鋤田正義「SUKITA: Rare and Unseen」
写真展の見どころ(1)

ブリッツでは、鋤田正義写真展「SUKITA: Rare and Unseen」を開催中。同展は英国ACC Art Booksの企画/編集で刊行される回顧写真集「SUKITA : ETERNITY」の刊行記念展となる。日本版は玄光社から刊行、原文は英国版原書と同じく英語表記で欧州で印刷され、日本語訳の小冊子が付いてくる。
特設サイト

東京は、8月末まで緊急事態宣言が発令中なので完全予約制での営業となる。現在は特に週末の予約は取りにくくなっている。しかし、同展は夏休み中も営業するし、10月までと開催期間を長めにとってる。どうかコロナウイルスの状況を見極めたうえで、余裕をもって予約して欲しい。
ギャラリーの公式サイトでは、インスタレーション・ヴューをアップしている。まずは、こちらをご覧になって写真展会場の気分を味わっていただきたい。今回は、展示画像と共に写真展の見どころの解説を行いたい。

本展の大きな見どころは、鋤田とデヴィッド・ボウイとのセッションにおける数々の未発表作や代表作のアザー・カットの展示となる。鋤田は2021年5月に83歳になった。いまやボウイなどの親しかった多くの被写体たち、また親交があった同世代の写真家テリー・オニールなども亡くなっている。
今回のキャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われ、その過程で数多くの未発表作が発見され、一部作品は今回の写真集にも収録されている。

今回は、鋤田アーカイブスの調査結果を紹介する最初の写真展となる。ヴィンテージ作品はすべて参考展示となり、販売はされない。市場価値は、だいたい6,250ポンド(約95万円)くらいだと思われる。それら7作品はギャラリーの中央あたり展示されている。たぶんボウイの写真集「気」(TOKYO FM出版、1992年刊)制作時にプリントされた作品だと思われる。
作品の中には、ソフトな感じの雰囲気を狙って、いわゆる紗がかかったようなプリントが多くみられる。鋤田によると、それらはすべて暗室作業で作り出されたものだという。通常は薄い布が使われるのだが、彼は女性用のストッキングを使用したとのことだ。納得のいく効果を得るために、様々な種類のストッキングと露光時間を試みたという。いまは画像処理ソフトで同様の効果を出すことができるのだが、当時は1回ごとのアナログ作業だった。気の遠くなるほどの試行錯誤を行ったのだと想像できる。理想のボウイ像を創り出すための、鋤田の並々ならぬ執念を感じる作品群だ。
ちなみにこれらは、ファインアート写真の専門用語で規定されているヴィンテージ・プリントではない。それらは、写真撮影からだいたい3年~5年以内にプリントされた作品とされている。しかし、写真家の手作業で丁寧に制作された作品は極めて価値が高いといえるだろう。

本展では、写真集「SUKITA : ETERNITY」からの代表作も展示している。表カバーの「David Bowie, Just for one day」と、裏カバーの「T-Rex, Get it on」は、30X40″(約76X101cm)は大判サイズでの展示。前者はエディション10、後者がエディション8の作品となる。

「Just for one day」は、ほかに16X20″/エディション30と20X24″/エディション20の小さめ作品が販売されている。以前、銀座蔦屋書店のオンライントークイベントで指摘したように、この作品は販売価格の逆転現象が起きている。実は本作品は通常の英国からではなく、日本で初めて販売が開始された。もちろん販売開始時は、小さいサイズが安く、大きいサイズが高く設定されている。しかし日本は住宅事情から小さめのサイズの方が圧倒的に人気が高い。従って16X20″はなんと完売が近くまで売れてしまい、販売価格が大幅上昇。3サイズの中で一番高額な約80万円以上になっている。30X40″の大判サイズは、本日時点で約44万円と一番安いのだ。ただし、サイズが大きいので、額装費用は高額になる。またプリントの平滑性を保つために裏打ちが必要になる。それを考慮しても、まだ16X20″と20X24″よりも安く購入できるのだ。市場価格の歪みは、遅かれ早かれ、海外のコレクターやディーラーから注文が入ることで適正に戻ると思われる。「Just for one day」は、英国ACC Art Books版でもカバーを飾っている。広い展示スペースが確保できるなら、写真集の表紙を飾る本作はまさにお薦めの1点といえるだろう。興味ある人はできるだけ早く問い合わせて欲しい。

銀座 蔦屋書店 展示風景

現在、銀座蔦屋書店でも鋤田正義作品の展示を8月25日まで行っている。メインは、前述の写真集表カバーの「David Bowie, Just for one day」、また昨年亡くなった山本寛斎さんがデザインしたステージ衣装「TOKYO POP」を着たデヴィッド・ボウイ「Watch That Man III、1973」、忌野 清志郎を米国のメンフィスで撮影した「Kiyoshiro Imawano – In Memphis、1992」の16X20″サイズ作品3点の展示となる。その他、「ヒーローズ・セッション」から生まれた、ボウイが手でそれぞれ目、耳、口を隠している「見ざる、言わざる、聞かざる」の3点セットも必見だろう。写真集特装版の3点のプリント作品の現物も展示されている。飾りやすい小ぶりの作品中心に約15点を展示している。

なお。8月21日(土)14:00~16:00には、鋤田正義によるオンライントークイベントも企画されている。参加条件などの詳細は近日中に発表予定とのことだ。
銀座蔦屋書店

次回、写真展の見どころ(2)に続く

ブリッツ・ギャラリー今後の予定
“SUKITA: Rare & Unseen”展
開催!

「ファインアート写真の見方」(玄光社)に紹介されている写真家/アーティストの作品やフォトブックを展示するグループ展「Fine Art Photography Now(ファインアート写真の現在)」展は、緊急事態宣言により延長してきたが7月4日(日)まで。東京はまん延防止等重点措置地域なので、引き続き予約制での営業となる。

次回展は、鋤田正義写真展「SUKITA: Rare & Unseen」を開催する。同展は鋤田の英国ACC Art Booksの企画/編集で刊行される初の本格的回顧写真集「SUKITA : ETERNITY」の刊行記念展となる。日本版は玄光社から刊行、原文は英国版原書と同じく英語表記で欧州の工場において印刷、日本語訳の小冊子が付いてくる。

特設サイト

このたび、日本版の発売日が7月28日に正式決定。プリント付き特装版も専用サイトで7月1日から予約開始となった。写真集の発売に合わせて、写真展の開始日もやっと7月28日に決定した。
特装版は、布張りケース入りの豪華写真集とともにプリント作品が付いてくる。3種類あり、3枚セットAが80点、2枚セットBが80点、2枚セットCが40セットとなる。写真展会場では、実際のプリントを見ることができる。
こちらは、ファインアート写真の市場規模が極めて小さな日本国内向けの限定販売となる点に注目して欲しい。サイズが小さめの20X25cm、エディション数合計200と比較的多いものの、鋤田正義のオリジナル・プリントの国際価格と比べて非常に割安に価格設定されている。写真が売れない日本で、ファインアート写真コレクションの定着を願う、鋤田本人の強い意向で実現したのだ。もちろん全てのプリント作品は鋤田の直筆サイン入り。もし絵柄が好きならば、初めてファインアート写真を買う人には最適の選択ではないだろう。

(C)SUKITA 、3種類のプリントの1枚、Aセット、Bセットの収録作品

今回の写真展の大きな見どころは、鋤田とボウイとのセッションにおける未発表作や代表作のアザー・カットの展示となる。鋤田は2021年5月に83歳になった。いまやデヴィッド・ボウイなどの親しかった多くの被写体たち、また親交があった同世代の写真家テリー・オニールなども亡くなっている。
ここ数年、彼は新たな視点から過去の作品群の総合的な見直し作業が必要だと意識するようになる。今回のキャリアを回顧する写真集刊行に際して、膨大な作品アーカイブスの本格的な調査が行われたのだ。数多くの未発表作が発見され、一部作品は今回の写真集にも収録されている。本展は、鋤田アーカイブスの調査結果を紹介する最初の写真展となる。新発見された、撮影当時に鋤田本人がプリントした貴重なヴィンテージ作品を中心に、新刊写真集収録のエディション付き代表作品があわせて展示される

(C)SUKITA、展示されるヴィンテージ作品
(C)SUKITA、展示されるヴィンテージ作品

本展の開催期間となる7月下旬から8月は、アート業界は夏休み期間で休廊が一般的。極めて異例の時期の写真展となるので、開催期間については検討中だ。またまん延防止等重点措置の延長も取りざたされている。イベント等の開催については状況を見て判断するつもりだ。
なお銀座 蔦屋書店でも「SUKITA : ETERNITY」刊行記念の写真作品展示が予定されている。こちらでも、カヴァー作品「Just for one day, 1977」などの代表作を見ることができる。
写真展の正式な会期や、イベント開催の詳細が決まったらギャラリー公式サイトで発表します。

オンライントークイベントを
銀座 蔦屋書店主催で開催!
『ファインアート写真の見方』
刊行記念連続トーク

本年4月に「ファインアート写真の見方」が玄光社より刊行された。ブリッツ・ギャラリーでは刊行記念展「Fine Art Photography Now」を6月20日まで開催中。(会期は7月4日まで再延期の予定)本展では、作品解説や無料ポートフォリオ・レビューなどの開催を企画していたが、残念ながら東京都の緊急事態宣言延長のため開催延期となった。

この度、銀座 蔦屋書店様の主催で、オンライントークイベント開催が決定した。

16日の第1回は、同書の内容の中から、写真コレクションに興味ある人を対象に「アート写真コレクションをはじめよう」を行う。コレクションの基本的考え方、海外市場の現在、作品評価ルールの変遷と最新トレンド、ファインアート写真投資の可能性、いま何を買うべきか/ギャラリストの特選情報なども話す予定だ。特典として、書籍には写真画像のようなブリッツの過去の写真展の大判カードが複数枚付いてくる。
今回、トークイベントの目玉として、近日発売予定の鋤田正義写真集や、今秋発売予定のテリ・ワイフェンバック写真集の最新情報をいち早く参加者に提供する予定だ。もちろん、人気の高いコレクター注目のプリント付き特装版情報も含まれる。また後日、第1回参加者に対する、ファインアート写真コレクションの個別アドバイスを東京目黒のブリッツ・ギャラリーで行う予定。こちらは写真展の開催期間に、予約制(無料)での実施となる。希望者は、ギャラリー公式サイトからお問い合わせください。

24日の第2回は、写真でのファインアート表現を目指す人を対象として、「アートとしてコレクションされる写真作品×公開ミニポートフォリオレビュー」を開催予定。講義では、ファインアート写真のポートフォリオ作品への取り組み方を解説。内容は、写真の機能別分類、市場での写真評価の実際、ギャラリーの仕事/役割、作品テーマの見つけ方、フォトブックの可能性、成功の方程式はあるのか、ポートフォリオ・レビューへの取り組み姿勢など。講義の後には、2名に対面式公開ミニポートフォリオレビューを行う予定。

なお第2回の参加者(講義受講のみを含む)には、以下の様な対面式レビューの特典も用意した。

〇対面式ポートフォリオ・レビュー
オンライントークイベント参加者が、講義内容を踏まえて制作を行い、作品が完成した場合、後日に対面式ポートフォリオ・レビューを東京目黒のブリッツ・ギャラリーで行う。(予約制/有料)個別に評価やアドバイスを受けることが可能。

〇ポートフォリオ・コンサルテーション
講義内容を参考にして制作に取り組んでみたものの、どうしても作品テーマの方向性が見つからない人に対しては、後日に対面式ポートフォリオ・コンサルテーションを上記ギャラリーで行う。(予約制/有料) 個別に作品制作のためのアドバイスを受けることが可能。

(ご注意)
ポートフォリオ・レビュー/ポートフォリオ・コンサルテーションの希望者は直接にギャラリー公式サイトからお問い合わせください。

詳しくは以下の銀座 蔦屋書店イベントページからどうぞ。興味ある人はぜひご参加ください!

第1回のイベントページ
お申込み先のPeatix のページ

第2回のイベントページ
お申込み先のPeatix のページ

“Fine Art Photography Now”展スタート!
ファインアート写真の見方を作品で紹介

ブリッツでは、「ファインアート写真の見方」(玄光社)の刊行を記念して、同書で紹介されている写真家/アーティストの作品やフォトブックを展示するグループ展「Fine Art Photography Now(ファインアート写真の現在)」展がスタートした。


同展は東京の緊急事態宣言解除を念頭に置いて開始日を決めていた。しかし、残念ながら緊急事態宣言が5月末まで継続されることになり、不要不急の外出自粛が求められるようになってしまった。東京のほとんどの美術館はいま休館中だ。本当に残念だが、多くのお客様に来廊をすすめることが困難な状況となってしまった。本展では、各種イベントを通して書籍購読者による同書に関する各種の疑問や質問に個別に答える予定だった。しかし当初予定していた、トークイベントやポートフォリオレビューは延期となった。

始まったばかりなのだが、5月末の緊急事態宣言解除を期待して、当初の6月6日までの会期を20日くらいまで延長することを検討している。会期が延びるので、来廊を予定していた人はどうか無理をしないでほしい。

本展では、「ファインアート写真の見方」で紹介されている写真家/アーティストの以下の作品やフォトブックを展示している。設営してみると思いのほか見ごたえのある内容の展示になった。以下が展示作品、フォトブックとなる。

・オリジナルプリント
ヘルムート・ニュートン、リチャード・アヴェドン、ルイス・フォア、ジャンルー・シーフ、ウジェーヌ・アジェ、テリ・ワイフェンバック、マイケル・デウィック、鋤田正義、マーカース・クリンコ、ジャスティン・ヴィルヌーブ、ダフィー、ウィリアム・ワイリー、戦前フランスのファウンドフォトなど約28点。

・フォトブック
リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ロバート・フランク、アンドレ・ケルテス、ピーター・ビアード、ライアン・マッッギンレー、マイケル・デウィック、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソスなど。

(ご注意)
本展は新型コロナウイルス感染防止のため、完全アポイントメント制での実施となります。会場では厳重な感染対策を行い開催いたします。なお東京の感染状況が緩和した場合は、営業方法を変更する場合があります。詳しくはギャラリー公式サイトで発表します。

鋤田正義のキャリアを回顧する SUKITA : ETERNITY
6月下旬に発売!!

鋤田正義のキャリアを本格的に回顧する「SUKITA : ETERNITY」が 6月中旬に英国のACC Art Booksから刊行される。(6月14日発売予定)日本版も6月下旬に玄光社から発売される。この写真集刊行の意義は「ファインアート写真の見方」で詳しく分析しているのでここでは触れないことにする。鋤田ファンの人にはぜひ読んでいただきたい。

今回は、日本版のいくつかの特徴をいち早く紹介したい。実は、本書はオリジナルの英語版を再編集した日本語版ではないのだ。国内出版社による日本語版を毛嫌いするフォトブックコレクターは多いと思う。実は私もその一人で、洋書英語版と日本版が存在する場合、いくらテキストが日本語訳で読みやすくても絶対に洋書を購入する。オリジナルの英文を日本語に訳した本だと、どうしてもオリジナル版でのテキストと写真とのデザインの調和が崩れて、全体的にアンバランスな印象が強くなるのだ。違和感を感じるともいえるだろう。しかし、今回の「SUKITA : ETERNITY」は、コレクション志向が強い人の好みを十分に配慮している。日本版といっても、印刷は洋書と同様のベルギーの工場で行っているのだ。つまり日本版でも写真はもちろん中身は英国版と全く同じ、テキストもすべて英語表記なのだ。唯一の違いは出版情報を掲載する奥付け部分の記載のみが日本語になっているだけ。そして、英文テキストの日本語訳が小冊子として付いてくるのだ。クルマ好きの人なら、ホンダの「シビックタイプR」などの日本仕様車が英国工場で生産され輸入されている構図を思い起こしてほしい。

写真集サンプルを持つ鋤田正義。左側がACC版、右側が玄光社版。

ただし、表紙周りの仕様が若干違う。英語版は布張りで写真が貼られている。日本版はダストジャケット付きで帯も追加される。嬉しいことに日本版の販売価格は洋書より若干安くなる予定だ。
表紙の作品はともに鋤田のデヴィッド・ボウイ代表作「Just for one day, 1977」。ただし裏表紙は違う。英語版は鋤田の母親の写真、日本版はこれも鋤田のマーク・ボランの代表作「Get It On, 1972」となる。
ハード版、サイズは約33.1X257cm、約257ページで、”Early Work”, “T Rex”, “David Bowie”, “Iggy Pop”, “YMO”, “East”, “West”, “Theatre & Cinema”, “Journeys”の9章で構成。代表作、未発表作を含む多数のカラー/モノクロ図版が収録されている。アマゾンでは現在洋書の英国ACC社版の予約のみが公開されている。近日中に日本語訳小冊子付の日本版の価格が正式決定される。
アマゾンや玄光社の公式サイトで予約受付が近日中に開始される予定なので、どうか今しばらお待ちいただきたい。写真集の発送開始は6月下旬から7月上旬と思われる。

“David Bowie, Dawn of Hope, 1973” (C)SUKITA

今回、注目して欲しいのが日本版のプリント付きの限定特装版。豪華な布張りの特製ケース付きのコレクターズ・アイテムだ。

“David Bowie, Dawn of Hope, 1973”, “David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″、”Tate Modern, 2008″ の3種類の作品が用意されている。

“David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″ (C) SUKITA

すべて鋤田正義の直筆サイン入りだ。写真サイズは8X10″(約20.3X25.4cm)を予定している。そして3種類の仕様の限定特装版が販売予定だ。コレクター向けに全作が収録される3枚セットが70点、特にボウイ・ファンのために、”David Bowie, Dawn of Hope, 1973″と”Tate Modern, 2008″の2枚セットが90点、”David Bowie, from “Heroes” Session, 1977″ と”Tate Modern, 2008″の2枚セットが40点の2種類用意される。

“Tate Modern, 2008” (C) SUKITA

海外では、鋤田正義作品はファインアート作品だと考えられている。しかし、日本では写真全般がファインアートだとは考えられていない。したがって市場規模は欧米と比べてはるかに小さい。今回はそのような日本市場の特殊性に配慮して、国内限定販売としてかなり魅力的な価格設定を予定している。
3枚セットは税込み7万円台、2種類ある2枚セットは税込み4万円台になりそうだ。鋤田の40X50cmサイズの、エディション30の作品は約20.6万円(税込み)から、エディション完売が近い人気作品は高額だ。今回のセットはエディション数が多く、サイズが小さいものの、極めてお買い得だといえるだろう。これは、日本でも写真がファインアート作品としてコレクションの対象になってほしいという鋤田の願いが込められている。ぜひ最初の1枚のコレクションとして今回のプリント付き特装版を検討して欲しいということなのだ。

3種類のセットすべてに、モノクロのパーソナルワークが含まれる、これはボウイのポートレートがきっかけで、優れた写真作品の魅力にも気付いてほしいという思いが反映されている。現在、最終的なコスト計算が行われている。プリント付き特装版の予約受付開始の時期、受付方法、販売価格はいまのところ未定。正式決定後に玄光社、ブリッツの公式サイト、アートフォトサイトなどで発表します。

鋤田正義写真集“SUKITA : ETERNITY”
B4変型判(33.1X257cm)/上製本256ページ/翻訳小冊子付き

鋤田正義の代表的な写真ともいえるデヴィット・ボウイを代表するミュージシャンのポートレートのほか、キャリアを通して撮影してきたストリート、風景、静物などが初めて明らかになる写真集。鋤田が半生を振り返ったとき、「あこがれ」を追い求めてきたと語る作品が収録された集大成とも言えるこの写真集は、鋤田の作家性の再評価が始まると言える 1 冊です。

「ファインアート写真の見方」発売
写真はアート?評価基準は?
すべての疑問を解消!

ブリッツは昨年の3月から約1年間、ずっと完全予約制での営業を余儀なくされてきた。つまり、ギャラリーは基本クローズで、予約が入った時間帯のみに感染対策を行いオープンするというものだ。この間は不要不急の外出自粛が求められていたので、集客をアピールするような告知活動はできなかった。
個人的には、昨年秋に開催した「Pictures of Hope」などは、時節が反映されたとても良くキュレーションされたグループ展だったと思っている。多くの人に見てもらえなくてとても残念だった。
長年行っている講座やワークショップは、多くの人が集まって写真作品を前に議論を交わす密になりがちな場だ。これも感染防止から1年間以上に渡り開催を自粛してきた。

ギャラリーが閉まっているので、さぞかし暇を持て余していたと思われるかもしれない。実は状況は真逆で、特に昨年夏場以降は極めて忙しかった。実は「ファインアート写真の見方」(玄光社)という本の執筆をずっと行ってきたのだ。本を書こうとしたきっかけは、ギャラリー店頭で来廊者から聞かれる素朴な疑問からだった。最近、特に若い世代の人たちから、日本で写真作品が評価される理由が理解できない、教えて欲しいという質問を多く投げかけられた。年齢的には、2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代以降の人たちだと思う。具体的な疑問は、美術館/ギャラリーの写真展での企画意図や、木村伊兵衛写真賞やキャノン写真新世紀などの写真賞の選考理由が不明などというものだった。一般の人は、ファインアートの写真は専門家だけにしかわからない難解で特別な世界だと考えるようになっていると感じた。それゆえに本書の帯のコピーは「今こそ知りたい!評価される写真の規準と値段 すべての写真ファンの疑問を解消」となっている。
そのような人たちへの説明には、とても時間がかかった。質問者の持つ知識や情報量にはかなりばらつきがあり、解説前にまず前提条件を説明する必要があったからだ。ギャラリーの立ち話では断片的な説明しかできないので、いままでは講座やワークショップへの参加を促していた。しかし、コロナウィルスの感染拡大で、それらの開催は長期に渡り自粛が求められた。
それならば、本にまとめれば需要があるのではないかと考えたのだ。調べてみると、現代アートの見方の解説本はあまたあるが、写真をファインアートの視点から系統立てて解説する本は日本ではまだ書かれていなかった。
しかし本書はあくまでも一人のギャラリストによる、パーソナルな視点の一般向けの入門書である点は強調しておきたい。世の中には様々な意見があるのは承知している。本書は市場での取引実績を基準にして書かれている。しかし、市場を重視しない考え方もある。本書に書かれたことが絶対ではなく、数多あるファインアート写真ルールのひとつにすぎないのだ。当たり前だが、研究者や学者が書いた、専門家対象の高尚な学術書の類ではない。

本のベースは、20年くらい継続して行っている「ファインアート・フォトグラファー講座」の内容だ。これは写真をギャラリーで売りたい、という写真家の人たちへの対応がきっかけで始まった。最初のうちは、質問者に対して個別に対応し、ファインアート写真の定義、マーケットの仕組み、ポートフォリオの制作方法など、海外市場での一般的な考え方を説明してきた。その後、同様の問い合わせが非常に多かったのでセミナー形式にしたのだ。
最初はプロ・アマチュアの写真家が参加者の中心だった。次第にコレクションに興味ある人、自分でギャラリーを運営したい人なども増えて内容の範囲がひろがった。本書で展開してきた考え方は、すべて現場での参加者とのやり取りを通して生まれてきた。
今回、講座初期のレジメを見直す機会があった。本書でも触れているが、時間と共にファインアート写真の評価ルールがどんどん更新され、講座内容も変化してきた事実が確認できた。特に写真のデジタル化と現代アート市場の隆盛が、従来からある20世紀写真に大きな影響をもたらした事実が再確認できた。
2010年代になると、海外市場の方法論を日本にそのまま導入するのには無理がある事実に気付いた。それまで、セミナーを継続してきたが、その内容を参考にして作品制作を継続する人がほとんど生まれなかったからだ。そこで日本独自のファインアート写真の価値基準の提示を思いついた。本ブログの読者にはなじみのある「写真の見立て」だ。本書ではその内容の一部を紹介している。

本書は、写真好きの一般の人、アマチュア・プロ写真家、コレクターなどを対象に、ファインアート写真の見方をステップアップで学べる入門書として書かれている。実はファインアート写真には、その時々の評価ルールがあり、それを学んでいくことで見方が獲得できるのだ。

しかし、決して簡単で単純なノウハウが存在していて、それを学べば誰でもすぐに理解できるわけではない。本書を読み進めればと分かると思うが、かなり複雑な内容を含み、前提とする知識の積み上げなしには理解しにくい箇所もあるのだ。私はライフワークとして一生付き合っていける高度な知的遊戯だと考えている。教養としてファインアート写真に興味のある人、コレクションに興味ある人には最適な本だと思う。

また具体例として市場で作品人気の高い写真家/アーティストの評価理由も解説している。ロバート・フランク、ソール・ライター、アンドレ・ケルテス、スティーブンス・ショア、ウィリアム・エグルストン、ヘルムート・ニュートン、リチャード・アヴェドン、アンドレアス・グルスキー、ピーター・ビアード、ヴォルフガング・ティルマンズ、マイケル・デウイック、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソス、ライアン・マッギンレー、鋤田正義、ヴィヴィアン・マイヤー、ノーマン・パーキンソンなどをディープに分析している。

もちろん写真表現でアーティストを目指す人も意識して書かれている。現在、新型コロナウィルス感染症の影響で写真撮影や写真展開催などの創作活動の制限を余儀なくされている人が数多くいると思う。アーティスト志望者は、まさに自らを客観視して、創作活動を基本から見直す良い時期ではないだろうか。なかなか知ることのできない、作品テーマの見つけ方、成功するキャリアの秘訣、ギャラリーの写真評価方法、フォトブック制作方法なども解説しているのでぜひ参考にしてほしい。

コレクションに興味を持つ人ももちろん対象だ。作品の価値がどのように決まるかを、20世紀写真、21世紀写真に分けて解説している。具体的に何を買うか、情報収集法、指南書ガイド、コレクション展示方や収蔵方にも触れている。また過去にファインアート・フォトグラファー講座に参加した人は、受講内容の復習にもなるだろう。

本書は、4月5日に発売予定です。約352ページのかなり分厚い本になりました。ぜひ店頭で手に取ってご覧になってみてください。
https://www.artphoto-site.com/news.html

アマゾンでもご予約可能です。

出版社のウェブサイト

テリー・オニール写真展
「Every Picture Tells a Story」
会期延長が決定!

ブリッツは英国人写真家テリー・オニール(1938 – 2019)の追悼写真展「Every Picture Tells a Story」を1月15日から完全予約制で開催中だ。
しかし開催期間はずっと緊急事態宣言が継続されており、不要不急の外出が求められていた。また感染状況が一向に改善しないことから宣言は3月21日まで延長されることになった。東京では新規感染者数の下げ止まり傾向との報道もあり、現段階では21日に解除されるかは不透明な状況だ。

本展はテリー・オニールの生前に制作された、本人の直筆サイン入りの貴重なライフタイム・プリントの展示となる。一部の代表作は既にエディションが完売しており、オークションでの取り扱いのみになっている。残念ながら、緊急事態宣言により、多くのお客様に来廊を積極的にすすめることが困難な状況が続いていた。また会期終了の28日が近いことから、問い合わせが増加し、緊急事態宣言下に無理して来廊するお客様の増加も予想される。
したがって、ブリッツではいったん3月28日に会期を終了するものの、4月7日から5月9日まで、新たに約1か月程度期間を延長して写真展を開催すことを決定した。展示内容には変更がない予定だ。従って、会期末に来廊を予定していた人は、どうか無理しないでほしい。4月になり、暖かくなることで新型コロナウイルスの感染状況が改善することを心から願いたい。
完全予約制を継続するか、それとも一般公開とするかの対応は、緊急事態宣言が解除されてから検討したい。

テリー・オニール作品の人気は死後も全く衰えていない。サザビーズ・ロンドンでは2021年3月16日まで「Made in Britan」をオンライン開催している。

Sotheby’s London「Made in Britain」

これは英国を舞台に活躍しているアーティストによる、絵画、版画、写真、デザイン、オブジェ、セラミックなどの作品を販売する企画オークション。写真は26点が出品されているが、テリー・オニール作品は、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、オードリー・ヘップバーン、ブリジッド・バルドー、ショーン・コネリー、ラクウェル・ウェルチの6作品が出品されている。
代表作の<<Brigitte Bardot, Spain, 1971>>も、ロンドンのHackelBury Fine Artが販売した16X20″の銀塩作品が出品されている。

Terry O’Neill , Brigitte Bardot, Spain, 1971, (C)Iconic Images

本作はエディションが完売しているので、欲しい人はオークションで購入するしかない。落札予想価格は5000~7000ポンド(@150/約75~105万円) 、すでに3月15日時点で8000ポンド(約120万円)のビットが入っている。

Sotheby’s 「Made in Britan」

「時間~TIME 鋤田正義写真展」
京都で開催

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で延期されていた「時間~TIME 鋤田正義写真展」。4月3日から美術館「えき」KYOTOで開催されることが発表された。1980年3月、ボウイは広告の仕事で京都を訪れている。彼は仕事が終わった後に、鋤田を京都に招待して共にプライベートな時間を過ごしている。鋤田はロックのカリスマの鎧を脱いだ素のボウイを、京都の街並みを背景にドキュメント風に撮影。数々の名作がこの時のセッションから生まれている。電話ボックス、古川町商店街、阪急電車、旅館で写された写真などは、ボウイのファンなら見覚えがあるだろう。

2020年、鋤田はコロナ禍の京都で約40年前にボウイを撮影した場所を再訪している。展覧会タイトルのように、ボウイを通して悠久の都「京都」における、写真による時間経過の可視化に挑戦している。展覧会ディレクションは、プロデューサー立川直樹氏が行っている。会期中は、鋤田正義と立川直樹とのトークイベント開催の可能性も模索されているとのこと。しかし新型コロナウィルス感染拡大の影響で詳細は現時点では決まっていないそうだ。もし開催が決定された場合は、以下の美術館公式サイトで情報が発表される見込みだ。

以下が立川直樹氏の展覧会の紹介文。
この展覧会はその時にボウイと訪れた場所を鋤田が40年の時を超えて撮影した写真の組み合わせにより歴史や、文化、伝統、前衛が入り交じった京都の地で”時間”と題して開催される。BOWIE X KYOTO X SUKITAという時空を超えたコラボレーションは、2人のマスターの魂の交歓が結実したもので魔法のような時間に観客を誘ってくれる。(プロデューサー 立川直樹)

なお鋤田正義のキャリアを回顧する写真集「SUKITA ETERNITY」だが、こちらも新型コロナウィルスの感染拡大により出版予定が遅れている。全ての作品セレクション、デザイン、色校正が終了し、やっと印刷が開始されたところだ。残念ながら京都の展覧会には発売は間に合わないと思われる。しかし、春以降の発売時にはブリッツで記念写真展などの開催を構想中。楽しみにしていてください!

・「時間~TIME 鋤田正義写真展」
2021年4月3日~5月5日
美術館「えき」KYOTO

https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2104.html

セレブリティー写真のアート性
テリー・ニール作品人気の秘密

現在開催中のテリー・オニール追悼写真展。予約制で開催しているので、会場では熱心なコレクターや来場者と話す機会が多い。もちろん感染対策を講じた上でソーシャル・ディスタンスを強く意識して対応している。
会話の中でよく良く受ける質問は、「ポートレート写真はファインアートなのか」というものだ。実はそれに対する回答と、展示の見どころを2015年のテリー・オニール来日記念展開催時のブログに書いている。今回は当時のブログに加筆して改めて以下に紹介しておく。読んだ後に来廊するとテリー・オニール写真展がより堪能できるだろう。

2015年来日時のテリー・オニール

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(2015年4月28日掲載分を加筆)

世の中には各界のセレブリティ―を撮影したポートレート写真を取り扱うギャラリー、販売店が数多くある。そのなかには単なるスナップ写真で、被写体が写っていることのみに価値が置かれたブロマイド的写真も多くある。しかしその一部には、写真家の作家性と被写体の知名度がともに愛でられた、ファインアート作品として認知されている写真もある。これは、ファッション写真と同様の構図だ。そこにも単に洋服の情報を提供するだけのものと、撮影された時代性が反映されたアート系ファッション写真が混在している。

セレブリティ―を撮影したポートレート写真がファインアート作品になるかどうかは、被写体、クライエント、エディター、デザイナー、写真家など、撮影に関わる人たちの関係性と、それぞれの創作意図により決まってくる。まず被写体と写真家が同等のポジションでないと優れた写真は撮影できない。多くの場合、写真撮影される機会が多い有名人は、どのようなアングルやポーズが最も見映えが良いかを熟知している。被写体が写真家をリードして、一般受けするありきたりの写真を撮らせることが多い。それらは被写体情報がメインのアーティストの広告宣伝用写真といえるだろう。しかし彼らがキャリアの転換点などで、いままでにない新しい姿の写真を撮って欲しいと考えるときがある。そのような時に世界的に知名度が高い有名写真家に撮影を依頼する場合が多い。だいたい彼らは既に友人関係であり、そのようなセッションではセレブリティーの意識が全く違う。彼らは写真家とともに一種のアート作品を共に制作するような意図を持つ。それらは写真家の自己表現の作品であるとともに、被写体とのコラボ作品にもなり得るのだ。

テリー・オニールを例に詳しく説明してみよう。
中流家庭出身のオニールが、セレブリティ―たちと親しくなれたのは幸運に恵まれたからだ。時は1963年のロンドン。彼は新聞社の若手スタッフ写真家だった。若者に人気のあるバンドがアビーロード・スタジオでレコーディングしているので撮影することになった。彼はミュージシャンらと同年だったことから早々に現場に派遣される。当時はミュージシャンの写真の重要度は低く、若い写真家に振り分けられていたのだ。
それが、1962年にシングル・デビューしたばかりのザ・ビートルズだった。諸説あるが、その時は1963年春に英国で発売されるファースト・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」の収録だったと言われている。彼がスタジオの裏庭で撮影した写真はバンドの公式写真となり、それが初めての一般紙でのバンドの紹介となり、掲載紙は瞬く間に完売したという。

それがきっかけとなり、彼はまだ無名のザ・ローリング・ストーンズやデビット・ボウイを撮影することになる。彼らが親しくなったのには年齢が近いからだけではなかった。実はテリー・オニールは、写真家になる前はジャズ・ドラマーを目指していた。彼は当時のバンド・メンバーより、自分の方が技術は上だったと語っている。彼らはともにミュージシャン仲間だという意識があったからすぐに親しくなったのだろう。
周知の通りに、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、デビット・ボウイはその後に世界的なスターに上り詰めていく。それに伴って、彼らを初期から撮影していたテリー・オニールの写真家のステイタスも上昇していったのだ。そして、撮影の依頼は音楽界だけにとどまらず、映画界、政界からも殺到するようになる。その後に世界的な女優フェイ・ダナウェイと一時期結婚していたことで、彼自身がセレブリティ―写真家として広く認知されることになるのだ。
英国エリザベス女王、自動車レースの最高峰Fー1ドライバーの集合写真、英国歴代首相、007シリーズなど、特別な舞台での撮影に彼は英国を代表する写真家として指名されるようになる。
テリー・オニールのライフタイムプリント作品の中には、ブリジット・バルドー、ロジャー・ムーア、ラクウェル・ウェルチ、フェイ・ダナウェイなどの被写体自身もサインをいれた、作家とのダブル・サイン作品もある。彼がどれだけ親しい関係を継続してきたかの証しだろう。

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撮影を依頼するクライエント側と写真家との関係性はどうだろうか。作品のアート性は撮影時にどれだけ自由裁量が写真家に与えられるかによる。有名写真家になるほど、撮影スタイルが確立している。依頼者は完成する写真が想像できるので写真家の自由度が高くなる。テリー・オニールの活躍した60~70年代の主流はグラフ雑誌のフォトエッセーだった。ファッション、ポートレートは、はるかに写真家の自由度は高かったといわれている。
その後80年代から次第に撮影に指示や制限が加えられるようになっていく。ファッションやミュージックがビック・ビジネスとなり、そのヴィジュアルを取り扱う出版社やエディターが様々な事態を想定して自己規制を行うようになったのだ。健康被害を思い起こすタバコ、宗教的、人種差別、性差別などに事前に配慮したヴィジュアルが求められるようになるのだ。その後、自由な表現を追求したい写真家とエディター、エージェント、クライエントとの戦いが繰り返されることになる。多くの写真家は、この分野の自由な表現の可能性に見切りを捨てて業界を去ったり、ファインアートを目指すようになる。
21世紀になりデジタル化が進行したことで、写真家に与えられる自由裁量はさらに狭まっているのは多くが知るところだ。最近ではクライエント、デザイナー、エディタ―の指示でカメラを操作するオペレーターのような存在になっている。このような不自由な状況では、かつてのようにポートレート写真から時代に残るようなアート作品が生まれ難くなってしまった。テリー・オニールがキャリア後期にあまり撮影をしなくなった理由は、年齢だけではないのだ。最後の自分が納得のいった仕事はネルソン・マンデラの撮影だったという。

セレブリティ―写真がアートになるには、上記の前提とともに写真家の持つ創造性も重要となる。テリー・オニールは、世界的なセレブリティ―たちの自然な表情を引き出して撮影することで定評があった。彼のドキュメンタリー性を兼ね備えた作風が広くアート界でも認識されているのだ。彼は自然な表情を撮影するための環境造りが重要で、あとは瞬間を切りとるだけだと語っていた。最も尊敬する写真家はユージン・スミス。彼も撮影環境作りを重視し、被写体が写真家を意識しなくなるまでカメラを取り出さなかったという。テリー・オニールも、同じアプローチを実践していたのだ。彼は時に被写体と行動を共にし、また姿を隠したりしてシャッターチャンスを待ったという。

“Frank Sinatora on the Boardwalk, Miami, 1968” (c)Terry O’Neill/Iconic Images 本作は未展示

彼は写真家として成功する秘訣は、自らの存在を消し、あまり目立たないことだと語っている。その意味は最初は良くわからなかった。来日時に本人といろいろ話してみて、被写体にとって写真家が自然の存在になることで良い写真が初めて可能になるという意味だと分かった。彼の写真は、セレブリティーが被写体のドキュメンタリーなのだ。そしてセレブリティ―の顔自体が時代性を反映していることはよく知られている。アーヴィング・ペンは、それを意識したうえで白バックで有名人のポートレートを近寄って撮影している。時代の顔を切り取ったテリー・オニール作品も、同様に広義のアート系ファッション写真であるとも解釈できるのだ。

ポートレートがファインアート作品と評価されるには、それらの写真を受け入れるオーディエンスとその時代背景も重要になる。戦後から90年代前半までは、先進国の多くの人たちが、「明日はより経済的に豊かになれる」という共通の将来の夢が持てた時代だった。そのような時代の気分が反映されていたのが、テリー・オニールの写真だった。いまは人々が持つ価値観は多様化してばらけてしまった。現代の写真家が、それらを世の中から見つけ出して作品として提示するのが極めて難しくなった。
21世紀は、多くの人に共通に愛でられるような、ファインアート作品になり得るポートレート写真、ファッション写真が非常に生まれにくくなった。それゆえ、多くの人が共通の夢が見れた時代に対する懐かしさを持つようになる。それらはザ・ビートルズやデヴィッド・ボウイなどのロック音楽や、60~80年代のファッション写真であり、テリー・オニールのポートレート写真なのだ。

このような世界的な流れは今でも続いている。テリー・オニール作品の人気は死後も全く衰えを見せない。「Bardot, Spain 1971」などの代表作は大手業者によるオークションでも高額で落札されている。一般の人にとって、セレブリティーが被写体の写真はみんな同じブロマイド的写真にみえるかもしれない。しかし、数多あるポートレート写真の中に、将来的に資産価値を持つファインアート系の作品も混在しているのだ。

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今回のテリー・オニール追悼写真展はそのような作品を発見する機会にしてほしい。現在の新型コロナウイルスの感染拡大の状況では、なかなかギャラリーには来にくいと思う。しかし、展示は3月下旬まで行っている。春になって、状況が落ち着いたらぜひ見に来て欲しい。

テリー・オニール 写真展
「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」
ブリッツ・ギャラリー
2021年 1月15日(土)~3月28日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 完全予約制 / 入場無料

新年ブリッツの予定:テリー・オニール 追悼写真展
“Terry O’Neill:
Every Picture Tells a Story”

国内外の珠玉の作品を展示している「Pictures of Hope」展は12月20日まで予約制で開催中。どうぞお見逃しないように!

2021年は、2019年11月16日に81歳で亡くなった、英国人写真家テリー・オニール(1938 – 2019)の追悼写真展 「Terry O’Neill : Every Picture Tells a Story 」を開催する。なお、本展はいまだに収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染防止対策を行った上で、完全予約制での開催となる。東京での感染状況の悪化によっては中止や延期になる可能性もある。

2015年に来日したテリー・オニールさん、写真展会場にて

テリー・オニールは、ブリッツで過去に何度も写真展を開催している思い出深い写真家だ。ギャラリーが広尾にあった1993年に「TERRY O’NEILL : Superstars of 70s」、目黒に移ってからは 「50 Years in the Frontline of Fame」(2015年)、「All About Bond」(2016年)、「Rare and Unseen」(2019年)を行っている。2015年には待望の初来日を果たしている。
写真展のタイトルは、2015年にテリー・オニールと共に来日したアイコニック・イメージ代表のロビン・モーガン氏が行った講演のタイトルから取らしてもらった。「Every Picture Tells a Story」は、「1枚1枚の写真が物語を語る」といった意味。彼によると、コレクターが好むのは、作品を壁に飾った時に、ゲストに対して撮影時の様々な背景や裏話が語れる写真。テリー・オニールの写真の人気が高い一因は、様々なエピソードが語れる写真だからだという。そして、彼の代表作が生まれたエピソードを本人との対話の中で披露してくれた。
撮影秘話があるのは、写真家と被写体とのコミュニケーションが濃密だった事実の裏返しだ。ただ有名人を仕事で撮影したり、スナップしただけだと何もエピソードは生まれないだろう。その後、同名の写真集「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」(ACC、2016年刊)が」刊行されている。

かつて有名人を撮影したオリジナルプリントは、有名人のブロマイド写真と同じでアート性が低いと考えられていた。しかし世の中の価値観が大きく変化し、写真家と被写体との間に強いコミュニケーションがあった上で撮影されたポートレート系作品のオリジナリティーが認識されるようになった。いまそれらは有名人が生きた時代と、写真家の作家性が反映されたアート表現だと考えられ、大手のアート写真オークションでも頻繁に取引されている。
テリー・オニールは、この分野における先駆者だったのだ。2019年に本人が亡くなったことで、オニールの作品相場は上昇傾向、特にバルドー、シナトラなどの代表作の大判サイズに人気が集まっている。

ササビーズ・ロンドンの2020年10月14日に開催された「Photographs」オークションでは、約146X121cmサイズ、エディション50の「Brigitte Bardot, Spain, 1971」が、27,720ポンド(@145/約401万円)で落札されている。

“Brigitte Bardot, Spain, 1971″(C)Terry O’Neill / Iconic Images

本展ではテリー・オニールの約60年にわたる長いキャリアの中から、ブリジッド・バルドー、オードリー・ヘップバーン、フェイ・ダナウェイ、エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン、ショーン・コネリー、ロジャー・ムーア、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、デヴィット・ボウイなどを撮影したベスト作品約30点(モノクロ/カラー)を展示する予定。すべて生前に制作され、本人のサインが入った貴重な作品(ライフタイム・プリント)の展示となる。

“Faye Dunaway, 1977” (C)Terry O’Neill / Iconic Images

本展をきっかけに、多くの人がセレブリティーたちの数多くの代表イメージは、実はオニール撮影だったという事実を発見できると思う。

テリー・オニール 写真展
「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」
(エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー)

ブリッツ・ギャラリー
2021年 1月15日(土)~3月28日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日
完全予約制 / 入場無料