2016年春のNYアート写真シーズン到来! 市場の2極化がさらに進行する
最新オークション・レビュー

春の訪れとともに、いよいよ定例の2016年ニューヨーク・アート写真シーズンが始まった。4月3~6日にかけて、大手のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスでオークションが開催された。
昨秋から半年の間に経済環境は再び大きく変化した。2016年の年明け以降、原油価格急落、中国経済のバブル崩壊懸念、欧州景気の低迷、米国での金利上昇予想などによる世界経済先行きへの不安感が高まり金融市場が不安定になった。米国の短期金利は昨年12月に約10年ぶりに引き上げられた。しかしその後は、新興国や資源国の経済の先行き不安などから利上げのペースが遅れるという見通しが強くなった。結果的にニューヨーク・ダウ平均株価は、年初に15000ドル台に急落したものの、春には再び17000ドル台に回復。株価はほぼ昨年秋時期のレベルに戻っている。
2015年秋のオークションはかなり厳しい結果だった。オークションの総売り上げは、2013年春から2014年春にかけてリーマンショック後の減少傾向からプラスに転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含みの推移が続き、ついに昨秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルに大きく落ち込んでしまったのだ。特にそれまで好調が続いていた高額価格帯が大きく失速したのが響いた。
今年は春の定例オークション前の2月17~18日に、”MODERN VISIONS (EXEPTIONAL
PHOTOGRAPHS)”という、大注目オークションがクリスティーズ・ニューヨークで開催された。落札結果は予想外に好調で。全279点が出品され落札率は驚異的な90.32%だった。総売り上げはなんと約889万ドル(約10.2億円)を記録した。同オークションのレビューでは、出品作は作品来歴もしっかりとしている極めて貴重なヴィンテージ・プリントが中心だったので、市場全体の趨勢を必ずしも反映されたものではないかもしれないと分析した。残念ながら予想は当たってしまったようで、今春シーズンは昨秋の弱めのトレンドからの大きな変化は見られなかった。大手3社の総売り上げは約1190万ドル(約13.32億円)。昨秋よりは約17%増加したものの、1年前と比較すると約32%減。いまだにリーマンショック直後の2009年春以下のレベルにとどまった。
平均落札率は約67.8%と、昨秋の62.1%より改善している。しかしこれでも約1/3の出品作は不落札ということだ。価格帯別の落札率に大きな違いは見られなかった。この数字から、今後に開催される中堅業者のオークションはかなり苦戦すると予想できるだろう。
ササビーズは4月3日に複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を開催。
落札率73.68%、総売り上げ約332万ドル(約3億7200万円)だった。昨秋よりも出品数を絞ったものの落札率が向上したことでほぼ昨年並みの売り上げを達成した。
最高額はヘルムート・ニュートンの”Sie Kommen (Dressed) and Sie Kommen (Naked), 1981″。ヌードと洋服着用の約106X106cmサイズの巨大2点セット作品。最高落札予想価格の上限25万ドルの2倍を超える67万ドル(約7504万円)で落札。ちなみに来歴によると、同作はまだニュートンが存命だった2001年にクリスティーズ・ロサンゼルスで11.05万ドルで落札されたもの。約15年で名目約6倍の上昇率は決して悪い投資ではなかったといえるだろう。本作に関しては落札予想価格が低すぎたと思われる。
カタログ・カバーに掲載されていた、マン・レイの1点もの”Rayograph, 1924″は、落札予想価格の下限の25万ドル(約2800万円)だった。
最近続いている、アンセル・アダムスの巨大作品の人気は衰えていない。”Yosemite Vallery from Inspiration Point, circa 1940″は182X243cmの巨大作品。かつては銀行のオフィス用に制作されたもの。落札予想価格の上限の2倍近い11.875万ドル(約1330万円)だった。ちなみに来歴によると、同作は1999年にササビーズ・ニューヨークでわずか1.265万ドルで落札されたもの。21世紀になり、現代アートの価値基準でアート写真が再評価された。アンセル・アダムスがアナログ銀塩写真でのサイズの限界に挑戦していたことが認められ、昨今は相場が急上昇しているのだ。
フィリップスは、4月4日に、複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を行った。落札率67.8%、総売り上げ約449万ドル(約5億370万円)だった。高額セクターが不調だったものの、出品作が264点と多かったことからフィリップスが今季の売上高トップを獲得した。高額落札の上位を占めたのは彼らが得意とする現代アート系だった。
最高額はアンドレアス・グルスキーの”Athens, 1995″。落札予想価格上限を超える40.1万万ドル(約4491万円)だった。続いたのはリチャード・プリンスの”Untitaled(Cowboy,1993)”。
落札予想価格の範囲内の約23.3万ドル(約2609万円)だった。
それ以外では、シンディー・シャーマン、アンドレ・セラノ、トーマス・スュトゥルート、トーマス・ルフなどが売り上げ上位を占めた。アート写真系では、リチャード・アヴェドンの”The Beatles, 1967″が、やや期待外れの落札予想価格下限付近の12.5万ドル(約1400万円)で落札された。
クリスティーズは、「PHOTOGRAPHS」を4月6日に開催。落札率は昨秋の56.2%から63.37%へ、総売り上げも約272万ドルから約408万ドル(約4.57億円)に改善した。今回は杉本博司の特集が組まれたことが注目された。”SPOTLIGHT:HIROSHI SUGIMOTO”として、彼の数10年にもわたるキャリアを振り返る15点が出品。結果は良好で、見事に13点が落札されている。カタログ表紙にもなった約149X119cmの大作”Church of the Light, Tadao Ando,1997″は、落札予想価格上限を超える23.3万ドル(約2609万円)で落札。人気の高い海景シリーズの”Caribbean Sea, Jamaica,
1980″は、落札予想価格上限の2倍の6万ドル(約672万円)で落札された。
最高額はポール・ストランドの”The Family, Luzzara, Italy, 1953″。世界中に現存しているこのイメージのプリントはわずか15枚で、ほとんどが美術館所有とい逸品。最高落札予想価格の上限を超える46.1万ドル(約5163万円)で落札された。続くのはダイアン・アーバスの”Boy with a straw hat waiting to march in a pro-war parade,N.Y.C., 1967″。こちらは落札予想価格の下限をやや超える、24.5万ドル(約2744万円)で落札。

1年前のレビューでアーヴィング・ペンの相場のピークアウトの予感に触れた。今シーズン、ペンは全オークションで24点が出品されて16点が落札。落札率はほぼ全体平均の約66%だった。しかし”Cigarette,#37,NY,1972″や”Two Guedras,Morocco,1972″などの人気作が不落札。リザーブ価格がまだ高すぎたのだろう。相場動向から代表作品が出品されなかった中でクリスティーズで”Gisele,  NY,1999″が13.7万ドル(約1534万円)で落札されている。ペン作品の中でも、有名モデルのファッション・イメージには根強い人気があるようだ。

一方で、もう一人の20世紀ファッションの巨匠のヘルムート・ニュートンはどうだったか?全オークションで20点が出品されて13点が落札。落札率はほぼ全体平均と同じ約65%だった。ササビーズで”Sie Kommen (Dressed) and Sie Kommen (Naked), 1981″が今季の最高額を記録するなど、ニュートン相場はしっかりしている。代表作は落札予想価格の上限近辺で落札されている。ただし、不人気、知名度が低いイメージは不落札が多かった。コレクターはイメージ選択にかなり慎重になっているようだ。
今シーズンで気になったのは、同じくファッションの巨匠だったリチャード・アヴェドンの相場動向だ。全オークションで14点が出品されて8点が落札。落札率は全体平均よりも低めの約57%にとどまっている。2点出品された”Nastassja Kinski and the Serpent, Los Angeles, California,1981″がいずれも不落札。その他、人気作でもエディション数が多い作品が不落札か、落札予想価格下限付近の落札にとどまっていた。アヴェドンが2004年に亡くなってから価格は上昇して、ずっと安定傾向だった。そろそろ相場はピークアウトしてきたと思われる。
リーマンショック後の回復過程で、市場では人気作家と不人気作家の2極化がすすんできた。最近ではそれが更に先鋭化して、同じ作家の中にも人気作と不人気作の2極化が見られるようになってきた。今春は、さらに人気作の中でも作品の希少性がより重要視されるようになった。つまり有名作家、希少性、代表作というような、より高い資産価値のある作品に人気が集中しているのだ。アート写真市場の多様性がかなり失われつつあるように感じている。いま世界で起きている資本主義の変貌がアート写真市場にも反映されているのではないだろうか。ぜひ詳しい背景分析を試みたいと考えている。

ライフスタイル系アート・オークション 新規の富裕層顧客は開拓できるのか?

ここ数年、大手オークションハウスは新規客獲得を目指して複数ジャンルにまたがる作品を取り扱うオークションを試みている。通常よりも比較的落札予想価格が低い現代アート、版画、彫刻、写真、家具、陶器などが、キュレーターの価値基準で集められ同じオークションで取引されるのだ。若い世代の消費のスタイルが、高級品のブランド消費から、ライフスタイル消費にシフトしている状況に対応しているのだと思われる。従来は、有名作家の作品を所有するという、ステイタスをアピールするオークションだった。このカテゴリーでは、生活の中に様々なジャンルの良質なコレクタブルを紹介していこうという意図なのだ。
違う見方をすると、大手各社の作品委託競争が非常に激しく、貴重作品を集めるのがますます困難な状況の中で、キュレーション力、エディティング力を駆使して中級クラス作品を中心とした魅力的なオークションを開催したいという思惑もあるだろう。
2016年になり、早くもこのようなライフスタイル系オークションが欧米各地開催されている。ササビーズ・パリでは2月18日に「Now!」が行われた。総売り上げは約108万ユーロ(@130/約1.4億円)、出品213点、落札率は約78%だった。
フィリップス・ニューヨークでは2月29日に「New Now」が開催された。 これはかつての「Under the Influence」。総売り上げは約440万ドル(@115/約5.06億円)、出品295点、落札率は約51%だった。ササビーズ・ロンドンでは3月16日に「Made in Britain」を開催、こちらは総売り上げ211万ポンド(@165/約3.48億円)、出品244点、落札率86%だった。
フィリップスの「New Now」では、高額アート作品中心のイーブニング・セールと、5万ドル以下中心のデイ・セールを行った。前者は従来型の高額品、後者がライフスタイル系のオークションだ。高額品の出品により総落札額は400万ドルを超えたものの、全体の落札率は出品数が多かったことで平均的だった。イーブニング・セールの写真作品で注目された杉本博司による119.4 x 139.7 cmサイズの”Red Sea, 1992 “は、落札予想価格25~35万ドルのところ不落札。勢いが衰えている現代アート市場の状況が反映された結果だったといえるだろう。
この種類のオークションの特徴は、落札予想価格が控えめの、複数ジャンルにまたがる作品が中心なので、あまり目玉作品がないことだ。ちなみに昨年のアート写真だけのオークションの落札率は60%台の前半だ。これと比べると、「Now!」、「Made in Britain」はかなり良好な落札結果だったといえるだろう。ササビーズのプレス・リリースによると「Now!」オークションでは落札の約35%が新規客だったとのことだ。最初のうちは各分野の専門業者やコレクターの参加比率が高いと思われていたので、これはオークションハウスにはかなり勇気づけられる数字だといえるだろう。
今まで開催された大手のオークション内容を見るに、価格帯は抑え気味ではあるが、ターゲットはいままでアートやコレクタブルに関心を持っていなかった富裕層だと思われる。
私はこの企画は、より低価格作品を中間層向けに行った方が効果的だと考えている。ライフスタイル系消費の担い手の中には、高級品消費に飽きた富裕層がいる一方で、収入が不安定かつ減少し、選択的消費を行っている中間層がはるかに多くいるからだ。ぜひ中小業者に積極的に取り組んでほしいのだが、専門家の人材がいないことから彼らにはマルチ分野のオークション開催は難しいかもしれない。大手の場合は、低価格帯の取り扱いはコスト的に難しいだろう。しかしネットなどを活用して行えば新たな市場開拓の可能性があるのではないだろうか。

日本では独立したカテゴリーとしてアート写真オークションは存在しない。国内には独自の市場を持つ写真家がほとんど存在しないことが原因だ。市場を開拓していくには、他のカテゴリーを巻き込んだライフスタイル系のオークションが効果的ではないかと考えている。

SBIアートオークションは、昨年秋に音楽関連商品とアート作品を同時に販売する「ART+MUSIC」オークションを開催している。初めてだったので一般にはあまり浸透しなかったようで、落札率は50%台にとどまった。しかしとても野心的な試みだったと評価したい。ぜひもう一歩踏み込んで、家具、陶器、骨董なども取り込んだライフスタイル系のアート・オークションを企画してほしい。

クリスティーズNY” MODERN VISIONS” オークション・レビュー
衰えない貴重作品への強い需要

2016年の年明け以降、原油価格急落、中国経済のバブル崩壊懸念、欧州景気の低迷、米国での金利上昇予想などにより世界経済先行きへの不安感が高まり金融市場が不安定になっている。日本でも、株価低迷と円高進行で日銀が追加金融緩和策としてゼロ金利を導入している。現在の市場は、原油価格の底打ち観測、日銀や欧州中央銀行の金融緩和策で落ち着きを取り戻しているものの、将来への不安は消え去っていない。
アート市場にもその影響が出始めているようだ。2月にロンドンで行われた現代アートオークションでは、大手の落札結果は極端に悪くなかったものの、昨年と比べて大きく売上高を落としていた。特に話題になったのがササビーズで落札されたパブロ・ピカソの油彩画“Tete de femme,1935”。落札価格は1885万ポンド/2714万ドル(約31億円)だった。実は本作は2013年11月のササビーズ・ニューヨークで約3990万ドルで落札されたもの。今回、委託者は単純計算で約2年あまりで手数料抜きで約1276万ドル(約14.6億円)の売却損を被ったわけだ。
ニューヨーク証券取引所のササビーズ・ホールディングの株価はすでにアート市場の減速を織り込んでいるようだ。2014年の初めにリーマンショック後の高値の50ドル台だった株価は現在20ドル台に低迷している。その他の今まで好調だった富裕層向けの高額商品市場でも、欧米大都市の高級不動産やクラシック・カーの相場も弱含んできたという報道が多く見られるようになった。
さてアート写真市場の動向を見てみよう。4月に予定されていたParis Photo L.A.の、売上低迷と過密なフェア日程によるキャンセルなど、年明けから気になるニュースが飛び込んできた。写真雑誌アパチャーの最新222号の裏表紙には同フェアの全面広告が掲載されている。本当に急な経営判断だったことが想像できる。
市場自体は早くも昨秋のオークションから明らかに勢いがなくなってきていた。低中価格帯とともに高額価格帯でも不落札率が上昇していた。(ただし全体のアート市場では、アート写真は低価格帯になる)私どもの集計では2015年のアート写真オークションは、売り上げベースで前年比約35%減、落札件数ベースで約15.7%減だった。
アート写真市場は、春にニューヨークで開催される定例オークションから本格スタートとなる。しかし今年は以前解説したように、2月17~18日にクリスティーズ・ニューヨークで”MODERN VISIONS (EXEPTIONAL PHOTOGRAPHS)”という、大注目のオークションが開催された。これらは、詐欺事件がらみで政府に押収されたフィリップ・リヴキン・コレクションのオークション。コレクションの中心は、20世紀初頭のフォトセセッション期の重要作家、エドワード・スタイケン、アルフレッド・スティーグリッツ、アルヴィン・ラングダン・コバーン、フランク・ユージン、ガートルード・ケーゼビアや、モダニスト写真の巨匠エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなど。
また20世紀の欧州写真家、ウジェーヌ・アジェ、コンスタンティン・ブランクーシ、マン・レイ、アンリ・カルチェ=ブレッソン、フランチシェク・ドルチコル、ヤロミール・フンケ、ヨゼフ・スデク、ビル・ブラントなど。日本人では荒木経惟などが含まれる。
オークションの性格から落札予想価格はかなり抑え気味の設定で、低価格作品は最低落札価格なしだった。
落札結果は久しぶりの非常に好調なものだった。イーブニング・セールとデイ・セールにわかれて279点が入札され、252点が落札。落札率は驚異的な90.32%。トータル売り上げは、最近では珍しい落札予想価格上限合計額の約800万ドル(約9.2億円)を超え、約889万ドル(約10.2億円)を記録した。
イーブニング・セールでの出品数が多かったエドワード・ウェストンは、適正に最低落札価格が設定されていたようで、ほとんどが落札予想価格近辺で落札されていた。
しかし、その他作品では落札予想価格上限を超える作品が非常に多かった。特に5点出品されたコンスタンティン・ブランクーシは、ほとんどが落札予想価格上限の約2~7倍の高値で落札。貴重なドロシア・ラング、ポール・ストランド、アルフレッド・スティーグリッツなどのヴィンテージ作品も高額落札が相次いだ。
政府の差し押さえ作品ではあるものの、控えめな最低落札価格で、来歴はしっかりしたものばかりだったことからコレクターの関心を引きつけたのだろう。
注目作だったカタログの裏表紙掲載のギュスターヴ・ル・グレイ(Gustav Le Gray)の、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ”Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57″が最高値を付けた。
今回の落札予想価格は、30~50万ドル(@115/約3450~5750万円)と控えめだったが、96.5万ドル(約1.1億円)で落札。もともと本品は2011年6月フランス・ヴァンドームのルイラック(Rouillac)オークションでの88.8万ユーロ(1ユーロ/111円で約9856万円)で落札された作品。結果的に当初の購入価格が意識された落札結果となった。
評価が一番高かったはエドワード・スタイケンによるプラチナ・プリントの”In Memoriam, 1901″。同じ作品はメトロポリタン美術館、オルセー美術館に収蔵されているという逸品。落札予想価格は、40~60万ドル(@115/約4600~6900万円)のところ66.5万ドル(約7647万円)で落札された。
昨年秋のニューヨーク・アート写真オークションにおける大手3社の売上合計は約1000万ドル(約11.5億円)だった。それを考えると今回の約889万ドル(約10.2億円)は極めて好調な売り上げと評価できるだろう。
しかし、今回の出品作はいまや市場で極めて貴重となっているヴィンテージ・プリントが中心だった。作品来歴も非常にしっかりとしていた。よく高級車フェラーリの売上から自動車業界全体の売り上げ動向を判断してはいけないといわれる。今回のオークション結果はそれに当たるのではないだろうか。
アート写真関係者の関心は、来月にかけて開催されるニューヨーク市場の定例オークションの動向に移っている。

マネー・ローンダリング疑惑のコレクション売却”MODERN VISIONS “オークション がクリスティーズNYで開催

アート写真シーズンは通常3~4月にニューヨーク開催される定例オークションから本格スタートとなる。今年は閑散期の2月17~18日にクリスティーズ・ニューヨークで “MODERN VISIONS (EXEPTIONAL
PHOTOGRAPHS)”という、大注目のオークションが開催される。カタログは通常より一回り大きなサイズで分厚い。イーブニング・セールとデイ・セールに分かれて309点が入札される。トータルの落札予想価格上限は約800万ドル(約9.2億円)となる。

いま貴重なヴィンテージ作品が市場から消えつつあるといわれている。その中でカタログを見るに、19~20世紀の写真史の教科書のような見事な作品がキュレーションされている。 これは単一コレクションからの売却とのこと。
通常はこれだけ大規模な場合、春秋シーズンのメイン・オークションとして取り扱われる。またカタログに価値を高めるために、コレクションの成り立ち、市場の評価などが事細かに記されている。しかしなぜか今回はそれらの情報がどこにもない。さらに調べてみると興味深い事実がわかってきた。
なんと売主はアメリカ政府。オークションに至った経緯はやや複雑だ。2013年、ニュージャージー・ニュアーク米連邦地検は市場価値約1500万ドル(約17.25億円)と見込まれる写真コレクション約2000点を没収。 これらはバイオディーゼル燃料詐欺事件で有罪となったヒューストンのグリーン・ディーゼル社オーナーだったフィリップ・リヴキンのコレクションだったとのこと。これら作品群は詐欺により得られた資金で、マネー・ローンダリングつまり資金洗浄目的で購入されたと伝えられている。今回はクリスティーズが政府から委託されて売却するオークションで、残りの作品は主にオンライン・オークションでテーマごとに編集されて約1年をかけて売却される予定らしい。
コレクションの中心は、20世紀初頭にニューヨークで展開されたピクトリアリズム写真運動として知られるフォトセセッション期の重要作家、エドワード・スタイケン、アルフレッド・スティーグリッツ、アルヴィン・ラングダン・コバーン、フランク・ユージン、ガートルード・ケーゼビアやモダニスト写真の巨匠エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなど。また20世紀の欧州写真家、ウジェーヌ・アジェ、コンスタンティン・ブランクーシ、マン・レイ、アンリ・カルチェ=ブレッソン、フランチシェク・ドルチコル、ヤロミール・フンケ、ヨゼフ・スデク、ビル・ブラントなど。日本人では荒木経惟などが含まれる。注目作はギュスターヴ・ル・グレイ(Gustav Le Gray)の”Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon
III)、1856-57″。港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ。2011年6月フランス・ヴァンドームのルイラック(Rouillac)オークションで88.8万ユーロで落札された作品。2011年の平均のユーロ/円レートは1ユーロ111円だったので円貨で約9856万円となる。 今回の落札予想価格は、30~50万ドル(約3450~5750万円)とやや控えめな評価になっている。

リヴキンはエドワード・ウェストンのコレクターとしても知られており、今回もウェストン作品が26点出品される。最注目作はカタログ表紙を飾る”Shell, 1927″。これは1930年ごろにプリントされた貴重作品。落札予想価格は、25~35万ドル(約2875~4025万円)。
一番評価が高いのはエドワード・スタイケンの”In Memoriam,
1901/1904-1905″。落札予想価格は、40~60万ドル(約4600~6900万円)。
カタログの作品来歴を見ると、多くの作品は2010~2011年に、世界中のオークションやギャラリーを通して購入されている。ギャラリー名は、Robert Miller、Edwynn Houk Gallery、Andrew Smith Gallery、Weston Gallery、Zabriskie Gallery、Lee Gallery、Joel Soroko Gallery、Paul Hertzman Vintage Photographs、Bruce Silverstein Galleryなど、アート写真界の錚々たるところからだ。

同時期はちょうどリーマン・ショックによる大きな落ち込みから、オークション売り上げが急激に回復してきたころだ。もし本当に資金洗浄の意味で詐欺資金が使われたのだとすれば、市場の作品評価よりも高く買われた可能性も否定できないだろう。

作品の市場価値はオークションでの落札実績を参考に導き出される。フィリップ・リヴキンがコレクションしていた作品の市場価格は、彼の購入以降に過大評価されてきた可能性が高いといえるだろう。今回のクリスティーズの落札予想価格がやや低めに設定されている印象があるのは、昨年来の相場低迷以外にも、このような事情への配慮があると思われる。
上記のギュスターヴ・ル・グレイ作品の他に、アンドレ・ケルテスの”Distortion No. 6, Paris、1933″は、4万ドル購入されたものの、 2~3万ドル(約230~345万円)、ウジェーヌ・アジェ”Notre Dame、1923″は、ギャラリーから13万ドルで購入したものが、6~8万ドル(約690~920万円)の落札予想価格になっている。

ちなみに2015年の世界中でのオークション総売り上げは72億円程度。約6100点余りの出品数で約3800点が落札されている。アートを取り巻く経済環境が悪化している中での年間に約2000点、1500万ドル(約17.25億円)のセールは市場の需給関係に多少なりとも影響を及ぼすと思われる。

今年は、金融市場の変調とともに、売上低迷によるParis Photo L.A.のキャンセルなど、気になるニュースが出てきている。これから本格的に始まる春以降の市場動向を占う意味でも”MODERN VISIONS (EXEPTIONAL PHOTOGRAPHS)”は要注目のオークションだ。
(為替レート 1ドル/115円で換算)

2015年アート写真オークション
高額落札ベスト10

最近はオークションでの高額落札のランキングの集計が複雑化してきた。写真と広く定義すると現代アート系・オークションに出品される写真表現による作品が含まれてくる。アート写真と比べて、1点ものの絵画などを含む現代アート市場は値段スケールが格段に高いのだ。100万ドル(約1.15億円)を超えるケースは珍しくない。ちなみに2015年にアート写真でこの大台を超えた作品はない。100年前の有名写真家の貴重なヴィンテージ・プリントよりも、エディションがついた現存作家の巨大デジタル写真の方がはるかに高額で落札されるのは珍しくない。それゆえ、ここではオークションのなかの、アート写真関連、つまり”Photographs”と区分されるからカテゴリーから高額落札を選んでみた。
しかし、最近はさらに状況を複雑化しているオークションも散見される。アート写真系でも一部の落札予想価格が高額な作品が現代アート系オークションに出品されることがある。(ダイアン・アーバスやウィリアム・エグルストンなど。)それらも今回の集計に含めることにした。

このような紛らわしい様々な解釈があるのは、現在のオークション・カテゴリーが過渡期を迎えていることの表れだろう。実際に、最近のオークションには、複数ジャンルにまたがるものが急増している。クリスティーズ・パリの「アイコンズ&スタイルス」、ササビーズ・パリの「Now!」、Bloomsburyロンドンの「Mixed Media: 20th Century Art」、ササビーズ・ロンドンの「Made in Britain」、ササビーズ・ニューヨークの「Contemporary Living」などだ。いずれも”Contemporary Art”、”Photographs”、”Prints”、”20th Century Design”のカテゴリーなどの、現代アート、写真、版画、家具、オブジェなどが企画趣旨によって同時に出品されている。以前も触れたが、いま大手オークションハウスは新しいカテゴリー分けの実験を世界各地で行っているのだ。

さて高額落札だが、現代アート系オークションで落札された写真作品を含めると、
1位 シンディー・シャーマン
“Untitled Film Still #48, 1979”
US$2,965,000(約3.4億円)
2位 トーマス・シュトルート
“Thomas Struth, Pantheon, Rome, 1990”
US$1,810,000(約2.08億円)
3位 アンドレアス・グルスキー
“Shanghai, 2000”
£1,109,000(約1.94億円)となる。

この3人と、現代アート系アーティストのリチャード・プリンス、ギルバート&ジョージ、ゲルハルト・リヒター、ジョン・バルデッサリを除外。また、リー・フリードランダーの38点の”The Little Screens Series,1961-70″、ニコラス・ニクソンの40点の”The Brown Sisters  Series,1975-2014″  はポートフォリオなので除外している。

以上の条件で集計したアート写真の高額落札ベスト10は以下の通りになった。

1.ヘルムート・ニュートン
“Walking Women, Paris,1981″(3点組み作品)
US$905,000(約1.04億円)

2.ダイアン・アーバス
“Child with a toy hand grenade in Central Park,N.Y.C.,1962”
US$785,000(約9027万円)
3.ロバート・メープルソープ
“Man in Polyester Suit,1980”
US$478,000(約5497万円)
4.アルフレッド・スティーグリッツ
“From the Black-Window,-291″,1915”
US$473,000(約5439万円)
5.ロバート・メープルソープ
“Man in Polyester Suit,1980”
£361,500(約4699万円)
6.ダイアン・アーバス
“A Family on their Lawn one Sunday in Westchester, NY, 1968”
US$365,000(4197万円)
7.リチャード・アヴェドン
“Dovima with Elephants,1955”
US$341,000(約3921万円)
8.マン・レイ
“Reclining Nude with Satin Sheet,1935”
US$329,000(約3783万円)
9.ウィリアム・エグルストン
“Memphis,1969-1970”
US$305,000(約3507万円)
10.ハーブ・リッツ
“Versace Dress, Back View, El Mirage,1990″
£158,500(約2773万円)(1ドル/115円、1ユーロ/130円、1ポンド/175円で換算)

しかし、写真作品といっても巨大サイズの現代アート的な要素を持つ作品が特にファッション系で増えている。いわゆるラグジュアリー商品化したといわれている種類のアート写真だ。1位のフィリップス・ニューヨークのイーブニング・セールでのメイン作品だったヘルムート・ニュートンの”Walking Women, Paris, 1981” 。これは、171.5 x 149.5 cmサイズの巨大な銀塩写真の3枚組みセット。

また7位のリチャード・アヴェドン”Dovima with Elephants,1955″は、125.8X101.6cm、 10位のハーブ・リッツ”Versace Dress, Back View, El Mirage, 1990″も、134.5X107cmの超巨大作品なのだ。
かつては、銀塩写真の巨大作品は、アナログ写真の引き伸ばしには限界があることからアート写真コレクターにはあまり好まれなかった。これらの巨大作品の高額落札は、明らかに違う価値観を持つ現代アート系コレクターが購入しているのだろう。アート写真としては高額だが、現代アートの相場からすると魅力的な値段に見えるのではないか。

ロバート・フランク “The Americans”オークション歴史的名作の人気に衰えの気配なし!

1955年、スイス出身の写真家ロバート・フランクはグッゲンハイム奨学金を得て全米を縦断する写真撮影の旅を敢行した。彼は約2年の旅をとおして数千点にもおよぶ写真を撮影。その中から綿密に編集を行い83点を選びだしフォトブックを制作する。まず1958年にフランスで”Les Americins”が、1959年に米国版”The Americans”が刊行される。
彼は全米を旅することで、もはや道の先にはアメリカン・ドリームが存在しないことを暴き出す。しかし、幻想は持たないものの多様な面をもつ米国の現状をポジティブに肯定し、そこで生きる支えを家族愛に求めている。彼の当時に追求したテーマは現在にも通じるものがあり、今では最も影響力のあるフォトブックの1冊といわれている。

このロバート・フランク”The Americans”に収録されているオリジナル・プリント83点の美術館による完全コレクションは全世界に4セットしか現存しないとのことだ。今回ササビーズ・ニューヨークで12月17日に開催された”Robert Frank:The Americans(The Ruth and Jake Bloom Collection)”は、収録作のうち77点がオークションにかけられるという、フランクのコレクターには極めて重要なイベントだった。

この機会に世界中の美術館やコレクションが、できるだけ多くの未保有作品の落札を試みたであろう。結果は、ササビーズのクリストファー・マホニー(Christopher Mahoney)の以下のコメントに集約されている。彼は”今回の強い落札結果は、ロバート・フランクの代表作に対する市場の長きにわたるコレクション熱を示したものだ。オークションを通して入札希望者同士が激しく競り合っていた”と語っている。
出品77点のうち69点が落札、落札率約89.6%と非常に良好な結果だった。総売り上げは約373万ドル(約4億6742万円)で、ほぼ事前の落札予想価格上限に近いものだった。オークションは、ちょうど米国の景気回復に伴う金利正常化を意図した利上げが行われたばかりのタイミングで行われた。利上げ後の金融市場の冷静な動きもコレクターを安心させて入札に参加できた面もあるだろう。
内容を見てみると、落札予想価格上限を超えたのが35、予想範囲内が30、下限以下が4だった。5万ドル越えの高額価格帯の不落札はわずか2点だった。最高額は写真集”The Americans”の最初の収録イメージの”Hoboken(Parade),1955″と、オリジナル米国版のダストジャケットに使用されている”New Orleans(Trollery),1956″だった。ともに237,500ドル(約2968万円)で落札されている。予想を大きく超える高額落札も散見された。黒人女性が白人の赤ん坊を抱きかかえている”Charleston,S.C,1955″は、何と落札予想価格上限の2倍の162,500ドル(約2031万円)で落札。炭鉱町として知られるモンタナ州ビュートのホテルから撮影された、テーマ的には米国のダークサイドに関わる”Blutte, Montana(View from Hotel
Window),1965″も、落札予想価格上限の10万ドルを大きく超える175,000ドル(約2187万円)で落札。”Public Park-An Arbor, Michigan,1955″も落札予想価格上限の2倍を超える68,750ドル(約859万円)で落札。これらは、”The Americans”のテーマ性が色濃く反映されていたが、イメージ的に不人気だった作品が評価されたという印象だ。
“The Americans”50周年版刊行以来、美術館での展覧会や関連するカタログ・フォトブックの発売で市場でのロバート・フランク作品人気は大いに盛り上がった。オークション結果は、その人気はいまだに続いていることを示しているといえるだろう。しかしすでに高価な代表作”New Orleans(Trollery),1956″が予想落札価格範囲内での落札にとどまったことから、相場にいまの取引レンジを上に抜けるほどの勢いはないと思われる。今回のオークションのレベルが今後のフランク作品の指標となるだろう。

アート写真市場の最前線 現代アート/欧州のオークション結果

2015年秋のニューヨーク・アート写真オークションは、リーマンショック後の2009年春以来の極めて低い売上だった。今まで順調だった高額価格帯が大きく失速し、すべての価格帯で勢いがなかった。
その後、11月上旬にはニューヨークで現代アートのオークションが開催された。こちらは写真メディアでの表現だが価格は現代アートの範疇となる。ほとんどが5万ドル超えの高額価格帯なのだが、富裕層コレクションや美術館を相手とする100万ドル(約1.25億円)超えの作品も出品される。この分野は、どの作品までを写真作品に含めるかでやや判断がわかれる。将来的にカテゴリーの再編が行われる可能性もあると考えられている。写真作品だが、狭いアート写真分野の動向というよりも、現代アート系分野の動向が反映されているといえるだろう。コレクターの顔ぶれも、アート写真分野とはかなり違っている。
今シーズンは、ササビーズ、クリスティーズ、フィリップスの大手3社で約120点の写真関連作品が出品された。全体の落札率は約65%と、まさにアート写真分野の平均落札率とほぼ同じレベルとなった。価格では予想価格上限を大きく超える落札はなく、非常に平均的な結果だったといえよう。
高額落札を見てみよう。最高額はササビーズのゲルハルド・リヒターが音楽家ジョン・ケージに触発されて制作した16点からなる”Cage
Grid (Complete Set), 2011″。これらはすべてジグリー・プリントで制作されている。落札予定価格上限を大きく超えて、145万ドル(約1億8125万円)で落札された。続いたのは、これもササビーズでのアンドレアス・グルスキー作品の”Pyongyang  IV, 2007″。落札予想価格下限に近い、139万ドル(約1億7375万円)で落札。クリスティーズでは、英国人のアーティスト・デュオのギルバート&ジョージの”Dead Boards No. 5,1976″が96.5万ドル(約1億2062万円)で落札されている。
ちなみに今シーズンの現代アートオークション全体での最高額は、ササビーズのイーブニング・セールに出品されたサイ・トゥオンブリー
(1928?2011)の”UNTITLED (NEW YORK CITY),1968″で、7053万ドル(約88億1625万円)で落札された。

11月、アート写真のオークションは舞台を欧州に移して行われた。欧州中央銀行がマイナス金利を導入するなど、この地の景気状況は米国よりもはるかに悪い。予想通り、ニューヨークでの弱気トレンドがそのまま続いた。

フィリップス・ロンドンでの”Photographs”オークションは全体の落札率自体は73%と良好だったものの高額セクターの不落札率が非常に高い47%という内容だった。
クリスティーズ・パリは優れた19世紀のJoseph-Philibert Girault de Prangey のダゲレオタイプが41点出品された。同作の落札は順調だったもののその他の作品は平均的な結果だったことから、全体では75%の落札率だった。希少性の高い作品に対する需要が根強いことが改めて印象付けられた。また話題性が高いロバート・メイプルソープの”Man in Polyester Suit, 1980″は、36.15万ユーロ(約4699万円)で落札された。
同じくクリスティーズで行われたShalom Shpilmanコレクションの単独セールは落札率約62%だった。
ササビーズ・パリでは”Back to Black”が開催された。こちらは、まさに今秋のオークションの傾向を見事に反映した結果で、落札率は約54%にとどまった。高額落札が期待されていたダイアン・アーバスの有名作 “Identical Twins, Cathleen and Colleen, Roselle, New Jersey, 1967″は不落札だった。

その後は、11月13日にパリでテロ事件が相次いだことで、アート・コレクションどころの雰囲気ではなくなってしまった。パリフォトが途中でキャンセルされ、週末に予定されていたオークションは延期されて実施された。それらは平均的な作品のオークションであり、もともとの地合いの悪さも相まって非常に厳しい結果となった。
11月に、ロンドン、パリ、ベルリン、ケルン、ウィーンで開催された8オークションでは、1382点の写真関連作品が出品され、平均の落札率は約59%だった。2015年の年間平均落札率約63%を下回る、厳しい欧州の景気状況やテロの影響が反映された結果だった。

実はこれで今年のアート写真市場は終わりではない。12月17日にササビーズ・ニューヨークで、ロバート・フランクの歴史的なフォトブック “The Americans”収録83点のうち77点を集中的に取り扱う”Robert Frank:The Americans(The Ruth and Jake Bloom
Collection)”が開催される。ロバート・フランク作品は、近年の美術館での回顧展開催でアート性が再評価され、市場価格が上昇した代表例だ。今回の出品作のなかには最近不調気味の高額価格帯のものも含まれる。12月はアートのオフシーズンなのだが、市場がこのオークションをどのように評価し消化するか非常に楽しみだ。市場トレンドが悪化しているだけに、入札参加者が従来のアート写真の範疇のコレクターだけだとややきついのではないかと感じる。現代アート系のコレクターが現代アメリカ写真に興味を持つかがキーポイントになるだろう。

(為替レート 1ドル/125円、1ユーロ/130円で換算)

2015年秋のNYアート写真シーズンが到来! 最新オークション・レビュー

夏休みが終わり、いよいよ2015年秋のニューヨーク・アート写真シーズンが始まった。

10月5~8日にかけて大手のクリスティーズ、ササビーズ、フィリップスがオークションを開催した。実は春のオークション以降、市場の外部環境に大きな変化があった。8月になってから、中国経済の想定以上の減速と6月中旬から続く上海総合指数の急落が、世界的な株安を引き起こしたのだ。その後も中国の実体経済の悪化を示す統計の発表が続き、世界経済へのリスクが大きく意識されるようになった。経済の先行きに対する不透明さから、広く予想されていた9月の米国の利上げも先延ばしとなった。10月になり、株式市場は落ち着きを取り戻したものの、景気の先行きに対する不安は大きくなっている。世界経済を引っ張ると期待されていた中国経済の実態は悪く、中央銀行による金融緩和だけがたよりという極めて不安定な状況であることが明らかになったのだ。先般、国際通貨基金(IMF)の国際通貨金融委員会が「世界経済のリスクが増大した」との共同声明を採択したが、まさにその通りの状況だろう。

そのような環境下で行われたニューヨークのアート写真オークションだが、実はその前から嫌な兆候もあった。アートで投機を行う裕福なコレクターたちの投資対象になっている、ヴィジュアル重視、内容が希薄な、マンネリ化した抽象作品は、「ゾンビ・フォーマリズム」系として知られ、2010年代に市場での存在感が大きくなっていた。9月にニューヨークで開催された複数の現代アートオークションで、このカテゴリーの入札不調が伝えられていた。アート市場に流入していた資金が減少している兆候だ。

さて2015年秋の写真オークションだが、ふたを開けてみると残念ながら嫌な予感は的中した。1万ドル(約120万円)以下の、低価格帯の動きが鈍いことは以前から指摘していた。この価格分野は前回とほぼ同様の入札結果だった。ところが今秋は、今まで好調を維持してきた5万ドル(約600万円)以上の高額価格帯が大きく苦戦した。落札点数は2014年秋とほぼ同じで、平均落札率は60%代前半なのだが、総売り上げが大きく減少したのだ。3社の総売り上げは約1017万ドル(約12.2億円)と、今春より約43%減、昨秋より約45%減だった。これはリーマンショック後の2009年春以来の結果で、ネットバブル崩壊後に低迷していた2000年代前半期の売上だ。

過去5年の平均売り上げの移動平均を比較すると、2013年春から2014年春にリーマンショック後の売り上げ減少傾向からプラスに転じたものの、2014年秋以降は弱含んで推移して、ついに今秋に下離れしてしまった。低価格帯~中間価格帯作品は、いままでの低調な動きから相場が適性レベルに修正されてきた。しかし、貴重作品や有名作品を含む高額セクターは、現代アート同様に資産性が高いという理由から比較的強めの相場が続いていた。今秋の入札結果により、今後は適性相場の修正が行われることになるだろう。高額セクター市場は金融緩和による過剰な流動性により支えられていたという指摘もある。世界的な需要不足を埋め合わせていた、金融緩和による資産上昇という構図に変化が訪れつつあるのだろうか?これから欧米で開催される現代アートと、欧州のアート写真のオークションの動向に注目したい。

今回クリスティーズは、現代アートなどと同様に、高額作品による「PHOTOGRAPHS」イーブニング・セールスと中間価格帯中心のデイ・セールスを10月5日~6日に開催した。今春のフィリップスを参考にしたようだ。

トータルの落札率は56.2%、総売り上げも約272万ドル(約3.26億円)にとどまった。特に高額セクターが極端に不振だった。高額落札が予想された上位10点のうち、なんと、アンセル・アダムス、アーヴィング・ペン、マン・レイ、ウィリアム・エグルストン、エドワード・スタイケンなど9点が売れなかった。最高額は、カール・ストラスのプラチナ・プリント”Man’s Construction,1912″で、16.1万ドル(約1932万円)で落札された。ピーター・リンドバークの120X176.5cmの巨大作品”Helena Cristensen, Debbie Lee carrington, Vogue Italy, ET Mirage,1999″が11.8万ドル(約1425万円)だった。

ササビーズは10月7日に複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を開催。落札率59.64%、総売り上げ約328万ドル(約3億9364万円)だった。こちらも同様に高額セクターの不落札率が高かった。

最高額はカタログに2ページにわたる解説が掲載されていた注目のロバート・メープルソープ作品”Man in Polyester Suit, 1980″で、47.8万ドル(約5736万円)。本作が今秋のアート写真オークションでの最高額だった。 ちなみに、2015年春の最高額は、フイリップスで落札された、ヘルムート・ニュートンの大判3枚セット”Walking Women, Paris, 1981″。90.5万ドル(約1億860万円)で落札されている。カタログ・カヴァーに掲載されていた、ダイアン・アーバスの注目作”National Junior Interstate Dance Champions of 1963, Yonkers, NY, 1963″は不落札。続くのは、ティナ・モドッティの”Campesions Reading El Machete,1929″。カタログに現物サイズの写真画像が折込ページで紹介されている注目作。落札予想価格内の22.5万ドル(約2700万円)で落札されている。
アルフレッド・スティーグリッツの”Georgia O’Keefe, 1918″は、21.25万ドル(約2550万円)で落札されている。

フィリップスは、10月8日に単独コレクションの「Innovators
of Photography: A Private East Coast Collection」と、複数委託者による「PHOTOGRAPHS」を行った。53点が出品された前者のオークションは比較的良好な結果だった。落札率77.36%、総売り上げも約166万ドル(約1億9965万円)。最高額はダイアン・アーバスの”A
Family on their Lawn one Sunday in Westchester, NY, 1968″。最高落札予想価格の上限をやや超える、36.5万ドル(約4380万円)で落札。続くのは、ウィリアム・エグルストンの”Memphis, 1969-1970″。30.5万ドル(約3660万円)で落札されている。

一方で、複数委託者による「PHOTOGRAPHS」は、まさにクリスティーズとササビーズと同じ展開となった。全体の落札率は67.5%なのだが、高額セクターの落札率は47.8%と低迷したのだ。総売り上げは約256万ドル(約3億780万円)にとどまった。しかし、フィリップスは売上高合計では大手3社でトップだった。
最高額は、ロバート・フランクの代表作”Trolley, New Orleans, 1955″。14.9万ドル(約1788万円)で落札されている。次はエルガー・エッサー(Elger Esser)の約139X198cmの巨大カラー作品”Dout, Frankreich,1999″。最高落札予想価格の上限の2倍近い、13.7万ドル(約1644万円)で落札。リチャード・アヴェドンの約140x113cm作品の”Bubba Morrison, oil field worker, Albany, Texas, 1979″は、11.8万ドル(約1425万円)をつけている。ただし、高額落札が期待されていた、アヴェドンのビートルズ・メンバー4人のポートレート”The Beatles, London, August 11, 1967″は残念ながら不落札だった。ちなみに、10月15日に開催された低価格帯作品が90%を占めるスワン・ギャラリーでの「Icons & Images: Fine & Vernacular Photographs」オークションは落札率約68%と平均的な結果に終わっている。高額セクターでは、ここでもアーヴィング・ペンの最高落札予想価格が10万~15万ドル(約1200~1800万円)の”Pablo Picasso at La Californie, Cannes,1957/1962″が不落札。まさに今秋の高額セクターの不調傾向を象徴していた。
(為替レート 1ドル 120円で換算)

21世紀の新しいアート・カテゴリーの模索 オークション・ハウスの挑戦は続く

アートネット(Artnet)が7月22日発表したプレスリリースによると、2015年1~6月までの全世界にセカンダリー市場のアート作品の売り上げは、昨年比で6%減少、出品数も約17%減少したという。落札された作品数は141,200点、平均落札率は65%と微減。総売り上げは86億ドル(約1兆125億円)。地域別の数字をみると、見事にいまの世界経済の状況と重なっている。欧州と中国の売り上げが減少している。特に景気が悪い中国は売り上げが約30%ダウン。一方で利上げが囁かれている米国は19%も増加しているのだ。

アート写真はどうだっただろうか?。最近は、現代アートの一部として写真が取り扱われ、またレギュラー時期のオークション以外にも単発で行われることも多い。厳密なアート写真だけの統計は非常にとり難くなっている。 ここでは単純化して大手3社のニューヨーク・オークションの結果を比較してみよう。

2015年前期売上は、昨年同期と比べて約20%減少して約1771万ドル(約21億円)。昨年後期と比べると約3.8%減。平均落札率は68.6%と微減だった。ほぼ全体のアート市場のトレンドと重なった数字だったといえるだろう。

さて6月下旬から7月は、各主要カテゴリーのレギュラー・オークションが終了した時期。 例年は夏休み気分が強くアート業界の大きな動きはない。しかし、今年はクリスティーズ・パリの「アイコンズ&スタイル」、ササビーズ・パリの「Now!」、Bloomsburyロンドンの「Mixed Media: 20th Century Art」など、興味深いオークションが開催された。いずれも、複数カテゴリーのアートやコレクタブルが混在するという、オークションハウスの実験的な試みの印象が強いものだった。これらは低価格帯作品中心の品揃えで、富裕層のコレクターではない、新しい顧客を呼び込むために企画されていた。

さて、先般プレビューしたように、最も注目されていたのが7月22日にササビーズ・ニューヨークで開催された、リビング・ルームをテーマにした、写真、版画、家具、オブジェを取り扱う「Contemporary  Living」オークションだった。結果はというと、低価格帯中心だったものの総売り上げは約200.3万ドル(約2.5億円)、落札率は約74%だった。夏休みシーズンであったことを考慮するに、順調な結果だったと判断できるだろう。しかし中身を分析すると興味深い傾向が読み取れる。家具などのデザイン分野の落札率は約82%、現代アート系が91%だったものの、写真分野は約57%と低迷しているのだ。つまりインテリアの中の写真という切り口は不発で、新しいコレクターの関心を引き寄せる効果はあまりなかったようだ。従来の写真コレクターが彼らの基準で入札に参加していたと考えられる。写真の最高額の落札は、フランチェスコ・ウッドマンの貴重なヴィンテージ・プリント”Untitled(Self Portrait, Boulder Colorado,
1972-1975″で、落札予想価格上限の約2倍の68,750ドル(約859万円)で落札されている。

ちなみにササビーズは同様のマルチ・ジャンルのオークション「Made in Britain」を9月30日にロンドンでも開催する予定だ。

写真は多くはないが、英国人写真家のテリー・オニール、デビット・ベイリー、マイケル・ケンナ、ビル・ブラントなどが出品される。ニューヨーク、パリ、ロンドンのコレクターのテイストは全く違っている。新ジャンルがどの地域にも最も適しているかを調査する意味合いがあるのだろう。

元大手オークション会社の写真スペシャリストに写真のラグジュアリー・グッズ化する傾向について話をする機会があった。彼は今に写真はハンドバックと一緒に売られるようになるよ、と皮肉たっぷりに答えてくれた。売り上げのためには何でもやるという考えがある一方で、その動きに批判的な従来の価値観にこだわる人たちもちゃんと存在するのだ。

アート写真市場の現状を、こんどは作品の供給面からも分析してみよう。最近の傾向は、ヴィンテージ・プリントの市場への供給が大きく減少しているという状況が影響している。いままでオークションハウスは、写真史を意識したエディティングを行ってきた。90年代くらいまで、オークションの内覧会はオリジナル作品で写真の歴史を学ぶ場でもあった。ところが美術館や有力コレクションに収蔵された貴重作品は二度と市場に出ることはない。かつてのように、まずオークションのメインとなる19~20世紀のヴィンテージ・プリントが中心にあり、戦前、戦後のマスターの作品、60年代のコンテンポラリー・フォトグラフィー、ニューカラー、そして現代写真、一部にファッション系と現代アート系というエディティングができなくなっているのだ。20世紀写真だけで質の高いオークション開催は困難なのだ。それとともに、現代アートが市場を席巻し、その価値観で写真史が再評価されてことも影響している。

またコレクターの購買傾向も大きく変化している。従来のコレクターは、写真や現代アートなど分野ごとに特化してコレクションを構築していた。しかし、新世代の人たちは自分のテイストが明確にあり、それに合致したものを買い集める傾向が強い。写真自体をコレクションしているのではなく、自分の感性に合致したアートの一部に写真がある、というような感じなのだ。過去の実績から分類されている既存のオークション・カテゴリーと顧客のニーズは必ずしも一致しないのだ。

今の状況を分析してみるに、私はシティグループの前会長チャック・プリンスが2007年に発言した「音楽が流れている限りは、立ちあがって踊り続けなくてはならない」を思い出した。 大手オークションハウスは競争を繰り返している。彼らは、他社が続ける限り、そして顧客のニーズがある限り、批判覚悟で新しいカテゴリ創造にも挑戦しなくてはならないのだ。
個人的には、クリスティーズの「アイコンズ&スタイル」までは、オークション・タイトルが意味する範疇で十分に趣旨が理解可能だと考えている。写真のテーマ性やコンセプトではなく、時代の移ろいやすい気分や雰囲気を反映させた写真作品のアート性は十分に認められのではないか。しかし、ササビーズのようにインテリアやデザインを含めるのは、やや範囲が広くなりすぎていると感じる。時代性の部分は果てしなく拡大解釈が可能なのだ。昨今の新しいオークションは、この限界部分の境界線を模索する動きだと理解したほうがよいだろう。新たな試みが成功するかは最終的に時間と市場が決めてくれるだろう。今後もこの動きには注視していきたい。

(為替レート:1ドル 125円で換算)

ラグジュアリー・グッズとしてのアート作品
大手オークション・ハウスの新たな挑戦

アート写真のオークションは、いままで業者ごとに専門とする価格帯が区分されてきた。
大手のササビーズ、クリスティーズ、フィリップスが1万ドル(約120万円)以上の中価格帯から高額価格帯を取り扱い、中小業者が低価格帯の写真作品やフォトブックを取り扱ってきた。
最近になって大手が新たな切り口のオークションを相次いで開催して注目されている。 それも通常オークションを開催しないシーズン最後半の夏の時期にあえて行っている。
新しいカテゴリーを他分野の定例オークションと重複させない配慮だろう。新たなアプローチのエディティングを行うことで、シリアスなアート・コレクター以外の幅広い顧客を呼び込もうという作戦だと思われる。

クリスティーズ・パリは昨年から、7月上旬のパリコレの時期に合わせて「アイコンズ&スタイル(Icons & Style)」を開催している。文字通り誰でも知っている、リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートン、ホルスト、ピーター・ベアードなど有名アーティストの有名イメージとファッション系の作品が中心のオークションだ。価格帯は中間価格帯が中心なのだが、低額から高額までも網羅している。今年も6月30日に第2回が開催された。
欧州の経済環境は、ギリシャ危機などで決して芳しいものではなかったものの、総売り上げ約172万ユーロ(約2億3226万円)と健闘。落札率は昨年の約73.5%を上回る約75%、2015年の写真オークション平均を上回る好調な結果だった。春にニューヨークとロンドンで開催された”Christie’s 20/21 Photographs”よりも高い落札率だったことを考えると、間違いなくこの分野に新たな資金が流入していると判断してよいだろう。
ちなみに最高額は、ヘルムート・ニュートンの巨大200x119cmサイズの”Big Nude II, Paris, 1980″で、36.15万ユーロ(約4880万円)だった。
これは写真を含むアート作品を一種のラグジュアリー・グッズとして新しい層にアピールする試みともいえるだろう。アート界で良く言われる、目ではなく耳で作品を買うブランド志向のコレクターを想定していると思われる。アートの知識や経験が浅い富裕層を狙っていると、手厳しい評価を下す専門家もいる。

いままでクリスティーズが、この動きをリードしてきた。通常の写真オークションでも、アイコンやファッション系の比率が高いのだ。グッチなどの有名ブランドを傘下に持つラグジュアリーグループのケリング(Kering)のフランソア=アンリ・ピノー氏の持ち株会社が彼らの大株主であることが影響しているといわれている。この分野で後れをとっていたのがライバルのササビーズ。実は昨年末に大きな人事が行われている。長年写真部門を担当していたダニエル・ベセル(Denise Bethel)氏が退任し、新たにジョン・ホールドマン(Josh Holdeman)氏が、写真、プリント、20世紀デザインを担当するヴァイス・チェアマンに就任した。彼は、ロバート・ミラー・ギャラリー、オークション・ハウスのフィリップス、クリスティーズで実績を積み上げ、アート写真のラグジュアリー・グッズ化に取り組んできたキャリアを持つ人物なのだ。

ササビーズがどのよう名新しい方針を出してくるか注目されていた。彼の21世紀のアート・カテゴリーの再分類への初挑戦が、ササビーズ・パリで7月1日に行われた「Now!」オークションだと思われる。「Now!」は、1930年代から現代までの、現代アート、デザイン、写真、モダン・アート作品をインテリアをテーマに一緒にオークションにかける実験的な試みだ。明らかにクリスティーズの「アイコンズ&スタイル」を意識していると思われる。
写真作品は約183点のうち約54点。ピーター・リンドバーク、ホルスト、ジャンルー・シーフ、マイケル・ケンナ、ウィリー・ロニ、ロベルト・ドアノーなど欧州系の写真家が多かった。
「Now!」は、カタログの編集方法に非常に特徴があった。リビングを意識した壁面がある空間に、家具、照明スタンド、アート作品、写真がコーディネートされて展示された見開きが数多く挿入されており、まるでインテリア雑誌のページを見ているような印象だ。

今回の総売り上げは約115万ユーロ(約1億5548万円)。
全体の落札率は約73%と比較的好調な結果だった。ただし写真作品だけに限ると、落札率は約64%、落札予想価格下限付近での落札が多く全般的に力弱い印象だった。
ちなみに最高額は、オーストリア人アーティストのフランツ・ウェスト(Franz  West) の、”POUF KOMPLIMENT, VERS 2003″で、13.5万ユーロ(約1822万円)だった。実はササビーズの挑戦はパリだけでとどまらない。
7月22日にニューヨークで「Contemporary Living」が開催される。

こちらでも”Photographs”、”Prints”、”20th Century Design”のカテゴリーの作品群、つまり、写真、版画、家具、オブジェなどをリビング・ルームをテーマにオークションを行う。
総出品数は約250点だが、写真は約102点、20世紀デザインが約77点、残りが版画類のプリント作品。たぶん出品数が多いニューヨークの方が同社の本命ではないだろうか。今回のパリとニューヨークの両オークションで興味深いのは、低価格帯の比率が非常に高いこと。「Now!」では、183点うち約84%の155点が、「Contemporary Living」では250点うち約73%の183点が低価格帯なのだ。いままで大手のオークションハウスとなじみのなかった、経験の浅いコレクター、デザイン・コンシャスな若い層を取り込んで、低迷している低価格帯のアート作品の活性化をはかろうという野心的な試みだといえるだろう。
「Contemporary Living」の写真関連はインテリアとの兼ね合いがよいヘルムート・ニュートン、アービング・ペン、ホルストなどのファッション系だけでなく、ダイアン・アーバス、ラリー・クラーク、アンリ・カルチェ=ブレッソン、リー・フリードランダーなどのドキュメント系も複数点出品されているのが興味深い。モノクロ写真はインテリア空間でコーディネートしやすいのだと思う。一方で、カラー作品は現代アート系の大判作品が中心に出品されている。
7月下旬ころは、富裕層は夏休みでニューヨークのマンハッタンにはいないといわれている時期だ。中間層の新たな顧客層をどれだけひきつけられるか非常に興味深い。結果の分析レポートは後日にお届けする予定だ。