Photobooks from 1960s”オークションでは落札率は約35%、総売り上げ10.5万ポンド(約1742万円/@165)とかなり厳しい結果だった。
2016年のいままでの落札率は約64.4%。昨年の全平均の約63.5%とほぼ変わっていない。アート写真市場は、とりあえず二極化傾向が続きながら今のレベルで留まっている印象だ。
2016年のいままでの落札率は約64.4%。昨年の全平均の約63.5%とほぼ変わっていない。アート写真市場は、とりあえず二極化傾向が続きながら今のレベルで留まっている印象だ。
今回のオークション結果からは、とりあえず高額、中間価格帯の市場が比較的安定している状況が読みとれるだろう。一時期に動きが鈍っていたファッション系が予想外に検討した印象だ。有名ファッション写真家の市場にフレッシュな作品も人気を集めていた。落札予想価格の微調整がうまくいったのだろう。
また比較的好調だった背景には為替レートの動向もあったのではないか。2016年早々に、イギリスのEU脱退というニュースが注目を集め、為替相場が一気にポンド安に進んだ。これが米国などの海外のコレクターに割安感を感じさせた可能性があると考えている。ただし、同時期に開催された低価格帯中心のDreweatts&Bloomsbury”Smile-Photographs and
Photobooks from 1960s”オークションの落札率は30%台に低迷している。6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心のアート写真オークションが開催される。いままでの流れだと、こちらはかなり厳しい結果が予想される。
1年前のレビューでアーヴィング・ペンの相場のピークアウトの予感に触れた。今シーズン、ペンは全オークションで24点が出品されて16点が落札。落札率はほぼ全体平均の約66%だった。しかし”Cigarette,#37,NY,1972″や”Two Guedras,Morocco,1972″などの人気作が不落札。リザーブ価格がまだ高すぎたのだろう。相場動向から代表作品が出品されなかった中でクリスティーズで”Gisele, NY,1999″が13.7万ドル(約1534万円)で落札されている。ペン作品の中でも、有名モデルのファッション・イメージには根強い人気があるようだ。
日本では独立したカテゴリーとしてアート写真オークションは存在しない。国内には独自の市場を持つ写真家がほとんど存在しないことが原因だ。市場を開拓していくには、他のカテゴリーを巻き込んだライフスタイル系のオークションが効果的ではないかと考えている。
アート写真シーズンは通常3~4月にニューヨーク開催される定例オークションから本格スタートとなる。今年は閑散期の2月17~18日にクリスティーズ・ニューヨークで “MODERN VISIONS (EXEPTIONAL
PHOTOGRAPHS)”という、大注目のオークションが開催される。カタログは通常より一回り大きなサイズで分厚い。イーブニング・セールとデイ・セールに分かれて309点が入札される。トータルの落札予想価格上限は約800万ドル(約9.2億円)となる。
リヴキンはエドワード・ウェストンのコレクターとしても知られており、今回もウェストン作品が26点出品される。最注目作はカタログ表紙を飾る”Shell, 1927″。これは1930年ごろにプリントされた貴重作品。落札予想価格は、25~35万ドル(約2875~4025万円)。
一番評価が高いのはエドワード・スタイケンの”In Memoriam,
1901/1904-1905″。落札予想価格は、40~60万ドル(約4600~6900万円)。
カタログの作品来歴を見ると、多くの作品は2010~2011年に、世界中のオークションやギャラリーを通して購入されている。ギャラリー名は、Robert Miller、Edwynn Houk Gallery、Andrew Smith Gallery、Weston Gallery、Zabriskie Gallery、Lee Gallery、Joel Soroko Gallery、Paul Hertzman Vintage Photographs、Bruce Silverstein Galleryなど、アート写真界の錚々たるところからだ。
同時期はちょうどリーマン・ショックによる大きな落ち込みから、オークション売り上げが急激に回復してきたころだ。もし本当に資金洗浄の意味で詐欺資金が使われたのだとすれば、市場の作品評価よりも高く買われた可能性も否定できないだろう。
ちなみに2015年の世界中でのオークション総売り上げは72億円程度。約6100点余りの出品数で約3800点が落札されている。アートを取り巻く経済環境が悪化している中での年間に約2000点、1500万ドル(約17.25億円)のセールは市場の需給関係に多少なりとも影響を及ぼすと思われる。
最近はオークションでの高額落札のランキングの集計が複雑化してきた。写真と広く定義すると現代アート系・オークションに出品される写真表現による作品が含まれてくる。アート写真と比べて、1点ものの絵画などを含む現代アート市場は値段スケールが格段に高いのだ。100万ドル(約1.15億円)を超えるケースは珍しくない。ちなみに2015年にアート写真でこの大台を超えた作品はない。100年前の有名写真家の貴重なヴィンテージ・プリントよりも、エディションがついた現存作家の巨大デジタル写真の方がはるかに高額で落札されるのは珍しくない。それゆえ、ここではオークションのなかの、アート写真関連、つまり”Photographs”と区分されるからカテゴリーから高額落札を選んでみた。
しかし、最近はさらに状況を複雑化しているオークションも散見される。アート写真系でも一部の落札予想価格が高額な作品が現代アート系オークションに出品されることがある。(ダイアン・アーバスやウィリアム・エグルストンなど。)それらも今回の集計に含めることにした。
このような紛らわしい様々な解釈があるのは、現在のオークション・カテゴリーが過渡期を迎えていることの表れだろう。実際に、最近のオークションには、複数ジャンルにまたがるものが急増している。クリスティーズ・パリの「アイコンズ&スタイルス」、ササビーズ・パリの「Now!」、Bloomsburyロンドンの「Mixed Media: 20th Century Art」、ササビーズ・ロンドンの「Made in Britain」、ササビーズ・ニューヨークの「Contemporary Living」などだ。いずれも”Contemporary Art”、”Photographs”、”Prints”、”20th Century Design”のカテゴリーなどの、現代アート、写真、版画、家具、オブジェなどが企画趣旨によって同時に出品されている。以前も触れたが、いま大手オークションハウスは新しいカテゴリー分けの実験を世界各地で行っているのだ。
さて高額落札だが、現代アート系オークションで落札された写真作品を含めると、
1位 シンディー・シャーマン
“Untitled Film Still #48, 1979”
US$2,965,000(約3.4億円)
2位 トーマス・シュトルート
“Thomas Struth, Pantheon, Rome, 1990”
US$1,810,000(約2.08億円)
3位 アンドレアス・グルスキー
“Shanghai, 2000”
£1,109,000(約1.94億円)となる。
以上の条件で集計したアート写真の高額落札ベスト10は以下の通りになった。
1.ヘルムート・ニュートン
“Walking Women, Paris,1981″(3点組み作品)
US$905,000(約1.04億円)
しかし、写真作品といっても巨大サイズの現代アート的な要素を持つ作品が特にファッション系で増えている。いわゆるラグジュアリー商品化したといわれている種類のアート写真だ。1位のフィリップス・ニューヨークのイーブニング・セールでのメイン作品だったヘルムート・ニュートンの”Walking Women, Paris, 1981” 。これは、171.5 x 149.5 cmサイズの巨大な銀塩写真の3枚組みセット。
また7位のリチャード・アヴェドン”Dovima with Elephants,1955″は、125.8X101.6cm、 10位のハーブ・リッツ”Versace Dress, Back View, El Mirage, 1990″も、134.5X107cmの超巨大作品なのだ。
かつては、銀塩写真の巨大作品は、アナログ写真の引き伸ばしには限界があることからアート写真コレクターにはあまり好まれなかった。これらの巨大作品の高額落札は、明らかに違う価値観を持つ現代アート系コレクターが購入しているのだろう。アート写真としては高額だが、現代アートの相場からすると魅力的な値段に見えるのではないか。
1955年、スイス出身の写真家ロバート・フランクはグッゲンハイム奨学金を得て全米を縦断する写真撮影の旅を敢行した。彼は約2年の旅をとおして数千点にもおよぶ写真を撮影。その中から綿密に編集を行い83点を選びだしフォトブックを制作する。まず1958年にフランスで”Les Americins”が、1959年に米国版”The Americans”が刊行される。
彼は全米を旅することで、もはや道の先にはアメリカン・ドリームが存在しないことを暴き出す。しかし、幻想は持たないものの多様な面をもつ米国の現状をポジティブに肯定し、そこで生きる支えを家族愛に求めている。彼の当時に追求したテーマは現在にも通じるものがあり、今では最も影響力のあるフォトブックの1冊といわれている。
このロバート・フランク”The Americans”に収録されているオリジナル・プリント83点の美術館による完全コレクションは全世界に4セットしか現存しないとのことだ。今回ササビーズ・ニューヨークで12月17日に開催された”Robert Frank:The Americans(The Ruth and Jake Bloom Collection)”は、収録作のうち77点がオークションにかけられるという、フランクのコレクターには極めて重要なイベントだった。
2015年秋のニューヨーク・アート写真オークションは、リーマンショック後の2009年春以来の極めて低い売上だった。今まで順調だった高額価格帯が大きく失速し、すべての価格帯で勢いがなかった。
その後、11月上旬にはニューヨークで現代アートのオークションが開催された。こちらは写真メディアでの表現だが価格は現代アートの範疇となる。ほとんどが5万ドル超えの高額価格帯なのだが、富裕層コレクションや美術館を相手とする100万ドル(約1.25億円)超えの作品も出品される。この分野は、どの作品までを写真作品に含めるかでやや判断がわかれる。将来的にカテゴリーの再編が行われる可能性もあると考えられている。写真作品だが、狭いアート写真分野の動向というよりも、現代アート系分野の動向が反映されているといえるだろう。コレクターの顔ぶれも、アート写真分野とはかなり違っている。
今シーズンは、ササビーズ、クリスティーズ、フィリップスの大手3社で約120点の写真関連作品が出品された。全体の落札率は約65%と、まさにアート写真分野の平均落札率とほぼ同じレベルとなった。価格では予想価格上限を大きく超える落札はなく、非常に平均的な結果だったといえよう。
高額落札を見てみよう。最高額はササビーズのゲルハルド・リヒターが音楽家ジョン・ケージに触発されて制作した16点からなる”Cage
Grid (Complete Set), 2011″。これらはすべてジグリー・プリントで制作されている。落札予定価格上限を大きく超えて、145万ドル(約1億8125万円)で落札された。続いたのは、これもササビーズでのアンドレアス・グルスキー作品の”Pyongyang IV, 2007″。落札予想価格下限に近い、139万ドル(約1億7375万円)で落札。クリスティーズでは、英国人のアーティスト・デュオのギルバート&ジョージの”Dead Boards No. 5,1976″が96.5万ドル(約1億2062万円)で落札されている。
ちなみに今シーズンの現代アートオークション全体での最高額は、ササビーズのイーブニング・セールに出品されたサイ・トゥオンブリー
(1928?2011)の”UNTITLED (NEW YORK CITY),1968″で、7053万ドル(約88億1625万円)で落札された。
11月、アート写真のオークションは舞台を欧州に移して行われた。欧州中央銀行がマイナス金利を導入するなど、この地の景気状況は米国よりもはるかに悪い。予想通り、ニューヨークでの弱気トレンドがそのまま続いた。
フィリップス・ロンドンでの”Photographs”オークションは全体の落札率自体は73%と良好だったものの高額セクターの不落札率が非常に高い47%という内容だった。
クリスティーズ・パリは優れた19世紀のJoseph-Philibert Girault de Prangey のダゲレオタイプが41点出品された。同作の落札は順調だったもののその他の作品は平均的な結果だったことから、全体では75%の落札率だった。希少性の高い作品に対する需要が根強いことが改めて印象付けられた。また話題性が高いロバート・メイプルソープの”Man in Polyester Suit, 1980″は、36.15万ユーロ(約4699万円)で落札された。
同じくクリスティーズで行われたShalom Shpilmanコレクションの単独セールは落札率約62%だった。
ササビーズ・パリでは”Back to Black”が開催された。こちらは、まさに今秋のオークションの傾向を見事に反映した結果で、落札率は約54%にとどまった。高額落札が期待されていたダイアン・アーバスの有名作 “Identical Twins, Cathleen and Colleen, Roselle, New Jersey, 1967″は不落札だった。
その後は、11月13日にパリでテロ事件が相次いだことで、アート・コレクションどころの雰囲気ではなくなってしまった。パリフォトが途中でキャンセルされ、週末に予定されていたオークションは延期されて実施された。それらは平均的な作品のオークションであり、もともとの地合いの悪さも相まって非常に厳しい結果となった。
11月に、ロンドン、パリ、ベルリン、ケルン、ウィーンで開催された8オークションでは、1382点の写真関連作品が出品され、平均の落札率は約59%だった。2015年の年間平均落札率約63%を下回る、厳しい欧州の景気状況やテロの影響が反映された結果だった。
実はこれで今年のアート写真市場は終わりではない。12月17日にササビーズ・ニューヨークで、ロバート・フランクの歴史的なフォトブック “The Americans”収録83点のうち77点を集中的に取り扱う”Robert Frank:The Americans(The Ruth and Jake Bloom
Collection)”が開催される。ロバート・フランク作品は、近年の美術館での回顧展開催でアート性が再評価され、市場価格が上昇した代表例だ。今回の出品作のなかには最近不調気味の高額価格帯のものも含まれる。12月はアートのオフシーズンなのだが、市場がこのオークションをどのように評価し消化するか非常に楽しみだ。市場トレンドが悪化しているだけに、入札参加者が従来のアート写真の範疇のコレクターだけだとややきついのではないかと感じる。現代アート系のコレクターが現代アメリカ写真に興味を持つかがキーポイントになるだろう。