th-cantury art auction”
2020年7月10日開催
約1.99億円

2.リチャード・プリンス
「Untitled (Cowboy), 2015」
ササビーズ・ニューヨーク “Contemporary Art”
2020年6月30日開催
約1.4億円

3.アンセル・アダムス
「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約1.08億円

Sotheby’s NY,“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”, Ansel Adams 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」

4.アンセル・アダムス
「Half Dome, Merced River, Winter, Yosemite Valley, 1938」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

4.アンセル・アダムス
「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

6.バーバラ・クルーガー
「Untitled (Don’t Shoot), 2013」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約7,425万円

7.ゲルハルド・リヒター
「Untitled (Park), 1990」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年2月12~13日開催
約7,045万円

8.ラースロー・モホリ=ナジ
「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs”
2020年3月24日~4月3日開催
約5,764万円

9.ティナ・モドッティ
「Interior of Church Tower at Tepotzotlan, 1924」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs from the Ginny Williams Collection”
2020年7月14日開催
約5,500万円

9.杉本博司
「North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約5,500万円

為替レート(1ドル/110円、1ポンド/140円)

2020年秋/ロンドン・パリ アート写真オークションレビュー

通常は11月に開催されるフォトフェアー「Paris Photo」に合わせて行われる大手業者によるパリ/ロンドンの定例公開アート写真オークション。今シーズンは、春と同様にコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

フィリップスは、“Photographs”オークションを日程前倒しで9月25日にロンドンで開催。ササビーズは、10月14日にロンドンで“Photographs”をオンライン開催、クリスティーズは、11月10日にパリで“Photographies”を開催している。
個別の結果は、業者によってかなりばらつきがあった。

フィリップス・ロンドンの“Photographs”は、予想外に良い結果で市場関係者を驚かせた。総売り上げ約270万ポンド(約3.78億円)、173点が出品されて149点が落札、落札率は約86.1%と良好な結果だった。
高額落札には、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、ハーブ・リッツなどのアート系ファッション写真が続いた。最高額はマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。

Phillips London “Photographs”, Mario Testino “Exposed, Kate Moss, London, 2008”

これは230X170cm、エディション2の大判カラー作品。ヴォーグ誌英国版の2008年10月号に掲載された作品。落札予想価格8~12万ポンドのところ、23.5万ポンド(約3,290万円)で落札された。
続くはリチャード・アヴェドンの“Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959”。約58.7X51cmサイズ、エディション35もモノクロ銀塩作品。ハ―パース・バザー誌1959年3月号に掲載された作品。落札予想価格18~22万ポンドのところ、21.25万ポンド(約2,975万円)で落札されている。

一方で、ササビーズ・ロンドンのオンライン開催の“Photographs”は苦戦を強いられた。総売り上げ約107.7万ポンド(約1.50億円)、149点が出品されて77点が落札、落札率は約51.6%と非常に厳しい結果だった。
特に高額価格帯が不調で、最高額の落札予想作品だった、今年亡くなったピーター・ベアードの巨大サイズ作品“Large Mugger Crocodile, Circa 15-16 Feet, Uganda,1966”は、落札予想価格10~15万ポンドだったものの不落札。トーマス・シュトルートの“MUSEE D’ORSAY I’, PARIS, 1989”も、落札予想価格8~12万ポンドだったが不落札だった。最高額で落札されたのは、これもフィリップス・ロンドンと同じマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。こちらは、サイズが多少小さい180X125cm、エディション3の作品。落札予想価格6~8万ポンドのところ、7.56万ポンド(約1,058万円)で落札された。
この中で好調な結果を残したのが、ウォルフガング・テイルマンズ。8点が出品されて7点が落札。そのうち5点が落札予想価格上限越えの高値による落札だった。

Sotheby’s London “Photographs”, Wolfgang Tillmans ““PLAN, 2007”

最高額は人気の高い抽象作品“PLAN, 2007”。61X50.7cmサイズの1点もの作品。落札予想価格3~4万ポンドのところ、4.78万ポンド(約669万円)で落札された。

クリスティーズ・パリの“Photographies”は、結果が極端だった上記2つのオークションと比べるとちょうど平均的だった。総売り上げ約209.9万ユーロ(約2.62億円)、129点が出品されて90点が落札、落札率は約69.7%だった。
最高額はヘルムート・ニュートンの代表作“Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”だった。

Christie’s Paris “Photographies”, Helmut Newton “Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”

これは102X67cmの大判作品。落札予想価格12~18万ユーロのところ、なんと40万ユーロ(約5000万円)で落札された。同作は2005年10月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Elfering Collection”に出品され9.84万ドルで落札されている。為替レートの違いで単純比較はできないが、円貨に直すとが2005年当時のドル円は1ドル/114円だったので、約1,121万円、2020年11月のユーロ円レートが125円なので約5,000万円になった計算になる。約15年で1年複利で約10.482%で運用できた計算になる。
続いたのはアーヴィング・ペンの「Small Trades」シリーズからの約49X37cmサイズのプラチナプリント“Lorry Washers, London, 1951”。落札予想価格6~8万ユーロのところ、11.875万ユーロ(約1484万円)で落札されている。ちなみにペンの同シリーズからは4点が出品されているがいずれも落札予想価格範囲内から上限越で落札。高額落札順位では2位~5位を占めていた。

今秋のロンドンとパリで開催された大手業者によるオークションでは、コロナ禍でもファインアート写真市場が十分に機能していることが明らかになった。開催地の通貨が違うので円貨換算して昨年同期と単純比較すると、合計売上は2019年の約7.64億円に対して2020年は7.87億円とほぼ同額。落札率は2019年の約75.6%に対して、2020年は約70%となっている。米国市場の売り上げが落ち込んでいるのと比べて英国/欧州市場は検討したと評価できるだろう。セカンダリー市場はオンラインなどを取り入れることで、コロナ禍でも十分対応できることが証明された。この非常時における関係者の努力に心より敬意を表したい。
ただし落札作品の内容を見ると、絵柄が分かりやすい有名写真家のアイコン的アート系ファッション写真が高額売り上げの上位を占めていた。人気作と不人気作の2極化が続いているのだ。今後もこの傾向が続くのか、来春以降の市場動向を注視していきたい。

(1ポンド・140円、1ユーロ・125円で換算)

2020年秋ニューヨーク
アート写真オークションレヴュー
コロナ禍でも市場は機能/売上額は減少

通常は10月に集中的日程で行われる大手業者によるニューヨーク定例公開アート写真オークション。今シーズンは春と同様に、コロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

クリスティーズは、9月30日に複数委託者による“Photographs”を、10月14日には単独コレクションからのセール“The Unseen Eye: Photographs from the W.M. Hunt Collection”をともにオンラインで開催した。
ササビーズは “Photographs”を、“Contemporary Photographs”と“Classic Photographs”の2部にわけて10月1日に開催。
フィリップスは、“Photographs”オークションを日程を10月14日にずらして開催している。

今秋のオークションは、コロナウイルスの影響が本格的に反映される初めての機会として注目された。結果は、3社合計で709点が出品され、480点が落札。不落札率は約32.3%だった。最終的な出品点数は2019年秋の772点(不落札率33.4.8%)から若干減少。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。しかし2020年春の、1079点で799点落札、不落札率約25.6%と比べると、出品数が約34%減少、落札率も約6.7%悪化している。総売り上げは、約765万ドル(約8.42億円)で、2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)から大きく減少。落札作品1点の平均落札額は約16,000ドル。2020年春の約17,000ドル、2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルルから大きく減少している。

各シーズンごとの合計売上の数字を比較すると、リーマンショック後に急激に落ち込んだ2019年春の約582万ドル以来の低い結果だった。2020年春秋合計のニューヨーク大手オークション売上は約2133万ドルで、2019年の年間約3528万ドルから約39.5%減少した。これも2009年の約1980万ドル以来の低水準だった。2020年のコロナウイルスの影響は、売り上げで見るとリーマンショック級のインパクトを市場に与えたということだろう。市場の先行きの見通しが不透明なときには、貴重な高額評価の作品は市場に出てこなくなる。どうしても中低価格の作品中心の売買となり、落札単価が下がり全体の売上高は減少する。

Phillips NY “Photographs”, László Moholy-Nagy, “Fotogramm1925-1928”

今シーズンの写真作品の最高額は、フィリップス “Photographs”オークションに出品されたラースロー・モホリ=ナジ(1895-1946)の、“Fotogramm, 1925-1928,1929”だった。落札予想価格8万~12万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札された。
続いたのはクリスティーズ “Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの大判156.2 x 149.8 cmサイズの“Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”。落札予想価格8万~12万ドルのところ35万ドル(約3850万円)で落札された。本作は2000年10月13日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで3.525万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約20年で約12.16%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Richard Avedon “Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”

ササビーズの“Classic Photographs”には、アンセル・アダムスの39.7X48.9cmサイズの30年代後半から40年代前半にプリントされた貴重な
“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”が出品された。こちらは落札予想価格20万~30万ドルのところ約27.7万ドル(約3047万円)で落札されている。

Sotheby’s NY “Classic Photographs” Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”

今秋のオークションでは高額落札が期待された作品の不落札が目立った。
フィリップスでは、アンドレス・グルスキーの“Sao Paulo, Se, 2002”、落札予想価格40万~60万ドル、ササビーズの“Classic Photographs”に出品されたダイアン・アーバスの“A Family on their Lawn One Sunday in Westchester, N.Y., 1968”と、ヘルムート・ニュートン“Charlotte Rampling at the Hotel Nord Pinus II, Arles, 1973”がともに落札予想価格30万~50万ドルだったが不落札だった。

いまグルスキーをはじめドイツのベッヒャー派の作品相場は10年前と比べて大きく下落しているという。2011年に現代ドイツの写真家の作品はオークションで合計2,100万ドルを売り上げているが、2019年には総額が50%近く減少し、1,060万ドルになったとアートネット・ニュースは報じている。(アートネット価格データベースによる)今シーズンは相場がやや調整局面の中で、更なるコロナウイルスの影響による心理的要因が重なり、売り手も買い手が積極的にならなかったのだろう。だがグルスキーなどの市場での高評価に変わりはない。彼の人気の高い作品は既に美術館などの主要コレクションに収蔵されており、それらは再び市場に出ることがない。もし代表作がオークションに出品されることがあれば売上高も再び上昇するだろう。

いまニューヨークの株価は金融緩和の継続やワクチン開発期待を背景に高値で推移している。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。来春のシーズンには、コロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくるのではないだろうか。
ちなみにリーマンショック後の2019年春には売り上げが激減したものの、秋には急回復している。

(1ドル/110円で換算)