長きにわたり、ファッション写真は作り物のイメージなのでアート性は認められていなかった。しかし、70年代以降の欧米では写真は客観的真実を伝えるのではなく、写真家がパーソナルな視点で自己表現するメディアと認識されるようになる。ここで作りものの写真だから評価に値しないという考えが覆ったのだ。70年代後半から、美術館やギャラリーでのグループ展などが開催されるようになる。それらを通して優れたファッション写真は各時代の言葉に表せない人々のフィーリングを伝えるメディアだと認識されるようになる。欧米の美術館はアートの歴史で見逃されていた価値基準を再評価して、そこに新たなページを書き加えてきた。ドキュメントやファッション写真のアート性はその活動から見いだされた。
美術館がファッション写真独自の価値基準を認めると、プライマリー市場でギャラリーが作品を取り扱いコレクターが購入するようになる。そして時間経過とともにセカンダリー市場のオークションでも頻繁に売買されるようになり、相場が上昇した。30年前、ほとんどのコレクターが見向きもしなかったファッション写真は、いまでは市場の人気カテゴリーとなったのだ。
b.アート・ギャラリーでの個展開催や取り扱い実績、
c.アート写真オークションに作品が継続的に出品されている
アート系ファッション写真のフォトブックの刊行数は、美術館による再評価以前は非常に少なかった。リチャード・アヴェドンやアービング・ペンなど、作品プロジェクトのアート性が認められていたファッション写真家のモノグラフが中心だった。またそれ以外は、アートのカテゴリーというよりは、服飾のファッションのカテゴリーで取り扱われていた。90年代になり、ファッション写真のアート性が市場で広く認識されるようになると、上記のフォトブックのアート性の価値が見直される。見向きもされなかった本がレアブック扱いされるようになる。同時に過去に活躍した写真家の作品が見直されて再評価されるようになり、新たにフォトブックも刊行されるようになるのだ。
今では有名なギイ・ブルダン、リリアン・バスマン、ソール・ライターなどもここに含まれる。いま刊行されている多くのファッション系フォトブックは、90年代以降に再評価された写真家によるものだ。分類すると以下のようになる。
(1)美術館で開催されたファッション写真の展覧会カタログ
(2)ファッション写真のアート性が認識される以前の本
(3)90年代以降に再評価された写真家の本
すべては、美術館で開催されたファッション写真のグループ展での写真家たちの評価から始まる。これらの展示に作品が複数回選出された人がコレクター間で人気作家となる。実際のフォトブック紹介にあたって、個別の写真家のモノグラフよりも、まず20世紀に刊行された美術館展カタログの紹介から始めるのが適当だと考えた。(ちなみに21世紀のファッション写真の展覧会カタログは別の機会に紹介する。)以下に、私が選んだカタログのリストを上げておく。次回以降に個別に紹介していきたい。
もしかしたら、私が把握できていない美術館展カタログもあるかもしれない。資料を持っている人はぜひ情報を提供してほしい。