2017年春のNYアート写真シーズン到来! 最新オークション・レビュー(1)

春の訪れとともに、いよいよ今週から2017年ニューヨーク・アート写真・オークション・シーズンが始まった。外部環境は、昨秋の定例オークション後にドナルド・トランプ米国新大統領が選出。新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移してきた。3月1日には株価は終値の史上最高値2万1115.55ドルを付けたものの、その後は医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案の採決取りやめなどで政策への期待感後退から調整局面を迎えている。しかし税制改革への期待から、株価はいまでも2万ドル台の高値を維持している。明らかに1万8000ドル台だった昨秋よりは相場環境は良好だといえるだろう。

今春は、複数委託者による通常オークション前の4月3日~4日にフィリップスが”The Odyssey of Collecting”セールを行った。

これは米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからの出品となる。同財団からのセールは2014年12月11日~12日ササビーズNYで開催された”175 Masterworks To Celebrate 175 Years Of Photography: Property from Joy of Giving Something Foundation”以来となる。同セールでは、単独コレクションからの最高合計落札金額の2132万ドルを達成している。

今回も、19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントなどの逸品が、イーブニングセール43点、デイ・セール185点にわかれて入札された。落札予想価格が1万ドル越えの出品が全体の3/4を占めていた。
結果は、全体の落札率は約84%、昨年のオークション平均が61.75%だったので極めて好調なだったといえよう。しかし、中身をみると高額落札が予想されていた20世紀写真の不落札が多かったのがやや気になる。落札予想価格上限が5万ドル超えの価格帯の落札率は約65%にとどまっている。最高落札が予想されていたのはラースロー・モホリ=ナジの2点で、ともに15万~25万ドルだった。
“Photogram studies for Goerz (negative and positive), 1925″は落札予想価格内の21.25万ドル(約2337万円)で落札。しかし、”Photogram, 1922″は不落札。イーブニングセールに出品された、エドワード・スタイケン”The Spiral Shell” 、アルフレッド・スティーグリッツ”The Terminal”と” Lake George”などのヴィンテージ作品には買い手がつかなかった。
また中国現代美術のジャン・ホァン(Zhang Huan)の”Family Tree”も15万~20万ドルの落札予想価格だったが不落札だった。
フィリップスがメイン・ヴィジュアルの1枚として紹介していたジュリア・マーガレット・キャメロンの”Sappho (Mary Hillier),1865″も、落札予想価格5万~7万ドルの下限以下の4万ドル(約440万円)の落札にとどまっている。
一方で、予想よりも高額落札された過小評価気味の作品も散見されたのでいくつか紹介しておこう。19から20世紀初頭の作品は歴史的価値や被写体の希少性をどのように評価するかによって、予想外の高額落札になることがあるのだ。
だいたいこの分野は個人よりも美術館などの公共機関が購入する場合が多い。
20世紀の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ。彼はマン・レイに写真を学び自作を撮影したことで知られている。”(Bois) Group Mobile (L’Enfant au monde),1917″は、4~6万ドルの落札予想価格のところなんと12.5万ドル(約1375万円)で落札された。
アルヴィン・ラングダン・コバーンのプラチナ・プリント”Self Portrait,1905″は、2~3万ドルの落札予想価格のところ9.375万ドル(約1931万円)で落札。19世紀の英国人写真家のベンジャミン・ブレックネル・ターナーの”Trees (Pepperharrow Park)、circa 1853″も、2.5~3.5万ドルの落札予想価格のところ、何と16.25万ドル(約1787万円)の高額で落札。ジュリア・マーガレット・キャメロンの天文学者ジョン・ハーシェルのポートレート作品”Sir John Herschel, 1867″は、落札予想価格2~3万ドルの落札予想価格のところ11.25万ドル(約1237万円)で落札されている。
4月4日~6日にけて、クリスティーズ(179点)、ササビーズ(188点)、フィリップス(118点)で複数委託者中心のオークションが開催される。クリスティーズではアンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941″の100.3 x 143.8 cmサイズが注目されている。こちらの落札予想価格は40万~60万ドルとなっている。
オークション結果の分析は”オークション・レビュー(2)”で紹介する予定だ。
(換算レート 1ドル/110円)

アート写真オークションの25年
激動する20世紀写真の価値

オークション資料の調査で、1991年10月のニューヨーク・ササビーズで開催された写真オークションのカタログを偶然に見直す機会があった。ちょうど手元に約25年後の2016年10月のニューヨーク・ササビーズのカタログがあったので2冊の内容を見比べてみた。詳しく分析したところ、約4半世紀でアート写真の世界で起こった様々な変化が、この2冊の内容の違いに凝縮されており非常に興味深かった。
まずカタログ内容の印象が全く違う。1991年のものは、だいたい年代順、写真家ごとに写真が並べられているが、全体のエディティングがあまり行われていない。委託者が売りたい作品全部が単に整理されて詰め込まれている印象だ。
それに比べ現在のカタログでは、掲載作品のセレクションは専門家の好みや見立てがかなり反映されており、多くの写真分野や時代などを網羅した、非常に洗練されバランスの取れた内容に仕上がっている。作品単価がはるかに高くなっているのも影響しているだろう。市場性が高い作品が中心に出品されているとも解釈できる。いまや市場性の低い作品は大手では取り扱わず、中小業者のオークションに振り分けられているのだ。
出品数も大きく変化している。1991年は534点だったのが、2016年には178点に減少。これは、必ずしも市場規模が縮小したのではない。当時のアート写真取り扱いは、春と秋のニューヨークのササビーズ、クリスティーズ、スワンくらいしか行っていなかった。いまは、開催都市が欧州にも広がり、取り扱い業者も大手フィリップスなどが加わり増加している。
オークション出品作家数も237名から78名と大幅に減少している。当時は、アート写真オークションは他分野のアートとは全く独立して存在していた。コレクター層もあまり他分野と被らなかった。それ故に、モノクロームの抽象的な美しさとファインプリントの高い表現力を持った作品は写真家のアート性とはあまり関係なく出品されていた。
その後は、写真も幅広いアート表現の一部であるという認識が一般的になり、高い作家性が求められるようになったのだ。2016年では、20世紀写真でも現代アートの視点で再評価が行われたうえで出品が決められている。
1991年に出品されていた多くの19世紀~20世紀の中堅写真家のうち、従来の写真独自の美学しか認められない人たちは市場から淘汰されてしまったようだ。
有名写真家も再評価を避けて通れない。1991年と比べて、アンドレ・ケルテス、エドワード・スタイケン、ウォーカー・エバンス、クラレンス・ジョン・ラフリンらの出品数は大きく減少している。ロバート・メイプルソープも激減しているが、ちょうど彼が1989年にエイズで亡くなったので、当時は利益確定の売りが多かったのだろう。出品数があまり変わらないのが、アンセル・アダムス、ロバート・フランクなど現代アートの視点からも評価されている写真家たちだ。

市場価値はどうだろうか?同じ作品はアンセル・アダムスの”Winter sunrise. Sierra Nebada, From Lone Pine,1944″を発見した。サイズ、プリント年ともほぼ同じだった。1991年は5000~8000ドルだったが、2016年には25,000~35000ドルになっていた。中間値で比較すると約4.6倍の価値上昇だ。アンリ・カルチェ=ブレッソンのボトルを抱えた少年をとらえた代表作”Rue Mouffetard,1954″は、サイズが2016年の方が多少大きいが、2000~3000ドルだったのが、15,000~25,000ドル。こちらは約8倍になっている。アルフレッド・スティーグリッツのフォトグラヴュールの代表作”The Steerage”は、5000~7000ドルだったが、15,000~25,000ドル。こちらは控えめの約3.3倍になっている。作品の骨董品的価値が強いものはあまり上昇していない。

ロバート・メイプルソープの花作品だが、まったく同じ絵柄はなかったが、エデイション10で19.25X19.25インチ・サイズ作品を発見できた。7000~9000ドルだったのが、15,000~25,000ドル。こちらも控えめの約2.5倍になっている。彼の相場は、亡くなる前のエイズ公表時点に当時のピークをつけていた。
驚いたのはロバート・フランク。当時はドキュメント系の評価は低かったのだ。同じ作品は発見できなかったが、写真集”The Americans”に収録されている一般的作品が1991年には、だいたい2000~3000ドルくらいの評価なのだ。いまなら、間違いなく15,000~25,000ドルだろう。こちらも約8倍くらい上昇している。
カタログ表紙を飾ったリチャード・アヴェドンの名作にも触れておこう。代表作“Dovima with elephants” (1955)は、ディオールの黒いドレスが有名だが、実は白いドレスのヴァージョンも存在する。1991年の作品は8X10″サイズの1点もののヴィンテージ・プリント。本作のネガはいまや存在しないそうだ。評価は20,000~30,000ドルで、18,000ドルで落札されている。2010年11月に、クリスティーズ・パリで黒いドレスのヴァージョンの1978年プリントの216.8 x 166.7cmサイズの作品が$1,151,976で落札されている。当時は円高時で1ドル82.50円くらいだったので、円貨だと約9503万円となる。1991年はまだファッション写真がアートとしては市場では広く認知されていなかった。ペンもアヴェドンも出品されてはいたが、ファッション系の評価は低く、ポートレート、静物、ヌードなどが中心だった。25年の間にファッション写真は時代の気分や雰囲気を表現したアート写真の人気カテゴリーへなった。この貴重な1点ものは当時明らかに過小評価されていたといえよう。
25年間を比較するといくつかの興味深い事実が明らかになる。例えオークションに出品された作品でも、いまや市場価値がつかない数多くの作品が存在する。これはアート一般で言われることで、ドン・トンプソン氏の市場分析を行なった著作によると、現代アートの世界では25年のうちにオークション出品作でさえも生き残るのは約半分とのこと。写真でその比率がさらに低くなっているのは、途中で市場の価値観の変化があったからだろう。
個人的な印象では、もともと知名度と価格が低かった人の方が市場から消え去る確率が高かったように感じる。ここでも現代アートの世界でいわれる、”低価格作品は個人が好きで楽しむもので価格が上昇する確率が低い”という一般論が当てはまる。当時、既に写真史で名前が知られていた人は、いまでもほとんどが生き残っている。ただし人によっては価格上昇率が高くない場合があるだけだ。逆にその後にアート性が認知された人の作品、特にその代表作の価値は大きく上昇している。いまや20世紀写真の大御所のヴィンテージプリントよりも、現存する現代アート系アーティストの写真作品の方が高額であるケースは珍しくない事実は広く知られているだろう。
今回の比較結果は、これから写真を買う人の参考になるだろう。アート・コレクションの基本は、気に入った作品をパッションと自らの目利きを信じて買うことだ。それらが生活の質を高めてくれることは間違いない。しかし、もし投資的な視点を加味して写真を買うならば、それに加えていくつかの留意点があるようだ。それは予算の範囲内で最も高額な、知名度が高い人の、代表作の購入を心がけることだろう。
1991年の平均為替レートは 1ドル/134.7067円

米国トランプ新政権後のアート写真市場 スワン・アート写真オークション開催

2月14日のバレンタイン・デーに、米国の中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)で”Icons & Images:Photographs & Photobooks”オークションが開催された。ドナルド・トランプ米国新大統領選出後の初のニューヨークでのオークションとなった。経済環境は、新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移している。株高で利益を上げたコレクターは作品を買いやすい状況だといえるだろう。

総売上は約158万ドル(約1.78億円)、平均落札率は73.91%。昨年秋のニューヨーク定例オークションの大手・中堅の平均落札率は約59.8%、全オークション年間平均は61.7%だった。昨秋のような10万ドルを超えるような高額落札はなかったが落札率が高く、事前の予想に違わぬ良好な結果だった。

最高額は、エドワード・マイブリッジ(EADWEARD MUYBRIDGE、1830-1904)の”Animal Locomotion、1887″から50枚セレクションされたセット。落札予想価格上限を超える、6.25万ドル(約706万円)で落札された。スワンのニュースレターによると、マイブリッジ作品は同社にとって非常に縁深い写真作品とのことだ。

実はちょうど65年前の1952年2月14日に元々はレアブック専門だった同社は初の写真オークションを開催している。その時の最高額も、マイブリッジの1000プレートからなる”Animal Locomotion”シリーズ。落札価格はなんと250ドルだったという。昭和27年当時は1ドル360円だったので、円貨では約9万円。ネットと調べると、当時の日本の大卒事務職の初任給が約8900円という。1000プレートからなる最高額の写真の値段はその10倍程度だったようだ。
続く2番目は、22枚からなるNASAのミッションで撮影された宇宙飛行士などの写真セット。これらも落札予想価格上限を超える、4.375万ドル(約494万円)で落札された。
1点もの作品の最高額は、米国アフリカ系の画家で写真家として知られるロイ・デカラヴァ(1919-2009)の”Dancers、1956″で、落札予想価格上限を超える4万ドル(約452万円)だった。彼の名前は知らなくても作家ラングストン・ヒューズとともに制作されたフォトブック”The Sweet Flypaper of Life”(Simon and Schuster, 1955)は聞いたことがあるだろう。フォトブックの代表的ガイドブック”The Book of 101 Books”にも収録されている名作だ。本作などは過小評価されていた20世紀のファイン・プリントを見直す動きの典型例といえるだろう。大手ではなく中堅のスワンで高額落札されたことは、将来的にコレクターがデカラヴァ作品を物色する可能性が高いことを感じさせる。

全体的に好調な結果だったスワンのオークション。しかし、中低価格帯の19~20世紀写真、フォトブックが中心で、中高価格帯のファッション系、現代アート系の出品は非常に少なかった。春の大手業者の定例オークションではそれらセクターの動向を見極めたい。

 一方、日本でもSBIアート・オークションの”Modern and Contemporary Art”オークションが2月18日に開催された。全出品作334点中写真関連は22点とわずか6.5%。海外と比べると極端に少なく感じるが、これでも日本では多い方になる。普段は、写真分野の落札率はあまり高くないのだが、今回は完売している。最高額はロバート・メイプルソープの花の作品”African daisy,1982″。落札予想の下限の138万円で落札された。同オークションでは、いままでは市場性に疑問があるような写真家の出品が見られた。しかし今回の出品作は的確にエディティングされていた印象だった。日本で売れる写真作品の情報がオークション・ハウスに蓄積されてきた証拠だろう。しかし市場性重視の結果は、杉本博司作品の出品が全体の36%を占めている状況なのだ。日本における市場の多様性のなさが改めて印象付けられた。
(1ドル/113円で換算)

2016年アート写真オークション
高額落札トップ10

毎年オークションでの取引実績の分析や高額落札のランキングの集計を行っている。特に最近は、アート市場のグルーバル化進行と写真メディアの多様化で分析がますます複雑になってきたと感じる。客観的な比較がかなり難しくなってきたのだ。2010年代になって、従来の”Photographs”と現代アートのカテゴリーの写真の垣根がますます消失してきた。ここでは、”Photographs”のオークション結果を集計し分析しているが、現代アートオークションに出品される写真関連作品が増加している。オークション・ハウスによる作品のカテゴリー振り分けは落札予想価格の金額によると理解している。つまり高額価格帯の落札予想のものは現代アート、中価格帯以下は”Photographs”のカテゴリーになる。ほとんどが高額価格帯になるリチャード・プリンスなどはわかりやすい。しかし、シンディー・シャーマン、トーマス・シュトルート、アンドレアス・グルスキー、杉本博司などは落札予想価格の違いで両方のカテゴリーに出品される。また更に状況を複雑化しているのは、例えばダイアン・アーバスの高価なビンテージ・プリントが現代アート系に出品されるケースが散見されることだ。
また、昨年特に気になったのが為替レートの大きな変動だ。オークションは、米国、英国、欧州で取引される、それぞれが、ドル、ポンド、ユーロ建ての取引になる。英国のEC離脱投票の影響でポンドの価値が大きく下がった。私どもは円に換算して比較しているのだが、為替レートの変動により価値が大きく変動する。年間で比較すると、ランキング順位への影響が見られるようになっているのだ。
円の為替の平均レートは、2015年は、1ドル/121.04円、1ユーロ/134.29円、1ポンド/184.99円で換算。2016年は、1ドル/108.79円、1ユーロ/120.33円、1ポンド/147.62円。ドルは年央に円高になった、トランプ新大統領の経済政策期待から再び円安になっている。
それなら単純に高額ランキングを集計すればよいというツッコミがはいるかもしれない。しかし、そうなると上位はすべて現代アート系というような面白味のない結果になってしまう。
ちなみに2016年は、単純な金額ベースでは上位4位までがリチャード・プリンスの作品というような極端な結果になるのだ。将来的には、オークション別ではなく、現代アート系、19世紀/20世紀写真、コンテンポラリー写真のようにアーティストのカテゴリーをもっと細かくしたうえでのランキングが必要なのだと感じている。どちらにしても、写真というメディアの評価基準は非常に流動的になっているのだ。
今回も”Photographs”のカテゴリーに出品された作品中心にランキングを集計している。しかし上記のような条件での結果であることを理解した上でコレクションの参考にしてほしい。また2016年は世界中の34の主要アート写真オークションをフォローしたが、それらがすべてではない。もしデータに見落としがあれば、より正確にするためにぜひ指摘して欲しい。
さて最高額落札だが、現代アート系オークションで落札された写真作品を含めると、5月にクリスティーズ・ニューヨークの”Post-War and Contemporary Art”イーブニング・セールで落札されたリチャード・プリンス(1949-)の”Untitled (Cowboy),2000″だった。

エクタクローム・プリントによる121.3 x 195.6 cmサイズの有名なマルボロ・マンを引用したカウボーイ作品で、落札予想価格のほぼ上限の352.5万ドル(約3.8億円)で落札されている。

上位5位までが100万ドル越え、すべてが現代アート系。なんと4位までがリチャード・プリンスで、5位がシンディー・シャーマン。ちなみに2015年の1位はシンディー・シャーマンの “Untitled Film Still #48, 1979″で、296.5万ドルだった。
現代アート・オークション出品作を除外したアート写真の高額落札ベスト10は以下の通りになった。ギュスターヴ・ル・グレイ作品は別格としても、骨董的価値よりも作家性を重視する、現代写真の評価基準が反映された結果といえるだろう。
  1. ギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)
    “Bateaux Quittant le Port du Havre,1856-1857″
    クリスティーズ、NY、2月17日”Modern vision”
    US$965,000 (約1.04億円)
  2. トーマス・シュトゥルート(Thomas Struth)
    “Art Institute of Chicago II, Chicago, 1990”
    フリップス、LDN、11月3日
    £635,000 (約9373万円)
  3. ギルバート&ジョージ(Gilbert & George)
    “Day,1978”
    フリップス、NY、10月5日、6日
    US$670,000 (約7288万円)
  4. ヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)
    “Sie Kommen (Dressed) and Sie Kommen (Naked), 1981”
    (2点セット)
    ササビーズ、NY、4月3日
    US$670,000 (約7288万円)
  5. エドワード・スタイケン(Edward Steichen)
    “In Memoriam, 1901″
    クリスティーズ、NY、2月17日”Modern vision”
    US$665,000 (約7234万円)
  6. ピーター・ベアード(Peter Beard)
    “Heart Attack City, 1972”
    クリスティーズ、LDN、5月20日
    £434,000 (約6406万円)
  7. ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)
    “Flag, 1987”
    クリスティーズ、NY、10月4日、5日
    US$487,500 (約5303万円)
  8. ポール・ストランド(Paul Strand)
    “The Family, Luzzara, Italy, 1953”
    クリスティーズ、NY、4月6日
    US$461,000 (約5015万円)
  9. アンドレアス・グルスキー(Andreas Grusuky)
    “Athens, 1995″(2連作)
    フリップス、NY、4月4日
    US$401,000 (約4362万円)
  10. ドロシア・ラング(Dorothea Lange)
    “Migrant Mother”
    クリスティーズ、NY、2月17日”Modern vision”
    US$389,000 (約4231万円)2016年の平均レート
    1ドル/108.79円、1ポンド/147.62円で換算。

2016年市場を振り返る
アート写真オークション

本年もよろしくお願いします。
まずは、2016年のアート写真市場を振り返ってみよう。
昨年も、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、ケルン、ウィーンの各都市において、Christie’s、Sotheby’s、Phillips、Dreweatts & Bloomsbury、Bonham、Heritage、Swann  Auction Gallerie、WestLicht、Villa Grisebach、Lempertzにより開催された34のオークションをフォローした。いまや写真は現代アートのカテゴリーの一つになった。現代アート・オークションにも写真作品が多数出品されている。私どものはあくまでも従来のアート写真に特化したオークションに限って集計している。したがってアート写真カテゴリーに出品される現代アート系作品は含まれるが、リチャード・プリンスなどの多くの現代アート系写真作品は含まれない。また欧米では小規模の写真オークションが数多く開催されているが、すべては網羅されていない。
もし上記以外で興味ある内容のオークションがある場合はぜひ情報を提供して欲しい。
さて2016年オークションの内容を見てみよう。
出品数は7310点、落札数は4515点と、前年比約13%と11%増加、落札率は63%から61.7%へ微減。地域別では、北米は出品数が約27%増、落札数約26%増、欧州は出品数が横這い、落札数約4%減だった。総売り上げは、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもは円換算して比較しているが、それだと総売り上げは約67.5億円で、前年比8.1%減少している。北米が約4%減、欧州が約14%減。欧州の減少は、ポンドがEU離脱で急落したことが影響していると思われる。
アート写真の市場規模は、リーマンショックで2009年に大きく落ち込んだものの、2014年にかけて回復してきた。しかし2015年後半に再び調整局面を迎え、2016年もほぼ同じ水準にとどまったといえるだろう。
主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2015年比で約15%増加している。高額セクターは比較的順調だった。これは2016年2月クリスティーズ・ニューヨークで行われた、珠玉のヴィンテージ作品多数そろえた”Modern vision”オークションの影響だと思われる。ちなみに2016年の最高落札は上記オークションに出品されたギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)による、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ”Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57″で、落札予想価格上限を大きく上回る96.5万ドル(@115/約1.1億円)だった。

 出品数は、特に北米で低・中価格帯作品が増加したようだ。結果的に1点の落札単価は、北米市場で24%も減少。欧州は約10%減。トータルでは約17%減少している。アート写真市場では、低・中価格帯作品を売りたい人が増加しているが単価は低下している。結果的に、人気作品に需要が集中して、不人気作の流動性低下が続いている。

これは、供給増、需要減という典型的な景気低迷期の構図だといえよう。長年写真を集めてきた中間層がコレクションを手放しているような構造的変化とも解釈できる。その傾向は、北米では1年を通してみられる、欧州では特に年後半に顕在化している。
市場では2015年後半から相場が全体的に弱含んできた。2016年も同様の傾向が続いたことから、2017年では市場の2極化がさらに続くだろう。特に不人気作の最低落札価格の低下が進むと思われる。
米国の株価は秋のオークション・シーズン終了後のトランプ相場でニューヨーク・ダウが2万ドル寸前までラリーしている。しかしこれは本格的な景気回復によるものではない。予想外の選挙結果による、売り手の損失覚悟の買戻しから始まった、将来の政策期待による上昇だ。現時点で。4月のオークション・シーズンに、どのような経済状況になっているかを見通すのは非常に困難だ。
日本のコレクターからみると、トランプ後の円高局面の急激かつ大幅な転換はせっかくの購入意欲を完全にそぐものだった。いま思えば秋のオークションは絶好の買い場だったのだ。しかし、相場、為替ともにベストのタイミングでのコレクション構築は非常に困難だ。どちらかが有利な状況の時には打診買いを行ってもよいと考える。2017年は、自分が狙っている作品の市場動向には注視が必要だろう。

2016年秋ニューヨーク中堅業者オークション 中低価格帯で進む市場の2極化現象

ニューヨークでは、大手3社の秋の定例アート写真セールに続いて、10月下旬にかけて、中堅業者のボンハムス(Bonhams)、ヘリテージ(Heritage Auctions)、スワン(Swann Auction  Galleries)による、中間~低価格帯中心のアート写真、ファウンド・フォト、フォトブックを取り扱うオークションが行われた。出品作品の価格帯を見ると、スワンでは一部に1万ドルを超える中間から5万ドルを超える高額作品が含まれていたが、他の2社はほとんどが1万ドルどころか5000ドル以下の低価格帯だった。
今シーズン好調だったのがスワン。珍しく落札結果のプレスリリースまで発表していた。
総売上は約182万ドル(約1.91億円)、平均落札率は70.88%だった。エドワード・カーティスの”The North American Indian”のコンプリート・セットが144万ドルの高額で落札された2012年秋以来の売上成績ではないだろうか。最高額は、ジュリア・マーガレット・キャメロンの”Portrait of Kate Keown, 1866″で、落札予想価格上限を大きく超える10.6万ドル(約1113万円)だった。その他の注目作品は、ロバート・フランク”Political Rally, Chicago, 1956″ が6万7500ドル(約703万円)、ヨゼフ・カーシュの15点のポートレートは8.75万ドル(約918万円)、マーガレット・バーク・ホワイト貴重なライフ誌掲載作品”At the Time of the Louisville Flood, Kentucky,1936″の6.5万ドル(約682万円)などだった。高価格帯の落札予想価格作品はすべて落札されている。
ヘリテージは、総売上は約69.6万ドル(約7308万円)、平均落札率は48.88%と低迷した。今回から同社は、ヴィンテージ・カメラやレンズのオークションを写真・フォトブックと同時開催している。
最高額はイアン・マクミラン(Iain Macmillan)による、ザ・ビートルズのLPアビーロードのヴァリエーション・カット6点、”The Beatles, Abbey Road (six rare alternate cover photograph outtakes), 1969″。6.25万ドル(656万円)で落札された。70年代後半にプリントされた、アンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1942″は、2万7500ドル(約288万円)だった。
ちなみにカメラ部門に出品された、アンセル・アダムス使用のアルカスイス4×5ビュー カメラ”Ansel Adams’ Arca-Swiss 4×5 View Camera Outfit used from 1964 to 1968 (Total: 2 Items)”は、落札予想価格7万~10万ドルだったが不落札だった。
ボンハムスの売り上げも不振。総売上は約29.8万ドル(約3129万円)、平均落札率43.33%だった。最高額はアンセル・アダムスの名作”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1942″。1963~1973年にプリントされた作品で4万7500ドル(約498万円)だった。1万ドルを超える作品や、ジャンルー・シーフ以外の、ホルスト、ウィリアム・クラインなどのファッション系作品が不落札が目立った。

3社の合計を今春結果と比べると、出品数はほぼ同じで総売上合計は約282万ドル(約2.96億円)と約3.5%の伸びだった。中身はスワンの売り上げが大きく増えて、他の2社が大きく減少している構図だ。しかし平均落札率は61.9%から56.88%に低下。中高価格帯が中心の大手の秋のオークションの平均落札率が約65.16%なので、低価格帯作品市場の不振が反映された結果だったいえるだろう。しかし、適正な最低落札価格がついたアンセル・アダムスなどの巨匠の有名作は確実に落札されている。今回のオークションで不落札だった20世紀写真、ファッション系、現代アート系の作品相場は今後さらに調整されるだろう。

有名写真家でも不人気作の落札率はかなり低くなっており、人気度が普通の作品は落札されても90年代の相場レベルになっている。買うなら高くても人気写真家の人気作を、それ以外はいらない、という傾向が強いようだ。写真家とイメージの、人気・不人気による相場の2極化がいまだに進行中なのだ。しかし、写真家のブランドや有名作にこだわらなければ、かなり魅力的な価格の作品が数多くみられるようになってきた。個人的には買い場探しの時期が近づきつつあると考えている。
需給的には、相場の見通しがあまり良くないことから中価格帯以上の貴重で人気作品の出品が手控えられている中で、換金目的の低価格帯の出品が増えていると考えられる。まさにアート界全体の状況と市場環境の構図は変わらないわけだ。
アート写真市場の関心は11月に行われる大手3業者によるロンドン・パリで開催されるオークションに移っている。英国は為替が急激にポンド安になっており英国外のコレクターには魅力的な状況だ。しかし、10月20日にDreweatts & Bloomsburyロンドンで行われた低価格帯作品中心の”Fine Photographs”オークションは落札率36%とかなり厳しい結果だった。
今秋のロンドンでのオークションはフリップス・ロンドンだけになるが、中高価格帯作品の動向が注目される。
(為替レート 1ドル/105円で換算)

2016年秋のNYアート写真シーズン到来 最新オークション・レビュー(速報!)

まずはニューヨークのアート写真の前に、ロンドンでの現代アート関連の出来事に触れておこう。先週はロンドンの主要アートフェアであるFriezeが開催された。それに合わせて大手3社による現代アート・オークションが行われている。

ロンドン市場は、6月24日のブレグジット以来、様々な不安要素が語られ慎重な見方が多かった。弱めに推移する相場を意識して出品数は絞られ、落札予想価格もかなり控えめに設定されていた。ところがふたを開けてみると、現代アート作品への世界中からの需要は予想以上に堅調だった。3社ともに落札率は非常に高く、価格の大きな下落傾向は見られなかった。
ササビーズ・ロンドンでは、ジャン・ミッシェル・バスキアの”Hannibal,1982″が、約1060万ポンド(@130/約13.78億円)で落札。ゲルハルド・リヒターの”Garten,1982″が、約1020万ポンド(@130/約13.26億円)で落札された。
メディアの報道によると、アートフェアのFriezeも非常に好調な売れ行きだったそうだ。
私はアート作品の好調な売れ行きには為替が大きな影響を与えていたと見ている。対ドルで31年ぶりのポンド安になったことは報道されているとおりだ。最近になったブレグジットに対する悲観的な見方が強まり、為替相場でポンドがさらに急落している。ドル資産を持つ海外コレクターには、2014年と比べて約25%、ユーロも”1ユーロ=1ポンド”が現実味を帯びてきている。対円では1年目と比べて約30%も安くなっているのだ。適正な落札予想価格とポンド安が、優れたアート作品への割安感を生み、結果的に好調な売り上げにつながったのだろう。
さてニューヨークで開催された大手3社のアート写真オークションを分析してみよう。
まずこれまでの経緯の復習から始める。オークションの総売り上げは、リーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含みの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルに大きく落ち込んだ。2016年の春も同様の傾向が続いた。すべての価格帯で低迷が続いているのが現状だ。
さて今秋のニューヨークの結果だが、大手3社の総売り上げは約1135万ドル(約11.91億円)。今春よりは約5%弱の減少だった。1年前と比較すると約12%増加しているが、いまだにリーマンショック直後の2009年春以下のレベルにとどまった。平均落札率は約65.2%と、春の67.8%より低下、昨秋の62.1%よりは多少改善している。まだ約1/3の出品作が不落札という厳しい状況に変化はない。春と秋の定例オークションの落札額の総合計をみるに、2016年は約2326万ドル(約24.42億円)と、2009年以来の低い水準。直近のピークだった2013年と比べると約48%の水準にとどまっている。

クリスティーズは”Photographs”オークションを、10月4日のイーブニング・セールと5日のデイ・セールの2日間にかけておこなった。落札率は昨秋の56%から61%へ改善、しかし春の63%からはやや低下した。総売り上げも約272万ドルから約353万ドル(約3.71億円)に改善した。しかし春の約408万ドルよりは減少した。
イーブニング・セールの目玉だった最高金額落札が見込まれていたエドワード・ウェストンの”Shells, 6S, 1927″。落札予想価格40~60万ドル(約4~6千万円)は不落札。しかし、デイ・セールのロバート・メイプルソープの”Flag, 1987″は、48.75万ドル(約5118万円)で落札された。マン・レイの”Rayograph, 1922″も、29.55万ドル(約3102万円)で落札されている。

イーブニング・セールに出品された現代アート系のトーマス・シュトゥルートの約168X215cmの巨大作品”El Capitan (Yosemite National Park), 1999″は、18.75万ドル(約1968万円)で落札。ロバート・フランクの代表作の一つ”Hoboken, New Jersey, 1955″も 12.5万ドル(約1312万円)で落札。ともに落札予想価格の範囲内だった。
個人的に興味を持って見ていたのがアイデアが重視されたダグ・リカードの”@29.942566, New Orleans, LA (2008),
2009″。約64.8 x 104cmサイズの大作で5~7千ドルの落札予想のところ、6250ドル(約65万円)で落札された。

フィリップスも”Photographs”オークションを、10月5日のイーブニング・セールと6日のデイ・セールの2日間にかけて実施。落札率は昨秋の69%とほぼ同じ68%、ちなみに春も68%だった。総売り上げは約422万ドルから約492万ドル(約5.16億円)に約16%改善。春の約449万ドルよりも増加した。結果的には、フィリップスが今シーズンの最高売り上げを記録。2014年秋以来、連続してトップを独走している。

最高額の落札予想作の、ギルバート&ジョージの”Day,1978″。16点の写真作品からなるサイズ 202.3 x 162 cmの大作は落札予想価格内の67万ドル(約7035万円)で落札された。
注目作のカタログのカヴァー作品となるリチャード・アヴェドンによるバルドーのポートレート”Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959″。こちらも落札予想価格内の25万ドル(約2625万円)で落札。
ダイアン・アーバスの子供が手榴弾を持ったアイコン的な有名作”Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C.,1962″。こちらはDoon Arbusサインの、Neil Selkirkによるプリント作品に関わらず、7~9万ドルの予想を大きく上回る15万ドル(約1575万円)で落札。
個人的には、ハーブ・リッツ以外のクラシック系、コンテンポラリー系のファッション作品に落札が目立ったのが気になった。ホルストやアーヴィング・ペンなどだ。一方で、リチャード・アヴェドンのポートレート作品はすべて落札されていた。これらは、いままで比較的過小評価されていた作品群だ。この分野は全般的にもう少し作品の正当な再評価と価格帯の見直しと修正が必要なのだろう。
ササビーズは”Photographs”オークションを10月7日に開催。落札率は昨秋の60%から66%に改善、しかし春の74%からは低下した。総売り上げは約322万ドルから約289万ドル(約3.04億円)に約10%悪化している。春の約332万ドルよりも悪化。ササビーズにとっては、今秋も厳しい結果だった。
最高額の落札が見込まれていた、アルフレッド・スティーグリッツによるオキーフのポートレート”Georgia ‘Keeffee”は、落札予想範囲の下限以下の25万ドル(約2625万円)で落札。
カメラ・ワーク誌の50号の完全セットも、落札予想範囲内の18.75万ドル(約1968万円)で落札。

カタログ表紙作品” Leap into the Void, 1960/late 1960s”は非常に珍しく、興味深い写真。アーティストのYves KleinとHarry Shunk、Janos Kenderとのコラボ作品。2枚のネガを重ねて空中にクラインが飛び出しているようなヴィジュアルを制作している。1960年にパロディー新聞の”Dimanche-Le Jornal d’un seoul jour”に発表されている。こちらは落札予想価格上限の約2倍を超える6.25万ドル(約656万円)で落札。

好調だったのがアンセル・アダムス。19点が出品され18点が落札。代表作の”MOONRISE, HERNANDEZ, NEW MEXICO、1941″は1969年ごろにプリントされた作品。落札予想価格の上限の20万ドル(約2100万円)で落札された。
今秋の結果を見るに、今の水準からの底割れ懸念はなさそうだ。しかし、年末にかけては米国の金利上昇で世界経済先行きへの不安感が高まる可能性がある。マイナス金利で苦しむ欧州銀行の信用不安、中国経済の失速や不動産バブルの崩壊リスクも囁かれている。不安要素が多く、急激な相場改善は予想しにくいだろう。これからじり貧相場が続く可能性も否定できない。しばらくは資産価値のある作品に需要が集中する相場展開は続きそうな気配だ。
とりあえず、11月3日に為替で揺れる英国で開催されるフリップス・ロンドン”Photographs”オークションには注目したい。
(為替レート 1ドル/105円で換算)

2016年秋のアート写真シーズン到来! ニューヨークのオークション・プレビュー

2016年になってアート市場は全体的に弱含みの展開が続いている。高額落札の可能性やオークション会社の高額保証が見込めなくなりつつある中、委託者が貴重な逸品の出品を見送っている状況だ。また2年前まで活況で、投機対象だった若手アーティストの抽象作品の相場が崩れたことも市場の雰囲気を悪くしている。9月20日にフィリップスのニューヨークで開催された“New Now”でもその傾向に変化はなかった。このセクターの厳しい相場下落は現地マスコミで話題になるほどだ。
アート写真市場だが、以前も述べたように昨年秋以降に本格的な調整局面を迎えている。高額価格帯はもたつき気味の現代アート市場の影響を受け元気がない。中間、低価格帯の低迷は、かつては市場の担い手だった中間層コレクターの購買力が落ちていることが影響している。また彼らは年齢的にもコレクションを整理する側に回ることが多い。それに続くと期待される若い世代のコレクターが育っていないのも気になるところだ。活気のある市場では、様々な種類や価格帯の作品が売買されている。いまそのような市場の多様性がかなり失われつつある印象だ。現状は、資産価値がある有名アーティストの代表作に人気が集中する傾向が一層強まっているといえるだろう。私はいまの状況は一時的な景気の循環により起きているのではなく、もしかしたら構造的な変化によるのではないかと疑っている。

経済状況をみてみよう。為替は、米国の金利引き上げが年内1回程度との予想となり、また日銀の長期金利0パーセント誘導という一種の金融引き締めの影響により動きが出てきた。ここにきて、ドル円為替は1ドル/100円台近くの円高水準になってきた。専門家の中長期的な為替の予想を見るに、ここ数年は円高になるが中期的には円安を見ている人が多い。日銀による国債買い入れの継続や厳しい財政状況のなかでの政府の大規模な財政出動を考慮してのことだ。
また、日本は自然災害が多い国だ。大地震や火山噴火などがいつどこで発生してもおかしくない。少なくとも、外貨建て資産をある程度持つ意味はあるだろう。

私は、相場の地合いと為替動向から、日本のコレクターは長期的な視野に立った作品購入の検討を始めて良い時期にきていると考えている。10月上旬には定例の大手オークションハウスによるニューヨークのアート写真オークションが開催される。相場はもう少し下押しする可能性があるかもしれないが、興味ある写真家作品の市場動向には目配りしておいた方が良いだろう。為替と相場のベストの時期を追いすぎると、なかなか決断できない。あくまでもトレンドの中で買い場を探すスタンスを心がけてほしい。
クリスティーズは”Photographs”オークションを、10月4日のイーブニング・セールと5日のデイ・セールの2日間にかけて行う。初日は27点の入札が予定されている。
最高額での落札予想はエドワード・ウェストンの”Shells, 6S,
1927″、40~60万ドル(約4~6千万円)となっている。続くのはマン・レイの”Rayograph, 1922″で、25~35万ドル(約2.5~3.5千万円)の落札予想となっている。イーブニング・セールのうち、5万ドル以上の高額落札予想作品は8点、残りは1万ドル以上の中間価格帯作品となる。
現代アート系では、トーマス・シュトゥルート、ギルバート&ジョージの作品が含まれている。デイ・セールでは158点が出品される。こちらでは、花、メール・ヌードからリサ・ライオンまでのロバート・メイプルソープ作品21点がまとめて出品される。全体的に20世紀写真が中心で、ファッション系と現代アート系はかなり少ないセレクションになっている印象。中間価格帯までの現代アート系に関しては、ニューヨーク、ロンドンで今週に開催される”First Open Post-War and Contemporary Art” での取り扱いにシフトしていると思われる。
 フイリップスも”Photographs”オークションを、10月5日のイーブニング・セールと6日のデイ・セールの2日間にかけて行う。初日には29点の入札が予定されている。
最高額の予想は、ギルバート&ジョージの”Day,1978″。16点の写真作品からなるサイズ 202.3 x 162 cmの大作で、60~80万ドル(約6~8千万円)の落札予想となっている。続くのは、カタログのカヴァー作品のリチャード・アヴェドンによるバルドーのポートレート”Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27,
1959″。こちらは22~28万ドル(約2.2~2.8千万円)の落札予想。フイリップスは、クリスティーズのイーブニング・セールとは方針がかなり違う。5万ドル以上の高額作品中心の出品で、ほとんどの作品の落札予想価格上限は5万ドル以上になっている。
デイ・セールでは約228点が出品される。ダイアン・アーバス14点、リチャード・アヴェドン10点、、アーヴィング・ペン8点、ピーター・ベアード8点、ビル・ブランド7点、などが予定されている。
こちらも先週に開催された”New Now”オークションで、中間価格帯までの現代アート作品を取り扱っている。しかし他社と比べて現代アート系の出品は多めの印象。またファッション系、ポートレート系には3社中で一番力を入れている。
ササビーズは”Photographs”オークションを10月7日に開催する。20~21世紀の178点が出品。落札予想価格は3千ドル~50万ドル(約30万円~5千万円)。クリスティーズと同様に、ササビーズも中間価格帯までの現代アート作品を今週ニューヨークで開催される”Contemporary Curated”での取り扱いに仕訳しているようだ。したがって”Photographs”の取り扱いは、ほとんどが20世紀の写真作品。アンセル・アダムスが19点、ロバート・フランクが9点、アルフレッド・スティーグリッツが8点、エドワード・ウエストンが7点、ハリー・キャラハンが7点などとなる。最高額予想は、アルフレッド・スティーグリッツによるオキーフのポートレート”Georgia ‘Keeffee”で30~50万ドル(約3~5千万円)の落札予想となっている。本作は1920年代にオキーフの姉妹に購入されて以来、市場に一度も出ていない極めて貴重な作品となる。
アルフレッド・スティーグリッツが編集に携わったカメラ・ワーク誌の50号の完全セットも注目のロット。こちらは15~25万ドル(約1.5~2.5千万円)の落札予想だ。
2014年のMoMAでの回顧展以来、再評価が続いているロバート・ハイネッケン。”Lessons in Posing Subject”はポラロイドSX-70、316点からなる41作品の完全版。こちらは10~20万ドル(約1~2千万円)の落札予想となっている。

全体のオークション出品作品数は昨年同期比で約10%減、今春とはほぼ同数となる。出品作を見てみるに、各社とも重点を置く、出品カテゴリー、作家のセレクション、価格帯に独自の工夫を凝らしてきた印象だ。弱含んでいる市場にどのように活力を注入するかの考え方の違いが反映されていると思われる。
いよいよ来週に迫ってきた秋のニューヨーク・アート写真オークション。今後の市場動向を占う上で非常に重要なイベントになるだろう。

(為替レート 1ドル・100円で換算)

2016年春 欧州アート写真オークション 元気のない低価格帯カテゴリー

アート写真オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心(約7500ユーロ以下)の中堅業者であるVilla Grisebach(ベルリン)、Kunsthaus Lempertz(ケルン)、WestLicht(ヴェストリヒト・ウィーン)によるオークションが開催された。
今までの動向を見るに、大手業者が取り扱う中間、高額の価格帯は比較的堅調、中堅業者が取り扱う1万ドル(約105万円)以下の低価格帯は出品数は増加しているものの低迷しているという構図だった。最近はドル・ユーロ・ポンド・円の為替が大きく変動しているが、とりあえず、アート写真市場では、1万ドル、5000ポンド、7500ユーロ以下を低価格帯としている。
ロンドンで5月20日に行われた低価格帯中心のDreweatts&Bloomsburyの”Smile-Photographs and
Photobooks from 1960s”オークションでは落札率は約35%、総売り上げ10.5万ポンド(約1742万円/@165)とかなり厳しい結果だった。
さて3社の結果だが、昨年同時期と比べると、今回はオークション開催数が4から3に減少していることから、総出品数は約18%減少して651点だった。総売り上げはKunsthaus Lempertzが伸ばしたものの他の2社は減少。全体では約4%微減の約186万ユーロ(約2.195億円)。落札率はVilla Grisebachが減少したが他2社は改善。全体では約56%から61%にわずかだが改善した。
2016年の複数市場における落札率を比較すると、大手業者はニューヨーク約67.8%、ロンドンが約64.4%。一方で中堅はニューヨーク約62%、欧州約61%という結果だ。今回の欧州動向を分析するに、全体的には予想通りの元気がない低価格帯市場が続いているという印象だった。翻って先週に開催された47回目の伝統のある世界最高峰のアート・フェアのアート・バーゼル。メディア・レポートによると、事前の予想に反して100万ドルを超えるような高額作品の売り上げが好調だったという。改めて資産価値の高い有名作品の人気が強く印象付けられた。いまのところアート市場の2極化傾向には変化がないようだ。
ベルリンのVilla Grisebachでは6月1日に”Modern and Contemporary Photographs” を開催。こちらは91%が低価格帯。総売り上げは、約63.4万ユーロ(7481万円)、落札率は58.9%だった。最高額はピーター・ベアードの”Andy Warhol at Home in Montauk, Church Estate, New York, 1972″。落札予想価格の上限の7万ユーロ(約826万円)で落札された。
ケルンのKunsthaus Lempertzでは6月3~4日に、”Photography and Contemporary Art”を開催。こちらも94%が低価格帯。総売り上げは、約57.8万ユーロ(6820万円)、落札率は56.3%だった。最高額はアルベルト・レンガー=パッチェのヴィンテージ・プリント”Natterkopf, 1925″。落札予想価格のほぼ上限の7倍以上もする14.88万ユーロ(1755万円)で落札された。
今回はレンガー=パッチェ作品が、予想落札価格を大きく超える事例が多くみられた。他のヴィンテージ・プリントと比べると過小評価されており割安感があったということだろう。
ウィーンのWestLicht(ヴェストリヒト)では6月12日に”14th Photo Auction” が行われた。こちらも90%が低価格帯。総売り上げは約65万ユーロ(7670万円)、落札率は約68%だった。最高額はバート・スタンによるマリリン・モンローの56点のポートフォリオ“The Last Sitting,LA,1962”。死後55年経過しても彼女の人気に変化はない、落札価格上限の12万ユーロ(1416万円)で落札された。

2016年のいままでの落札率は約64.4%。昨年の全平均の約63.5%とほぼ変わっていない。アート写真市場は、とりあえず二極化傾向が続きながら今のレベルで留まっている印象だ。

(1ユーロ/118円で換算)

2016年春ロンドン・アート写真オークション 深瀬昌久”鴉、襟裳岬”が驚きの高額で落札!

5月ニューヨークで行われた大手による定例モダン&コンテンポラリー・アート・オークション。クリスティーズで、美術館創設構想を持つ株式会社スタートトゥデイ代表取締の前澤友作氏が、ジャン=ミッシェル・バスキアの「Untitled」を約5728万ドル(約62.4億円)で個人所有として落札したことが大きな話題になった。彼はその他にも、リチャード・プリンス、ジェフ・クーンズ、アレクサンダー・カルダー、ブルース・ニューマンなどを落札した。
しかし全体の落札結果は決して楽観できるものではなく、オークション総売り上げは昨年比約50%以上も減少している。これはリーマンショック後の回復期の2010~2011年の売上高となる。中国経済の減速などの世界経済の不透明さと、今季はいままで続いていた高額評価の名品の出品が少なかったことが売り上げ減少につながったと分析されている。
さて同時期に開催された大手3社によるロンドンのアート写真オークションはどうだったのだろうか。アート写真は、モダン&コンテンポラリー・アートよりも価格帯がはるかに安いカテゴリーだ。こちらの市場ではいち早く変調が見られた。
昨秋にニューヨークで行われた大手の定例オークションでは、売上総額がリーマンショック後の2009年レベル近くまで急減。落札率も直近ピークの2013年春の81%から60%台まで悪化たのだ。2016年春のニューヨーク・オークションでは若干の回復したものの、弱めのトレンドに変化はなかった。その後に行われた低価格帯中心のニューヨークでの中堅業者のオークションでも平均落札率が前年の67.7%から61.9%に低下。低価格帯市場の低迷が強く印象づけられた。
今回のロンドンは出品総数が昨年並みの388点、低価格帯はわずか19%程度、中間価格帯が全体の2/3を占めていた。ほぼニューヨークの大手オークションと同じ作品構成だった。結果は落札率64.4%とほぼ昨年と同レベル、しかし総売り上げは約34%増加して533万ポンド(約8.79億円)となった。クリスティーズ、フィリップスが大きく数字を伸ばし、ササビーズは減少した。全体的に落札作品の単価が上昇している。これは予想外に順調な結果だったといえるだろう。
大手3社の中で低調だったのがササビーズ。
落札率59.7%、総売り上げも約142.2万ポンド(約2億3469万円)だった。最高額はアーヴィング・ペンのカタログ・カバー作品の”Mouth (for L’Oreal), New York,1986″。ダイトランスファーによる、約69X67cmサイズの1992年制作の作品。落札予想価格の上限に近い22.1万ポンド(3646万円)だった。
フリップスは、落札率67.5%、総売り上げは約224.8万ポンド(約3億7102万円)。今回のロンドンセールでのトップ売上だった。同社のプレス資料によると今回の売り上げはロンドンにおいての史上最高額とのことだ。従来の複数委託者のセール以外に、ファッション中心の「Ultinate Vogue」、個人コレクションの「Collection of Paul and Toni Arden」、若手・中堅を戦略的に取り扱う「Ultimate」、アーティストのポートレートに特化した「Private Collection,
Europe」、独自編集の「Concept. Composition. Creator.」などを加えた作品提示方法とカタログ編集は見事だった。多様な写真表現を、どのようにグルーピングして顧客に提案するかという、プロの巧みな見立て力が発揮されていた。最高額はピーター・ベアードの約124X248cmの巨大コラージュ作品の”Maureen and a late-night feeder, 2.00 am, Hog Ranch, 1987″。落札予想価格のほぼ上限に近い、14.9万ポンド(約2485万円)だった。
今回の大きなサプライズは日本人写真家、深瀬昌久の”鴉、襟裳岬、1976″だった。カタログの表紙を飾るとともに、4ページにわたる解説が記載されていた注目作。カタログ資料によると、プリントは1986年なのでヴィンテージ・プリントではない。しかし、写真家自身プリント制作の36.5X49.1cmサイズのこのイメージのオリジナル作品は2点しか存在が確認されておらず、残り1点はフィラデルフィア美術館に収蔵されているとのことだ。1987年のツァイト・フォト・サロンの「鴉」出版を記念して行われた個展で売られたものとのこと。日本写真をコレクションしている美術館は喉から手が出るほど欲しい作品だろう。落札価格は驚きの9.375万ポンド(約1546万円)。落札予想価格上限の3倍だった。
クリスティーズは、落札率65.9%、総売り上げは約166万ポンド(約2億7412万円)。最高額はこちらもピーター・ベアードの約128X217cmの巨大コラージュ作品の”Heart Attack City, 1972″。マリリン・モンローのヴィジュアルがメインに使用されているベアードの人生が反映された人気作だ。落札予想価格の上限を超える、43.4万ポンド(約7169万円)で落札。今シーズンの最高値だった。
安定した人気を誇るのが杉本博司の海景シリーズ。118.7 x 147.3 cmサイズ、エディション5の”Baltic Sea, 1996″が落札予想価格の上限を超える、26.6万ポンド(約4397万円)で落札されている。

今回のオークション結果からは、とりあえず高額、中間価格帯の市場が比較的安定している状況が読みとれるだろう。一時期に動きが鈍っていたファッション系が予想外に検討した印象だ。有名ファッション写真家の市場にフレッシュな作品も人気を集めていた。落札予想価格の微調整がうまくいったのだろう。
また比較的好調だった背景には為替レートの動向もあったのではないか。2016年早々に、イギリスのEU脱退というニュースが注目を集め、為替相場が一気にポンド安に進んだ。これが米国などの海外のコレクターに割安感を感じさせた可能性があると考えている。ただし、同時期に開催された低価格帯中心のDreweatts&Bloomsbury”Smile-Photographs and
Photobooks from 1960s”オークションの落札率は30%台に低迷している。6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心のアート写真オークションが開催される。いままでの流れだと、こちらはかなり厳しい結果が予想される。

(為替レート 1ポンド/165円換算)