セレブリティ―の写真はアート作品になり得るのか? アート写真の新ジャンル誕生の予感

有名ミュージシャンや映画スターを撮影した写真作品はアートギャラリーとしては非常に扱いにくい。どうしても作家性ではなく、セレブリティ―である被写体で写真が評価されてしまうのだ。世界的に、それらが被写体のオリジナル・プリントが数多く販売されている。それらは、アート作品ではなく有名人のブロマイド写真のような扱いになっていることが多い。海外ギャラリーでの販売価格は、インテリア系写真とほぼ同じ相場になっている。だいたい1000~2000ドル(約12~24万円)くらいだ。日本から考えたら高価だが、海外ではインテリア系写真でも相場はそのぐらいするのだ。

かなり以前から、有名写真家が撮影したセレブリティ―の写真作品は存在していた。ホルスト、リチャード・アヴェドン、アービング・ペン、ジャンルー・シーフ、ハーブ・リッツ、ブルース・ウェバーらのフォトブックにはそれらがポートフォリオ作品の一部として収録されている。被写体が有名人でも特別扱いはなく、写真家の作品相場が販売価格の基準だった。いまでもそのように販売している人もいる。

ところが最近になって、有名写真家が撮影した一部アイコン的なセレブリティ―の作品を、特別に販売する新市場が生まれつつあるようだ。それらは、少数限定、大判サイズという、現代アートのマーケティングを利用して、従来よりもかなり高額の値段設定を行っている。
2015年、大手出版社のタッシェンが米国西海岸ビバリー・ヒルズにギャラリーを新規オープンさせ、ローリングストーズが被写体の複数写真家による写真作品の販売を開始した。昨年、彼らはローリング・ストーンズのメンバーのサインが入った豪華写真集を制作。 デビット・ベイリーのオリジナル・プリントが付いたアート・エディションは、限定75点、15,000ドル(約180万円)で販売している。今回、ギャラリーでは写真集に収録されている作品を販売。主目的な豪華写真集の広告プロモーションだと思われる。しかし巨大サイズ(一番大きいのは約139.7x 143.5cm)、エディション5~10と限定数を少なくすることで、販売価格は非常に高価になっている。デビット・ベイリーやアルバート・ワトソンが撮影した作品の中には1000万円近くするものもある。
サイズとエディションがこれまでとは違うので直接の比較はできないが、それらは写真家のギャラリー店頭での作品相場とかなり離れている印象だ。あるコレクターからの情報によると、被写体のミュージシャンに多額のコミッションを支払っていることが理由らしい。どうもこの新ギャラリーは、アート市場の従来のコレクターではなく、富裕層を顧客相手と想定した、時代のアイコンをテーマとした「ラグジュアリー・アート写真」というような、まったく新しいカテゴリーを意識しているようなのだ。
ギャラリーがアートの中心地ではないビバリー・ヒルズに設置されたのも納得する。つまり、富裕層は誰でもわかる時代のアイコン的な作品を好み、特に写真コレクターのように写真家の適性相場などを気にしない。銀塩写真に対するこだわりもないので、すべてインクジェットで制作されているのだと解釈できるだろう。

商業ギャラリーでも、有名写真家が撮影したアンコン的なセレブリティ―作品を、少数限定、大判サイズで販売する例が散見されるようになってきた。上記の写真家と重なるが、ピーター・リンドバーク、アニー・リーボビッツ、アルバート・ワトソン、デビット・ベイリー、ピーター・ベアードなどだ。
しかしミュージシャンに限ると、高額でも売れるのは、熱狂的なファンがいるザ・ビートルズ、ローリング・ストーンズ、デビット・ボウイ、ボブ・ディランくらいになる。リンドバークがキース・リチャーズを撮影したシリーズは、エディション3、サイズ120X180cm、裏打ちされた銀塩写真で、1000万円以上するイメージもある。インクジェット作品でないのが商業ギャラリーのこだわりだと感じている。

英国を代表するファッション・ポートレート写真家のテリー・オニールは、本人と被写体のサインが入った、極め付きのセレブリティ―作品を制作して話題になっている。いままでに、フェイ・ダナウェイ、ブリジット・バルドーのダブル・サイン作品を発表している。(上記の掲載イメージ)こちらはエディション数が50点と比較的多く、サイズも50X60cm程度で、当初販売価格が80万円くらいからと、上記の例よりもはるかに買いやすく商品設計されている。少し前に在庫状況聞いたところ何とほぼ完売状態とのことだった。今度は、ロジャー・ムーアとのダブル・サイン作品がリリースされる予定らしい。
また、デビット・ボウイの代表作「アラジン・セイン」(1973年リリース)のLPカヴァーを撮影したブライアン・ダフィー(1933- 2010)の財団も興味深い作品制作を試みている。ダフィーは、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で行われたボウイの回顧展開催がきっかけで作家性が再評価された。写真家本人は亡くなっているものの、なんと被写体のデビット・ボウイがサインした約100㎝四方の大判作品を制作したのだ。エディションは25点なのだが、売り上げは好調のようで、現在の価格は300万円以上だという。
いずれにしても、このようなプロジェクトは、写真家と被写体とが相当に尊敬し合う関係性を構築してないと実現できない例だ。現代ではちょっと考えられないだろう。

私がいつも主張しているように、ファッション写真でも、単に洋服の情報提供だけでなく、撮影された時代の気分や雰囲気が作品に取り込まれていればアートになり得るのだ。現代アートが時代のコンセプトを提示するように、それらは時代が醸し出すフィーリングを表現しているのだ。セレブリティーは、その顔や存在自体がファッション同様に時代を反映しているといえる。優れた時代感覚を持った写真家が撮影したセレブリティ―写真のなかにも、アートになり得る作品が存在すると考える。

それでは、いわゆる「ラグジュアリー・アート写真」の高額な販売価格は正当化できるだろうか?見方を変えると、それらはアート写真としては高価なのだが、現代アートと比較すると決して高価とは言えない。いままで、アート写真の相場が現代アートと比べて安すぎたということもあるのだろう。

少数限定、大判サイズの現代アート的なアート写真作品が市場に登場してきたときにも値段の正当性についての議論がなされた。しかし、従来のアート写真コレクターが疑問符を投げかける中で、現代アート分野のコレクターにより作品は受け入れられてしまった。2012年の、ウィリアム・エグルストン初期作品を大判作品化で行われた単独オークションは大成功だった。
この流れは、難解なコンセプトを持ち、コレクターの高いアート理解力を求める現代アート作品に対するアンチテーゼでもあるだろう。時代のアイコンの写真作品は、誰にでもわかりやすく、受け入られやすいのだ。そして欧米では有名写真家自体がアーティストでセレブリティ―であることも忘れてはならない。有名写真家と時代のアイコンとのコラボレーション作品とも解釈できる。限定、大判サイズとともに、ダブルネームにより値段が高くなったといえないことはない。
上記の販売例をみるに、実際の市場では、現代アート・コレクターや富裕層がそれらの作品の価値を認めつつあるようだ。また投資的な視点を持つアート写真コレクターも買っているという。大きなくくりの現代アート市場が、従来のアート写真市場を飲み込んでしまった状況が改めて印象付けられる。その流れの中でセレブリティー写真が独自の進化を始めているようだ。

個人的には、現在のような一部セレブリティーがアイコン化する以前に撮影された70~80年代くらいの銀塩写真作品に注目している。それらは、サイズは小さめで、エディション数が多めなので、相場も比較的リーズナブルだ。現在のセレブリティ―写真の活況を見るに、優れた写真家によるそれらのファッション、ポートレート作品は明らかに過小評価されていると感じる。もしかしたら、単に現代アート・コレクターや富裕層がまだ気づいてないだけかもしれない。

2015年のマーケットを展望する アート写真の格差拡大が進行?

2014年に私が最も注目したのは7月のクリスティーズ・パリで開催された「Photographs Icon & Style(イコン&スタイル)」オークションだった。通常7月にはメジャーなアート写真オークションは開催されないが、パリコレ期間を意識してあえて夏休み前の時期に行われたようだ。売上総額約253.2万ユーロ(約3億5325万円)、落札率約74%とオフシーズンにしては極めて好調な結果だった。最高額はアーヴィング・ペンのダイトランスファー「Gingko Leaves, NY, 1990」。これは写真集「Passage」(Alfred A. Knopf 1991年刊)の表紙作品で、285,000ユーロ(@140、約3990万円)で落札された。

以前も指摘したが、ポートレート、ヌード、スティル・ライフを含む広義のファッション系分野が注目され相場が上昇した背景には現代アートが市場を席巻して従来の写真市場を飲み込んでしまったことが関係している。

つまり、現代アートでは時代の持つアイデア、コンセプトを重視するが、ファッション系では時代の持つ気分や雰囲気が作品に反映されている点を評価する。イコン&スタイル系作品は単にブランド写真家の代表作というだけではないのだ。またイコン的とファッション系の写真がそれぞれ売れているという意味でもないので、注意が必要だろう。この両方の要素を兼ね備えた作品が売れるのだ。クリスティーズはこの点を意識して、極めて綿密に出品作のセレクションと編集作業を行っていた。
12月にニューヨークのボンハムス(Bonhams)で開催された「The
Art of Fashion Photography(ジ・アート・オブ・ファッション・フォトグラフィー)」はこのイコン&スタイル系作品の意味を勘違いをした例だろう。一部には優れたアートとして通用するファッション系作品も見られたが、多くは単に洋服を撮影したモード写真、ファッションショーのドキュメント写真、有名人を撮影しただけのポートレート写真、現代アート風に大判サイズで制作されたインテリア系の写真だった。ただファッション、セレブリティ―風の写真を集めてきたという印象が強い。大手と中堅とのオークションハウスの実力の違いが強く感じられた。

イコンの意味の中には写真家自身のブランドも含まれる。知名度が低い写真家の作品にコレクターはあまり興味を示さないのだ。写真家が有名でないと、どうしても被写体が撮影の主導権を握る状況になる。撮る側の作家性や時代性が反映された作品にはなり難いのだ。また戦前のファッション写真も、知名度の高いホルストは苦戦していた。いままでに相場は大きく上昇しているので、明らかに最低落札価格が高すぎたのだと思う。
落札予想価格が一番高かったのがアーヴィング・ペンの”Women
in Wartime (Dorian Leigh and Evelyn Tripp), New York, 1950″(4~6万ドル)。有名作家の作品だが、有名イメージでないことから不落札。最終的な落札率は約32.6%、非常に厳しい結果だったといえよう。
しかし、イコン&スタイル系はアート写真の中でも富裕層が多い現代アートのコレクターが興味もつ分野である。優れた作品さえ提供できれば将来性が高いといえよう。来年も営業力のある大手オークション・ハウスは力を入れてくると思われる。この分野、いまや人気のカテゴリーとなり、かつてのような割安感は完全に無くなってしまった。コレクターにとっては、適性レベルの相場ならばドル資産を持つと考えて有名作品をコレクションするのは悪くない選択だと思う。今年は為替レートが大きく円安に動いた年だった。円は最も高かった時期と比べて約50%も価値が落ちている。日本人写真家の作品のドル建ての価値が減少し、外国人写真家の円貨の価値が上昇したということだ。あまりにも短期間の急激な変化なので、どうしても購入心理に影響を与えてしまう。
円高時には、外国人の若手・新人写真家が割安感から買われことがあったが、今後は多少高くても本当に資産的な価値のある作品の方が選ばれるようになるだろう。この傾向は洋書フォトブック市場にも出てくると思う。いまや主流購入先となったネット・ショップでは、常にその時点での為替レートが円価格に反映される。円高時のように、面白そうだからと気軽に新人・若手のフォトブックを買う人は間違いなく減少していくだろう。しかし、ずっと主張しているように写真集のなかのフォトブックはアート写真作品の一つの形態なのだ。多少輸入価格が上昇しても、作品として中身を吟味して優れたものはコレクションしていきたい。

いまフランス人経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」が日本でも話題になっている。彼は歴史的に労働者の収入の伸びよりも、資産が生む収益の伸びが大きい事実を膨大な資料分析から明らかにしている。最近の格差拡大は資本主義システムに内在する要因により引き起こされており、グルーバル資本主義の先に中間層のさらなる減少の可能性を示唆している。
最近のアート写真市場をみるに作品間の価値格差が広がっており、ピケティの主張とかなり重なっている印象がある。先週紹介した、極めて貴重なヴィンテージ作品が数多く出品された”175 MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY”は、総額の売り上げが2132万ドル(約25億5900万円))、落札率も90.3%。まさに驚異的な好結果だった。最近は、高額価格帯作品が出品されるオークションの落札率が高い一方で、低価格帯作品のものになると落札率が極端に低くなる傾向がある。これはオークションハウスの格差拡大とも重なってくる。大手のブランド・ハウスのササビーズ、クリスティーズ、フィリップスと比べて、それ以外の中小ハウスでのオークションは総売り上げが100万ドル(1.2億円)以下で、不落札率が高いのだ。そして中小ハウスでの低価格帯の出品作品数が増加傾向にある。中間層の没落がいわれているが、いままでアート写真をコレクションしていた中間層が高齢化して資金的な余裕がなくなり作品を手放しているのではないだろうか。

またギャラリーの店頭市場の規模はオークション市場の約1倍~2倍といわれている。上記状況は、店頭での低価格帯作品の売り上げ減少を示唆している。今後は、ギャラリー格差、アーティスト格差も拡大していく可能性が高いのではないか。現代アート分野ですでに始まっているギャラリー淘汰の波が写真分野にも訪れるかもしれない。新興のギャラリー、若手・新人の写真家には厳しい環境が続くだろう。

この環境では、コレクションの方向性が決まっていない人は作品購入の判断が難しいだろう。ただし何を買うかを明確に認識している人には掘り出し物を見つけるチャンスでもある。

2015年には、為替レートを見ながら、低価格帯の作品群の中から将来性のあるイコン&スタイル系作品を探していきたいと個人的には考えている。

アート写真コレクションのオークション世界最高売り上げ記録を達成!”175 MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY” ササビーズNYで開催

2014年12月11~12日にササビーズ・ニューヨークで市場が注目していた”175  MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY”開催された。

これはアート写真の振興のために活動をおこなっている”Joy of giving something foundation(JGS)”コレクションからのセール。元々はハワード・ステイン(Howard Stein)が80年代から行っていた世界的な写真コレクションがベースになっている。1998年のJGS創設に際して、主要なコレクションが寄贈されのだ。内容は、銀塩写真だけでなく、ダゲレオタイプ、ダイトランスファー、デジタル写真までを含む、19世紀中盤から現代までの写真史を包括的に網羅する多様なセレクションになっている。貴重な、アルフレッド・スティーグリッツ、ギュスターブ・ル・グレイ、ウージェーヌ・アジェ、エドワード・スタイケン、エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなどの20世紀写真の珠玉のヴィンテージ・プリントが複数点出品。日本人では森山大道の作品が1点含まれていた。

ササビーズの写真部門チェアマンDenise Bethelは、自身の25年以上のオークションハウスのキャリアの中でも最高のコレクションと語っている。まるでフォトブックのような豪華なカタログが彼らのコレクションに対する高いリスペクトを感じられる。全368ページ、透明のダストジャケット付きで、ほとんどのロットが見開き2ページで紹介。ある専門家は、貴重なヴィンテージ作品が見られるオークション・プレビューはまるで美術館クラスの展示に匹敵すると指摘していた。
落札予想価格は、175点のうちなんと100点が5万ドル(約600万円)超という、アート写真オークションとしては異例の高額作品が中心。上限が50万ドル(約6000万円)を超える作品も多数ある。なぜこの時期に特別のアート写真オークションが開催されたのだろうか?
たぶん、春・秋の定例オークションやフォト・フェアのように中堅ディーラーやバーゲン狙いの個人コレクターを買い手とまったく想定していないのだ。美術館、潤沢な資金を持つ個人や企業コレクション、富裕層が多い現代アートコレクターを念頭に置いているのだろう。

注目度が高かったことから、オークションは近年まれに見るような活況を呈し、なんと総額の売り上げは2132万ドル(約25億5900万円)。落札予想価格の上限総額約2000万ドル(約24億円)を上回る驚異的な数字だった。ササビーズによると、写真単独コレクションのオークション世界最高売上とのことだ。
これは、2014年秋のNYオークション・シーズンでの主要ハウス3社とスワン・オークションの売上総合計を上回る。また2000年代前半の写真オークション年間総売り上げ額に匹敵する。落札率も90.3%と極めて高かった。

最高価格は、アルヴィン・ラングドン・コヴァーン(Alvin Langdon Coburn)のガム・プラチナ・プリントによる代表的なピクトリアリズムの抽象作”Shadows and Reflections,Venice,1905″。落札予想価格をはるかに超える96.5万ドル(約1億1580万円)で落札。もちろん作家のオークション最高落札記録となる。これは2004年のクリスティーズで約36.5万ドルで落札された作品。10年で約2.6倍の価値になっている。

2位はアルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)の”Evening, New York from the Shelton、1931″。落札予想価格上限の3倍近い92.9万ドル(約1億1148万円)で落札。カタログ・カヴァー掲載作品だ。(上記カタログ画像の写真作品)

3位はラースロー・モホイ=ナジ(Laszlo Moholy-Nagy)の”Photogram with pinwheel and other shape,1929″と、ギュスターブ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)の”The pont du carrousel seen from the pont royal, circa 1859″。ともに77.3万ドル(約9276万円)だった。

5位はアウグスト・ザンダー(August Sander) “Handlanger, Porteur de Briques(The Bricklayer),1927″で、74.9万ドル(約8998万円)。カタログの裏カヴァーにもなっているザンダーの代表作品で、作家のオークション最高落札記録となった。

6位は再びギュスターブ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)。”The pont du carrousel seen from the pont des art, circa 1859″が72.5万ドル(約8700万円)。
7位はエドワード・ウェストン(Edward Weston)の”Charis, Santa Monica(Nude in Doorway),1936″で、65.3万ドル(約7836万円)。ウェストンの代表作で、息子コールが制作・サインしたエステート・プリントの相場は約1万ドルくらいだ。ヴィンテージプリントはその65倍もすることになる。
8位はウージェーヌ・アジェ(Eugene Atget)の”Corsets(Boulevard de Strasbourg),1912″。落札予想価格上限15万ドルの3倍以上の50.9万ドル(約6108万円)で落札。

なんと本オークションでは、8作品が節目となる50万ドル(6000万円)以上で落札されている。ちなみに2014年秋のNYオークション・シーズンの高額落札は、クリスティーズのエドワード・ウェストン”Nautilus Shell, 1927″が46.1,万ドル、ササビーズのマン・レイ”Lee Miller, c1930″が45.5,万ドルだった。今回のオークションにどれだけ驚くべき貴重な高額作品が複数点も出品されていたかがわかる。

現代アート系では、シンディー・シャーマン、ベッヒャー夫妻、、ジョン・バルデッサリ、トーマス・ルフ、トーマス・シュトュルート、フィリップ・ロルカ=ディコルシア、アダム・フス、ヴィック・ムニーズが出品され、全て落札されている。最高額はシンディー・シャーマンの”Untitled Film Still #2,1977″で、31.7万ドル(3804万円)だった。

不落札作品はわずか17点だった。その内訳を見てみよう。
知名度の低い写真家、またスティーグリッツ、ウェストン、フランクでも人気度の高くないイメージはヴィンテージ作品でも不落札となっている。一方で20世紀後半の現代写真や現代アート系はすべて落札されている。古いという骨董的な価値だけでは現代のコレクターは高額を支払わない傾向が読み取れる。落札予想価格が高額になってくると、作品のアイコン的な価値も必要になってくるのだろう。従来、貴重なヴィンテージ作品は中間層であるアート写真のコレクターが買っていた。 しかし最近の中間層の没落と相場上昇によって彼らは手が出せなくなってしまったのだ。

ちなみに12月11日には、スワン・オークションNYで”Vernacula Imagery, Photobooks, Fine Photographs”のオークションが開催された。これは、古写真、フォトブック、アート写真などの低価格帯の写真作品を取り扱う、ササビーズとは対極のオークションだ。結果は、トータルの落札率が約62%、アート写真243点の落札率が約55.9%と低迷していた。
12月の同時期に開催された二つのオークションは、ここ数年続いている高価格帯セクターの好調、低価格帯セクターの低迷のトレンドを改めて印象付けられる結果だったといえよう。

(為替レートは1ドル120円で換算)

欧州アート写真オークション結果 コレクションの歴史が作り上げた多様で重層的な市場

ここ数年はパリ・フォトが行われる11月中旬に合わせて欧州各都市でアート写真オークションが活発に開催されている。ついに今年は以下のような凄まじい過密スケジュールになっている。出品作の種類も、19世紀写真、20世紀写真のヴィンテージ・プリントやモダン・プリントから現代アート系まで本当に雑多。大手業者は、クリスティーズが  “Kaspar M. Fleischmann”コレクションの単独セール、 ササビーズがマン・レイ作品に絞ったセール、フィリップスが現代アート系のエマージング作家を中心にした”Ultimate  Contemporary”を開催するなどかなり力を入れている。中小業者は、大手が扱わない知名度の低い作家の作品、サインがないヴィンテージ作品やフォトブックなども出品。
全体を俯瞰するに、富裕層から中間層までのあらゆる種類のコレクター向けの多種多様な作品が提供されている印象だ。

*11月中旬に欧州各都市で行われたオークションのリスト
  • 11/13
    Christie’s Paris  “Collection of Kaspar M. Fleischmann”
    148点、70%
  • 11/14
    Christie’s Paris “New York par Berenice Abbott Collection
    Kaspar M. Fleischmann” 67点、76%
  • 11/14
    Christie’s Paris “20/21”
    113点、76%
  • 11/14
    Sotheby’s Paris “Photographies”
    196点、57.6%
  • 11/15
    Sotheby’s Paris “MAN RAY”
    272点、65%
  • 11/14
    Artcurial Paris “Andre Kertesz: An Important French
    Collection”  99点、69%
  • 11/14
    Artcurial Paris “Photography”
    142点、58%
  • 11/18
    Phillips London “Photographs from the Collection of the  Art Institute of Chicago” 86点、64%
  • 11/18
    Phillips London”Photography”
    122点、62%
  • 11/21
    Dreweatts & Bloomsbury London”Photographs & Photobooks”
    224点、47%
  • 11/21
    WestLicht Vienna “Photographica”
    191点、75%

(記載の数値は、出品作品数、落札率)

高額落札は、やや場違いの感じがする現代アートの巨匠アンドレアス・グルスキー(Andreas  Gursky)の”Sans titre、2006″が、ササビーズ・パリで落札予想価格上限の2倍を超す409,500
ユーロ(約5937万円)で落札。
Dreweatts & Bloomsbury・ロンドンでは、イアン・マクミラン(Ian Macmillan)がビートルズのアルバム・アビーロードを撮影した”The Abbey Road Session, The Complete Set、1969″が、驚異の179,800ポンド(約3326万円)で落札された。作家の知名度は低いものの、イコン的な作品への強い需要が改めて印象付けられた。
フィリップス・ロンドンでは、ロドニー・グラハム(Rodney Graham)の”Welsh Oaks、1998″が122,500ポンド(約2265万円)で落札されている。

単純に計算すると上記オークションの平均落札率は約64%。もちろん最近はネットが普及したことで中心市場の米国のコレクター、業者も参加している。しかし米国と比べて低成長が続く欧州で、約1週間強の期間中に約1000点もの写真作品が活発に売買され、約19億円を売り上げたことになる。

興味深いのは、中小業者開催のオークションでは地元密着の写真家の作品が数多く出品されていることだ。世界的に知名度がない写真家は高額落札されることはないが、重要なのはローカルの写真家の作品でさえ市場で流動性のあることだ。たぶん買い手は地元欧州のコレクター・業者と思われる。
オークションのセカンダリー市場は、これまでのギャラリー店頭で売買された膨大な写真作品の積み上げがあるから成立している。セカンダリー市場の存在は、ギャラリー店頭で購入する写真作品は資産価値を持ち、将来的にオークションなどで売却できることを意味する。フォトフェアやギャラリーで写真が売れるのは、このような重層的なセカンダリー市場が背景にあるからだともいえる。
翻って日本には、日本人写真家のセカンダリー市場自体が存在しない。過去にギャラリーで売られた作品でも、写真家が世界的に知名度のないと相場が存在しない。売ろうとしてもネット・オークションくらいしかなく、値段がついても二束三文のことが多い。ギャラリーで高い写真が売れないのは当然のことなのだと思う。

さて次のマーケットの関心は12月11~12日にササビーズ・ニューヨークで開催される”175 MASTER WORKS TO CELEBRATE 175 YEARS OF PHOTOGRAPHY”となる。これはアート写真の振興のために活動を行っている”Joy of giving something foundation”コレクションからのセールとなる。内容は、銀塩写真だけでなく、ダゲレオタイプ、ダイトランスファー、デジタル写真までを含む写真史を包括的に網羅する多様なコレクション。非常に貴重な、アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなどの20世紀写真の珠玉のヴィンテージ・プリントが複数点出品される。落札予想価格の上限が50万ドル(約6000万円)を超える多数作品もあり、年末の市場にどれだけのエネルギーが残っているかが試されることとなる。(1ユーロ/145円、1ポンド/185円、1ドル/120円で換算)

2014年秋のニューヨーク
現代アートオークション フォトグラフィー関連作品の動向は?

今秋になって米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は量的緩和策第3弾を終了させた。しかし、景気の先行きにはいまだ慎重でゼロ金利は継続されるという。NYダウは、金融緩和の継続見通しや景気の先行き期待から17000ドル超えの歴史的高値圏で推移している。
11月にニューヨークで行われた大手オークションハウスの現代アートセールでは、相変わらず傑作アート作品への強い需要が続いていた。低金利で株高のうちはアート市場も安泰のようだ。

11日と12日でササビースで行われた”Contemporary Art”セールでは、マーク・ロスコの”NO. 21 (RED, BROWN, BLACK AND ORANGE),1951″が4496.5万ドル(約5.17億円)で落札された。ちなみに彼の作品の最高落札額は2012年クリスティーズで記録された“Orange,  Red, Yellow、1961”の8690万ドル。

今秋クリスティーズでは、1回のオークションでの落札最高額を記録。なんと75点のアート作品で8億5288万ドル(約981億円)が売上られた。最高額はアンディ・ウォーホールの“Triple Elvis (Ferus Type)、1963”で、8192.5万ドル(約9.42億円)で落札されている。
さて写真系作品の入札はどうだっただろうか?
人気の高い、シンディー・シャーマン、アンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、ジョン・バルデッサリ、アンドレ・セラノなどへの需要は相変わらず強かった。その中でも、シャーマン、プリンス、グルスキーはいまや別格扱いになっている。彼らが取り扱われるのは目玉作品が出品されるメイン・イベントとなるイーブニングセールが中心。今回一番高額で落札されたのがシンディーシャーマン。クリスティーズでは”Untitled Film Stills (21 prints),1977-1980″21枚セットが677万ドル(約7,78億円)で落札。ササビーズでも”Untitled Film Still #48, 1979″が222万ドル(約2.56億円)、”UNTITLED #88、1981″が114万ドル(約1.316億円)で落札されている。
アンドレアス・グルスキーは、ササビーズで”RHEIN I、1996″が180.5万ドル(約2.07億円)、フィリップスでは”James Bond Island I, 2007″が72.5万ドル(約8337万円)で落札されている。
リチャード・プリンスは絵画作品などもあるのだが、写真ではフィリップスで代表作の”Untitled (Cowboy),1998-1999″が180.5万ドル(約2.07億円)で落札されている。
その他の作家では、アート写真分野のセールと重なることが多い、杉本博司、デビット・ラチャペル、ウォルフガング・ティルマンズ、ナン・ゴールディンなどがほぼ予想価格内で落札されていた。
今回の写真関連の出品作家は、知名度と落札予想価格が高い人が中心だった。どうもオークションハウスは現代アートカテゴリーに出す写真系作家を慎重に選んでいる様子だ。結果的にはセカンダリー市場でブランドが未確立の中堅やエマージング作家の取り扱いが減少している。低価格帯の写真系現代アート作品の多様性が急激に失われつつあるのだ。たぶんこれも市場2極化の影響だろう。それらが価格帯の振り分けからアート写真オークションに登場するケースも散見される。しかし二つのカテゴリーのコレクターはそれぞれが中間層と富裕層でまったく違うので、落札結果は好調とは言えない。
このような状況では、現代アート系写真の新たな価格帯のカテゴリーが必要なのではないだろうかと感じている。5万ドル(約575万円)以上の作品は、従来のように現代アート分野での取り扱いとして、 より価格帯がアート写真に近い5万ドル(約575万円)以下の作品は、新しい受け皿として「現代アート系写真」のようなカテゴリーの創出が必要ではないだろうか。それらに中間・高額価格帯の現代アート写真も含めてもよいだろう。
オークションハウスも、未来のスーパースターの必要性は認識しているようで、色々と試行錯誤を行っている。フリップスは11月にロンドンで開催したアート写真オークションで、セールの一部を”Ultimate
Contemporary”として、現代アート写真系の中堅・エマージング作家をフィチャーしている。これからも各業者によって写真作品の様々なカテゴリー分けが行われるだろう。今回のオークション結果を俯瞰するに、高額セクターの写真系作品は現代アート市場の熱気が反映されて相変わらず好調を維持しているようだ。それでは、中間・低価格帯のアート写真市場はどのようになっているのだろうか?
11月にはパリフォトの週にかけて、大手と中小業者による複数のオークションが欧州各地で開催された。ササビーズ・パリの「マン・レイ」や、フィリップス・ロンドンの「シカゴ美術館コレクション」など注目されるオークションもあった。全般的に結果は決して芳しいものではなかった。レビューは近日中にお届けしたい。

(1ドルは115円で換算)

2014年秋ニューヨーク・アート写真・オークション結果
米国の量的金融緩和終了の影響は?

2014年秋のニューヨーク・アート写真・オークションは主要3社で合計6つのオークションが開催された。複数委託者オークション以外に、クリスティーズではフォーブス・コレクションとドン・サンダース・コレクション、フィリップスはシカゴ美術館コレクション。またササビーズはコール・ウェストン・トラストの548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットのセールが行われた。
主要3社の売上合計は、春より約17%減少して1841万ドル(約19.3億円)、年間ベースでも2013年と比べて約15%減少している。これはほぼ2005~2006年くらいの売り上げで、リーマン・ショックによる市場規模縮小からの回復ペースがやや弱まってきた印象だ。高額落札が減少したことが総売り上げ減少の理由と思われる。今春は50万ドル越えが6点あったが、今秋は1点もなかった。
今季の高額落札は、クリスティーズのエドワード・ウェストンの”Nautilus Shell,1927″が461,000ドル(約4840万円)。ササビーズのマン・レイ”Lee Miller, c1930″が455,000ドル(約4777万円)だった。
今季の業者売り上げ高トップは、シカゴ美術館コレクション・セールが貢献したことからフィリップスが獲得した。同社の売り上げはここ数年安定的に推移している。ちなみに今春はササビーズがトップだった。

今季は、ササビーズで開催された548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括オークションが特に注目を集めていた。いわゆるコール・プリントと呼ばれるウェストンの息子コールにより制作されたエステート・プリントだ。豊富な解説付きの単独カタログを制作するなど、ササビーズは大変な力の入れようだったが残念ながら不落札だった。落札予想価格は200~300万ドル(約2.1~3.15億円)。単純計算すると1枚当たりが3650ドル~5474ドル。コール・プリントの相場はイメージの人気度によりかなり異なる。人気作は1万ドル(約105万円)以上するが、不人気作は値がつかないこともある。不人気作品のヴァリューと、資料的価値をやや過大評価しすぎたのではないだろうか。

アート写真にとって作品の来歴は作品価値に大きく影響を与える。特に最強の来歴は美術館のコレクションだったこと。美術館が所蔵作品を売却することなどは日本では想像できないだろう。しかし海外の美術館はコレクターによる作品寄贈が多く、重複コレクションを市場で売却して新規購入資金にあてることはよくある。
今回のフィリップスで行われたシカゴ美術館コレクション・セールはそれに当たる。通常はかなり高い落札率なのだが今回は73.5%と特に際立って良い数字ではなかった。特に1万ドル以下(約105万円)の低価格帯の不落札率が30%をこえていたことが影響した。
最近は写真史上有名写真家の作品でも、不人気作は売れないことが多い。これは美術館コレクションの来歴でも不人気作だとコレクターは無理して買わないということなのだと思う。少しばかり気になる兆候だ。

現代アート系の結果はどうだっただろうか?アンドレアス・グルスキーなど、落札予想価格の高い作品は現代アート・オークションで取り扱われている。アート写真分野にはエディションが多いか、小さめサイズの作品が出品されることが多い。今回注目されたのが、ドン・サンダース・コレクションに出品されたデヴィット
レヴィンソール(David Levinthal)の272点からなる”XXX: Volumes I, II, and III, 1999-2001″。落札予想価格25~35万ドル(約2625~3675万円)だったが不落札だった。全般的に高額カテゴリー作品の動きがやや鈍い印象だった。

「イコン&スタイル」系の写真は全般的に良好だった。注目されたのは、ヘルムート・ニュートンの”Private Property, Suites I, II, and III, 1984″。各15枚の合計45点からなるニュートンの代表作品。フィリップスとクリスティーズのドン・サンダース・コレクションのセールで2セットが出品された。落札予想価格に10万ドルの開きがあったのは興味深かったが、ともに389,000ドル(約4084万円)で落札されている。巨匠リチャード・アベドン、アーヴィング・ペンのファッション系作品も順調に落札されていた。この分野の代表作家の代表作品には相変わらず強いコレクター需要が感じられた。

もともと市場環境が良くない中で金融緩和による高額セクターの活況がアート写真市場を引っ張ってきた。しかし今秋は落札価格5万ドル(約525万円)以上の高額セクターの不落札率が高かった。 クリスティーズの複数委託者、ドン・サンダース・コレクションのセールでは高額セクターの不落札率が50%を超えていた。フィリップスの複数委託者セールも不落札率が40%以上だった。ササビーズのエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括セールが不落札だったことがこの状況を象徴しているといえるだろう。

ここにきて米国の量的金融緩和の終了が取りざたされ、世界的な流動性の縮小が懸念されている。いままではアートも含むほとんどの優良資産が買われてきた。これからは資産価値のより精緻な評価が行われるようになると予想されている。アート写真でも主要購買者である中間層の経済状況の改善がないかぎり、より厳しい選択と評価が行われるようになるだろう。今秋のオークションでは、上記のように市場の先行きに一抹の不安を感じるいくつかの兆候が見られた。今後とも注意深く市場の動向を見守りたいと思う。

(為替レートは1ドル105円で換算)

TOKYO PHOTO 2014(東京フォト)アジア市場における独自フォトフェアの可能性

「写真に何ができるか」(2014年、窓社刊)に書いているが、日本のアート写真マーケットの規模は欧米に比べて極端に小さい。お金がまわらないから、優れたアーティストや関連の専門家が育たない、優秀な若い人材がこの業界に入ってこないという状況に陥っている。特に日本人写真家の市場はインテリア向けの低価格帯のもの以外は本当に小規模でしかない。一時期、現代アート風のデザイン・コンシャスで大きなサイズの作品が売れたことがあったが、いまは全くダメになってしまった。ただし欧米で資産性が認知された外国人写真家の市場は日本にも存在するが、これも最近のドル高による輸入価格上昇と消費増税で厳しい状況となっている。

今年の東京フォトはこのような状況が全般的に反映されたものだったといえるだろう。規模が小さくなったという意見が多くの参加者、来場者より聞かれた。海外からの参加者が減少したのは明らかに9月のフォト上海にギャラリーが流れたことによるだろう。海外勢は多額のコストをかけて参加する。やはり市場拡大の可能性がある場所を選びがちになる。今回は過去の販売実績があったベルリンのギャラリー・カメラ・ワークが唯一3回連続して参加していた。彼らは「イコン&スタイル」の作品に特化している。今回は、ピーター・リンドバーク、エレン・ヴォン・アンワース、アルバート・ワトソンなどを展示していた。彼らの取り扱い写真の市場は日本にも存在するのだ。

アジアで初めてのフォト・フェアは、2009年から韓国で開催されているソウル・フォトだ。ソウル・フォトは回を重ねるごとにイベント内容が変化していった。今回の東京フォトの展開がそれに似てきたような印象をもった。ソウルも最初のうちは、欧米的フォトフェアをアジアで開催することを目指していた。多くの国内外ギャラリーが参加して表層的にはそれなりの活気があった。しかし、参加ギャラリー数が回を重ねるごとにどんどん減少していき、代わりにアマチュア写真家の展示や、主催者企画による写真家の個展が展示ブースで開催されるようになっていった。ギャラリーでなく写真家がブースを持って出品するイメージだ。つまり観客はそれなりに来るもののほとんどが鑑賞目的。作品がほとんど売れないことから商業ギャラリーが参加しなくなり、欧米的な販売目的のフォトフェアとは全く違うイベントに変異していったのだ。2010年は日本からもかなりの数のギャラリーが参加していたが、2011年は震災の影響もあり2業者だけとなった。その後は日本からもアマチュア写真家のグループや出版社が参加するようになっていった。私どもも3回参加したものの、しだいに参加する意味があまり見いだせなくなったので今年は様子見とした。

今年の東京フォトも展示スペースの半分が、独自企画の写真展示になっていた。私は市場が未成長のアジアでは、フォトフェアは特に欧米的な販売目的である必要はないと考えている。この地域で行うべきなのは、まず写真がアート作品であることを多くの人に知ってもらうための様々な啓蒙活動や展示活動である。ソウルフォトも販売目的の商業ギャラリーには参加する意味が希薄化したが、その他のエマージング・アーティスト、アマチュア写真家、有名アーティストの作品展示を見たいオーディエンスには魅力的な場なのだ。毎年、ヤングポートフォリオを開催して参加者を世界中から募集している清里フォトミュージアム。彼らはここ数年ソウル・フォトに参加しているが、韓国からの応募者が大きく増加したといっている。
作品があまり売れなくても、プロ・アマチュア写真家が参加して、多くのオーディエンスが来場するような、アジア的フォトフェアというビジネスモデルは構築可能なのではないだろうか?
これはまさに写真文化振興の側面も持つ。ソウル・フォトも国からの間接的な支援があると聞いている。東京フォトも今年から文化庁の「優れた現代美術の海外発信促進事業」を意識した展示を行っている。主催者は今後の外務省の文化事業とのかかわりも示唆していた。100%コマーシャル・ベースでない場合は、どうしても事業継続に様々な公的機関や企業の支援が必要になってくる。今年の東京フォトは、過去の経験の蓄積から欧米とは違うアジア独自のフォトフェアのスタイルが必要だと感じ、新たな方向の模索をはじめたのだろう。
一方で欧米の主催者が取り仕切っているフォト上海は、いまのところ市場性がある作品を現地の富裕層に新たなラグジュアリー・グッズとして販売していくことをメインにしていくようだ。ここも、もし作品販売が低迷した場合は、ソウルや東京と同じ方向性を模索するようになるだろう。

 

来週の15日から六本木のアクシスギャラリーで第1回の「フォト・マルシェ」というカジュアルなフォト・フェアが約14ギャラリーが参加して開催される。低価格の写真作品を提供することで市場の裾野を広げていこうという戦略的企画だ。アクシスの支援により出展料が安くなっていることから、ギャラリーも3万円からという低価格の写真作品の展示販売が可能になっている。9月には広告写真大手のアマナが中心になって同じようなカジュアルなフォトフェア「ヒルサイド・テラス・フォト・フェア」が代官山で開催されている。このフェアはフォトブックに重点が置かれていたのも特徴だった。日本では写真は売れないがフォトブックはまだ売れている。ここにも新たなスタイルのフォトフェアのヒントがあるように感じた。日本でもやっと市場規模を現実的に捉えた身の丈にあったフォトフェアの模索が行われるようになってきたようだ。

「フォト上海(Photo Shanghai)」レビュー(2)アート写真ブランド化の試み

今回、上海をはじめて訪れた。中国の高度経済成長はもちろんマスコミ報道で知っていたが、現実は予想をはるかに超えていた。中心市街地は世界的なトップ・ブランドが店を構える巨大商業施設が複数乱立しており、シンガポールがより巨大化したような感じだった。日本の銀座さえもスケールでは凌駕するのではないだろうか。
そしてどの店もお客でにぎわっているのだ。収入が多くなくても将来に経済的に豊かになるという見通しがあれば人々は消費をするのだ。バブル期の日本を思い出した。

地元の人によると不動産価格はここ20年で約15倍になったそうだ。上昇率はあくまでも個人の感覚的による比較だと思うのだが、不動産上昇による資産効果が消費を刺激している面は間違いなくあるだろう。直近は成長率が低下したというが、それでもGDPは7%以上、日本の1%台と比べるとまだまだ高度成長だ。高齢化が進む日本と違い、中国には将来的に豊かになりたいと考える若い人の人口がまだまだ多い。このような国に活気があるのは当たり前だと実感した。

道路には普通に欧米の高級車が走っているし、街中の高級店の乱立とそれなりの活況を見るに中国人がブランド志向なのが直感的にわかった。そして次に来るのが究極のブランドであるアートなのだろう。

「フォト上海」にも写真を新しいブランドとして富裕層に紹介しようという意図が強く感じられた。会場が上海展覧センターである点も重要のようだ。上海中心部の高級ブランド店や欧米系ホテルが立ち並ぶ南京西路に位置するイコン的なランドマーク建築物なのだ。
フェアのメイン・ヴィジュアルに使用されていたのはハーブ・リッツの”Versace Dress, Back View,1990″とパトリック・デマシェリエのカラーのファッション写真だった。

そしてフェアのメイン展示は20世紀写真の巨匠ヘンリ・カルチェ=ブレッソンの展覧会という具合だ。外国からの参加者は明らかに「イコン&スタイル」を意識した資産価値のあるセカンダリー作品の展示が中心だった。一方で地元ギャラリーはコンテンポラリー系のプライマリー作家中心の展示が多い印象だった。

私はもっと地元写真家中心の展示なのかと思っていたが、国際的に認知された有名写真家のイコン的作品とファッション系が数多くみられたのは嬉しい誤算だった。ギャラリーのレベルや品格はその在庫のクオリティーによるといわれる。特に海外ギャラリーは自らの珠玉の在庫を上海に持ち込んだ印象が強かった。結果的に会場全体では写真史やファッション写真史を網羅する、鑑賞目的の人が楽しめる展示構成だったといえる。
東京、ソウル、タイペイのフォトフェアは地元のプライマリー・アーティストの展示が中心だ。どちらかというと、販売というよりも取り扱いアーティストを紹介する面が強く出ている。市場が小さいので販売よりもギャラリー自身や取り扱いアーティストの紹介が目的となっている。主催者も販売目的というよりも、アマチュア写真家や鑑賞目的の人を意識した運営を行っている。しかし、上海は明らかに欧米的な販売を意識したフォトフェアになっていた。

この分野の作品をメインに取り扱っているのは、ベルリンのCamer
WorkとロサンゼルスのFahey/Klein。両ギャラリーは、まるで競い合うがごとく非常にハイレベルのファッション系作品を展示していた。前者はピーター・リンドバーク、リチャード・アヴェドン、ジャンルー・シーフ、ブランアン・ダフィー、ミッシェル・コント、ロバート・ポリドリなど、後者はウィリアム・クライン、メルヴィン・ソコルスキー、エレン・ヴォン・アンワース、パトリック・デマシェリエなどだ。
また、サンタモニカのPeter Fettermanは、リリアン・バスマン、アンドレ・ケルテス、 セバスチャン・サルガドなど、パリのA.Galerieはアルバート・ワトソン、ピーター・リンドバークなど。また北京のSIPA CHINAはバート・スターンのマリリン・モンローを展示していた。

あまりにも市場で評価されている有名作品の展示が多かったので、まだ評価が未確定の地元ギャラリーの作品はどうしても印象が薄く感じられた。私が興味を感じたのは北京のTime Space galleryの展示。

ここではモノクロのアウグスト・ザンダーとカラーのJiang Jianの作品を対比して「August Sander & Jiang Jian」として見せていた。まるでインスタレーションのように壁面全体に同時展示していた。果たしでザンダーの写真がオリジナルプリントかどうかは不明だったが、興味深いアプローチの作品だった。
アート・フェアでは、会期終了後に取引が行われることが多い。果たして今回のフェアでは高価な海外の「イコン&スタイル」系か、比較的買いやすい地元のコンテンポラリー系か、どちらの系統が地元の富裕層により強くアピールしたのであろうか? 「フォト上海」は来年も2回目が開催されるとのこと。たぶん来年の参加者の変化と展示内容を見ると今年の結果が想像できると思う。結果次第では、ニューヨーク、パリに次ぐアート写真の中心市場に短期間で育っていく可能性があると感じた。しばらくは目が離せないフォトフェアになりそうだ。

「フォト上海(Photo Shanghai)」レビュー(1) アジアのアート写真中心地となるか?

9月5日から7日にかけて第1回「フォト上海」が上海展覧センターで開催された。
上海は中国中部の東海岸、長江の河口に位置する人口約2300万人の中国最大都市。経済成長を続ける中国を目の当たりにできる場所なので、フェア開催地としては最適だと思う。マネージメントは世界的にアートフェアーを手掛けるモンゴメリー(MONTGOMERY)が出資するWorld Photography Organisation (WPO)が担当。約40のアート写真を取り扱うギャラリーが世界中から参加している。約半分が上海をはじめ中国から。その他は、香港、東京、ロンドン、ベルリン、フロリダ、プラハ、ロサンゼルス、チューリヒ、サンタ・モニカ、コペンハーゲン、パリなどからだ。

Fahey/Klein、Peter Fetterman、Camera Workなどの業界大手ギャラリーも参加。日本からはアマナ・サルトが来ていた。初回でこれだけのギャラリーが世界中から集まったのは、実績のあるマネージメント会社への信頼と中国市場への大きな期待があるからだろう。

会場の上海展覧センターは、ソビエト連邦の経済技術支援を受けて「中ソ友好記念会館」として1955年に竣工したもの。先細りの塔が中央ホールの中心軸上にそそり立ったスケールの大きな歴史的な建造物。 

会場内部はアーチ型の高い天井と照明などの設えによりレトロな雰囲気を強く感じられる。ニューヨークのフォトグラフィー・ショーやパリ・フォトに近い趣がある。
ブースは2フロアーに分けて施工されており、1階のメイン展示場を囲むように2階展示場が設置されていた。会場の細部の作り込みには、一部雑な仕上げの箇所も散見された。メイン・スポンサーはソニーとイタリアの高級車マセラーティ。4K技術の実演や会場外の実車の展示などがあった。
特別展示は現代中国写真を展示する「Contemporary Photography in China, 2009-2014」と、Peter Fettermanコレクションからの見ごたえのあるヘンリ・カルチェ=ブレッソン展覧会だった。
私は土曜日の午後に訪れたのだが、会場の混雑ぶりには本当に驚かされた。一般入場料は50元(約850円)と地元感覚では決して安くはないとのことだったが、人気ブースの周りは本当に立錐の余地がない感じ。じっくりと作品を見る余裕はなかった。また来場者が人気作品をカメラで撮りまくっているのも特徴。記念撮影も当たり前だ。イコン的作品、ユニークなヴィジュアルの作品の人気が高いようだ。
職業柄どうしても作品売上をチェックするのだが、私の見た限り作品自体はそんなに売れている感じはなかった。東京、ソウル、タイペイなどのフォトフェアと同様に、鑑賞目的の観客か、カメラ好きのアマチュア写真家が数多く来場している印象が強かった。
しかし今回は中国での初フォトフェアであることから主催者も地元の観客の啓蒙を開催目的に掲げている。複数の参加者もそのように発言していた。会期中にわたり、写真コレクションに関するトークイベントなどが数多く企画されていた。
やはりギャラリーにとって、経済発展が続いている中国市場はとても魅力的であり、この地でギャラリーの知名度を富裕層たちにいち早くアピールしておきたいという心理が強いのだと思われる。街の持つエネルギッシュな雰囲気に実際に触れると、誰しも将来的にマーケットが育っていくような印象を抱いてしまう。 とにかく人口が多いので何が起きてもおかしくない。今回のフォトフェアがきっかけでもし実際にコレクターが生まれてくると、アジアにおけるアート写真の中心地は上海になる可能性も十分にあると感じた。
(以下はパート2につづく)

2014年後半のアート写真市場見通し 市場2極化進行の中でフォトブックに注目

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、今秋からは緊急的金融緩和からの出口戦略を始めるといわれている。しかしまだ景気は本格回復したわけではなく緩和的政策は続くといわれている。そのような背景からいま米国株式市場ではNYダウが史上最高値近辺で取引されている状況だ。 世界的な超金融緩和策による弊害も散見されるようになり、米国債、社債、クレジットカードの与信などのバブルが発生しているという指摘もある。
アート市場も特に高額セクターの売り上げが順調だ。大手オークションハウスは、2014年前期に軒並み歴史的な売上を記録している。
ササビーズの上半期のオークション売り上げは昨年同期比約24%増の27億ドル(@100、約2700億円)。なんと百万ドル(@100、約1億円)以上の値を付けた落札が487点もあった。同時期のクリスティーズの売り上げも、昨年同期比約13%増の36億ドル(@100、約3600億円)だった。

オークション全般では特に現代アート系、印象派などが好調。アジア部門もやや売り上げを落としているが存在感は相変わらずだ。高額セクターのアート市場はややバブルが発生しているのではないかと感じられる。今秋にかけてオークションハウスは、落札保障金額を増加させる傾向にあるという。これは、貴重で高額落札が見込める作品に関しては、彼らが委託時に金融的落札保証をつけること。委託者はその条件が良い、会社を選ぶということだ。これはオークション市場の活況や過熱を示す指標と考えられている。ITバブル崩壊やリーマンショック時にはオークションハウスはこの保証で多額の損失を被っている。大手はこれから益々ハイエンド作品での勝負の時代になると考えているのだろう。貴重作品を持つ委託者の熾烈な奪い合いの構図が見て取れる。

アート写真の市場はどうだろうか? 前期の売り上げは昨年下期は上回っているが、昨年前期よりは下回っている。一時よりは活況だが、決してバブルと呼べる状態ではないだろう。売れている中身をみると、高額落札されているのは、7月にクリスティーズ・パリで開催された「イコン&スタイル」で象徴される、誰でも知っている有名アーティストの有名イメージが中心だ。リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートンなどファッション系もその中に含まれる。ヴィジュアルの親しみやすさが好人気の背景にあると思われる。
これはアート界で良く言われる「目ではなく耳で作品を買う」コレクターが増加しているのと考えられる。いわゆるブランド志向の人たちだ。彼らは業界ではあまり良い意味ではとらえられていない。この種のコレクターは継続して作品を買わないし、ある程度の期間が経過すると興味が他分野に移ってしまうことがあるからだ。つまり現状は、表面の売上的には順調に推移しているものの、中身は新しいシリアスなコレクターが増えているわけではないということだ。何らかの政治経済上の外的ショックなどが発生すれば相場環境が急変する危うさを抱えている。

以前に欧州の中小オークションハウスの売上状況を紹介したように、100万円以下の価格帯の市場はいまだに低迷しているのだ。これはリーマンショック後の景気回復では、中間層がその恩恵を受けていないことが大きな原因だと思われる。どうもこのような状況は一時的なことではないようだ。いま欧米ではフランス人経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」が話題になっている。最近の格差拡大は資本主義システムに内在する要因により引き起こされており、グルーバル資本主義の先に中間層のさらなる減少の可能性を示唆している。最近の状況を分析するに、もしかしたらその兆候や影響があらわれているのかもしれないと感じる。
現在のメイン・プレーヤーの富裕層は、前述のようにアーティストの評判やブランド性で作品をコレクションすることが多い。その結果、彼らが興味を示さない若手や新人の市場で競争激化が起きている。また知名度の高いアーティストでも、不人気作品は売れない状況になっている。特にアート写真では、自分の眼を信じて無名や新人アーティストを買っていたのは主にアッパー・ミドルクラスといわれる上位中間層の人々だった。この市場の主な担い手だった層の減少は、コレクターの世代交代とともに中期的に市場に影響を与えるだろう。それはプライマリー市場でのコレクター数の減少、セカンダリー市場では彼らの既存コレクションの換金売り増加による低中価格帯作品の供給過剰として現れるだろう。そのような状況では、アーティストの階層化と人気作品への需要集中が一段と進むと思われる。今後はブランドが確立できないアーティストの作品は、インテリア向けの低価格帯以外はかなり苦戦するのではないか。当然それらを取り扱うギャラリーも同様だ。サイズが大きく、製作費がかかる現代アート系が一番苦戦するだろう。公務員夫婦が優れた現代アートコレクションを構築する映画「ハーブ&ドロシー」的なストーリーは本当におとぎ話になってしまうのだ。

アートでは心は豊かになるがお腹は膨らまない。不況時のアートが売れない理由にされる例えだ。しかし、食事をした次に何にお金を使うかは人によって様々だろう。知的好奇心が強い人は、心を豊かにしてくるアートに目を向けると思う。もし中間層が今後減少していくのなら、彼らの収入減に合致した優れた低価格のアートが求められることになると思う。彼らは目が肥えた人たちなので、値段に関係なく価値が見いだせない作品は絶対に買うことがない。そこで注目されているのがフォトブックなのだと思う。これは本ではなくアート写真の一つの表現形態のこと。欧米ではフォトブックをアート写真のコレクションの対象にしている人が増加しているのだ。

Twelvebooksの濱中氏によると、最近のロンドンではMACKをはじめ優れたスモール・パブリッシャーが乱立しているという。これは間違いなく新しい需要が世界的に生まれているからだろう。私はこの状況はパブリッシャーのアート工房化、アーティスト化だと理解している。MACKの本は市場で高い評価を受けているが、これをフォトブック単体で評価するだけではなく、制作しているマイケル・マックのアート作品だと理解することが必要なのだと思う。フォトブックは写真集としては高価だが、アート写真としては低価格だ。今後の社会経済状況を予想するに、フォトブックはアート写真分野の中の成長分野になると思う。